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「PositiveDeviance(ポジティブな逸脱者)」とは? 組織の「外れ値」に注目し、ボトムアップの変化を生むアプローチを解説

         

ある問題を解決しようというとき、私たちはついつい外部のベストプラクティスに目を向けがちです。まさかそんな身近に解決策があろうはずがない、とついつい考えてしまいますよね。しかし、童話『青い鳥』で、幸せの青い鳥は冒険の末、元居た家で見つかりました。

企業などのコミュニティに潜む、青い鳥を見つけるためのキーワードが「Positive Deviance(ポジティブな逸脱者)」。耳慣れない言葉ですが、データを活かし、人を巻き込み、実際的な成果を生み出すまでに、PD(Positive Deviance)アプローチは非常に有用です。

この記事ではその概念と実践方法をご紹介します!

Positive Devianceとは“ポジティブな「外れ値」”に学ぶ問題解決アプローチ

Positive Deviance(ポジティブな逸脱者)とは、「ある集団の『標準』の中で、ポジティブに逸脱した結果を得ている人々や事例」を意味します。

データを扱ったことのある方は「外れ値」という言葉を目にしたことがあるでしょう。”ほかのデータから見て明らかに大きい・小さい”など、例外的な値である外れ値は、モデルの精度を高めるために除去されたり変換されたりすることも多いです。

しかし、外れ値の理由<なぜ例外的な値は生じたのか?>を探ることで、重要な気づきが得られることもあります。

PDアプローチは組織におけるポジティブな成果を出している外れ値を深く掘り下げ、コミュニティ内で共有することで成果に繋げる問題解決アプローチです。

組織の生産性を高めるために成功例に学ぶ事例として、現在PDアプローチ以上に普及しているのが「ベストプラクティス」です。

ここで、PDアプローチとベストプラクティスを比較してみましょう。

 PDアプローチベストプラクティス
調査対象組織の中の成功事例外部の成功事例
規範とする成功例自身と同じような人・組織自身とは異なる人・組織
実行方法ボトムアップトップダウン

PDアプローチは、同じような環境・能力なのに成果が違う「外れ値」に学ぶことを基本としています。そのため、見出すのにコツが必要な代わりに、再現性が高く、ボトムアップで着実に広めていきやすいという特徴があります。

PDアプローチの第1ステップは「コミュニティの巻き込み」

問題解決や生産性向上のためにPDアプローチを進めようというとき、まずすべきなのはPDの考え方をコミュニティに紹介するということです。前述の通り、PDアプローチはボトムアップの特徴を持ち、問題に関わるコミュニティ全体から多様な人材が自らの意思で参加することが求められます。

例えば、米国の病院におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の感染をPDアプローチで30~62%減少させた事例では、医師や看護師だけでなく清掃、搬送、薬局、厨房、研究室などさまざまな領域の関係者にPDアプローチについて学ぶ会の招待状が送られたといいます。

PDを見つけるためには、これまでの「こうすべきだ」という思い込みを排除し、事実を徹底的に観察する必要があります。また、PDを見つけるだけでなくよりよい方法を定着させ成果につなげるには、最初からコミュニティ全体を巻き込む工夫が欠かせません。現場からPDプロジェクトを主導するリーダーを見出せば、その周囲の協力も得やすくなるでしょう。

コミュニティが巻き込めたらPDを見出し、手法を浸透させる


PDチームがある程度組織できたら問題とそのゴール、現在わかっている制約などについて定義します。現在の標準的な状況(設定されたベストプラクティスや定量的なデータなど)について把握しておくことで、PDを見出し、その成功の秘密を探りやすくなります。チームによってPDが見いだされたら、デプスインタビュー、データ計測などによって“なぜ成果を出せているのか”について検証します。ベトナムの子どもたちの栄養失調改善にPDアプローチが活用された際は、通常、幼い子どもの食事は1日2回なのに対し、PD家庭では1日に4~5回食事が与えられているという事実が明らかになったといいます。

この段階でデータの力は大いに生かされるでしょう。ただし、当事者が意識しておらずデータにも現れづらい違いもあるため、現場の人員も巻き込みながら細かく行動の差異を探ることはマストです。

PDの行動や戦略が見いだせたら、その手法を浸透させていく段階に入ります。5W1Hで行動計画を策定し、実際に行動してみることで「体験して」学べる仕組みをつくりましょう。

ここでPDアプローチがボトムアップであることが効いてきます。変化には往々にして拒絶反応が起こりがちですが、内部の「自分と同じような人の成功事例」ならば受け入れられやすいです。ただし、トップの協力が得られないことでPDの輪が広がらなかった事例も報告されています。トップはPDアプローチを導入すると決めたら、チームを信頼し予算やインセンティブ面でサポートすることが求められるでしょう。

もちろん、PDアプローチは「実行して終わり」ではなく、きちんと効果測定するところまで射程に入っています。データは関係者全体に報告し、効果を実感した人がPDアプローチに信頼を寄せ他の人を巻き込むことをサポートしましょう。

終わりに

PDアプローチは、局所的な解決だけではなくコミュニティ全体の改善を目指しており、しっかりと体得し実行できれば企業やグループ全体にプラスのインパクトを与えられるはずです。特に、複雑な組織や人の価値観が絡み合って生じるため技術的な手法だけでは解決できない「適応課題」に有効だといわれているとのこと。

データのじかんでも、DX、データドリブン経営、デジタル変革における大きな障壁は、最も大きな課題は技術ではなく、この「適応課題」にあると考えています。どうしてかと言えば、データや技術を使うのも人であり、適応するのもまた、人であるからです。

これまでの手法や外部のベストプラクティスが通用しないとき、ぜひPDを探してみてください。

【参考資料】
・リチャード・パスカル (著), ジェリー・スターニン (著), モニーク・スターニン (著), 原田 勉 (翻訳) 『POSITIVE DEVIANCE(ポジティブデビアンス)―学習する組織に進化する問題解決アプローチ Kindle版』東洋経済新報社、2021
・Positive Deviance Initiative公式「ポジティブデビアンス」のススメ。現場に埋もれたイノベーションを探し出せ!┃電通報

宮田文机

 
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