INDEX
久我:nestを立ち上げた理由から説明させていただくと、まず我が社はBtoB向けソフトウェアを提供する会社でエンタープライズ向けの基幹システム、帳票を出すためのエンジンを提供する、いわゆるミドルウェアという存在です。またBIツール関連のデータベースも国産で提供し、瞬時にフロントが必要なデータをグラフィカルに出力できるサービスを3,000社に提供しています。
野村:それはいいですね。
久我:立ち上げ当初、私たちの理想と現実の間には大きなギャップが存在していました。弊社はクラウドとパッケージの2つの販売方法を採用している中、パッケージ利用のユーザーが多く、その結果、ユーザーの実際の利用状況が販売後に把握しにくいという課題に直面していました。今後、より適切なサービスを提供するためには、ユーザーの現状や課題を深く理解することが不可欠です。
私たちのコミュニティでは、データの活用方法や人材の育成方法に関する失敗談や成功事例を共有することで、データ活用の普及を促進し、より豊かな社会を築くことを目指しています。このビジョンに導かれ、コミュニティの設立を決意しました。
3年が経過し、現在は3,000名以上の会員さんが登録しています。しかし、設立初期はこのような大規模なコミュニティを想像すらしていませんでした。
野村:3,000人はすごいですね。ある程度関心がある人たちがいてもそれを集める、醸成する大変さ、そこに属するメリットなどを可視化していかないとコミュニティにならないですよね。
久我:おっしゃる通りです。私たちはユーザー会員の入会動機と、会員の皆様がコミュニティ内で活動的になるための施策を別々に考え、それらをデータで見える化しています。イベントや活動ごとに参加者や閲覧のみのユーザーの動向を分析し、その結果を基に次の施策の仮説を立て、具体的なアクションを計画しています。
こうしてみると、コミュニティ運営は多くの労力が必要だと感じられるかもしれません。しかし、お客様に価値を提供することが事業の核心であり、お客様のニーズや動向が明確でなければ、適切なサービス提供は難しいと私は考えています。この視点から、コミュニティは事業の基盤、あるいはスタートラインとも言える存在です。
コミュニティは事業の価値向上に直結するものとして、その運営にはエース級のコミュニティマネージャーが必要です。経営資源の配分に悩む企業も多い中、私はコミュニティ運営を最優先の領域と考え、その責任を信頼できる人材に託すことが最良の選択だと信じています。
久我:「SHIBUYA QWS」の立ち上げの際、野村さんはコミュニティの存在意義について、どのように周囲へ理解してもらっていたのでしょうか。
野村:正直、理解はしてもらえなかったですね(笑)。前編でもお話した通り、収支以外の本質的な話をしても、そこから生まれる価値は数値化できないですし、問いの感性と言っても具体性がなさすぎてコミュニティを作る、問いを起点に施設を作るといった話は、ほぼ共感されなかったです。
当時は国内の事例もないですし、リターンが明確に明示できるものでもないので、海外での事例はあれども、本当にできるのか?と言われていました。ですが、こちらもやってみないとわからないと答えるしかないんですよね。
これは日本で新しい事業が生まれてこない要因の一つでもあると思うのですが、やはり短期的な収益性や具体的な事例に注目が行きがちなので、コミュニティを作る、問いを起点に施設を作るといった話は、ほぼ理解されなかったですね。
久我:やはりどうしてもキャッシュアウトにしか見えなくなっちゃうんですね。経営となるとP/L、B/Sとかを見ながら中期計画に取り組むので、企業内の原理や株主との対話の中だとなかなかすぐにOKとはならないですよね。説得する上で留意したことはございますか?
野村:説得材料としては、QWSで育った人たちが将来的に戻ってくることのメリットと、直営のコミュニティであることの意義を伝えました。
久我:確かにそうですよね。
野村:実際、サイバーエージェントさんも渋谷マークシティからスタートして、現在では自社ビルを持つまでに成長されています。また、世界では約3、40年程度で企業のライフサイクルが回っている中、日本では100年続く会社がたくさん存在し、そこに善し悪しが現状出てきています。その文脈の中で新しい事業を創出する支援をしないと、オフィスを作っても入る会社がそもそもいない、それだと元も子もないですよねっていう話をして納得してもらいました。
また、これまでの東急では場所を提供して運営は委託といった形が多かったんですが、それだとそこにいる面白い人たちとの接点が作れず、協業ができにくい。と、なった時に直営でやることへのグロースは十分にあるのではないでしょうかという話をすると、理解してくれる人たちも一定数いましたね。
久我:大事なのは短期的回収よりも仮説ですよね。QWSができることによって何かが変わるんじゃないかという仮説が高解像度であれば、全体投資の許容範囲に収まるのならやってもいいのではと思いますよね。
野村:おっしゃるとおりですね。
久我:よくありがちなのが、コスト効率上げていこうといった論理ですが、それだとどんどん困窮していくだけだと思うんです。短期的なリターンしか見込めないものだとすると、力学がずっと続かない。そもそも先のマーケットを大きくしていくことに、一定の投資はしていかなきゃいけないものなのです。それでいうとQWSというコミュニティは何年も先のマーケットに投資している、ひとつの形なんじゃないかなと感じます。
野村:現状いくつかの成果が生まれつつある中、法人会員の入会理由としては「自社で会えない人に会える」ことを目的に選ばれる方が多いですね。今、世界の潮流としては、人口に対してZ世代がものすごい増えています。そのためグローバル規模のプロダクトを作り受け入れてもらうにはZ世代の意見も反映させたものを作っていかないと実際売れないんです。そこに危機感を抱いた企業の方々はQWSに来て高校生や大学生さんたちにヒアリングやワークショップを徹底的にやっていますね。
久我:それは特色ある取り組みですね。
野村:例えば食品メーカーさんではZ世代事業本部を2021年4月に立ち上げて、そこから数ヶ月、QWSにいるZ世代の会員さんに向けて繰り返しマーケティングリサーチを行いました。その結果、健康は重要視しているけれど準備や食べる時間、片付けは徹底的にミニマムにしたい「素早く手軽に健康を維持できるようにしたい」といった、Z世代の食の感覚を掴んでいったんですね。そこでインスタントのお粥を商品開発することができたんです。
久我:それはまさしくコミュニティ・レッドグロース(コミュニティ主導の成長)ですね。
野村:それ以降も実証実験を繰り返し、パッケージ改良などを経て1年2ヶ月で正式にローンチしたのですが、それをいざ社内でやろうとなると、新規事業の会議でどれだけうんうん唸っていても、やっぱり出てこないですよね。プロダクトアウトも大事ですが、やはり何より利用者と直接触れ合うことが大事だと思います。
久我:まさにゼロパーティデータですよね。直接のアクセスポイントがあるからこそ、どういうプロダクトが必要か、どんなコミュニケーションを求めているか理解できますよね。逆に生の声を聞かないといつまでもボタンの多いリモコンを作ることになりますね(笑)。
久我:私自身、営業部門がキャリアの大部分を占めているのですが、これは営業部門に限らったことではないと思うのですが例えば責任感の強い営業がお客様の囲い込みを結果的にしてしまうケースってよくあることだと思います。
それは分かると思いつつも、解放されたコミュニティを形成すれば、属人化や属部門化されていた顧客との接点が解消され、事業に関わる多くの部門がお客様との直接的な接点を持つことができるのではという仮説を持っています。
お客様を知り、自部門がどのようにお客様への価値提供を高められるのかなど、より本質的な活動をしっかりと考え、そのための行動を起こすきっかけを作ることがコミュニティを通して出来るようになるのではないかと感じています。
実際nestでも開発者がユーザーと直接つながるケースが出てきて、互いの持つ課題を解決している、そこでユーザーとのコミュニケーションに目覚める開発者も出てきていて、会社としても、個人としても、ただPCの前でプログラムを作成するだけよりも、より大きな変化があると感じていますね。
野村:デザイン部門など開発部門などが縦割りで動いている企業がほとんどですしね。
久我:サイロ化問題は実際おきてますよね。
野村:おきてますね。教育もそうですが、ヨーロッパの教育はデザインとテクノロジーの両方を学べますが、日本は人文社会系と理工学系が完全に分かれています。一部の大学では融合された学科も作られてはいますが、事実、これが起きているからこそ、エンジニアがデザインを学ばずに技術メインで進んでいくようなケースは多くあります。
久我:よくわかります。うまく価値転換ができないのでもったいないですよね。せっかくプログラムを組める技術があっても、その技術がうまく市場で活かせなかったりすると本当にもったいない。
野村:眠っている資産が企業でまだ有効活用されていないケースはたくさんあると思います。
久我:社会的ニーズに対していろいろなアイデアやスキルを持った人たちが、エンジニアや企業にもともと備わっている技術などを掘り起こす。QWSの価値はまさにそこにありますね!
久我:nestでは、どうやればデータ活用で事業成長、カスタマーサクセスを起こせるかをとても大事にしています。そのため、個人の成長が事業の成長に繋がっているかは意識的にみていますね。お客様とコンセンサスをとりながら、スキル開発が必要な部分はTipsを増やしたりと工夫しています。
個人や事業の成長は重要な指標として考えています。この指標が欠けると、三方よしの原則が崩れてしまいます。特にnestは主にtoBのコミュニティであり、業務時間や交通費を使って参加するメンバーも多いです。そのため、所属企業への便益をしっかりと返すことを意識し、コミュニティの醸成を続けています。
「データ活用によってより良い社会をつくる」。その景色の実現を私たちは目指しているので、そのビジョンに向かい、コミュニティの動きが社会に実装され普及する、効果がでることを意識しながら動いてますね。
野村:コミュニティも手段ですよね。そういう意味では私たちも新しい社会価値を生み出すというミッションの手段としてコミュニティがあり、それにはどういうコミュニティ像が必要なのかをメンバーに伝え、メンバー自身がそれぞれで考えることを大切にしています。立ち戻る場所は普遍的であり変わらないので、皆の意識を場を通じて統一させ心理的安全性と共創を担保することが、コミュニティを醸成する一つの方法ではあると思いますね。
そして、その理想的なコミュニティを実現するためにはどんな施策が必要なのかを、具体的に考えて実際に取り組んでいます。
例えば、QWSでは多様性のあるコミュニティにするために「QWSチャレンジ」というプログラムがあるのですが、これは3ヶ月に1回の公募でどなたでも応募が可能です。プロジェクトが採択されると3ヶ月間無料で場所を提供しているので、高校生や大学生など若い年齢層も参加できる、コミュニティの入口となっています。
ちなみにこのプロジェクトの採択にはVCやアート、建築家、スポーツ、大学教授など様々な分野の方が8〜10人ほど集まり審査しているのですが、私たちはその審査に一切口を出しません。
久我:それは振り切っていますね。
野村:ですね。その方々が1人でもこのプロジェクトが面白いと思えば採択するので、合意形成もありません。そこに採択員の色がかなり出ますので、多彩な問いを持った人たちが自然と集まってくるのです。
久我:この審査のプロセスの一つをとっても、QWSの取り組みはビジョンから一貫性がとれてますよね。全てが繋がり、説明が全て成り立つ。だからこそ、そこに共感と信頼が集まり、コミュニティがコミュニティとして機能してるのですね。
野村:そうですね。なので、私自身も、創業時の問いと今の問いが何かと聞かれたら、それはずっと変わっていないんです。最初から掲げていた「好奇心あふれる世界」。それを目指して、好奇心あふれる世界はどういう状態なのか?それを開業から今日まで、そして明日も、ここQWSで問い続けていこうと思っています。
(前編|共創施設「SHIBUYA QWS」の原動力の裏側-変革のキーパーソン3.5人の越境者研究-SHIBUYA QWSはこちら)
2023/11/2(木)-11/3(金)の2日間に渡り「QWS FES 2023」が開催となります。第4回目となる今回のテーマは“文化祭”。多様な人々が集い、日々「問い」を通じて新たな社会価値を生み出す場として変化しつづけているSHIBUYA QWSで、現在どのような活動があるのかを知ることができる、QWSの魅力がたっぷり詰まったコンテンツが満載です。ご家族も、会社の同僚も、友人もだれでも楽しめるようにと作られた、QWS FES 2023。ぜひみなさまお声がけの上、足を運んでみてください!
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