さて、“21世紀の石油”として注目を集める「データ」ですが、使い方を誤ればイノベーションを妨げる可能性があります。
『ジョブ理論』において「イノベーションのデータの誤謬」として上げられているのが以下の3つです。
能動的データとは、販売データや顧客の属性などマーケティングの指標として代表的であり、マネジャーが自然に注目してしまうようなデータ群のことです。一方、ジョブに対する顧客の「無消費」やいらだちなど、ストーリーの中に埋もれている情報が受動的データ。人はつい管理しやすく、わかりやすい能動的データに目を向けてしまいがちなので、「能動的データと受動的データの誤謬」に打ち勝ち、データから現実を見出す意識が求められます。
「見かけ上の成長の誤謬」とは、企業が成長するにつれて多くのジョブにまとめて、あるいは複数の製品で対処しようとし、ジョブに即さない規模の拡大や多角化に陥ること。「確証データの誤謬」はデータを見る人間の“そうあってほしい”というバイアスにより客観性が失われることを指します。
データを活用しているはずなのに結果につながらなかった……という経験がある方は、思い当たる節があるのではないでしょうか。
これらの誤謬に対処するには“ジョブを中心にデータを取り扱う”ことが重要です。例えばAmazonは「欲しいものをなんでも簡単に手に入れたい」というジョブに応えるため、「豊富な品揃え」「低価格」「迅速の配送」の3つを達成できているかどうかを分刻みに計測しています。「1時間48分以内にご注文ください。お届け日:月曜日」といった表示や、基準価格に対する自動的な値下げはその実態を象徴しているでしょう。
石油と同じく精製し、適切な形に加工してはじめてデータは役に立ちます。そのための指針としてジョブ理論を活用してみてください。
「ジョブ理論」の基本とデータという観点からの使い方について解説いたしました。
デザイン思考、カスタマーサクセスなど近年の経営におけるキーワードとつながるところも多く、経営者にとって基盤となりうることはもちろん、製品/サービスを取り扱うすべてのビジネスパーソンに役立つ理論だといえます。
仕事で迷ったときは、ぜひジョブに立ち返ってみてください。
【参考資料】 ・クレイトン M クリステンセン (著), タディ ホール (著), カレン ディロン (著), デイビッド S ダンカン (著), 依田 光江 (翻訳)『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』2017、ハーパーコリンズ・ ジャパン ・「イノベーションのジレンマ」の著者、クレイトン・クリステンセン氏が逝去┃TechCrunch ・肥田 美佐子「【追悼】クリステンセン教授「日本の経営者は盛田昭夫の伝記を読むべき」┃Forbes
(宮田文机)
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