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第13弾では、2024年8月のパリ五輪に先駆けて5月に開催された、世界最大級のテックイベント「VIVA TECHNOLOGY 2024」をデータのじかんFRIENDの美谷広海さんが現地からレポートします。
パリでのオリンピックが終了し、パラリンピックが始まりました。少し前ですが、そのパリのオリンピックが終了したときには、オリンピック期間中のチップが多かった国、少なかった国が公開され物議を呼んでいました。
ニュースを読まれていない方向けに簡単に内容を紹介させていただくと、日刊紙フィガロが食堂決済サービス会社「サンデー」が30万件以上の提携食堂の領収書を分析した結果、チップを最も多く渡した国が南アフリカで、最もけちだった国はギリシャ・ノルウェー・ブルガリアだったと報じました。
そもそもこうしたことを報じることの是非が大きな批判の対象となりました。また多かった国と少なかった国とのチップの割合の差が3%と大きくなかったことも果たして区別したり、順位付けするべきことであったのか、という指摘もありました。
毎年パリで開催され注目を集める世界最大規模のオープンイノベーションのイベント、Viva Technologyではダイバーシティーとインクルージョンが大きなテーマでした。このダイバーシティといインクルージョンを組み合わせ言葉がインクルーシビティです。中でも一番注目を集める出展社であるルイ・ヴィトングループのLVMHイノベーションアワードの社員体験/ダイバーシティ&インクルージョン部門に、日本のスタートアップであるヘラルボニー株式会社が部門賞を受賞しました。
今年は、1500社以上の中から厳選されたファイナリスト18社のうち2社が日本企業でしたが、日本のスタートアップが選出されたのも初めての快挙でした。
ヘラルボニーは、障害のあるアーティストと企業との質の高いコラボレーションを企画から製品化まで展開している企業です。
また同じく世界的な金融機関であるBNPパリバ銀行も以前から、Woman in Techとスローガンを掲げたりと、フランスの大企業は近年かなりインクルーシビティに力を入れています。
一方で、今回のパリオリンピックでは、性分化疾患の選手が女子ボクシングで優勝し、性別に関する議論も起こりました。現代社会がジェンダーレスとなっていき、男性・女性と二元的に捉えるのではなく多様なアイデンティティを包含していこうという社会の中で、こうした議論は継続して起こっていくのではないかと思います。
またこのことは、テクノロジーの世界においても課題となっていくでしょう。筆者はAIカメラのデバイス開発を行っていますが、AIカメラを用いて、男女、年齢の判定を行ってマーケティングデータとして活用したいというユースケースが存在します。
実は、弊社ではこうした男女あるいは、年齢の推定はこれまで行ってきませんでした。単機能で安価な商品提供にフォーカスしていたため、こうした機能を搭載するのが難しかったという事情もあるのですが、男女あるいは年齢を区別することが良いことなのか、またその正確性についての懸念がありました。
インクルーシビティが進んでいく社会の中で、男女、あるいは年齢を基準に行動や、趣向を分析することがそもそも正しいことなのか。女性向けとされる商品でも男性が好むものもありますし、そもそもそうした男性向け、女性向けという考え方も学校の制服がジェンダーレスとなったり、ランドセルの色も多様化していく中で考え直していく必要があるかもしれません。
またデータの正確性についても同様です。AIカメラは当然、その外見から男性、女性を区別するわけですが、男性的な髪型、服装をする女性もいれば、その逆もいます。当然その場合は事実とは異なる性別としてAIカメラは判定を行います。
筆者は前髪をおろした髪型なのですが、このような額を出していない髪型だと高性能なAIカメラでも女性と判定されることが頻繁に起きることを確認しています。また年齢については一般的にアジア系の人は欧米よりもかなり若く見られますし、化粧やスキンケアグッズも良くなり、さらにマスクなどもしているとより正しい年齢の推定は困難です。
そうなってくると、Googleのように生年月日が登録されている個人データをもとに、検索履歴や、YouTubeの視聴情報を持っているところがやはり情報としては正確ですし、より有益な情報ということになってきます。スーパーなどでポイントカードにより会員情報に生年月日を付随して所持しているところもそうですね。
ただそこでもやはり上述のように、性別、年齢により趣味趣向を推定、判定、区別することの是非というものが今後ますます問われていくのだろうと思います。
またそうしてデータの切り取り方と使い方も問われてくるのだろうと思います。例えば、高齢者をどう定義するのか。WHOでは65歳以上を高齢者と定義していますが、日本の改正道路交通法では70歳以上となっています。成人についても18歳なのか、20歳なのか、前述のAIカメラの推定を加えると、そのデータの不正確性、判定の揺らぎからさらにデータをどう解釈するべきか、という問題が生じてきます。
切り取ったデータをどう活用していくか、というのも今後ますます重みを帯びていくでしょう。例えば、世帯年収1000万円だと高校の授業料の無償化にならないという制度は、年収1000万円を超えていても子供の数が多ければ家計負担が大きいため対象外になるのはおかしいという話も出るでしょうし、最年長の子供が同居して働いている場合には当然、通常よりも世帯年収が大きくなります。
冒頭で取り上げたオリンピック期間中の国別のチップの多さが、議論を呼んだのもこのデータをどう活用するかの是非ですね。雑多なデータを解釈していくためには、基準と軸を定めていかざるおえないわけですが、そのデータの切り取り方と扱い方が、インクルーシビティが前提とされる社会においてより重要となってきています。
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