企業活動において、価値が生まれるのは実際の生産活動が行われる「現場」です。そんなことは重々承知しつつも、DXなどイノベーティブな取り組みにあたっては、ついつい戦略レベルの議論ばかりに偏ってしまい、足元の現場では何も進んでいない……というケースも少なくないのではないでしょうか?
本記事では、「現場DX」をテーマに、その重要性や具体事例、成功のポイントと失敗の要因についてみていきましょう。
現場DXとは、建設現場や製造現場における業務プロセスや管理手法にデジタル技術を導入し、業務の効率化や安全性向上を実現することです。現在、労働力不足や作業員の高齢化、技術伝承にまつわる問題が顕在化してきているのはご存じの通り。また、環境への配慮やコスト削減、少量多品種生産への対応など、企業が解決しなければならない課題はほかにもさまざまです。
現場DXで期待される課題解決をここで列挙してみましょう。
・労働力不足の解消:
ロボティクスやAI技術の活用により、労働力不足を補うことが可能になります。また、ミスの削減や24時間365日の稼働といったアドバンテージも期待できます。
・効率化:
データの一元管理や業務自動化により、業務効率が向上し、時間やコストの削減が可能となります。
・クオリティ向上:
デジタル技術を用いた品質管理や検査により、より正確で迅速な品質管理・カイゼンが期待できます。
・安全性の向上:
IoT機器やAI技術を活用した安全対策が可能となり、現場の安全性が向上します。
・環境への配慮:
環境負荷の低減や省エネルギー化が実現し、持続可能な社会の実現につながります。
貴社の現場も、上記のような課題を一つは抱えているのではないでしょうか。
ここからは、具体的なデータや事例を参照しつつ、現場DXのイメージを深めていきましょう。
人手不足の解消、範囲の拡大、業務効率化など先に列挙した様々なメリットにつながるのが無人航空機(UAV)を用いたドローン測量です。国土地理院では、平成25年度より公共測量へのUAV活用を開始し、その成果を『UAVを用いた公共測量マニュアル(案)』としてまとめています(※)。
すでに大手建設会社でもドローン測量は導入されており、短時間で広大な範囲を撮影したうえで、レーザー測量による3次元図面を作成することで、切り土量、盛り土量の算出、出来高データの比較、出来形検査といった機能が実現されています。
※その内容は公共測量の標準的な規定である『作業規程の準則』にまとめられています。
作業管理者・監督者による目視管理が主であった従来の安全管理は、IoT技術の導入により変化します。『令和3年労働災害発生状況』(厚生労働省)によると、令和3年において、労働発生件数は製造業で2万8,605件(昨年+11.4ポイント)、建設業で1万6,079件(昨年+7.4ポイント)。新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いても、製造業で2万6,424件(昨年+4.3ポイント)、建設業で1万4,926件(昨年+0.9ポイント)であり、労災防止方法の刷新が求められる状況にあります。
作業者が装着したIoT機器により、位置情報や心拍数などのリアルタイムデータを収集し、危険エリアへの立ち入り時にアラートを発信したり、緊急時の速やかな対応を可能にしたりするソリューションは、効率的な動線設計など効率化のメリットにもつながります。
AIによる業務高度化や予測、自動判定の事例も様々な現場で活用されはじめています。経済産業省資料『プラントにおける先進的AI事例集~AIプロジェクトの成果実現と課題突破の実践例~(2020年11月)』で紹介されているのが、プラント「保全/運転」の2分野における、下記8種類の導入効果です。
【保全・運転共通】
・ノウハウの継承
・判断基準の平滑化
・高頻度化
・人的ミスの検知
【保全】
・計画高度化
・負荷低減
【運転】
・早期発見
・生産性向上
また、建設現場においてもAIを用いたシールドマシンの掘削オペレーションモデリングなど、生産性向上やノウハウの継承につながる事例は数多く見られます。
現場DXを成功させるために重要と考えられるポイント、また反対に失敗の要因となるポイントにはどのようなものがあるのでしょうか。
現場DXを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
・明確な目標設定:
DXの目的やゴールを明確にし、組織全体で共有することが重要です。目標達成に向けた進捗管理も定期的に行いましょう。
・組織の理解と協力:
組織全体がDXに対する理解と協力を持ち、変革に取り組む姿勢が大切です。研修や社内コミュニケーションを活用して理解を深めましょう。
・データ活用:
収集したデータを効果的に活用し、業務改善や新たな価値創出を目指しましょう。データ分析や可視化が役立ちます。
・適切な技術選定:
現場のニーズに合わせた技術を選択し、適切な導入・運用を行うことが成功に繋がります。
現場DXの失敗に導く要因には、以下のようなものがあります。
・継続的な取り組みの欠如:
現場DXは一度きりの取り組みではなく、継続的な改善が求められます。長期的な計画を策定したうえで、短期的に小さな成功を積み重ね、現場の士気を高めましょう。
・コミュニケーション不足:
組織内でのコミュニケーションが不足していると、DXの理解が浅くなり、失敗に繋がります。十分な情報共有と意思疎通を図りましょう。
・技術導入の過剰:
無闇に技術を導入することで、現場が混乱し、効果が出ずに失敗することがあります。必要性を検討し、適切な技術選定が重要です。
ご覧の通り、成功のポイントと失敗の要因は裏表の関係にあります。現場を巻き込めるプロジェクト設計をDX戦略に組み込みましょう。
『DX白書2023』「第2部 国内産業におけるDXの取組状況の俯瞰」(IPA)では、帝国データバンクにより行われた2022年1月の調査をもとに「 DXの「言葉の意味を理解し、取り組んでいる」企業の割合」が紹介されています。その中で最も割合が小さいのが「建設業」(11.4%)で、それに続くのが「農・林・水産業」(12.3%)です。「製造業」も14.7%と決して高い割合ではありません。
DXについての理解はまだまだ現場どころか経営層にも浸透しきっていないという現実を前提に、成功させるための戦略を現場とともに推進していきましょう。
【参考資料】
(宮田文机)
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