布マスク2枚。
2020年4月1日の新型コロナウイルス感染症対策本部において、全国の世帯ごとにその配布を行うことが安倍総理から発表され世間の耳目を集めました。巷では、マスクよりも現金を給付すべきではないのか、そもそも布マスクに予防効果はあるのかなど、さまざまな声が上がっています。
本記事は、そんな状況で参考にしたいマスクのデータをご紹介します。マスクの生産量、布マスクと不織布マスクの違い、各国のマスク不足/生産状況などまずはファクトを押さえ、コロナ禍におけるマスク不足問題について考えましょう。
まずはマスクの生産量の推移を見てみましょう。
参考:マスク生産(国内生産・輸入)数量 推移<マスクの統計データ┃一般社団法人日本衛生材料工業連合会
マスクの生産量は「新型インフルエンザ」の世界的大流行が起こった2009年に44億5,900枚に達し、在庫が大量発生したことで2010年には6億6,800枚に激減。しかし、花粉の大量発生やPM2.5への危機意識の高まり、16年から続いたインフルエンザの流行などにより年々供給は増し、2018年度(2018年4月~2019年3月)には55億3,800万枚が生産されました。
2019年度のデータはまだ出ていませんが、月間4.5億枚の通常需要に対し、平均6億枚の供給と例年の1.3倍以上の供給を行っているようです。政府より4月には7億枚に増産するとの発表もなされました。
なお、国内生産と輸入の割合は2012年以降おおむね「8:2」であり、平時は生産の多くを輸入に頼っています。
参考:マスク生産(国内生産・輸入)数量 推移<マスクの統計データ┃一般社団法人日本衛生材料工業連合会
しかし、世界的なマスク不足が発生している現在輸入は大きく押さえられ、生産と輸入の割合は逆転しているといわれています。つまり、例年の1.3倍を超える生産量を支えているのは国内メーカーということですね。
日本政府が設けた「マスク生産設備導入支援事業費補助金」を受けてマスクの生産・増産に乗り出した企業は2020年4月3日時点で以下の10社。これらだけで導入後1カ月で4,561万7,500枚以上の増産に取り組んでいます。
参考:令和元年度マスク生産設備導入支援事業費補助金に係る補助事業者の採択結果について(3月2週目に増設を行う事業者向け)┃経済産業省、令和元年度マスク生産設備導入支援事業費補助金に係る補助事業者の採択結果について┃経済産業省
また、アイリスオーヤマやユニ・チャーム、日本バイリーンなど既存のマスク生産大手も工場を24時間体制にする、中国工場の休暇を短縮するなどして大幅な増産を達成しています。
しかし、依然として小売店はマスク不足のまま。トゥルーデータ(東京)によると、ドラッグストアにおける来店客100万人当たりのマスクの売上高は、1月下旬の約1億9,000万円から3月上旬には約1,600万円と10分の1以下に縮小しました。止まらない需要に供給が追いつかないのです。
優先度の高い医療機関へのマスクの供給がまず急務であり、4月1日の発表でも3月中に配布した1,500万枚と同数を新たに4月6日以降配布する予定が発表されました。それでも多くの医療機関がマスク不足にあえいでおり、1日1枚、1週間に1枚など使用制限が設けられた病院も多く存在します。
今回配布されるのは「布」マスクだということも物議を醸しました。
今回配布される布マスクはガーゼなどを重ねて作られており、洗って再利用したりはぎれや手ぬぐいを用いて自作したりすることが可能です。しかし、多くの指摘があるように縫い目をすり抜けるウイルスを防ぐ効果は期待できません。
一方、一回使い切りの不織布マスクはというと、こちらも繊維の隙間が布マスクよりは密になっているもののウイルスよりは大きいため、十分な予防効果は期待できないという説もあるそうです。
しかし、不織布マスクとほぼ同じ効果を持つと言われる医療用のサージカルマスクと布マスクの感染予防効果を比較したところ、常にサージカルマスクが優位だったという研究結果もあり、比較すれば不織布マスクのほうがウイルス予防効果は高いといえるでしょう。
とはいえ重要なのは、いずれのマスクも予防効果は絶対ではないということです。すなわち「予防」ではなく、せきやくしゃみによりまき散らしてしまう飛沫を少しでも減らし「感染拡大を自ら防ぐ」という意図でマスクを使うのが基本的には正解です。
最後に海外の国々のマスク生産や不足事情についてみてみましょう。
現在のところ、新型コロナウイルス対策で最も成功している国といわれる台湾。4月3日の報道によるとマスクの製造量は1月の約7倍に当たる1日1,300万枚となっており、友好国に1,000万枚の無償提供を行うと蔡英文首相により発表されています。
また4月2日、マスク在庫マップや東京都新型コロナウイルス対策サイトにおける神対応で知られるデジタル担当大臣オードリータン氏により、医療用マスクの消毒法の解説動画が日本語吹き替えおよびテロップ付きで公開され話題になりました。
💁 同僚の @urakagi が翻訳と吹き替えを担当してくれました。日本の皆さんのお役に立てれば幸いです。
— Audrey Tang 唐鳳 (@audreyt) April 1, 2020
ℹ️ 注意:この方法が使えるのは、破損していなくて汚れてもいない、室外または感染リスクの低い場所で使用されたサージカルマスクのみです。また、本消毒法は 3~5 回が限界です。 pic.twitter.com/HIVVvZEErB
3月頭まで感染者数が大幅に増加したものの、現在はピークアウトを向かえたといわれている韓国。3月30日の韓国・ニュース1の発表によれば3月第4週(23~9日)の生産・輸入量は1億1060万枚で、感染者数の増加がピークを迎えた直後の第1週(2~8日)より3,751枚増加したといいます。
政府・業界関係者は出生年によってマスクを買える日を指定した「マスク5部制」が品薄解消に大きく寄与したと分析しています。
2020年4月5日現在感染者数が31万人を突破し(全世界1位)、増加を続けているアメリカ合衆国。
2月時点で保険福祉省のアレックス・アザー長官により、医療用マスク3,000万枚、N95マスクなどのレスピレーターが1,200万枚しか備蓄されていないという発表がなされていました。3億2,000万人を超えるアメリカの人口には到底満たず、4月3日にはトランプ大統領によりN95マスクの輸出禁止が発表されました。
4月5日現在感染者数世界2位のスペイン、3位のイタリア、4位のドイツ、5位のフランスを抱えるEU。
各国とも深刻なマスク不足の状況にあります。不織布マスク等繊維製品の輸出量において2位に位置するドイツやフランスが一時マスクの輸出制限を表明し、他国から批判を浴びるなどコロナ禍を引き金としてEUの連帯に亀裂が生じる危険性も示唆されています。
世界一のマスク輸出大国中国。2月29日時点でマスクの総生産量は1日あたり1億1,600万枚に達したと報道されています。
日本にも大連市から北九州市へ20万枚、ネット通販最大手アリババから100万枚、通信機器大手ファーウェイから50万枚など大量のマスクが提供されています。
ただし、その品質はすべてが完璧というわけではなく、オランダが中国から輸入したN95マスク130万枚のうち46%が不合格として処分された事実もあります。
マスクにまつわるさまざまなデータ・ファクトをみてきました。
誰しもがここまでの拡大は予想しえなかった新型コロナウイルス問題。徐々にピークアウトした国もみられだしてはいるものの、日本も含め収束の目途が立たない国も数多く、マスク不足という眼前の霧も晴れる予測は立ちません。
そして、マスクがあれば「感染しない」というわけではないのもまた事実。
当たり前の結論ではありますが、マスク以上に効果の高いとされる手洗いや不要不急の外出自粛の徹底に力を入れるのが個人にできるベストな選択といえるでしょう。
(宮田文机)
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