About us データのじかんとは?
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島澤:前編の最後で、人材不足をはじめとする日本の製造業の課題解決に、生成AIを活用するという話題が出ました。しかし現状はまだ導入・活用が進んでおらず、使っていたとしても、昔ながらのロジックベースのツールを「AI」と呼んでいるようなケースも少なくありません。そこで今回は、製造業における生成AI活用について押さえるべきポイントについて、詳しくお聞かせいただけますか。
黒田:社員の方が実際に生成AIに触って、実感を持って頂くことが出発点になります。生成AIを試用中もしくは本番利用中の企業が昨年後半には50%を超えたという調査結果がありますので(*1)、日本の製造業でも多くの企業で生成AIを試しているのではないかと思います。
ここで押さえておきたいのは「消費者向けの生成AIサービスは使わない」ということです。消費者向けに無償で提供されているサービスは、入力したデータを学習に利用されてしまう可能性があるからです。企業向けに提供されている生成AIをご利用頂くことが重要です。例えばGoogle CloudはGeminiなどの企業向けの生成AIでは、ユーザーデータを学習に使わないことを明言しています。
この企業向けの生成AI基盤モデルを社内で使ってみて感触を確認する、というのがステップ1になると思います。生成AIがインターネットの公開情報から学習した範囲(上図の右側)で何ができるのか試してみると良いと思います。例えばGoogle Cloudが提供するVertex AI Studioをご利用頂くと手軽にさまざまなことを試すことが可能です。(*2)
(*1)https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2023-10-03-gartner-poll-finds-55-percent-of-organizations-are-in-piloting-or-production-mode-with-generative-ai
(*2)https://cloud.google.com/generative-ai-studio?hl=ja
島澤:ステップ1は、生成AIに関心を持つ社員が個人的に試してみるレベルですね。
黒田:その通りだと思います。次のステップ2は、社内の情報を生成AIで扱う段階です。業務に本格的に生成AIを活用するためには、一般公開情報を学習した基盤モデルだけでは不十分で、社内に蓄積された情報を活用することが必要になると思います。
ステップ2のお客様では「様々な社内ドキュメントの中から必要な箇所の情報を検索して、要約してわかりやすく表示する」などの取り組みを行っています。製造業のお客様では、工場内に蓄積された情報活用を試している方もおられます。ですが、思ったような結果がでない、という声を聞くことがよくあります。
島澤:確かに私たちの周りを見ても、社内情報は入れてみたけれどインパクトは薄く、「こんなものなのかな」で止まってしまっているケースをよく耳にします。そこを乗り越えて先に進むには、何が必要なのでしょうか。
黒田:ここから先に進むためには、生成AIを使って何をしたいか、より明確にしていく必要があります。もし、もともと持っている情報自体が生成AIの対象として適していない場合は、情報の保持の仕方から見直す必要があります。つまり、生成AI活用に適した社内情報の整備・活用方法の検討、いわゆる「データ戦略」を立案することが望まれます。
ハルシネーション(*3)を避けて社内の情報を生成AIで効果的に活用するためには「検索拡張生成(RAG)」(*4)を活用することも求められます。生成AIを活用して着実に業務の成果を上げていくためには、単に生成AI基盤モデルを使うだけではなく、「生成AI活用システム」という「アプリケーションシステム構築」を行うことだと考えると良いと思います。
ステップ3は、社内システムとの接続です。生成AIの対象となるデータソースが「社内システム」に拡張した形態です。先ほど述べた「生成AI活用システム」というアプリケーションの一要素に社内システムが加わると捉えていただくと良いと思います。これによって実務への活用がより深まります。そして、最後のステップ4では、生成AIの対象をお客様情報にまで広げ、お客様サービスと接続して、パーソナライズされた新しいサービスを提供していきます。
(*3)What are AI hallucinations? : https://cloud.google.com/discover/what-are-ai-hallucinations
(*4)RAG : Retrieval-Augmented Generation
島澤:ステップ2の課題として挙がった「データ戦略」が明確にないからこそ、「今ある社内情報が生成AIには正確に読めていない」という状況は、非常に重要な示唆ですね。生成AIの「分かりやすさ」ゆえに陥りやすい失敗だと思います。対応策を教えていただけますか。
黒田:はい、お客様の環境や業務によって異なりますが、いろいろな取り組みが考えられると思います。
「データ戦略」を考えるうえで、まず現状把握が必要だと思います。いまお持ちの個々の情報、例えば報告書、設計書、議事録、カタログ、マニュアルなど、生成AIが内容をどの程度正確に要約できるか、必要箇所を見つけ出せるか、など試してみては如何でしょうか。人が読んでもわかりにくいものは、生成AIにとってもわかりにくい可能性が高いです。並行して、対象となる業務の情報が今どのように管理されているかをレビューして、生成AIを活用する場合は今後どのようにしていけばよいか、整理をしていくと良いと思います。
データの整備方法が固まってきたら、それに基づいてRAGの技術を使って情報を取得して生成AIを活用して質問に応じて最適な回答を生成することが可能になってきます。この分野は日々技術革新が起こっていますので、スモールスタートし、着実に進化させていく取り組みが重要になってきます。尚、Google CloudのVertex AI Searchを使って頂くと、簡単にRAGの技術を試して頂くことができます。(*5)
製造業の場合、膨大な画像情報や図形情報を保有しています。これをシステムで活用するためには説明タグをつけるアノテーションの作業が必要ですが、設計部門、製造部門、販売部門など、さまざまな部門で活用できるようにアノテーションを行うと有効な情報資産が生み出されることになります。全て人手で行うのは大変な作業ですが、Geminiを使うことでこの作業を効率化できる可能性があります。(*6)
(*5)https://cloud.google.com/enterprise-search?hl=ja
(*6)https://cloud.google.com/vision?hl=ja
島澤:確かに、コンピュータに読ませるには向いていない非定型の情報を構造化する作業を、ある程度生成AIにやらせることができるならば、期待値はかなり高いですね。
黒田:実際にお客様がお持ちのデータで試して頂ければ、どの程度活用できるかがすぐわかりますので、「まず、やってみませんか」とお話しています。「データ戦略」とともに、ツールとして生成AIを使いこなすには、実際の経験を重ねて「どうすればうまくメリットが得られるか」という知見の蓄積が不可欠です。これを継続して続けると、実践していない場合と比べてかなりの差がつくと思われます。
尚、製造業における生成AIの適用分野についてはGoogle CloudのBlogでもご紹介しています。(*7)
島澤:製造業の方々に対する今後のサポートとして、先述で挙がったシステムとの連携やAPIも含めたインターフェースなどを提供する構想はあるのでしょうか。
黒田:はい、Google Cloudは生成AI基盤モデルを始めとする各種AIソリューションをご利用頂くために各種APIを提供しています(*8)。
また、生成AI利用のために各企業内でのAPI活用が急増していて、設定ミスの防止やセキュリティの強化などが課題として指摘されつつあります。Google Cloudは、APIの管理強化のためにApigeeをご利用頂くことをお勧めしています(*9)。
(*8)https://cloud.google.com/ai/apis?hl=ja
(*9)https://www.googlecloudcommunity.com/gc/Cloud-Product-Articles/GenAI-and-API-Management-Security-Scaling-and-Democratization/ta-p/714732
島澤:少し将来の話をしていきたいと思います。このとき気になるのが、生成AIがいろいろなデータを得てそれにもとづいた知見の提供や判断までできるようになると、人手がなくても仕事が進むようになるでしょう。しかし同時に、AIが生成したものが正しいかどうかを見極められる人もいなくなるというジレンマが生まれるのではないかという懸念があります。Google Cloudでは、そうした状況を見越して、対応策をすでに用意しているのでしょうか。
黒田:生成AIに限らず、AIを活用するうえで説明責任は非常に重要なポイントとなります。Googleは「AIの原則」(*10)の中で「人々への説明責任(Be accountable to people)」を掲げていて、「Vertex Explainable AI」(*11)のサービスを提供するなどブラックボックス回避のために力を入れています。
生成AIにおいても、生成されたコンテンツが何をベースにしているか判別しやすいようにグラウンディング技術の活用について紹介しています。(*12)
現時点では、生成AIに全て任せて無人化するのではなく、人によるチェックを組み込んだビジネス形態を構築して省力化・省人化する、というのが良いと思います。ご存じのように日本の製造業の労働生産性はかつてはOECD諸国トップでしたが2020年には18位まで下がっています。今から地道に進めていくことで、将来労働生産性が世界一に返り咲くというのも夢ではなく、今後大いに現実味を帯びてくると思っています。
(*10)https://ai.google/responsibility/principles/
(*11)https://cloud.google.com/vertex-ai/docs/explainable-ai/overview?hl=ja
(*12)https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/grounding/overview?hl=ja
島澤:面倒な仕事を生成AIに丸投げできるわけではないけれど、地道に使えば確実に未来の成果につながるというわけですね。
黒田:All or Nothingで考える必要はないと思います。生成AIを現状で仕事のどの部分に使うと効果的かを考える方が建設的です。私共ではブログの中で製造業で生成AIの利用が期待されている分野を5つリスクとアップしています。これらの分野で3割の効率化が見込めるならば全体では多大な効果を生むと思われます。そうやって実績を重ねて行く中で「製造業に寄り添う生成AI」への育っていってくれることを期待しています。
島澤:生成AIを使っていく上で避けられないのが、倫理的あるいは社会的な課題です。そうした観点におけるGoogleのスタンスについてお聞かせください。
黒田:CEOのスンダー ピチャイは、2017年のGoogle I/OでGoogleは「AI-First Company」になると宣言してAIに関する技術開発に取り組んでいますが、一方、「Be socially beneficial.(社会的に有益であること)」、「Avoid creating or reinforcing unfair bias.(不当な偏見を生み出したり、強化したりしないようにすること)」などを含む「AIの原則」を公表して、単に技術を追求するだけではなく、倫理的・社会的課題にしっかり対応しながらAIの更なる活用を目指していく、姿勢を明確に示しています。
この考え方はブレることがなく、彼は2023年のI/Oでも「Making AI more helpful for everyone」(AIをすべての人にとってさらに役立つものにする)と話しています。(*13)
(*13)https://blog.google/intl/en-africa/company-news/google-io-2023-making-ai-more-helpful-for-everyone/
島澤:今後のGoogle CloudにおけるAIの展望を伺いたいと思います。Googleの技術に対する基本的なスタンスとして、クローズドではなくむしろよりオープンにしていくこと、とお聞きしています。その具体的な展開として、さまざまな企業との協業も視野に入れているかと思います。
黒田:Googleは、KubernetesやTensorFlowを始め、さまざまな技術のOpen Sourceプロジェクトに取り組んできていますが(*14)、生成AIに関してもオープンモデルのGemmaを提供しています。(*15)
また、Vertex AIのModel Gardenでは、自社の基盤モデルだけでなく、サードパーティやOSSの基盤モデルも提供しています。(*16) AIの分野は裾野がとても広くてGoogleだけでカバーできるものではないため、AIパートナーのエコシステムを構築することが重要だと考えています。(*17)
ウイングアーク1stは、非常に多彩な領域のソリューションを手がけていて、多くのユーザーに評価される製品を提供していますが、既にグーグル・クラウドの大切なパートナーになって頂いています。現在ウイングアーク1stのBIツールのMotionBoardからは、BigQuery データに連携できるようになっています。
今後は、生成AI分野でも両社で連携を強めていけると嬉しいです。先日のWARP(WingArc1st relationship Platform)でもGoogle CloudのGeminiを生成AIの連携先の1社として取り上げて頂いて感謝しております。MotionBoardに生成AI Geminiを組み込んで頂き、利用者が自然言語で操作すると、そのバックエンドにBigQueryと連携する動作形態など、さまざまな取り組みが可能だと思っています。
(*14)https://opensource.google/projects/#/explore/featured
(*15)https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learning/gemma-model-available-in-vertex-ai-and-via-gke/?hl=ja
(*16)https://cloud.google.com/model-garden?hl=ja
(*17)https://cloud.google.com/partners/ai?hl=ja
島澤:ありがとうございます。ぜひ今後も、当社の製品やサービスのポテンシャルを高められるよう、お力を貸してください。最後に、Google Cloudが考える「生成AIによって変わる社会」として、将来の予測やビジョンをお聞かせください。
黒田:Googleは、AIを用いて社会課題を解決するために、自社だけではなく、さまざまな組織と連携することが大切だと考えています。そして、安心・安全なAIシステムを推進し、AIシステムに対する信頼を構築して、責任あるAIをさまざまな他の企業とも連携して取り組んでいくことをコミットしています。(*18)
CEOのスンダー ピチャイは、The Keywordというブログサイト(*19)で次のように述べています。“Just as cloud computing changed how businesses worked a decade ago, AI is going to drive incredible opportunity and progress all over again. ”(10 年前にクラウド コンピューティングがビジネスのやり方を変えたのと同じように、AI は再び素晴らしい機会と進歩をもたらすでしょう。)
我々は、実際にビジネスで変革を起こし社会に進歩をもたらすのは、クラウド技術や生成AIを利用頂くお客様だと考えています。(*20)
(*18)https://blog.google/outreach-initiatives/public-policy/our-commitment-to-advancing-bold-and-responsible-ai-together/
(*19)https://blog.google/products/google-cloud/google-cloud-next-2024-generative-ai-gemini/#next-cloud
(*20) Google Cloud の使命は、あらゆる組織が挑む、デジタルによる変革を加速させることです。
Our mission is to accelerate every organization’s ability to digitally transform its business.
ですので、お客様が「生成AIによって社会を変えていく」ことに大きな期待を寄せて、お客様の支援に尽力していきたいと思っています。
島澤:Google Cloudは、それを手伝う立場ということですね。ぜひ私たちも一緒にサポートしていきたいと思います。本日はありがとうございました。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Inoue Syuhei 編集:野島光太郎)
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