イベントに先立ち、仙台市イノベーション企画課課長の小池伸幸氏による挨拶がありました。小池氏は「仙台市には、本当に多くの社会課題の解決に取り組む魅力的な企業と人がいます。UIJターンに少しでも関心のある方々に、ぜひそのような会社・人について知ってもらいたいです」と語っています。
小池氏による挨拶が終わり、今回集まった各企業による発表が始まりました。
まずは登壇順に、「株式会社舞台ファーム」「バイオソノ株式会社」「株式会社NTTデータ東北」「MUSASI D&T株式会社」「トライポッドワークス株式会社」の5社のメンバーが、それぞれの会社紹介と自己紹介を行いました。
舞台ファームは宮城県仙台市に拠点を構える農業生産法人です。ここで働く吉永圭吾氏は、実は福岡県生まれ。岩手大学農学部を卒業後、宮城県に移住しました。舞台ファームでは、未来戦略部という経営企画部のような部署で働いています。仕事内容は現場のIT化推進など。仙台にある東北大学には「ナノテラス」という放射光施設がありますが、その施設の先生たちと一緒にレタス栽培の研究などもしています。
ここまでの話を聞くと、新興ベンチャー企業のように感じられるかもしれません。しかし、同社代表の針生信夫氏は300年以上続く歴史ある農家の15代目であり、その針生氏が起こした会社が舞台ファームなのです。300年という歴史とデジタルテクノロジーが掛け合わさり、舞台ファームは生まれました。
同社には個性豊かな異業種からのUIJターン転職組が多いと言います。例えば、営業部長は元Jリーガーだったり、植物工場の工場長は元カレー屋さんのオーナーだったり。まさに多様なバックグラウンドを持った方々が働いています。
バイオソノ株式会社は2022年設立のベンチャー企業です。代表の遠山賢氏は宮城県石巻市の出身で、バイオソノという社名のソノは「ソナー」の語源となったラテン語から来ているそう。会社名を直訳すると「生体音株式会社」ですが、喉の音をAIで自動観察し、食形態を判定する『食通(ショクツー)』というプロダクトの開発を行っている企業です。
被介護者が食事をする際、家族が心配するのはその見守りです。食べ物が喉に残り、それが肉眼で確認できないほど奥にある場合には、食事後に気管に入り込む恐れもあります。そのため、聴診器による喉の状態確認など、専門性を伴った対応が必要になります。『食通』は首元に貼り付けたセンサーとAIにより、喉の音を自動的に確認し、時間を掛けずに食事の見守りや介助をサポートします。東北大学の伊藤彰則教授との共同研究開発という形で生まれました。
株式会社NTTデータ東北は、仙台市に本社を構えるNTTデータの100%子会社です。「公共」「金融」「法人」の各事業部がありますが、相場氏はDXO(デジタルトランスフォーメーションオフィス)という部署で働いています。DXOは事業部に囚われず、横串でテクノロジーカットで企業を支援しており、最近ではAIやD&I、クラウドや新規事業創発などに注力しています。
相場氏は秋田県秋田市出身で、就職で仙台に移住しました。15~6年ほど仙台市に住んでいるとのことですが、都会と自然がちょうどよく融合している街だと話します。日頃デスクワークのため、週末は山登りなどをしているそう。とにかく自然が豊かで過ごしやすい東北、そして仙台が好きだと語りました。
MUSASI D&T株式会社はシステム開発の会社で、2019年に本店を東京都港区から仙台市に移しています。本社が東京にあった時は大規模な金融系システムの開発に携わっていましたが、仙台に移してからは地域課題に取り組んでいます。具体的には町内会デジタル化推進事業として、2024年度仙台市町内会デジタル化推進事業において採択された町内会25団体のうち、20団体のデジタル化の伴走支援を行っています。「誰が何に困っているのか」「その課題はデジタルで解決できるのか」などを深掘りし、いわゆるシビックテックを進めています。
同社の代表取締役である佐藤氏は仙台市出身であり、東北の女性の活躍にも力を入れています。具体的には東京の案件をニアショア(地方企業に業務を委託すること)として、東北・仙台の方に仕事を繋げていくなどをしています。課題だったのは、実績をつくる機会の少なさです。女性が受講できる無料ITセミナーはたくさんあるものの、地方には初心者を受け入れてくれる事業者が少なく、実績をつくるチャンスが少ないのです。同社はその実績作りの支援などをしています。そのほか、子どもを預けたくなるような保育園や、親子のフリースペースの運営などを行っているそうです。
トライポッドワークス株式会社は、「オフィスソリューション事業」と「IoTソリューション事業」の2つの事業を行っています。前者はセキュリティを基軸としたビジネス向けITソリューションを提供し、後者はIoTプラットフォームを基盤としたモビリティ向けIoTサービスを提供しています。特に後者では、自動車業界におけるデータをクラウドに集め、自動車関連大手企業とアライアンスを組んで持続可能なモビリティ社会に貢献するサービスの開発・提供をしています。
自身もUターン人材だと話す佐々木氏。32歳の時、当時在籍していた企業の東北支社長就任に伴い帰郷しました。のちに東北にビジネスチャンスを感じ、起業したのが38歳のこと。東北の中核都市としてのアドバンテージを活かし、東北のITのマーケットの拡大を進めています。
続いて、上記5社に加えて株式会社zero to one代表取締役CEOの竹川隆司氏をモデレーターとして、パネルトークが行われました。株式会社zero to oneは、仙台に本社のある企業。CEOの竹川氏は神奈川県出身で、野村證券時代にハーバード大学で経営学修士(MBA)を取得しています。アメリカで起業する直前に発生した東日本大震災をきっかけに帰国し、「一番求められている場所で求められていることをしたい」という気持ちから、東北で起業しました。「マラソンで東北と世界をつなぐ」をミッションに、2014年に「東北風土マラソン」を立ち上げるなど、精力的に活動しています。
まずはDX実装の最前線として、実際に仙台でDX推進をした手応えや仙台だからこそのやりがいなどをそれぞれが発表しました。舞台ファームの吉永氏は、画像を使ってレタスの重さを予測し、レタスの最適な収穫のタイミングを見極めるシステムを開発しました。これはPBL(Project Based Learning)の一環で実現したものであり、仙台市の「X-TECH」事業に参画してきた地域の社会人や学生と同社の協働で生まれました。またバイオソノの遠山氏は、高齢化率が比較的高い東北地方だからこそ「高齢者のバイタルデータ」を多く収集できたと手ごたえを語っています。
一方、NTTデータ東北の相場氏は、「東北に貢献したいという強い想いを持つ人材が多いため、優秀なDX人材を確保しやすい」と述べました。MUSASI D&Tの佐藤氏は「大学との連携機会が豊富で、東北大学との共同研究も生まれやすい」と話しています。トライポッドワークスの佐々木氏は、「震災を経験した世代が東北・仙台エリアを協力・支援を受けやすい地域であると特別な目で見ており、『面白い人が集まってくる』状況が生まれた」と私見を述べました。
これらの意見を踏まえ、竹川氏は「仙台は課題先進地であり、かつ現場や顧客との距離が近いため、仙台におけるDX推進は貢献できる場が多い」とまとめました。
続いて「UIJターンのリアル」と題して、実際の仙台市での暮らしについて話し合いました。吉永氏は「寒い場所が好きで、自然豊かな環境で働くことに魅力を感じている」と話します。遠山氏も「緑豊かな環境で仕事ができ、日々癒やされながら働ける点がやりがいにつながっている」と主張。相場氏は「プライベートでは冬にスキーやスノーボードをするのが趣味だが、すぐにスキー場に行けるのは魅力的。また通勤時間が短く(ドアtoドアで15~20分)であるのも良い」と語っています。佐々木氏も「相場さん同様に、仕事終わりにスキー場に行けるのはありがたい。また仕事とプライベートのオンとオフの切り替えが容易」と話します。佐藤氏は街の雰囲気について「震災以降、助け合いの意識が根強い環境」だと述べ、その暮らしやすさについて言及しました。
これらの意見を踏まえ、竹川氏は「仙台市は自分の働き方やキャリアをコントロールしやすく、時間の使い方が自由になるという『Life is your time(人生はあなたの時間)』というコンセプトが実現できる場所だ」と意見を集約しました。
そして仙台で活躍する人物像についても意見交換しました。吉永氏は「新しい提案を受け入れ、積極的に取り組みを進めることができる人材が活躍しやすい環境」と語り、遠山氏は、自身を「シリアルアントレプレナー(Serial Entrepreneur)」と自称するように、一つのことに留まらず、多様な知見を得て新しい挑戦を続ける人材が活躍しやすいと話しました。相場氏は「想いが強い人、突破力がある人。想いをベースにしっかりとやっていくことができる人」と話しました。佐藤氏は「曖昧なアイデアであっても一歩踏み出し、周囲の協力を得ながら形にできる人材が仙台では活躍しやすい」と話し、佐々木氏は「仙台に拠点を置きつつも、地元をマーケットとせず全国・グローバル市場をターゲットとするような、広い視野を持つ人材ではないか」と語っていました。総じて仙台では、地域への貢献意欲を持ち、積極的に行動し、他者と協働しながら、自身のアイデアやスキルを社会課題解決に活かせる人材が活躍しているようです。
まとめると、①自分の仕事がダイレクトに役に立ち、かつ②仕事とプライベートの両方を充実させることができ、そして③DXを介してまわりを巻き込んで想いを実現できるのが仙台市だということです。DX推進者がなぜ仙台市に集まるのか、その理由がわかりました。
最後に質疑応答の時間になりました。視聴者からの質問に対し、登壇者が答えていました。
Q.東京にしか住んだことがないのですが、東京と違ってゆっくり過ごせるのでしょうか?
A.モデレーターの竹川氏は「おそらくゆっくり過ごせるというか、ゆっくり過ごすという結論を自分で決められるというか。自分でコントロールできる部分が増えると思います」と話します。
Q.仙台で漠然と自分の技術やスキルを社会や地域に活かしたい。けれど、どうしたらいいかわからない。どのようなアクションを起こせばいいでしょうか?
A.佐藤氏は「自分が『何かやりたい』と本気で口に出して言っていると、それを拾い上げて人や組織と繋げてくれる雰囲気が仙台にはあります。そのため、自分で全てをやろうと決めてから移住しなくても、曖昧な状態でも、一歩踏み出せるっていうのが仙台のかなり良いところかなと思っています」と話しました。
佐々木氏は佐藤氏の意見に同調し、「応援してくれる人が多いのではないかと思う」「協力してくれたり、一緒にやろうと思って行動を起こしてくれたりする人が、かなり多い」と語っています。
遠山氏は「まず飛び込むこと。仙台で暮らすことに少しでも意識があるのだったら、東京から1時間半で来られるわけですし、ちょっとした時間に仙台に飛び込んでいただくのは非常にいいきっかけとなると思います。大事なのは『飛び込んでみてどう感じたか』であって、飛び込む前にいろいろ悩んでいるのでしたら、まずは仙台に来てみることをおすすめします」と話しました。
登壇者の言葉にもありましたが、何かをやりたい、でも何をやるのか具体的に決まっていないという人は多いと思います。しかし仙台には、そのような漠然としていても「熱意」さえあれば手を差し伸べてくれる雰囲気があるのは確かです。ある意味、仙台市にはビジネスチャンスが至るところにころがっていると言えます。
今回登壇されている方々以外にも、仙台市に移住して活躍されている方がたくさんいます。中には縁もゆかりもない方が、旅行をきっかけに仙台市に魅了され、そのまま移住したという人もいました。まずは一度仙台市にふらっと遊びに来てみて、街の雰囲気を感じてみてはいかがでしょうか?
(TEXT:安齋慎平)
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