官民データ活用推進基本法に基づき、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定された。地方自治体でも、オープンデータの活用推進に関する独自の動きが数多く見られる。横浜市のようにオープンイノベーション推進を見据えた活動を展開している地域もあれば、京都市のように官民でのデータ連携のしやすいデータポータルサイトから独自のサービス、アプリが生まれている事例もある。
対して第2回で紹介するのは「シビックテック」により、地域課題解決に取り組むCode for Kanazawa(CfK)の取り組みだ。
「コードで、世界をHappyに——」。そんなキーメッセージを掲げるCfKは、2013年5月アメリカの非営利団体「Code for America」をモデルに設立された。
以降も「Code for JAPAN」をはじめとして、Code for KyotoやCode for Sabaeなど
「Code for ○○」を名乗る活動体が、日本全国に展開している。
「自治体に何でもかんでも頼るのではなく、市民参画型で、自分たちの地域・社会の課題を見つけ、テクノロジーを使ってそれを解決する」。そんな活動を「シビックテック」と位置づけ活動するのがCfK。代表理事の福島 健一郎氏は「DIY化する市民の時代が来ている」と分析する。
「歴史的に見ても、ヨハネス・グーテンベルクという1人の市民が、活版印刷技術を開発したことで宗教改革が起こりました。これも一種のシビックテックだと考えます。テクノロジーによって、市民が社会課題解決、ひいては社会変革に寄与できるのです」(福島氏)
CfKの活動は多岐にわたるが、金沢市のオープンデータを利活用し実装した代表的なアプリとしてつとに有名なのが「5374.jp」(ゴミナシ.jp)。生活者にとって身近な課題の1つである「ゴミの捨て方」に着目した、シンプルなスマホアプリだ。
同アプリでは、あらかじめ地域を選択しておけば、毎日ゴミの収集情報が更新され、アプリ起動時「資源」「燃やす」「燃やさない」「びん」という4ジャンルのゴミ収集日が一番近い日から色分けされた状態で表示される。さらにジャンルをタップすれば、その日に捨てることのできるゴミまでが一覧表示。アプリ内では「ごみの検索」も行え、サイズや材料に準じたゴミ出しルールも知ることができる。
「5374.jp」のソースコードは常時、ソフトウェア開発プロジェクトのためのソースコード管理サービス「GitHub」(ギットハブ)にて公開されており、最近は北海道から沖縄まで金沢市外の100以上のエリアにまで「5374.jp」が拡大中。GitHubを通じて、企業・個人による「地域ごとのローカライズ版」が開発される動きもあるほか、自治体主導で運営しているケースもあるという。今年6月からは、プッシュ通知機能を実装した有償アプリ「5374App」のリリースも開始した。導入したのは金沢市で、単に有償版であるのみならず「CfKが金沢市との有償契約を結ぶことで市と連携して運営に当たっていける」と言い、CfKにとっても新しいチャレンジが始まろうとしている。
こうしたアプリはどのように誕生していくのだろうか?
「私たちは、いわゆるアイデアソンやハッカソンを開催したり、毎月1回、Civic Hack Night Kanazawaという、地域の課題解決に興味を持つ人がゆるく集まる場を運営したりしています。こうした場を通じ、市民からアイデアシートが作成され、そのアイデアからサービスやアプリが生まれていくのです」(福島氏)
「過疎化が進む『奥能登』(石川県輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)と呼ばれるエリアで子育てをするお母さんたちは、孤独感を感じている」。市民のそんな課題から開発されたのが「のとノットアローン」だ。主には地域で開催される「イベント情報」がサービス内で提供される。「子どもを連れて参加できるイベントがどこでやっているのか、そうしたことをお母さんが知ることができ、それをきっかけにお母さん同士がつながれる」と福島氏。石川県や2市2町の自治体が公開するオープンデータや、CfKで利用許諾を得た民間のデータが開発時に用いられた。
「シビックテックとはいいますが、テック/テクノロジーは決して“主役”ではありません。
われわれは100人以上のメンバーで構成されていますが、8割はエンジニアではありません。私の感覚では、それくらいのバランスがちょうどよく、エンジニアのほうが多い状態はバランスが悪いと考えています。自分たちのために、あるいは、自分たちの社会のために実行するというスタンスが、オープンデータでは大切です。」(福島氏)
福島氏は「シビックテックに必要なことの一つ」として、「自分ゴトの課題からスタートすること」を挙げた。
「のとノットアローンもお母さんたちから相談を受けたことからスタートしましたが、CfKが何かアプリをつくってくれるIT会社だと思っていたようで、私たちは最初の時点では『そうではない』と否定しました。『誰かつくってください』では人ゴトです。それでは良いサービスやアプリはつくれない。『自分たちでつくる』という状態にまで高めないと、本当にいいサービスは生まれません」と強調する。
福島氏は続ける。
「お母さん方にも企画に共感したエンジニアとともに開発プロセスに入ってもらい、最初は『(開発って)大変ですね』と驚いていましたが、『面倒だからもうやめよう』となるのではなく、むしろ参加するお母さんは増えていきました。自分でやるとなればムダなことはやらないし、本当に欲しいものをつくりたいと思う。シビックテックではそうした“自分ゴト”でスタートするのが、とても大切です」(福島氏)
参加メンバーは対価を得ることを第一義としておらず、CfKというコミュニティは、自ら進んでこの課題を解決したいという課題へ情熱、喜んでもらえるという充足感、そして社会貢献への満足感が一定数集まることで保たれている」と福島氏。オープンデータ利活用による、市民が起点となった新たなオープンイノベーションが、今まさに始まっている。
(取材・TEXT:JBPRESS+田口雅典)
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