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注目される「越境学習」と「コミュニティ」の素敵な関係を紐解く 〜小さな越境から始めるVUCA時代の人材育成〜

VUCA時代の新たな人材育成手法として注目されつつある「越境学習」。多くの企業の経営者・人材育成担当者は、「越境学習は耳にするけど、どういったものかわからない」、「越境学習は手の込んだ、敷居の高い人材育成手法だ」と感じているかも知れません。しかし本来、越境学習は気軽に小さくはじめることができ、そして楽しいものです。 11月9日(水)に、法政大学大学院政策創造研究科教授 石山恒貴氏と一般社団法人ノンプログラマー協会 高橋宣成氏による無料セミナー「小さな越境からはじめるVUCA時代の人材育成」が開催されました。今回のセミナーでは、越境学習の最前線で活躍する二人の講師が、学習コミュニティを用いた越境学習とその事例を挙げながら、越境学習についての理解を深め、越境学習に対する心理的ハードルを下げることの実現までのお話がされました。

         

越境学習とコミュニティを活用人材育成

まずは法政大学大学院政策創造研究科教授 石山恒貴氏より、越境学習とは?、そして越境学習をサポートする上での勘所が紹介されました。

そもそも越境学習とは何か?

越境学習という言葉は、10年ほど前から使われはじめました。当時の日本では、人材育成に対して過度に信奉されていた2つの事柄があり、1つは「知識には正解があり、学習には苦しみが伴うもの」という考えです。私たちのゼミではコミュニティのメンバー同士で正解のない問いに対して楽しくディスカッションをするという感覚で学習を進めているのですが、その内容を講演で話すと、一定数の参加者から「学習で楽しいと思った経験はない」という意見が寄せられることもあります。一定数の人が「学習は苦しいものでないといけない」という考えを持っている実態が今でもあるかもしれません。

そして2つ目は、オン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)を通じて、同じ会社・職場内で学ぶ方法が日本の強みとされていたことです。これは今でも強みですが、ここ最近になり、同じ企業・職場の中だけで完結させていいのか?という声も挙がるようになりました。こうした流れの中で、越境学習は意識が高い特別な人がやっていること、というイメージも持たれていますが、決してそんなことはありません。越境学習は固定観念を打破するために行っており、これは誰でもできることだと私は信じています。

では、そもそも越境学習とは何か?私は「自分が心の中でホームだと思う場所とアウェイだと思う場所を行ったり来たりして学ぶこと」だと考えています。

「自分が心の中でホームだと思う場所」は、よく知った人がいて、社内用語を使用することができ、安心できる場所であるが、一方で刺激が少ない場所を指します。逆に、「自分がアウェイだと思う場所」は、見知らぬ人しかおらず、社内用語も通じず居心地が悪い場所であるものの、刺激が多い場所を指します。この2つの場所を行ったり来たりすることで得られる学び、と定義しています。

さらに細かく見てみると、越境学習にも「企業主導」と「個人主導」の2つのパターンがあります。

企業主導は、たとえば企業の人事部が企業内の人材育成施策として行う越境学習のプログラムのことを指し、一方、個人主導は副業やプロボノ(自分のビジネススキルを活かしてボランティア活動をする)などを行ったりすることを指します。特に個人主導は、必ずしもビジネスに関わることだけではなく、地域のPTA活動やマンションの理事会のような場所も越境学習の一つだと考えており、ノンプロ研さんの活動も基本的には個人主導の越境学習に当たるでしょう。

越境学習に学びがある3つの理由

越境学習には学びがある理由の1つ目は、「上下関係がないこと」です。

会社の場合だと上司の指示に従う必要がありますが、越境学習の多くの場合は上下関係がないため、自分でリーダーシップを発揮する必要があります。このことでリーダーシップが培われるのですが、いざアウェイなコミュニティでリーダーシップを発揮すると、ホームとは異なり通じる言葉や考え方が違ったりと「異質性」を感じてしまいます。この「異質性」にぶつかって葛藤をすることで、さらに学びを深めることができるのです。

そして2つ目は「抽象度が高いこと」です。会社だと行動できる範囲やルールは会社側が決めており、そのルールの中で行動する必要があります。一方、越境学習では、自分が行動するためのルールから作る必要があります。「抽象度の高さ」は「行為主体性」にもつながります。例えば子供の頃の遊びやゲームをするとき、ルールも自分達で全て設定してから遊びを始めることが多かったのではないでしょうか。このように、制約も含めて自分達で決定し、全てを仕切っていくことで、行為主体性を高めることが可能なのです。

最後は「横の糸」の重要性です。一般的に企業の人材育成では、「経験学習」が重要と言われています。経験学習とは、具体的な経験をし、その内容を振り返りフィードバックを得て次の方法を考えることであり、専門性を熟達できる学習方法です。これを「縦の糸」と呼びます。

例えば、ゴルフのパット練習を繰り返し行い、技術を向上させるとすると、この学び方は「縦の糸」になりますが、「横の糸」は、「そもそもゴルフのパット練習は今必要なのか?」「本当はテニスの練習をすべきではないのか」「他にも必要なことはないか」と熟達を意図的に停止し、視点を横に広げて思考すること、「そもそも」と疑うことから始める学習方法を指し、越境学習は「横の糸」を重視した学習方法なのです。

この思考方法を身につけることは、イノベーターになるためには必要なことで、一見関係ないように見えることを関連づけたり、現状に対して疑問を呈したり、観察したり、試行錯誤することこそがイノベーターのスキルだと言われています。このスキルはホームだけで会得することが難しいと思われ、アウェイの方が身につきやすいのではないでしょうか。

越境学習のプロセス

越境学習は「越境前」「越境中」「越境後」フェーズが分かれ、越境前は自分がこれまでにやってきたことやこれから何を学ぶのかなどを棚卸する期間にあたります。そして、越境学習のためアウェイへ飛び込む(越境中)と、まず最初の葛藤に遭遇します。

例えば、大企業に勤める人が自信満々にベンチャー企業に越境学習に行くと、ベンチャー企業の行動力にギャップを感じた、という話があります。大企業では、何か行動をする場合は、上司の指示を仰いだり、許可を取ったり、コンプライアンスを一つひとつクリアにするよう仕事を進める必要がありますが、越境先のベンチャー企業では、一人ひとりが経営者視点で行動し、自分で仕事を創造し、決定も自分で行うという行動力にひどくギャップを感じたと言います。

そうした葛藤の中でも、この越境学習者は考え方や仕事の仕方などに対して順応しつつ大きな学びを得て、越境学習を終了したのちホームである大企業に戻るのですが、ここで二度目の葛藤と遭遇します。 アウェイで学んだ高い視座、業務の取り組み方、社会課題への情熱や熱量を直接越境元の同僚や上司にぶつけると、その同僚・上司に理解されず、軋轢が生まれます。自分が学んだことを、安心できるはずのホームで拒絶され、うまく立ち回れずまた葛藤するのです。

我々はこの現象を「越境学習者は二度死ぬ」と名付けましたが、これは学びにつながる重要なファクターであると考えています。一度目の葛藤は、アウェイに出向くことでホームで培った価値観とのギャップを感じ、それに対応しようと考え行動し、そして二度目の葛藤で、アウェイから持ち帰った学びをどのようにホームに活用するのか、また考え、行動します。この思考と行動の繰り返しが、自分の価値観や考え方の幅を広げ、深さを増すのです。

法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴氏

学習者に対して越境前に、自分がどのような価値観なのか、どのようなことを学びたいのか、ということをヒアリングするのですが、その内容が自分の価値観ではなく、会社のパーパスやミッションそのものに近い場合があります。ですが、この葛藤を経ることで、個人の価値観が広がり、自分自身のことや越境先、越境元のことを俯瞰的に見れるようになり、これまでは、表層的に会社のパーパスを捉えていただけだったのが、本当の意味で会社のパーパスに共感し、ますますやる気を持って仕事に取り組めるようになる、というような効果も得られています。

ただし、「二度死ぬ」というプロセスはあくまでフルセットの場合です。越境学習で最も重要なポイントは、一度でもいいから何かしら自分がこれまで持っていた価値観と周囲との価値観とにギャップを感じ、振り返って新しい気づきや固定観念を得ることなのです。

越境学習サポートのために必要なこと

越境学習者がより効果的に学習をするためには、越境元となる会社全体の理解と寄り添い方が非常に重要です。

越境学習者の上司が無関心すぎると、越境学習者が越境学習から学びを得てホームに戻ったとして、活用する場がなく学びが無駄になり、かといって、上司(会社)が学習の方法や得たい学びを手取り足取り指示を出すと、越境学習者の学びの邪魔になってしまいます。上司はあくまで「関心は持つが関与はせず」という関わり方がベストです。

越境学習者が先に述べた「二度の死(葛藤)」に直面をした時、壁打ちができたりコーチングを受けられる環境や伴走者を会社の人事部などがコミュニティなどとして用意するだけで、越境学習者学びが風化する、という事態を避けることが可能です。会社は目的ごとに、越境学習に対して何をやるのか、柔軟に決定をすることが重要です。

しかし、越境学習をいざ会社として導入しようと思っても、最初の一歩をどう踏み出せばいいのかわからない、という声もよく聞きますが、これは「自己効力感」という、「遂行行動の達成(成功体験の積み重ね)」「代理的経験(成功した人が周囲に成功体験を共有する)」「言語的説得(説得的な暗示)」「情動的喚起(緊張している人を周囲が励ます)」という4つの方法で解決することが効果的です。

エンファクトリーという会社がこの「自己効力感」をうまく活用して社内のコミュニティ形成を成功させています。この会社は専業禁止という理念のもと、副業や兼業を推奨している会社なのですが、もちろん強制ではないため、初めは副業、兼業をする社員が少ない状態でした。そこで、会社として意見交換や副業、兼業をすでに実践している人の話が聞ける場として飲み会を定期的に開催すると、すでに越境学習を進めている人の成功体験を聞くことで、言語的説得や代理的経験ができ、だんだん越境をする社員が増えてきたのです。この会社は現役社員だけではなく、フリーランスをしている人や元社員などもゆるく繋がれるコミュニティなのですが、ホームのコミュニティとして成功した事例です。

一方、ノンプロ研さんはアウェイのコミュニティとしてエンファクトリーのような取り組みを成功させている事例と言えます。

ノンプロ研さんは個人の越境学習者が集まれるアウェイのコミュニティで、一人ひとりは孤独感を感じているかもしれませんが、オンラインということで、場所や時間の制約が少なく、コミュニティの参加者がそれぞれTwitterなどを通じて意見を発したり、誰かの伴走者になったり、みんなが振り返りができたり、個人も成長できて、コミュニティ自体も成長できる、理想的な越境学習の場であると言えます。

越境学習支援の役割とその活用方法

続いては、一般社団法人ノンプログラマー協会 高橋宣成氏により、越境学習を支援するサービスとその活用法について、ご自身の活動を合わせてご紹介されました。

越境学習支援サービスの役割とその活用方法

越境学習は、越境してアウェイ感が味わえれば成立するため、世の中にはたくさんの越境学習の形があります。例えば、副業のマッチングを支援したり、大企業からベンチャー企業へレンタル移籍をしたり、自治体でボランティアとして活動したり、海外へ一定期間滞在し、現地の業務に従事したりと様々です。その中で、ノンプロ研はオンラインコミュニティとして運営しています。

越境学習は難しい手続きをしなくても、個人で気軽に始めることができます。一見、越境学習に支援は必要か?と思われるかもしれませんが、私たちのような越境学習支援サービスの役割は、大きく3つあります。 まずは、「アウェイとのマッチング」です。個人では特に越境学習先を探すのが難しいため、目的や学習内容などを鑑みて、適切な越境元と越境先をマッチングします。

2つ目は「越境学習プロセスの支援・伴走」です。越境学習中に効果的に学習を進められるように適切なプロセスの助言をしたり、伴走の役割を果たしています。

そして3つ目は、「ホームの整備」です。越境学習者が学習をすればいいだけではなく、ホームとなる会社が関心を示し、受け入れる体制を整える必要があります。越境学習者が逆カルチャーショックを受けすぎず、ホーム側で越境学習者をスムーズに受け入れられるよう、体制を整える支援をしています。

越境学習支援サービスを選ぶ4つポイント

越境学習サービスを選ぶには、4つのポイントがあります。

1つは「越境学習を通して、どのような能力・スキルを身につけるのかしっかり考える」ということです。自分の会社にとってどのような能力、スキルが必要なのか、どういった人材が欲しいのか明確に考え、欲しいものを得られるアウェイを選ぶことが重要です。

そして次に重要なのが「ネットワーク」です。越境先と人との繋がりを通じて、越境先とのネットワークを構築することができ、場合によっては人対人だけではなく、会社対会社というネットワークを構築できることもあります。また、ワーケーションを活用すると、会社だけではなく、地域とのネットワークを構築することも可能です。

3つ目のポイントは、必須条件でもあるのですが、「越境学習者がやりがい・興味を持てるか」という点です。会社として必要なスキル・能力のためであっても、越境学習者自身がやりがいや興味を持てなければ、学習は身に付かず時間だけ無駄になる可能性が高いです。

そして最後のポイントは「時間」です。大企業の場合、人材が豊富であるため、一人の越境期間が半年でも支援できる体制を設けることができますが、特に中小企業だと、支援体制に限界があるため、越境学習にかける時間の長さや時間帯など、しっかり考える必要があります。

ノンプロ研の活動内容

一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事 コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰 高橋 宣成 氏

ノンプロ研は、正式には「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」という名前で、個人向けの学習コミュニティです。月額5,500円で入会でき、コミュニティの中で学び合ったり教え合ったりできる場を提供しています。

コミュニティの中は常に越境学習ができる状態になっており、参加者が常にプログラミングに関して発言をしていたり、講座やイベントを実施していたりします。越境学習の視点で見ると、アウェイの環境が常にアクティブな状態で動いており、初心者の人が入ってきても、初心者向けの講座なども有志で行われており、初心者を受け入れられる体制が整っています。

企業がノンプロ研を活用する場合は、自社の社員を数名ノンプロ研へ送り込んでもらい、ノンプロ研のメンバーと一緒に学習活動をしていくのが中心的な活動となります。ノンプロ研というアウェイの環境の中でプログラミングやITに関するスキルを身につけて、ホームに戻って業務効率のツールを作成したり、学習したことを発表したり、学んだことを実践していきます。

こうしてアウェイでの学習とホームでの実践を繰り返すことで、深くスキルを身につける仕組みになっています。

ノンプロ研の特徴

まず、越境学習そのものを通じて冒険する力が身に付きます。越境学習という経験をすることで、イノベーターとして業務を改善したり、計画する力が身に付くのです。

表層的なITスキル、プログラミングスキルももちろん身に付きますが、ノンプロ研のコミュニティの中では相互に教え合ったり学び合ったりという活動が活発であるため、「人に教える」というスキルも同時に身に付けることが可能です。

ノンプロ研のもう一つの特徴としては、コミュニティ内は200名ほどの多種多様な業種の人が集まったネットワークが形成されいてるため、そのまま副業を始めることができたり、会社と会社、仕事と仕事が繋がって新しいビジネスが生まれるケースもありさまざまな活用ができます。

また、オンラインのコミュニティであるため、いつでも自由に出入りができる点が特徴です。そのため、一定期間本業を抜け、大きく業務調整をする必要もありません。

DXの現状と必要性

現在の日本の労働市場は人口減少に伴い縮小する一方で、情報技術に関してはものすごい速さで革新され、加速しています。そのため、デジタルをビジネスや会社の仕組みのメインに据え、生産性向上や新規事業の立ち上げなどでデジタルへシフトしていく動きが日本全体で推し進められています。

しかし、日本のDX成功率はわずか10%もいかず、順調とは言えません。デジタルをうまく活用しようとしても、活用できていないのが現状なのです。その原因はDX人材の不足であると、7割近くの企業が回答しています。

私がサラリーマン時代に行っていた仕事を例に出すと、大量のエクセルのコピペ作業が仕事のほとんどを圧迫しており、社員を総動員し残業をしても2日以上かかっていました。このままではいけない、と思いVBAというプログラミング言語を学び、業務の自動化に取り組んだところ、なんと2日間かけて行っていた業務をワンクリックにまで凝縮することができたのです。また、時間を短縮できただけではなく、業務内容も正確でミスも無くなり、空いた時間を本来人間がやるべき意義のある仕事に割り当てることができました。

これまでは、税理士や医療従事者など、定型労働・非定型労働関係なく、高い専門性がある仕事が価値が高いとされていました。しかし、最近では、定型労働に関しては、AIやソフトウェアの発展に伴い、専門性の高さなどに関係なく、かなり複雑なものも自動化できるようになりました。税理士の難しい判断や医療診断などもAIなどに任せることができるようになったのです。専門性の高さではなく、非定型労働であるかどうかが価値の有無の判断基準になりました。

そのため、私は転写型でアウトプットの結果が人に左右されない業務はどんどん減らしていくことを推奨しています。繰り返し行うルーティン業務はITの方が得意なのだから、そうした仕事はどんどん自動化していき、空いた時間を創造型の仕事にシフトしていくということです。業務時間の創造型の時間の比率を増やすことが、働く価値を上げるファーストステップだと考えています。

ノンプロ研とDX人材育成

ノンプロ研を通じた越境学習では、DX人材の育成にも成功しています。

4社の企業から13名の越境学習者に参加していただきましたが、全員が最初はごく一般的なITスキルしか持っていませんでした。しかし、ノンプロ研の越境学習を通してプログラミングのスキルを身に付けるだけではなく、その知識を持って自社組織の業務改善まで行うことができました。さらに、内面的な成長では、業務改善に対する意識が向上し、また、継続的な学習習慣も身につきました。

そして、他部署同士に越境学習者がいると部署間でのコミュニケーションが密になり、社内のコミュニケーションの活性化が見られ、学び合い、教え合う文化も生まれるという事例も発生しました。

スケジュールとしては6ヶ月ほど越境する期間を設け、最初にプランを立てて、中間報告、面談、最終報告、面談という流れで進めています。

プランとして、アウェイで何を学習するのか、ホームでどのように実践するのかなどを伴走者(ノンプロ研ではコーディネーター)と学習者と練り直したり振り返ったりを繰り返しています。

DX育成のためにホームで必要なポイント

越境学習者が死ぬポイントは、石山先生が述べた「アウェイとのギャップを受けての死」と「ホームに戻った時のギャップを受けての死」と、もう一つ「学習がうまく進まない時の死」の3つであると考えています。

この3つの死から越境学習者を守り支援するためには、ホーム側の整備が必要不可欠です。越境学習者の時間的余裕や精神的余裕を作るように支援したり、ホームでの受け入れ体制を整備することが、越境学習者の三方面の苦しみを緩和することができるのです。

ノンプロ研を通じてDX人材の育成はできるとして、一方で会社でDXが進むかというと、ここにも障壁があります。この障壁を超える1つ目のポイントは、「越境するならリーダーから」です。

リーダーや物事を決定する立場の人から越境学習をすることで、組織の理解を得やすい状況を作ります。いくら現場担当者が越境学習を経てスキルアップをしても、上の理解がないと改善はなかなか進みません。まずはリーダーから越境学習を進めましょう。

そして、会社側がメッセージを明確に社員に発することが重要です。一つの業務改善を進めるのに、何個も判を押してもらって時間がかかる、というような状況は改善の足を鈍らせる原因となります。

組織開発や業務改善をしやすい組織にしておくことも大切です。

パネルディスカッション – 質疑応答

越境学習の中のコーチング・壁打ちで重要なポイント

――越境学習後に伴走者がコーチングと壁打ちが行われるという話がありましたが、具体的に壁打ち、コーチングはそれぞれどのようなことが行われているのでしょうか。

石山氏:越境学習における価値は、伴走者のレベルで決まると思います。伴走者が経験を積めば積むほどノウハウが蓄積されるからです。ノンプロ研の中ではコミュニティ全体で行われていることと思うのですが、例えば初心者が越境学習の最初の段階で、コミュニティの熱量や自分の知識のなさに挫折をしそうになったとしても、手取り足取り教えることは伴走者としては悪手です。コーチング的なことをしつつ、メンタル面で励ましあったりする要素もあったり、本人に内省してもらって掘り下げてもらうようなやり方が適切なのかなと思います。

高橋氏:ノンプロ研の場合は伴走者としてホーム側でサポートをする人と、コミュニティ側でサポートをする人と2人体制で伴走者を設けています。学習者によってはサポートしないとすぐ折れてしまったり、逆に緩めに進めても問題ない人もいたりするので、そこはストレッチが効くようにしています。

コミュニティを堪能してもらうためには、他のメンバーともどんどんコミュニケーションをしてほしいです。

越境学習に意欲的に取り組むために必要なこと

――越境学習に取り組む気になってもらうために必要なことがあれば教えてください。

石山氏:越境学習の内容に対して興味関心がないと、全然学ばなくなってしまうことがあります。越境学習の前に、何に興味関心があって、その興味関心があるからここに行くんだというところまでしっかり棚卸をする必要があります。本当は、この前の段階で伴走者に入ってもらって一緒に棚卸をする役割も持てれば理想だな、と思います。

越境前にそこまで深くできず、越境中に「これは違うな」と感じたとしても、少なくとも自分にどんな興味関心があって、どんなことがやりたいのか、ということを考えるフェーズを事前に設ける必要があるのではないでしょうか。

高橋氏:ノンプロ研は今、6ヶ月のプランしかありませんが、2ヶ月だけのプチ越境学習があったらいいのかもしれませんね。

上司を説得するための越境学習の事例の使い方

――企業が越境学習を取り入れるために社内や上司に理解してもらう、または説得するときの事例はありますか?

石山氏:ノンプロ研さんの場合は、技術的に有用なスキルを得られるため説得しやすい事例かもしれませんが、一般的な越境学習というと、自分で学び続けられる人材になったり、スキルを教えることができる人材になったり、組織への成果を具体的に数字(ROI)で表現することが難しいという特徴があります。なので、まずは、上司や決裁権のある人を越境学習者が集まる飲み会に連れて行ってみるのはどうでしょうか?意外とそうした上司や経営者層は自分が自覚していないだけで、越境学習に近しい経験を通じて成長した経験があったりするので、実際に越境学習者と話してみると、意外と「いいね!」と賛同を得られる場合も大いにしてあり得ると思います。

高橋氏:ノンプロ研でも数字で納得させられるのは難しいと感じていて、今実施していることとしては、実際に越境学習に参加した方の成功事例をストーリー化して提案資料の最後に盛り込んだりしています。

個人主導ではなく企業主導へ押し切るための説得ポイント

――経営者がメリットを理解するものの、会社が資金を出してまでやる必要性を感じず、個人でやればいいのでは?と今ひとつ納得感を得ることができません。最後のひと押しは何がいいでしょうか。

石山氏:よくある話が、企業の人事部や経営者は、「越境学習なんてやりたい人は勝手にやるんだからやればいいでしょ。」だったり、「6〜7割のそんなにやりたくない層全部に対してお金はかけていられない」だったり、そういった意見がでます。

こうした考えの人事部・経営者層を説得する言い方として、企業主導でフルセットで深く行えば、それが企業の下敷きになるのだから、長期的には効果が出る、ということ。

中小企業の場合だと「うちでは越境学習はできません」という声が挙がることもあるのですが、一度しっかり制度整備とお金をかけてしまえば、中小企業の方が波及効果は絶大だと思います。

高橋氏:社外に越境学習の支援をしていることをアピールすることで、人材獲得にも有効ですし、メリットは大きいと思うのですが…。

石山氏:その通りですね。越境学習を推進していると明確に強く打ち出して、どこでも自由に働けるということまでセットでやると人材獲得の効果は非常に高いと思います。

企業主導で行う場合と、個人の裁量に任せてしまう場合とでは、人材獲得や従業員の満足度、リーダー育成などに関して企業間でどんどん差が開いていくでしょう。

越境学習にあえて出向くメリット

――ホームで十分刺激が得られる環境であっても、越境学習に行くメリットはありますか?

石山氏:ホームに刺激がある状態自体は非常に良いことだと思います。ホームに刺激がある場合は、無理にアウェイの環境を設ける必要はないのかな、とも思うのですが、長期的に考えた時、今いるホームに刺激があり続ける状態も難しいのでなないでしょうか。

やはり、人生のどこかのタイミングでアウェイに目を向ける姿勢も必要だと思います。

登壇者紹介

法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴 氏

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程修了、博士(政策学)。

NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理、タレントマネジメント等が研究領域。日本労務学会副会長、人材育成学会常任理事、人事実践科学会議共同代表、一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会顧問、NPO法人二枚目の名刺共同研究パートナー、フリーランス協会アドバイザリーボード、専門社会調査士等。

主な著書:

 

主な論文:

  • Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan, Journal of Knowledge Management, Vol.20,No.6,2016.

 

主な受賞:

  • 経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)(2020)
  • 人材育成学会論文賞(2018)等

 

 

一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事
コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」主宰 高橋 宣成 氏

モバイルコンテンツ業界でプロデューサー、マーケターなどを経験。日本のビジネスマンの働き方、生産性、IT活用などに課題を感じ、2015年6月に独立、起業。 現在「ITを活用して日本の『働く』の価値を高める」をテーマに、各種プログラム言語に関する研修、セミナー講師、執筆、メディア運営、コミュニティ運営など、ノンプログラマー向け教育活動を行う。2022年4月に福岡県糸島市に移住し、地方移住による働き方改革の可能性についてもメディアにて発信中。

【運営メディア】:いつも隣にITのお仕事 https://tonari-it.com/

 

 
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