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越境学習とは、慣れ親しんだ環境(ホーム)から離れ、異なる文化や価値観を持つ環境(アウェイ)に身を置くことで、新たな視点や発想を獲得する学習プロセスだ。ホームとアウェイを行き来することで、固定観念や暗黙の前提(暗黙知)から脱し、自身のアイデンティティを問い直す機会となる。下記のような期待を持ち、越境学習の取り組む企業が増えている。
・VUCA時代の課題解決:先行きの読めない現代は、従来の経験や知識では解決できない課題が噴出している。越境学習を通じて、多様な視点や価値観に触れることで、新たな解決策を見いだしたい
・イノベーション創出:異なる文化や価値観の融合によって、新たなアイデアやイノベーションを生み出したい
・人材育成:従業員の成長を促進し、主体性や適応力を養わせたい
首都圏にある企業の越境学習の具体的な取り組みの代表例として、地方でのワークショップやワーケーション(仕事「work」と休暇「vacation」を組み合わせた造語。観光地や避暑地などで午前中は働き、午後は自由時間といった働き方の1つ)である。越境学習およびワーケーションを誘致する自治体は全国にたくさんあり、北海道や沖縄県、熊本県などの他、今回「越境学習の聖地」として名乗りを上げた浜松市を有する静岡県などが特に力を入れている。
越境学習の成果を左右する大きな要素の1つが、場所選びだ。越境学習を行う場所は、「多様性」「開放性」「サポート体制」の3つの要素を満たしていることが望ましい。
・多様性:異なる文化や価値観を持つ人々が集まる
・開放性:新しいことに挑戦しやすい雰囲気がある
・サポート体制:越境学習を支援する体制が整っている
浜松市は、この3要素を全て満たしているとして、企業の越境学習を支援する団体「浜松越境学習推進協議会」(ハマエツ)を発足した。同協議会は人材育成事業などを手がける株式会社NOKIOO(ノキオ、同市)や、組織変革を支援する、あまねキャリア株式会社(同市)などが運営に携わり、越境学習の第一人者である法政大学大学院政策創造研究科教授の石山恒貴氏が顧問を務める。
6月19日のイベント「越境学習の聖地・浜松『ハマエツ』キックオフ」では、浜松市市長の中野祐介氏が4つの特色を挙げて、「浜松市が越境学習に適している理由」を解説した。
①国土縮図型都市:伊豆半島よりも広い市域には、山、川、湖、海などあらゆる自然がそろっている。豊かな自然環境は、参加者に解放感を与え、創造性を刺激する
②中部地方第2の都市:中部地方で名古屋に次ぐ第2の都市であり、人口は約80万人を数える。基本的な都市機能が完備されているため、都市部から来ても不便さを感じることなく、快適に過ごせる環境が整っている
③良好な交通アクセス:東京駅から新幹線で約1時間30分、大阪駅から新幹線で約2時間30分、名古屋駅から特急電車で約30分の距離にある。大都市圏からのアクセスが良好なため、全国各地から参加者が集まりやすい
④寛容な風土・市民性:「よそ者」に寛容な風土・市民性があり、参加者は安心して新しいことに挑戦できる
「浜松市は、東海道五十三次の真ん中に位置し、昔から東西文化の結節点です。『よそ者』に寛容な土地であり、市内とよそ者の文化・知識・技術が交わり、新しいものを生み出してきた歴史があります。そして、なんといっても、浜松のDNAともいえる、何事にも果敢にチャレンジする『やらまいか精神』がある。その精神を持ち、ビジネスを浜松から起こし育てて、世界に羽ばたいている企業が多くあります。越境学習を通じて、それに続く企業が出るように支援していきます」(中野氏)
中野氏のスピーチの後には、「越境学習×地域」「越境学習×キャリア」をテーマにした2つのトークセッションが行われた。
トークセッション「越境学習×地域」で、沢渡氏は「参加者のみなさんの地域はカラフルですか?」と問いかけ、「学びを軸にした新しい文化(カラー)を浜松発でつくりたい『Be Colorful』」と、ハマエツへの意気込みを語った。
石山氏は、越境学習を解説する中で、イノベーターの5つのスキル「関連づけの力」「質問力」「観察力」「ネットワーク力」「実践力」を挙げ、「(失敗ができない)ホームでこれらのスキルを磨くのは難しいが、アウェイなら挑戦しやすい」と越境学習の長所を強調。また、沢渡氏の「越境学習は大企業のもので、中小企業は意味がないのか」という問いかけに対して、石山氏は事例を挙げて「数万人の大企業で5人が越境学習に取り組んでもなかなか社風は変わらない。しかし、50人の企業で5人が変わったらどうですか」と、中小企業こそ効果が期待できることを示した。
続いて、沢渡氏と一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事の有山徹氏によるトークセッション「越境学習×キャリア」では、個に焦点を当て「良いキャリアを築いていく」という観点から越境学習について語られた。
有山氏は前程としてプロティアン・キャリアについて「これまでの伝統的なキャリアの主体は『組織』であり、核となる価値観は『昇進や権力』だった。それに対してプロティアン・キャリアでは、主体は『個人』であり、核となる価値観は『自由や成長』にある」と解説。さらに「キャリア開発において、同一の業務をいつも同じ負荷で同じ集団でやっていても開発は進みにくいが、越境を含め、いつもと異なる業務をいつもと異なる集団で徐々に負荷をかけつつ行うことで開発は進みやすい」と発言した。それに対して沢渡氏は「企業は従業員一人一人の『体験』を『資産』として捉えることで、課題解決や価値創造、キャリア自律といった課題に向き合えるのではないか」と示唆した。
また、イベントの後半には、ハマエツの推進メンバーの6人が、それぞれの思いを語った。
ハマエツの発起人であり、「日本のチームの景色を変える」というミッションのもと、人材育成・組織開発に取り組む株式会社NOKIOO 代表取締役の小川健三氏。組織の枠を超えたトレーニング研修「次世代リーダープログラム」を運営する。「浜松ではすでにさまざまな越境学習のプログラムが行われています。それらを見える化して認知向上を図るとともに、プログラム間の連携を進めていきたい。また、地域内外の経営者を巻き込んだイベントも実施していきたいと考えています」(小川氏)
中小企業の新規事業創出を支援する株式会社Wewill 代表取締役の杉浦直樹氏。DXや新規事業の手法を学ぶ教育プログラム「挑む中小企業プロジェクト」を運営する。「地域の発展において、中小企業がどうやって次のチャンレンジをしていくかが重要になります。そのために必要な知識などの提供を通じて、後押ししていきます」(杉浦氏)
浜松のアイコンとなるような店舗づくりに加え、まちづくり事業を行う、株式会社鳥善 代表取締役の伊達善隆氏。会員企業が協力して浜松で暮らし働く人のための街食堂を運営し交流を図る「街食堂」を主催する。「『街食堂』の会員企業は39社になりました。毎週水曜夜には、ゲストの話を酒のつまみにする『水曜日のヨル喫茶』を行っています。越境学習の機会としても、ぜひご参加ください」(伊達氏)
出身地である浜松市佐久間町を盛り上げる活動も行う、株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社 浜松総局の大見拳也氏。「沢渡さんとのダム際ワーキング(ダムおよび近隣のカフェや宿泊施設などで仕事しつつ、自然の中でリフレッシュする新しい働き方)の活動を通じて、地域の人たちに学び(気づき)の機会を与えられることを嬉しく感じました。どんな地域にも素晴らしい価値があることを感じながら活動していきたいです」(大見氏)
企業変革やブランディングを支援する株式会社パラドックス 執行役員・ブランディングプロデューサーの鈴木祐介氏。「ブランドづくりやクリエーティブは、さまざまな専門家が集まることで、自分たちだけでは思いつかないアイデアが生まれてきます。越境学習は同様の部分があり、すごく共感できます。ハマエツを良い機会として、越境学習を支援していきたいです」(鈴木氏)
障害者のデジタル人材育成や就職をサポートする、株式会社RAMP 代表取締役 の若松 杏氏。「東京にある親会社(株式会社LiNew)の浜松支社長を務めながら、浜松市を本拠地とするRAMPを経営しています。人に言われて、自らが越境者であることに気づきました。女性はもちろん、誰でも越境ができることを当事者目線で広めていきたいです」(若松氏)
同市では、上記で挙がった「次世代リーダープログラム」「挑む中小企業プロジェクト」「街食堂」をはじめ、越境学習に関わるプログラムやプロジェクトが複数、走り出している。ここに、今回発足したハマエツの活動が加わり、多面的かつ複合的な動きになっていくことが期待される。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Aurora Photography 編集:野島光太郎)
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