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みなさんは、「FP&A」という業務・役割を知っていますか? 主に欧米企業で導入されているこの役割では、CFO(最高財務責任者)の下で財務に関するデータや外部状況の分析や計画、業績予測、予算策定、事業ポートフォリオ管理などを行うことで、企業の経営判断と財務状況の最適化をサポートします。
本記事では、「FP&A」とはどんな役割でどんな特徴があるのか、なぜいま日本企業に必要とされているのか、どんな業務に携わりどんなスキルが求められるのか、といったポイントについて誰にでもわかりやすく解説いたします!
「FP&A」は、管理会計とファイナンスの知識をもとに財務的観点から事業や経営状況について分析し、それらの情報を使って経営判断をサポートするポジションで、‟ミニCFO”と称されることもあります。
企業の経営陣の一員として企業全体の財務戦略を策定・実行する責任を持つCFOのもとで、本社だけでなく各事業部や子会社、工場などにも設置されながら実際の戦略実行やデータの分析・レポーティングを行うのがFP&Aの役割です。すなわち、FP&Aの業務スコープは事業単位から企業全体にまで大小異なり、各FP&Aが機能することで、企業は事業戦略と経営戦略の両方をより精緻に立案可能になると考えられます。
「Financial Planning & Analysis:財務計画と分析」という名称の略であることからもわかる通り、FP&Aは、財務面の分析や予測をもとに、経営判断に貢献するポジションです。対して、経営企画はCSO(最高戦略責任者)のもとで、全体的な視点から経営判断や事業戦略の立案、実行に従事します。FP&Aは経営企画部が事業部門から独立して設置されることで、各事業部門へのアプローチが具体化しづらいという日本型組織の弱点を解消することにつながると期待されています。
近年、日本でもFP&Aについて見聞きするようになった背景には2015年6月に日本版コーポレートガバナンス・コードが導入され、特に上場企業における財務情報や経営戦略に関する「適切な情報開示と透明性の確保」が求められるようになったことや「取締役会等の責務」の明確化が進んだことが影響しているといわれています。
その資金の投資によってどれだけのEVA(経済付加価値)が見込まれるのか? 外部状況や企業リソースの変化によってどのようなシナリオが想定されるのか? 意思決定はどの様なエビデンスを持って行われているのか?
現代の企業経営にはそうした問いに答えることが不可欠であり、そこで大きな力を発揮するポジションとしてFP&Aが重要とされているのです。
「FP&A」の定義や役割、注目の集まる背景について解説してまいりました。ここからは、より具体的にその業務内容についてみていきましょう。
過去の財務データや市場のトレンドを分析し、現場のニーズなど定性的な情報も勘案したうえで予算案を作成します。さらに、実績と予算の進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じて予算を再調整します。
過去の業績や予測、今年度の実績などをもとに業績を分析し、経営の効率化と目標達成を支えます。収益性、成長率などのKPIを設定し、経営部門への報告や改善策の提案を行うのもFP&Aの業務の一部に含まれます。
将来の財務状況を予測し、戦略的な意思決定を支援するための数理モデルを構築します。収益の予測、コスト分析、投資のリターン評価、資金調達オプションの分析、多岐にわたるシナリオのシミュレーションなどを通して、定量的な財務決定や投融資の判断をサポートします。
各事業部門と連携し、部門ごとの予算策定や業績評価を行うのもFP&Aの重要な業務の一つです。事業部門のリーダーやチームと共に予算策定、業績分析、財務予測を行い、事業ポートフォリオの最適化や経営部門と事業部門や事業部門間の連携を支援します。
FP&Aには、管理会計やファイナンスと経営の両方にまたがる知識や財務会計システムやERP、BIツールの操作ノウハウ、経営的な視点や事業部門と経営部門をつなぐコミュニケーションスキルなど多様な能力が求められます。また、FP&Aとしてのキャリアを目指すならば、外資系企業等で勤務するための英語力なども必要となります。
加えて、ビジネスに関する情熱や好奇心を持ちながら冷静で客観的な視点を保つバランス感覚や、ビジネスパートナー(経営)と価値観を共有するスキルなども重要であると、一般社団法人日本CFO協会主任研究委員 兼 認定FP&Aアドバイザーでストラットコンサルティング株式会社 代表取締役も務める池側 千絵氏はデータのじかんのインタビュー記事で語っています。
2022年12月~2023年3月に実施された『KPMGジャパン CFOサーベイ2023』によると、上場企業のCFOまたは経理財務部門責任の8割が「FP&Aの機能強化が必要」と考えています。しかし、同時に56%が具体的な取り組みは進められていないということです。
また、一般社団法人日本CFO協会が2017 年10月~11月に行った調査ではCFO部門の約半数は決算報告業務に特化しており、経営管理・経営企画機能を管掌していないことが報告されています。
前述の池側氏のインタビュー記事でも語られている通り、FP&Aはこれまで企業を裏側から支えるバックオフィス部門と捉えがちだった経理・財務が会計やファイナンスのスキルを用いて経営に深く携わることができるポジションであり、企業の成長において中心的な役割を担うことが予想されます。
CFOを既に設置済みの企業もそうでない企業も、グローバル標準の企業体制を構築するにあたってFP&Aの重要性を深く認識し取り入れていくことを検討してみてください。
それぞれの視点に立ってみれば最適なはずの行動が組織や社会の全体にとっては好ましくない結果につながってしまうことを「合成の誤謬(ごびゅう)」といいます。管理会計・ファイナンスという観点で経営と事業をつなぐFP&Aは、合成の誤謬を防ぎ、部分最適に陥りがちといわれる日本企業、ひいては日本社会の活性化に貢献しうるポジションです。『コーポレートガバナンス・コード原案』にも記述されている「攻めのガバナンス」の担い手として、ぜひFP&Aに注目してみてください。
(宮田文机)
・資生堂やNECも設置するFP&Aとは~経理財務パーソンは「専門家」から「経営のパートナー」へ┃GLOBIS学び放題×知見録 ・コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~(改訂案)┃金融庁 ・§1. 今なぜFinancial Planningが重要視されているのか?』鷲巣大輔 / Daisuke WASHIZU note ・「KPMGジャパン CFOサーベイ2023」を発表┃KPMG ・池側 千絵『財務マネジメント・サーベイ CFO、経理・財務組織が担う経営管理・経営企画機能についての実態と課題』┃ストラットコンサルティング株式会社 ・コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方(案)┃金融庁
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