サブスクは人の忍耐力を奪う!?
本当にヒット曲のイントロが短くなっているのか調べてみた

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最近のヒット曲のイントロが短くなっている──。

そんな説がまことしやかにささやかれ、音楽愛好家の間で一部物議を醸しました。
確かに、米津玄師、あいみょん、YOASOBIなど最近流行のアーティストの曲を思い返すと、そんな気もするような……。

本当に流行歌のイントロは短くなっているのか? その背景にはどのような事情があるのか? 早速、調査を開始していきましょう!

本当にヒット曲のイントロは短くなっているのか?

本当にヒット曲のイントロは短くなっているのか?

その答えにアクセスすべく、とりあえず「Billboard Japan」が公開している「2020年のシングルランキング」トップ10の曲のイントロの長さを計測し、平均時間を算出してみました。

その結果が、以下の画像です。

Billboard Japan「2020年のシングルランキング」トップ10

参考:Billboard JapanHot 100(2020)
※…イントロ時間は筆者が音楽配信サービスSpotifyの楽曲を耳で聴いて歌がはじまった時点でストップする形で計測

2020年の「シングルランキング」トップ10の平均イントロ時間は約13秒。また、トップ5に歌いだしからはじまるイントロ時間0秒の曲が3つランクインしているのが印象的です。

さて、上記のデータを10年前、「Billboard Japan 2010年のシングルランキング」トップ10と比較してみましょう。以下の画像をご覧ください。

Billboard Japan「2010年のシングルランキング」トップ10

参考:Bill board JapanHot 100(2010)
※…イントロ時間は筆者が音楽配信サービスSpotifyの楽曲を耳で聴いて歌がはじまった時点でストップする形で計測
※…N/A表記はSpotifyに2022年10月30日時点で、Spotifyに配信されていなかった楽曲

一見して抱く感想は「嵐の人気はすごいなあ~~」ですが、注目していただきたいのはイントロ時間です。平均18秒と2020年の記録を5秒近く上回っており、確かにこのデータでは10年間で楽曲の平均イントロ時間は短くなっています。

また、イントロ時間が0秒の楽曲は2010年時点ではトップ10に一曲もランクインしていません。

イントロのある楽曲だけを比べると2020年の平均イントロ時間は「19:09」で2010年の18秒を上回っており、イントロのない楽曲が増えたことが、平均を大きく引き下げる要因となっており、実のところイントロのある楽曲の平均イントロ時間自体は変化していないのではないかという考察も成り立ちます。この点については音楽ジャーナリストの柴那典氏も、日本経済新聞の記事にて指摘していました。

ヒット曲の平均イントロ時間が短くなったのは〇〇のせい

楽曲のイントロが短くされる傾向があるのはJpopに限った話ではないようで、オハイオ州立大学の大学院生ユベール・レヴェイエ・ゴヴァン氏は、2017年の論文で、イントロの平均時間が「1980年代:約20秒→2010年代:約5秒」に変化したことを指摘しています。

ゴヴァン氏はその原因として、定額サブスクサービスの普及を挙げているとのこと。「膨大な音楽が、定額でいつでもどこでも聴き放題」という環境に慣れ親しんでいる音楽サブスクユーザーは「平均で 1時間あたり 14.65回(※)」楽曲をスキップするといいます。

先の日本経済新聞の記事でも同様の指摘がなされていますが、スキップが癖づいてしまったユーザーは楽曲のコアと考えられる部分(=歌)が始まるまでの時間を待ちきれず、それに応じて世の中で生み出される楽曲のイントロもカットされていったという流れが考えられます。

また、楽曲の流行の指標がCDの売り上げ枚数やTVをはじめとするメディアでの取り上げ方から、YouTubeでのMV再生数やTikTokといったSNSでのバズに移ったことも「イントロ短縮化」に関係しているでしょう。

自動再生される楽曲の冒頭を耳にしてすぐに「もっと聴きたい!」「シェアしたい!」と思ってもらうには、メッセージ性や物語性の詰まった箇所を最初に持ってくるのが合理的だからです。

ほかにも、「カラオケの普及が関係しているのではないか(歌いだすまでの時間は待ち時間になってしまうから)」という指摘が編集部からあったため、カラオケが発明される以前の1960年の流行歌についても調べてみました。


参考:年間シングルヒット曲 1960年(昭和35年) ベスト30┃PRiVATE LiFE エンタメデータ&ランキング
※…イントロ時間は筆者が音楽配信サービスSpotifyの楽曲を耳で聴いて歌がはじまった時点でストップする形で計測
※…N/A表記はSpotifyに2022年10月30日時点で、Spotifyに配信されていなかった楽曲

平均イントロ時間は約24秒であり、確かに2010年よりも約6秒長くなっています。カラオケの影響もさることながら、そもそも楽曲のつくりが歌謡曲(1960年)とJpop(2010年、2020年)では全然違うことも実際に楽曲を聴いてみて感じました。

現代ではアニメ・ドラマ主題歌やMVなど映像とセットで音楽が楽しまれるシーンも増加しており、そのことも長さを含む曲のつくり方を変化させているはずです。

一口に音楽といっても、その内容は毎年変化し続けているのです。

※……参考:荒川 祐二『音楽配信サービスの動向』┃インターネット白書2020

サブスク時代のコンテンツ消費? 『映画を早送りで見る人たち』

“時間”に関するユーザーの楽しみ方が変化しているのは、音楽に限った話ではありません。2022年に出版された『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ 』(光文社、2022)では、そのタイトルの通り、映画を1.5倍速、10秒飛ばしといった機能を使って早送りする人々の消費傾向やその背景にあるコンテンツ消費文化の変遷について考察されています。

同書でも引用されているクロス・マーケティング社の調査によると、20代男性の54.5%、20代女性の43.6%に動画コンテンツを倍速視聴した経験があるとのこと。

引用元:動画の倍速視聴に関する調査(2021年)┃CROSS Marketing

その背景には音楽サブスクと同じく映像サブスクによって、もはや一生かかっても見切れないほどの量のコンテンツにアクセス可能になったこととともに、現代人の「タイパ(タイムパフォーマンス)」を意識する傾向も影響していると、著者の稲田 豊史氏は指摘しています。

「何かを知っている人、好きな人として認められたい」「忙しい毎日の一瞬たりともつまらないものに費やしたくない!」

こういった思いが、早送りを駆使して多くの作品を視聴することに人々を向かわせるというのです。

「なるべく早く歌声や歌詞の内容を把握し、たくさんの楽曲に触れたい」「楽曲の雰囲気を形づくるイントロをじっくり聴いている暇はない!」

こんな「タイパ」意識が、楽曲のイントロを短くすることへのニーズを生み出しているのかもしれません。

終わりに

今回調べたデータにおいては、ヒット曲のイントロは確かに短くなっていました。ただし、それにはイントロ0秒の曲が増加したということが大いに影響していそうです。個人的にはこの傾向に抵抗感はありません。記事中で触れた通り、音楽はその時代のニーズに合わせて変化していくものであり、過去の膨大な“イントロの長い”楽曲群にアクセスできるのもサブスク時代の恩恵だからです。

イントロの長い曲も、短い曲も、両方楽しんでいきましょう!

【参考資料】
・稲田 豊史 『映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~ (光文社新書) Kindle版』光文社、2022
・音楽ストリーミングがもたらした、全米ヒット曲の「7つの変化」:研究結果┃WIRED
・荒川 祐二『音楽配信サービスの動向』┃インターネット白書2020
・ヒット曲「サビまで待てない」 倍速消費、企業も走る倍速ニッポン(上)┃日本経済新聞
・動画の倍速視聴に関する調査(2021年)┃CROSS Marketing

宮田文机

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