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AIやデータで何でも分かるようになり、企業は顧客のニーズを完璧に捉えた商品やサービスを提供できるようになる——。そんな未来は果たして本当にやってくるのか。

データやテクノロジーを競争力の源泉にしようとしている企業は多いが、効果が伴わない例もある。気鋭のデータサイエンティストである松本健太郎氏は、現在、インサイトの観点からイノベーションを主導するコンサルティング会社株式会社デコムに籍を置く。
注目するのはビッグデータとは対極の「n=1」だ。

そこにシフトした思い、これからのデータとの向き合い方について伺った。

お話をお伺いしたDataLover:
松本健太郎(まつもと・けんたろう)さん

龍谷大学法学部政治学科
多摩大学大学院経営情報学研究科卒。
2007年4月株式会社ロックオンに新卒入社。一貫してシステム開発に従事。その後、培った知見を生かしてデータサイエンス研究に参画。セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、ラジオや雑誌にも登場している。2018年4月からは株式会社デコムに加わり、データサイエンスを使ったインサイト開発支援に携わる。

デジタル、データは有益。だが、万能ではない。

私のキャリアは、デジタルマーケティングの効果測定ツールなどを提供する株式会社ロックオンからスタートしました。最初は営業職でしたが、技術職に転属以降はエンジニアとして約10年間、プログラマーやデータベースエンジニアなどを経験し、アドエビスの商品開発にも携わっていました。

その後、取得したビッグデータを活用するプロジェクトを社内で立ち上げることになり、データサイエンスの知識が必要だと感じて統計学・データサイエンスを学べる大学院に入り直しました。同社の中でデータサイエンティストとして業務した後、2018年からは、インサイトリサーチでヒットアイデアの開発を行う株式会社デコムのR&D部門に籍を置いています。

ただ、実は、データサイエンスを学び、デジタルマーケティングという場で活動していたものの、デジタル、データだけでは、顧客や世の中へ提供できる価値は劇的には変化しないかもしれない、言い換えると「デジタル、そしてデータは万能ではないのではないか」という問題意識が芽生えていました。

例えば、あるウェブサイトの直帰率が80%だったとします。そして、デジタルマーケティングの施策により、あるブランドキーワードで直帰率が50%になった。この事実を見てどう感じるでしょうか?

数字だけを見れば、直帰率が80%から50%になったのですから、これはなかなかの効果だ、ということになります。クライアント企業のデジタル領域の担当者ならば納得してくれるかも知れません。しかしブランドマネージャーの感覚だとこう思うはずです。「そんなこと、リアル店舗ならばあり得ない。わざわざ商品名で検索してやってきた人の半分が、なぜ次のページに行かずに帰ってしまうのか」と考えるでしょう。

ブランドマネージャーの感覚からすれば、「直帰率を限りなくゼロに近づけたい」というのがホンネでしょう。でも、しょせんデジタルマーケティング、そしてデータが有効な範囲はある限られた範囲の中でしか機能しないのではないか、ウェブという枠組みから一歩外に出ると、さまざまな問題が出てくる。デジタル、データでできることには限りがある。そんな気づきを得たんです。

手元にある「データ」は「すべて」ではないし、
「正しいけれど間違っている」かもしれない。

データが万能ではないことは、こんな話からも分かります。

ハンガリー出身のエイブラハム・ウォルドのエピソードです。彼は第二次世界大戦中、軍からの指示で、装甲で爆撃機を強化する必要がある場所の優先順位を考えていました。帰還した爆撃機から分かったのは「翼や胴体は蜂の巣状態」「コックピットと尾翼は無傷」。しかし、ウォルドは「ならば翼や胴体に装甲を施せばよい」とは考えなかったんです。

つまり、「帰還しなかった爆撃機」がコックピットと尾翼を撃たれたことで撃墜された可能性があったからです。

データが目の前にあると、人は「それがすべて」だと思い込みがちです。探索型データ解析のような手法もありますが、「なぜ売り上げが伸びないのか」といった困りごとありきでデータ分析を行うのであれば、「目的→収集→集計→分析」という基本的な作業プロセスに立ち返り、目の前のデータだけを信じるのではなく、目的に応じたデータをきちんと収集・集計しなければいけません。

さらに言えば、収集されたデータが「正しいけれど間違っている」場合もあります。マクドナルドの元CEOである原田泳幸氏が著書で触れていますが、消費者に対してどんな商品が欲しいかアンケートを取ると「ヘルシー志向」であることが分かったものの、実際にはメガマックのような商品が人気であることから、『お客様のおっしゃる事と実際の行動は違う』と記しています。データ収集自体を目的化するのではなく、「人間」を集める、すなわち人が自ら気づけない「洞察」に着目しないといけないんです。

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