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BI(Business Intelligence)ツールを、単なる分析や可視化のツールととらえている人がいるのであれば、それは時代遅れかもしれません。
BIツールはデータの抽出エンジンとしてさまざまなシステムと連携しながら、「組織のデータ利活用の心臓部」となる可能性を秘めています。
昨今では、今回説明する「Headless BI」といった概念も生まれてきています。データアナリストの役割も、よりエンジニアリング領域にシフトしていく未来が考えられます。
今回はそのような「一歩進んだBI」の利活用事例についてご紹介します。
まず、BIの発展プロセスについてご紹介します。次の図のように、Level 1からLevel 3にわけて説明していきます。
以降の項目で詳しく見ていきましょう。
一般的なクラウド型BIツールであれば、iframeでBI画面を埋め込むことが簡単にできます。また、Salesforceに代表されるSFAツールにも、iframeでの埋め込み機能が備わっています。普段見ている商談や取引先の画面でBI画面を表示させることも可能になっています。
公にしたい数値を公開する際は、ダッシュボードとして公開することで、より鮮度の高いデータを見やすくユーザーに届けることができます。多くのユーザーが見るデータなので、正しい数値であることはもちろん、見やすさにもこだわる必要があります。
例として2社を紹介します。
2040年までの航空機の需要予測をtableauのダッシュボードで表現しています。
COVID-19に関するエリア別の感染情報や人口変動が分かりやすく可視化されています。
Salesforceに代表されるSFAツールには、ダッシュボードを埋め込むことができます。SFAツール側の保持している項目をフィルタとしてダッシュボード側に渡すことで、SFAツールで取引先の情報を参照する際に、該当企業のアクティビティを表示させるといったことが可能です。
Salesforce単体にもレポート機能はありますが、BIツールほどの柔軟性はありません。そのため、本当に見たい軸や指標を可視化できないケースが出てきます。そんなときにBIツールと連携することで、SFAツールにおけるデータ利活用をよりリッチにできます。
ここではSFAと連携したダッシュボードの利活用事例をご紹介します。
SFAツールで管理される情報は、おもにリード獲得から受注までのプロセスにかかわるものがメインになると思います。したがって「実際に受注したお客様が自社プロダクトをどこまで使い込んでいるか?」といった情報はSFAツールの外で管理されます。ここにデータの分断が起きてしまいます。
そこで、カスタマーヘルススコアのようなダッシュボードを別途作成し、SFAツールに埋め込むことでそれらを解決できます。
セールスであればアップセル提案を行う前に、顧客のアクティビティを事前に確認して、適切な提案が行えるようになります。また、カスタマーサクセス(CS)においてはChurn抑止のために顧客の離反兆候を事前に掴み、ロイヤリティを上げていく取り組みを進めやすくなります。
セールスやCSはおもにSFAツールを使って業務を行います。使い慣れたツールのインタフェースでデータが見られるメリットは大きいでしょう。筆者の独断ですが、SaaS企業においてはほぼ必須といっても過言ではないくらい必要になってきているのではないでしょうか。
続いては、自社プロダクトを提供する企業において、データやレポートを付加価値として提供するビジネスについて紹介します。この領域で有償のBIツールで作成したダッシュボードを埋め込む事例はまだ少ないですが、筆者の所属する企業の情報もあわせて紹介します。
クックパッド社が提供する「たべみる」は、おもにクックパッド社が保有するレシピ検索データを法人向けに提供するサービスです。食品・小売企業などはユーザーの食に関するトレンドを「たべみる」を通じて把握することができるようになります。アカウント数、分析データの対象範囲、得られるインサイト別に3種類の料金が設定されています。
また、「たべみる」のユーザー会なども行われており、コミュニティを通じたデータ利活用の推進も積極的に行われています。データを「価値」に変えて、ビジネスにつなげている好例ではないでしょうか。
スマートドライブ社は、法人向けの車両管理サービスとして「SmartDrive Fleet」というSaaSサービスを提供しています。スマートドライブ社が保有するさまざまな移動データをレポートとして提供しています。
レポートサービスはオプション費用がかかる有償レポートとなっていて、提供するインサイトごとに価格が設定されています。レポートサービスではBIツールを使ってダッシュボードを開発し、SSO認証による埋め込みで自社プロダクトにダッシュボードを表示させています。
データアナリスト・コンサルタントがスクラム開発に近いプロセスでダッシュボードの開発を行っています。
また、パナソニックとの共同事業で、ETC2.0の車載器から取れるデータを使った運行管理システムでも、BIツールを埋め込んだシステムを早期に立ち上げ・PoB(Proof of Business)を行っています。
最後に、BIの心臓部である集計機能を外部サービスに公開する考え方があります。昨今では「Headless BI」と呼ばれる概念が出てきているので簡単に紹介します。
BIツールを細かな機能群に分解すると、以下のように分類されます。
Headless BIとは2のみを切り出し、サービスとして外部に公開する概念です。これはとても「うれしい」機能です。
なぜこれがうれいしいのかというのを説明するには、セマンティックモデルを管理することの重要性が説かれはじめた背景から理解する必要があります。
一般的なBIツールのセマンティックモデルはブラックボックス化していて、BIツールのGUIと密結合になっています。したがって、集計の定義の確認・修正はBIツール内で行う必要があります。
BIツールを開かないと定義の確認が行えないので、管理は属人的になります。また、同一の指標を出すのに別の人が同じ作業をして可視化しているケースも出てきます。
データ分析をExcelでやった場合のことを考えれば想像に難くないと思います。あるメトリクスに関する集計・分析は既に前任者がやっているかもしれないですし、あなたが作業することで定義が微妙に異なる結果を導いてしまうかもしれません。
そういった課題があることから、「車輪の再開発」を防ぐことや、正しい数値を一つの場所に(Single source of origin)といったニーズが生まれ、セマンティックモデルを管理できる次世代型のBIツールが出てきました。
セマンティックモデルを管理することで、正しい定義を一つの場所に集約できます。また、定義がコードとして保管されるため、BIツールの外での管理が可能になり、レビューや修正も容易になります。集計・分析業務における属人性を排除し、 正しく・効率的に集計・分析を行っていくために必要なのがこのセマンティックモデルの管理プロセスです。
さて、話を戻します。なぜこのセマンティックモデルを切り出すのが「うれしい」のかという話をします。
セマンティックモデルの管理は組織に大きなインパクトをもたらします。しかし、現状ではセマンティックモデルを管理できる「モダンBI」と呼ばれるツールはそこまで多くありません。BIツールの1機能としてモノリシックに提供されています。
もし、オープンかつスタンダードにセマンティックモデルを管理できるツールが出てくれば、企業は好きなBIツールを用いながらデータのガバナンスを効かせることができます。それに、BIツールの乗り換えも容易になる未来がやってきます。また、BIだけでなくML Ops系のツール等と連携することで、データアナリストが整備した定義をAIエンジニアがそのまま使いながら、AI開発におけるデータラングリングプロセスを効率化することも可能です。昨今、Reverse ETLと呼ばれはじめているCRM等のツールへの連携も一括して担ってくれる可能性もあります。
このようにHeadless BIは企業のデータ利活用における中枢となります。さまざまなツール、自社サービスと連携していく可能性を秘めた、BIの次世代における考え方なのです。
自らをHeadless BI Companyと名乗るSupergrain社が、設立10ヶ月にも満たない時期に、2021年9月に8億円弱の資金調達を行っているとおり、注目度の高さがうかがえます。
本記事では埋め込みによる簡単な連携からHeadless BIと呼ばれる、システム的な連携までご紹介しました。
BIは、BIツールの中だけで価値を発揮するのではありません。さまざまなツールやシステムと連携していくことであらゆる場面でデータの価値を提供できるでしょう。
また、そのような未来はすぐそこまできています。データに関わる人材に求められるスキルも変わっていくことが想定されます。Gitの知識はもちろん、APIを使った簡易プログラムを作れたり、CI/CDに関する知識も必要になったりするかもしれません。
BIツールの可能性とともに、データ人材のキャリアの可能性も増やしてくれるトレンドがすぐそこまできています。これからデータに関わるキャリアを築く人にとって、この連載が少しでも参考になればと思います。
スマートドライブにジョインして早々にモダンBIの先駆けとされるBI製品を扱ってダッシュボード開発を行うようになりました。前職まで使っていたセルフサービスBIとは製品に対する考え方が根本的に相反することに衝撃を受けました。
例えるならセルフサービスBIはアート、モダンBIはサイエンス。
モダンBIを通じて、データガバナンスの重要性と難しさを知りました。また、スクラム開発のカルチャー、GitやAPI周りの知識などエンジニアリング領域の知識・スキルを得ることもでき、世界がさらに広がりました。セルフサービスBIからモダンBIまで、BIのダイナミズムを自身のキャリアを通して感じ、学びを得られたことは大変貴重な経験です。
この記事を書いた方
株式会社スマートドライブ アナリティクスエンジニア 西澤 祐介さん
HRテック系企業でデータアナリストとしてマーケ、プロダクト、事業企画領域でアナリティクスを推進。その傍らでtableauのコミュニティにも貢献し、20名近くのtableau ユーザーを育成。2020年スマートドライブにジョイン後はLookerを使用したSaaSエンベッドBIエンジニアリングとアナリティクスサービスを提供している。
Twitter:https://twitter.com/zwt1n
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