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「デジタルフォレンジック」とは? “消えた証拠”も掘り起こす、サイバー時代の真実の掘削技術

「デジタルフォレンジック」とは? “消えた証拠”も掘り起こす、サイバー時代の真実の掘削技術

         

「このメッセージ見たら削除して」「あのやりとりは消しておこう……」

そんな風に対処すれば、やりとりのデータはなかったことになる。

それ、完全に間違っています。誰もがスマホやPCで情報をやり取りしており、デジタル機器を用いた犯罪や不正が増加する今、注目を集める技術が「デジタルフォレンジック」

サイバー攻撃が増加し、普通の企業でもCSIRT(Computer Security Incident Response Team:セキュリティ対応の専門チーム)が設置されることが当たり前になりつつある今、その基本知識は誰しもが押さえておいて損はありません。

デジタルフォレンジックの意味、その技術が活用された実例、さらには実際の手法に至るまで本記事でまとめて押さえましょう!

そもそも「デジタルフォレンジック」って何?

デジタルフォレンジック(Digital Forensics)は、‟コンピュータやスマートフォン、サーバーなどのデジタル機器に残されたデータを収集・解析し、サイバー攻撃や不正行為の証拠を明らかにする技術”です。​

もともと「フォレンジック(forensic)」という言葉は、犯罪捜査や法廷における証拠集めのプロセスを意味します。ITの世界では、1980~1990年代にかけて、FBIや米軍などの機関がサイバー犯罪対策として本格的にデジタル証拠を扱うようになり、「デジタルフォレンジック」という分野が確立されました。

2000年代以降は、一般企業や大学、専門のセキュリティベンダーがこの分野に参入。調査・分析ツール(EnCaseやFTKなど)の登場によって、専門家でなくとも証拠を保全・解析できる環境が整ってきました。

日本では2005年に「デジタル・フォレンジック研究会」が発足。警察・企業・大学の間で連携が進んだ現在では、セキュリティインシデント対応の一環として、当たり前の技術となっています。

デジタルフォレンジックは、何か問題が起きてから「真実を明らかにするための技術」です。たとえば、サーバーが突然止まったり、社外秘のファイルが外部に流出していたり。そんなとき、何が起きたのか、誰がやったのか、どんなルートで情報が出ていったのか——をデータから“可視化”するために用いられます。

その目的と活用シーンとしては、以下のようなものが挙げられます。

1.サイバー攻撃の原因調査と再発防止

ランサムウェアや不正アクセスなどが発生した際、フォレンジックによって「攻撃者が使った入口」「実行されたファイル」「被害の範囲」が明らかになります。これにより、再発防止のための具体策(脆弱なVPNの見直し、アカウント停止など)を講じることが可能になります。

2.内部不正の証拠収集

退職者や在籍社員による情報の無断持ち出し、不正な外部送信など。アクセスログやファイルの移動履歴、USBデバイスの使用記録を調べることで、誰がどの情報に触れ、何をしたかを特定できます。

3.法的対応の証拠保全

企業間のトラブルや訴訟の場面でも、メールの送受信記録やデバイス操作履歴を「改ざん不可能な形」で保全しておくことが、法的対応や第三者への説明において重要な“防御材料”になります。

4ステップで学ぶ、フォレンジック調査の流れ

実際に「フォレンジック調査」はどのように行われるのか――。まだ具体的なイメージがわかないという方は少なくないでしょう。

ここからは、4つのステップで、インシデント発生時に企業がとるべき、フォレンジック調査の流れを解説します。

ステップ1:初動対応:まずは証拠を壊さない対応を

不正アクセスやデータ漏洩の兆候に気づいたとき、最初にやるべきは「すぐに復旧」ではありません。最優先すべきは、証拠を壊さないことです。

たとえば、端末を慌ててシャットダウンすると、メモリ上にあった一時情報や実行中の通信データが失われる恐れがあります。逆に不用意なログの確認やファイル操作も、証拠データの更新・破壊につながります。

まずは端末のネットワーク接続を切り、物理的に隔離(アイソレーション)するなどして、“その時点”の状態を保つことが大切です。

ステップ2:証拠保全:書き換え不可能な形でデータを保全

初動で状況を安定させたら、次に行うのが証拠の保全です。ここでは、対象端末のハードディスクやメモリなどからデータを取得し、後の分析や法的対応に備えます。

このとき用いるのが、ディスクイメージ取得ツール(FTK Imagerなど)です。専用のツールを使うことで、データを一切変更せずにコピーでき、さらにハッシュ値(デジタル署名)を記録することで“改ざんされていない証拠”としての価値が保たれます。

ログファイル、アクセス履歴、USB接続情報などもすべて対象です。記録の取得には一貫性と正確さが求められます。

ステップ3:データ分析:削除された痕跡や改ざんの有無を明らかに

証拠を安全に確保したら、いよいよ調査の核心であるデータ分析フェーズに移ります。

具体的には、以下のような情報を洗い出します。

・不正ログインや不自然な時間帯のアクセス
・ファイルの改ざんや削除履歴
・メールやクラウド経由での情報流出の有無
・USBメモリなどによる外部保存の痕跡

専門ツールを使いながら、ログや操作履歴を時系列で並べ、「誰が」「いつ」「何をしたか」を再構成していきます。

ステップ4.報告と再発防止:わかる形で伝え、次に備える

最後に、調査結果を社内外に共有し、再発防止策につなげます

報告書には、調査の概要・対象範囲・確認された事実・影響範囲・今後の対策などを関係者にも伝わる言葉でまとめることが求められます。経営層や非技術部門に理解してもらえなければ、対策も進みません。

再発防止としては、脆弱性の修正やアクセス制限の強化に加えて、ログ保存ルールの見直しや従業員教育など、組織全体での対応が必要になります。

3つの主要なフォレンジックツールを紹介

ここまで、デジタルフォレンジックの全体像や実施ステップを見てきましたが、実際の現場ではどのような技術やツールが使われているのでしょうか?

デジタルフォレンジックでは、「証拠を壊さず保全する」「大量のログやファイルから必要な情報を抽出する」ために、専用の解析ツールが欠かせません。ここでは代表的な3つのツールをご紹介します。

FTK(Forensic Toolkit)

FTKは、AccessData社(現:Exterro)が開発したフォレンジック調査支援ツールで、高速なデータインデックス化と直感的なGUI操作が特長です。

・ディスクイメージ取得から分析まで一貫して対応
・大量のファイルやメールデータ、レジストリ情報もスムーズに検索

複数ユーザーによる同時調査にも対応しており、企業や調査機関でも広く活用されています

用途と機能が異なる“姉妹ツール”に当たるFTK Imagerはディスクやファイルの「証拠保全」に特化した無償ツールであり、FTKは取得したデータの本格分析向け、かつ有償ツールであるという点で異なります。

EnCase Forensic

EnCaseは、Guidance Software社(現: OpenText)が提供するフォレンジック分野の老舗ツールで、法執行機関や国際的な訴訟対応でも利用される信頼性の高さが強みです。

・多様なファイル形式やストレージに対応し、詳細な解析が可能
・証拠として提出できるレポート形式に自動出力
・タイムライン解析やキーワード検索、削除ファイルの復元も可能

特に裁判対応や監査目的での調査において、EnCaseは高い利用実績を誇っています。

Magnet AXIOM

Magnet AXIOMは、スマートフォンやSNS、クラウドサービスといった現代的な情報源にも対応できるMagnet Forensics社のフォレンジックツールです。

・iPhoneやAndroid端末の中からアプリ使用履歴、GPS情報、写真などを抽出
・Google Drive、Dropbox、Facebook、WhatsAppといったクラウドやメッセージサービスの調査にも対応
・ビジュアルに優れた操作画面で、初心者でも扱いやすい設計

特にBYOD(私物端末の業務利用)やテレワーク端末などが対象となるケースでは、Magnet AXIOMが強みを発揮します。

活用事例で学ぶ、デジタルフォレンジックの重要性

デジタルフォレンジックはどんな場合に効果を発揮するのでしょうか?
3つの事例をもとに、デジタルフォレンジックの活用シーンを具体的に把握しましょう。

事例1:製造業のランサムウェア感染

あるメーカーで業務システムがランサムウェア被害に遭い、データが暗号化される事態に。デジタルフォレンジックの結果判明したのが、攻撃者が脆弱なVPNアカウントを侵入経路としていたということです。原因に即したネットワークセキュリティの強化により、同種の攻撃に対して的確な対策を講じることが可能となりました。

事例2:金融業における内部不正

ある金融系企業で、営業戦略の漏えいが疑われフォレンジック調査を実施。退職予定の社員が機密資料を印刷し、紙で持ち出していた事実が判明しました。印刷ログや出力履歴を根拠に不正が裏付けられ、再発防止として印刷制限や監視体制の強化が行われました。

事例3:裁判での証拠の活用

企業間の契約トラブルにおいて、電子メールのやり取りが証拠として争点となったケースでは、フォレンジック技術が法的な立場を左右する決め手となりました。送受信日時、添付ファイルの有無、メールヘッダ情報などを正確に抽出・分析し、メールの真正性を証明。裁判所においてもその証拠能力が認められ、企業側の主張が裏付けられる結果となりました。

終わりに

近年注目を大きく高めている「デジタルフォレンジック」について、基礎的なポイントを本時期でまとめてご紹介しました。

デジタルフォレンジックは、サイバー攻撃や内部不正が発生した際に、原因究明や証拠保全を行うための重要な技術であり、適切なツールと専門知識を活用することで、被害の最小化と再発防止につながります。

目に見えない脅威と戦う時代において、“証拠を見える化”するフォレンジックの力は、すべての企業にとって不可欠な武器といえるでしょう。

(宮田文机)

 

参照元

・デジタル・フォレンジックとは┃IBM
・企業の不正を明らかにする『デジタルフォレンジックス』 【第1回】「あらゆる不正調査に使われるようになった「デジタルフォレンジックス」とは何なのか?」┃PROnet
・OpenText Forensic (EnCase)┃opentext
・Recover & analyze your evidence in one case┃MAGNET FORENSICS

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