私たちの日常を楽しく便利にしてくれる無料アプリやオンラインサービス。その頂点に君臨するのが、Google、Apple、Facebook、Amazonの4大IT企業です。日本の若年人口の大部分が、少なくともこのうち1社のサービスを使ったことがあるのでは。
頭文字をとってGAFAと呼ばれるこの4社はアメリカで創業され、過去20年で急成長しました。20年前と言えばインターネットの普及率が急伸した頃。まさにインターネットの申し子と言えるGAFA、その時価総額は合計3兆ドル(約330兆円)に上ります(2018年9月時点)。ちなみに日本の2019年度国家予算は約101兆5千億円なので、3倍以上の規模です。
近年、この強大なGAFAの影響力を警戒する声が高まっています。「便利な無料サービスを提供する企業の何が問題なの」と思うかもしれません。でもよく言いますよね、タダより怖いものはないと。
例えば、世界的に以下のような点が問題視されています。
懸念されているのは、GAFAの凄まじい情報収集力。
彼らの強みは、無料サービスを通じて収集する膨大な個人/法人データです。例えば、Facebook社は、写真や投稿内容、Facebookメッセンジャーでのメッセージ内容などから、ユーザーの基本情報や社会的属性だけでなく、嗜好や信念といった高度に個人的な情報まで把握することができます。
Facebook社は、こうしたセンシティブな情報を扱っていながらデータ保護に対する脇の甘さが目立ちます。2016年の米大統領選では、イギリスのデータ分析会社ケンブリッジ・アナリティカがFacebookユーザー8700万人分(推定)の個人情報を不正に入手し、トランプ現大統領陣営に流したことが発覚し問題になりました。
FacebookのCEO、M・ザッカーバーグ氏はこの件でイギリス議会から召喚を受けましたが欠席し、その不誠実な対応が批判を浴びています。
プライバシー侵害以外にも、GAFAへの情報集中は独占禁止法に抵触し、市場を歪めているという指摘も。データを独占しているGAFAがその立場を濫用し、「契約時には明示されていなかった有料サービスを強要してきた」といったケースが報告されています。
またGAFAへの資本と情報の集中が進むと、競合中小企業がマーケットから締め出される可能性があります。結果、GAFAの市場独占がますます進むというスパイラルが起こるでしょう。
そのうえGAFAは、時価総額に対する従業員数が極端に少ないことで知られます。少数精鋭をモットーとするGAFAが成長しても雇用率は上がりません。それどころか他企業のシェアを奪うことで失業率を上げる可能性すらあります。GAFAの分析本『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ著)では、GAFAが体現する巨額の富を社会へ再分配しないシステムに言及しています。
こうした流れを問題視し、世界各地の政府がGAFA対策を始めています。日本で2016年12月に施行された「官民データ活用推進基本法」では官民データの公開を推進しており、これには一部の大企業によるデータの独占を阻止する狙いがあります。
また、EUでは2018年5月に「一般データ保護規則(GDPR)」が適用され、EU域内で収集される個人データの保護が強化されています。これにより、例えば、クッキーやデータ収集、トラッキングを使用しているウェブサイトは、ユーザーにそれを通知し同意を求める義務が課せられました。EU外に拠点を置く企業でも規則の対象となるため、もちろんGAFAも対象となります。
アメリカでは、GAFAの解体を公約に掲げる民主党のウォーレン上院議員が2020年大統領選への立候補を表明。ウォーレン議員は自身の演説で、GAFAを「私たちの個人情報を利益のために利用し、市場を歪めた」と批判し、反競争的な合併の強制的な解消に言及しています。
こうした世界の潮流からは、GAFAに対する激しい警戒心が見てとれます。
しかし、オックスフォード・インターネット・インスティテュートのメイヤー・シェーネベルガー(Mayer-Schönberger)教授は、「公的権力がGAFAを抑圧したり解体しても、結局はGAFAの市場独占と発展を止めることはできない」と見ています。
「これまでビジネスの世界では、ある企業の製品が市場を独占すると、ライバル企業がより革新的なアイディアをひっさげて現れる、というのが定石でした。各国政府はGAFAに規制をかけることで中小企業にチャンスを与え、こうした流れを守ろうとしているのでしょう」と教授は言います。
「しかし、近年、イノベーションは人間同士の切磋琢磨からではなく、機械学習によるビッグデータの解析から生まれてきています。こうした状況下では、結局のところ既存サービスを通じてより多くのデータを収集できるGAFAの一人勝ちが続くでしょう」
そこでシェーネベルガー教授は、GAFAの情報収集力を抑えつける法律よりも、それを他者が生かせる法律を整備する、という選択肢を提案します。
「情報共有を義務化する法律を整備し、中小企業がGAFAの持つ膨大なデータにアクセスできれば、競争力のある製品を生み出せるチャンスが広がります。これにより消費者の選択肢が増え、市場に競争原理が戻る可能性があります」
ただし、と教授は付け加えます。
「この方法はプライバシー保護には繋がりません。むしろ自分の個人情報を知る企業が増える結果になるでしょう。しかし特定企業への情報の集中を防ぐことは、独裁的な監視社会の予防にはなります」
今や生活の隅々にまで浸透したGAFA製品。それを完全にボイコットするのは非現実的な考えかもしれません。私たち個人にできるのは、自分の個人情報に価値があることを自覚して、それを無条件に差し出さないことではないでしょうか。
参考リンク: Making big tech companies share data could do more good than breaking them up 米大統領選出馬のウォーレン議員、GAFA解体を公約に GAFAとは?巨大IT企業が世界に与えている影響について
(佐藤ちひろ)
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