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低迷する大阪・関西万博への機運。外国人・中国人観光客は頼みの綱になり得るか?

2025年を迎えた。2025年のビックイベントといえば、4月13日から10月13日までの184日間にわたって開催される大阪・関西万博だ。しかし、チケットが順調に売れない、といった懸念点も存在する。果たして目標来場者数に到達することはできるのだろうか。そこで、カギになるのは外国人来場者ではないだろうか。

         

大阪・関西万博の見込み客の現状と対策

まずは大阪・関西万博の見込み客と現状を確認したい。2024年12月に出された「大阪・関西万博 来場者輸送具体方針(アクションプラン)第5版」によると、来場者総数は約2,820万人を見込んでいる。うち、海外来場者数は全体の12%にあたる約350万人としている。この350万人の算出根拠は過去の万博における海外来場者数の比率率(訪日外国人の総数に対する比率)を当てはめた。

参考までに1970年開催の大阪万博の来場者数は約6400万人、2005年開催の愛知万博の来場者数は約2200万人だった。愛知万博の来場者数は大阪万博と比べると少ないが、当初の目標は約1500万人だったため、「成功」といえる万博であった。

大阪・関西万博の目標来場者数は約2820万人だが、2025年1月下旬現在、チケットの売れ行きは芳しくない。入場券は全体で約2300万枚を目標とし、そのうち開幕までの前売りは約1400万枚を見込む。しかし、2025年1月8日現在、販売済みの入場券は約53%の約751万枚にとどまる。ちなみに、万博の運営費の大半は入場券でまかなう。損益分岐点は1840万枚だ。

また、昨年秋に三菱総合研究所が行ったインターネット調査によると、「行きたい」と答えた人は昨年春から3ポイント減って24%だ。現状だけ見ると、国内での万博への機運は低いままと言わざるを得ない。

頼みの綱は中国人訪日客?

ここ最近、海外来場者数、特に中国人訪日客に期待する声が相次いでいる。2025年1月8日付けの毎日新聞によると、2024年11月27日に北京で開かれた万博のPRイベントにて、関西経済連合会の副会長が中国人に万博を猛アピールしたという。また、2024年11月27日付けの産経新聞の記事によると、関経連会長は「(海外来場者数の目標値)350万人と言わず400万人に来てもらえるよう中国をターゲットにしている」と発言したとのことだ。

国も海外来場者数増を意識している。外務省は12月25日に大阪・関西万博を目的とする訪日客に対して査証(ビザ)の手数料を免除すると発表した。対象となる査証は一次有効の短期滞在査証だ。この査証の手数料は3000円。簡潔に書くなら、万博が3000円割引になるといった感じだ。

そもそも、海外来場者数350万人という目標設定は甘いのか、きついのか。そして、本当に中国人訪日客は期待できるのか、考えてみたい。

観光庁が発表した「インバウンド消費動向調査(2024年7-9月期)」によると、大阪府を訪れた訪日観光客は351万人だった。これは歴史的な円安や航空便の充実など、昨今の情勢が強く反映されている。3ヶ月・351万人という数字を見ると、海外の来場者数350万人を簡単に上回るのでは、と予想するのが自然な反応ではないだろうか。

次に大阪府に来る中国人のウエイトを見てみよう。

少し古いデータだが、大阪観光局が発表した2019年の訪日観光客と来阪外国人旅行者数の速報値は以下の通りだ。

国名訪日外客数(万人)来阪外国人旅行者数(万人)
韓国558.5(17.5%)160.8(13.1%)
台湾489.1(15.3%)127.6(10.4%)
中国959.4(30.1%)564.2(45.8%)
香港229.1(7.2%)71.9(5.8%)
アメリカ172.4(5.4%)48.8(4.0%)

このように、大阪に来る訪日客では中国が圧倒的なのだ。大阪に来る訪日客の50%近くが中国人だという事実に改めて驚かされる。

それでは中国人だけをターゲットにすればいいかというと、そう単純な話ではない。日本政府観光局が発表した2024年10月の訪日外国人客数を見ると、中国は国・地域別では2位(約58万人)である。しかし、2019年10月と比較すると-約20%なのだ。ちなみに、多くの他国・他地域はプラスである。マイナスは21国・地域中、中国、タイ、イギリスのみだった。

2024年1月~10月と2019年1月~10月の訪日外国人客総数を比較すると、中国(対2019年)は-28.3%となっている。これは2021年のウクライナ戦争により、国際的な制裁を課されているロシアよりも悪い。

この減少の要因は中国の景気減速だ。2025年1月17日付けのソニーフィナンシャルグループのレポートによると、中国人訪日客は回復には向かっているが、2024年の訪日中国人客消費単価はコロナ禍前よりも-16%だという。日本は訪れる中国人は増えても、本当に大阪・関西万博に来てくれるのか。査証代3000円割引と万博代を天秤にかけるのだろうか。万博関係者はやきもきしているのではないか。

万博本来のターゲットはビジネス客

そもそも、万博に関して、海外からの来場者のメインターゲットはビジネス客である。それが顕著に表れたのが2021年のドバイ万博だ。ドバイ万博はコロナ禍での開催で1年延期となったが、2400万人を超える来場者を記録。また、中国人訪問客が期待できない中で、来場者数の3人に1人が海外からだった。ドバイ万博は大成功と言っていいだろう。

ドバイ万博の特徴はビジネス、商談を重視していたことである。万博開催中、ドバイ商工会議所主催のビジネスイベントは98にものぼった。リアルとオンラインを合わせて参加者数は130カ国以上25000人以上にものぼった。また、UAEと世界各国の投資家との2国間商談は約1500件だった。

当然、大阪・関西万博もドバイ万博の流れを受け、ビジネス客も重視する。2024年10月発表の経済産業省の資料によると、海外来場者数350万人の多くは「最先端のテクノロジーや先進的な取組等を調査するビジネスパーソンや各国の要人」としている。また、各国ナショナルデーには各国要人も含めた「ミッション団」が来ることを期待している、とのことだ。

しかし、大阪・関西万博の規模はドバイ万博の3分の1であり、知名度もドバイより低いように感じる。ドバイ万博ほどのビジネス客は見込めないだろうか。

結局のところビジネス客、中国だけでなく、様々な国、そして観光客にも万博に来てもらうという仕掛けが必要に感じる。つまり、京都・大阪観光のついでに万博を訪れる訪日観光客をいかに増やすという点も大切ではないだろうか。そのため、万博だけでなく、関西圏の観光地もPRする必要があるだろう。

しかし、大阪・関西万博のチケットは購入しづらいと聞く。また、万博の前後では関西圏の観光名所を訪れる訪日観光客の激増が予想されることから、「観光公害」対策や宿泊施設の充実は待ったなしの状態だ。準備とPRという地道な取り組みが海外来場者数350万人、400万人、いや悲願の万博黒字化の近道になるのだろう。

著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
 

(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

参照元

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