組織を変えたい越境者は、爪を研ぎつつ追い風を待て ––データにもとづくマーケティング組織対談|後編 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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組織を変えたい越境者は、爪を研ぎつつ追い風を待て ––データにもとづくマーケティング組織対談|後編

前編に続き、アドビでDXを推進する祖谷考克氏とウイングアーク1stでマーケティングを統括する久我温紀との対談をお届けする。意欲ある越境者が、自社をデータにもとづくマーケティングを取り入れた組織に変えるには何が必要なのか。祖谷氏はその問いに「孤軍奮闘では難しい。社内に仲間を増やすこと、そして追い風に備えて爪を研いでおくこと」とアドバイスする。

         

(写真左)アドビ株式会社DXインターナショナルマーケティング本部 執行役員 本部長 祖谷 考克 氏
(写真右)ウイングアーク1st株式会社 マーケティング本部 執行役員 本部長 久我 温紀 氏

意欲ある越境者が変革を起こすためには

久我:祖谷さんは2013年よりアドビに参画し、ビジネスコンサルタントとして顧客のデジタルビジネスを推進する傍ら、2018年には新組織であるデジタルストラテジーグループを日本で立ち上げられました。その狙いはどこにあったのでしょうか。

祖谷:大きな背景としては、グローバルのアドビの動きがあります。アドビはCMS(Contents Management System)や分析ツールなどのマーケティングソリューションを数多く持っています。従来、これらのツールを販売するために、サイト管理などを行っている部門・部署にアプローチしていました。ただし、多くの企業でデジタルマーケティングが1つの部門だけのテーマではなくなり、全社的なものになってくると、意思決定も部門・部署を越えて全社の経営マターになります。
ところが日本企業の多くは「そもそもわが社はデジタルをどう使うのか」といった議論がなかなかできていませんでした。そこで戦略系のコンサルティング会社に依頼して、1年がかりなどでデジタルロードマップをつくってもらうのですが、その結果として手に入るのは総花的で、他社にも当てはまるような提案だったりするわけです。そもそも1年もかかっていては遅すぎますし、提案資料だけでは組織は変わりません。
そこで、アドビとしてロードマップづくりをサポートすることを考えたのです。アドビにはこれまで自分たちもやってきたデジタル変革の経験や知見、世界中にいる顧客の事例があり、それを生かすことができます。

久我:スピード感を持って顧客体験にフォーカスしたサービスを始めたわけですね。そこまで支援しないと、日本企業はなかなか変われないということでしょうか。

祖谷:企業は過去の成功体験をなかなか捨てられません。さらに、よくも悪くもレジリエンス(強じん性)が強いのです。元に戻る力が強い。コロナ禍においても、リモートワークなどに積極的に自分達の”アップデート”に取り組む企業がある一方で、できるだけ元の状態に還ろうとする企業も少なくありません。

久我:「データのじかん」は「データで越境者に寄り添うメディア」を大きな趣旨にしています。なかなか変われない日本企業の中で、意欲ある越境者が変革を起こすにはどのような取り組みが必要でしょうか。

祖谷:単発のプロジェクトやアイデアを形にするのであれば可能でしょう。自分のアイデアを他のメンバーと共有しながら、徐々に変えていくことに挑戦すればいい。しかし、それが、ある事業部における新製品のアプローチなどであれば、同じ責任を持っている人たちに変革の意思が伝播していく気はするのですが、会社そのものを変える、ビジネスモデルそのものを変えるのは容易ではないでしょう。

追い風が吹いたときに、それを増幅させる

久我:アドビは米国の会社なので、日本企業ほどではないにしても、新しいサービスを始めるには苦労もあったと思います。祖谷さんはどのようなことを、意識したのですか。

祖谷:追い風が吹いたときにそれをアンプリファイ(amplify:増幅・拡大)させることが大事だと思っています。
デジタルストラテジーグループはもともと米国のサービスだったのですが、それが「USのアドビでこのような動きがある。日本でもやった方がいい」と日本法人の社長を含め、社内で会話を広げていったのです。そうしたら、全員が「やろう」ということになりました。社長のお墨付きをもらってからは速かったです。
ただ、これを逆風のときや無風のときにやるのは大変です。風は経営トップから吹くこともあればマーケットから吹くこともあります。そこにコミットする形で自分のアイデアという凧を揚げるのです。ただしこれも一人だけでやりきるのは難しいでしょう。経営トップや他の部署などを巻き込んで、社内に仲間を増やすことが大切です。

久我:日本の企業に勤める越境者の中には、上司や経営者が理解してくれないと悩む人も多いようです。私はこれまでずっと、日本の国産の産業で戦えないか、なんとか日本を元気にできないかとずっと考えていたのですが、その考え方自体が古いのではないかと思うようになってきました。自分たちのよりよい生活や豊かな社会に貢献するといったときに、日本という枠組みを外してもいいのではないかと。

祖谷:確かに欧米の企業はボーダーレスですね。ダイバーシティーやエクイティー、インクルージョンといった価値観が根付いている点もそういう背景が大きいように思えますね。

久我:そういう意味では逆に、「日本企業はもう駄目だから米国の企業に転職しよう」ということでもないと思うのです。日本の企業でもボーダーレスで価値を提供しようとしているところがあれば、やりがいのある仕事がまだまだあるはずです。

常に爪を研いで準備をしておくことでチャンスをつかむ

祖谷:日系企業か外資系企業か、選択肢を絞る必要はないと思います。ただ英語や中国語などの外国語は必要だといえます。日系企業でも、業種や企業規模の違いを問わず、これからはより一層、海外に出ていく時代になります。

そうなったときには必ず「適任者はいないのか?」と社内でリサーチがかかります。そこで声がかかるように準備をしておくことが大事なことだと思います。

久我:風が吹いたときに凧を揚げられるように準備をしておくわけですね。

祖谷:それは私自身の体験談でもあります。アドビに入社する前は広告代理店に勤務いましたが、当時からインターネットについては興味があって情報を収集していました。入社2年目に大手クライアントから「デジタル領域が分かるメンバーをプロジェクトに入れてほしい」と依頼があったとき、「祖谷は得意そうだ」ということで声がかかり、部署を超えて大型プロジェクトに参画させてもらったこともありますし、その後、別の大手クライアントがデジタルマーケティングに力を入れようとしていた際にも、客先に常駐してさまざまな経験をさせていただきました。それが今の仕事につながっています。準備していないと、そのタイミングが来てもチャンスをつかむことができません。まずは社内で存在感を発揮することです。

久我:前編で日本の教育は生徒全員を同じ答えに導くためのもの、といった指摘もありました。そのような教育を受けてきた人は、自ら前に出ることは難しいかもしれません。

祖谷:安心してください。今はもうリスキリングも含めて、生涯学習の時代です。確かに、自分たちの幼少期の教育体験を変えることはできません。変えられないものを悩んでも仕方がありませんが、これからのことであればいくらでも変えられます。学び続けるという意識を持つことが大切です。これまで学んでこなかったのなら、学び直せばいいのです。社内外の人に会って刺激をもらうのもいいでしょう。いろいろなことが、まだまだやれると思います。

久我:一方、求職者に選ばれる企業の条件として、これからは、単に売り上げが伸びているだけでなく、社会課題を解決する企業であること、そして、そこにいて成長できるかどうかが重視されそうです。

祖谷:やっていて楽しいかどうかも大切ですね。会社のために滅私奉公するのはよくありません。いざというときに会社は個人を守ってくれるとは限りませんから。

久我:風が吹いていることを感じるためには、人や組織との壁を取り払わなければ分かりません。さらにセンサーの感度を磨いておくことも大切ですね。本日は、ありがとうございました。

アドビ株式会社DXインターナショナルマーケティング本部 執行役員 本部長
祖谷 考克 氏(写真左)
広告会社にてマーケティング領域全般のプロデュース業務に約15年従事。ブランドマーケティングだけでなく、デジタルコミュニケーション戦略立案、施策最適化など、デジタル領域でのプラニング/プロデュース業務も担う。2013年よりアドビに参画、ビジネスコンサルタントとして顧客のデジタルビジネスを推進。2018年、新組織デジタルストラテジーグループを日本で立ち上げ、経営視点からの中期的なデジタル変革の戦略策定を支援。2019年11月より現職。アドビのデジタルエクスペリエンス事業のマーケティングとインサイドセールスを統括。

ウイングアーク1st株式会社 マーケティング本部 執行役員 本部長
久我 温紀 氏(写真右)
ウイングアーク創業時に事業へ参画。法人向けソフトウェアのアカウントセールスとして5期連続トップセールスを達成し、マネージャーに最年少で就任。成績不振の営業部門の再建に関わり全部門予算達成を実現、過去最大の事業成長を牽引する。2016年 営業統括責任者に就任。2017年 経営戦略担当を兼任し、2018年よりマーケティング統括責任者。2019年9月より現職。セールス&レベニューエヴァンジェリストとして、メディアへの寄稿や講演等を行う。


(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)

 

 
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