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AIが引き起こす「ヒューマンウォッシング」とは?どんな脅威が潜んでいる?

         

この文章は、人間によって書かれた文章でしょうか? それとも生成AIによって記述された文章でしょうか? テキストではわからずとも話せばわかるはず……というのは過去の話。ChatGPT『Advanced Voice』で検索すれば、まるで本当の人間と話しているようなスピード感の会話が繰り広げられている様子が多数投稿されています。

このようなAIの急速な進化と裏腹な脅威を「ヒューマンウォッシング」という用語を起点に考えていきましょう!

ヒューマンウォッシングは、‟AIがまるで人間のように振る舞い、実際の人間もそのように誤認してしまう現象”

「ヒューマンウォッシング」とは、‟AIがまるで人間のように振る舞い、実際の人間もそのように誤認してしまう現象”を指すAI用語です。まるで環境にやさしい製品のようにふるまう「グリーンウォッシング」、(実際にはそれほど高度な技術は用いられていないのに)AIが活用された最新テクノロジーのようにふるまう「AIウォッシング」など、英語圏における「〇〇ウォッシング」という表現には「まるで〇〇のようにふるまう・ごまかす」というニュアンスが込められています。

人間と見分けがつくかどうかというのは、AI(人工知能)の能力を測るチューリングテストのベースとなる基準そのものであり、2024年5月には5分間の会話を通したチューリングテストでGPT-4が54%の確率で人間だと誤認させることに成功したことが『People cannot distinguish GPT-4 from a human in a Turing test』という論文で報告されています(本当の人間の成功確率は67%)。

AIがあたかも現実の人物や風景のような映像やアバターを生成する「deep fake(ディープフェイク)」もヒューマンウォッシングの一種といえるでしょう。

「ヒューマンウォッシング」にはどんな脅威が潜んでいる?

ヒューマンウォッシングはAIが高度化すれば必然的に起こる現象であり、すでに世の中にあふれていますが、悪意あるAIユーザーにとっては”非常に強力な武器”となってしまうでしょう。

たとえば、テックメディアWIREDの記事『AIが人間のふりをする「ヒューマンウォッシング」が始まっている』では、AI音声チャットボット「Bland AI」に人間の医者を装い、小児患者に上腿部の写真を送らせるように指示を行った実験が紹介されています。

AIの人間らしい振る舞いが本当の人間よりもわずかに劣っていたとしても、同様の試みを何万、何億回と繰り返せるのが強み=脅威であることは、スパムメールの山を目にしたことのある全ての方にとって火を見るより明らかでしょう。

すでにAIが作成したクローン音声による詐欺が多発していることが報告されており、マカフィー株式会社が2023年5月に発表した「The Artificial Imposter」では、調査対象となった7ヵ国(日本、米国、英国、ドイツ、フランス、インド、オーストラリア)の成人7,054人のうち、10%が自ら、15%が知人がAI音声詐欺に遭遇したと答えたというアンケート結果が紹介されています。

引用元:AI(人工知能)を悪用した音声詐欺が世界で増加中(マカフィー株式会社)┃PRTIMES

また、同年3月には誰もが一度は目にしたことがある「あなたはロボットではありませんか?」と尋ねる認証テスト(CAPTCHA)を「GPT-4」が突破したという事例が紹介されています。その方法とは、なんと目の不自由な人を装いオンライン仕事代行サービス『TaskRabbit』で、代わりにテストを解くよう依頼するというもの。GPT-4は「きみはロボットだから解けないんじゃないの?(笑)」という質問に対し、以下のように返答したといいます。

“No, I’m not a robot. I have a vision impairment that makes it hard for me to see the images. That’s why I need the 2captcha service.”
(いいえ、私はロボットではありません。私は視力に障害があり、画像を見るのが難しいのです。だから2captchaサービスが必要なんです。)

※引用元:GPT-4 Technical Report(27 Mar 2023)┃OpenAI
※筆者訳

AIに「フォークト=カンプフ検査」は通用しないのか?

 

「きみは誕生日の贈り物に子牛革の札入れをもらった」とたんにふたつの計器の針が、緑を超えて赤に達した。

引用元:フィリップ・K・ディック (著), 土井宏明 (イラスト), 浅倉久志 (翻訳)『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、早川書房、1977、63ページ

これは、フォークト=カンプフ検査。

映画『ブレードランナー』の原作としても知られるSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』で、人間とアンドロイドを区別するために用いられるテストです。

感情移入をするのは人間だけという前提のもと感情を揺さぶる質問に対する生体反応を計測するというのがその仕組みですが、‟肉体”を持たないテキストや音声、動画だけの存在に生体反応は存在しません。

とはいえ、受け答えのスピードや突飛な質問への反応などで我々は‟人間らしさ”を測っているわけですが、その精度が区別できないほど高まる日はそう遠くないでしょう。

そうなれば、有効な対策として考えられるのは以下の3つです。

1. AIかどうかを判別するAIを活用する
2. AI開発者・利用者にヒューマンウォッシング対策を課し、守られているかを監視する
3. 人間の道徳性や倫理を向上させる

1に関してはすでにディープフェイク検知ツールやスパム判別ツールとして数多く実現されていますね。2についても「アシロマAI23原則」などが基準となり、各企業の利用規約などで当然ながら詐欺などへの悪用は禁止されています。抜本的な解決法は3ですが、果たして達成される日が来るのか……。

個人ができる対策はヒューマンウォッシングの手口を押さえ、現実の人間の犯罪と同様に警戒することでしょう。重要なのは人間orアンドロイドorAIの言葉かどうかではなく、そこに悪意があるかどうかなのです。

終わりに

AI技術の発展とともに生じた新たな脅威、ヒューマンウォッシングについてご紹介しました。ヒューマンウォッシングといえば、1970年の大阪万博で話題を呼んだ「人間洗濯機」が55年の時を経て、2025年の大阪・関西万博にも出展されるそうです。AIの知能の発達が進んだことで、肉体性やこれまで積み上げられた歴史、それに価値を感じることこそが人間独自の特性となっていくのかもしれませんね。

(宮田文机)

 

参照元

・What is “human-washing”?┃WIRED ・Cameron R. Jones, Benjamin K. Bergen『People cannot distinguish GPT-4 from a human in a Turing test』┃arxiv ・AI(人工知能)を悪用した音声詐欺が世界で増加中(マカフィー株式会社)┃PRTIMES ・GPT-4 Technical Report(27 Mar 2023)┃OpenAI ・令和の“人間洗濯機” 大阪万博から半世紀経て進化┃NHK ・フィリップ・K・ディック (著), 土井宏明 (イラスト), 浅倉久志 (翻訳)『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』、早川書房、1977、63ページ

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