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衆議院議員の平将明氏は、内閣府副大臣として地方創生を担当し「RESAS(地域経済分析システム)」を立案。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対応では、政府のテックチームの事務局長を務め、EBPM(Evidence-based Policy Making、エビデンスに基づく政策立案)の推進に取り組んだ。誰もが経験したことのないパンデミックに対して、どのようにITやデジタルを活用してきたのか。日本のEBPMはどこまで進んだのか。気鋭のデザインエンジニア、Takram代表の田川欣哉氏がインタビューし、その成果や課題などについて意見を交換した。
田川: 平さんは、2020年9月まで内閣府副大臣を務め、防災、行政改革、IT政策、クールジャパン戦略、宇宙政策などを担当されていました。今回の新型コロナウイルスの感染拡大の状況下では陣頭指揮を執り、人流データのいち早い公開を主導しました。
政府が2020年4月に緊急事態宣言を発出してからも、いまだ予断を許さない状況が続いていますが、平さんはこれまで、どのようなアプローチを実行してこられたのか、改めてお聞かせください。
平: 私は2019年9月に内閣府副大臣に就任しました。IT政策のみならず、防災も担当していました。ご記憶の通り、2019年9月には台風15号、10月には台風19号により、広範囲にわたり甚大な被害が発生しました。私はかねてから、このような状況下において、ITの活用が重要だという考えを持っていました。 そこで、この二つの台風では、SNS(交流サイト)やチャットなどを活用し、被災した人たちに情報を届ける取り組みを行いました。例えば、停電が発生したときなどには、被災した人たちは電力会社や地方自治体などに電話をする人が多いと思いますが、人手も限られているため対応しきれません。そこで、日ごろ皆さんが使い慣れているSNSで、自治体が防災アカウントをつくって情報を提供するようにしました。これまでは政府が主導する防災といえば、土木系の対応がメインでしたが、ITを活用した対応がより大きなテーマになってきたといえます。
新型コロナウイルスについては、2020年2月3日に横浜港に入港したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の乗客の感染が判明しました。大型船内での集団感染という国際的にも例のない事態に、対応が求められました。
船内には、高齢者を含め多くの方々が残されている状況でした。そこで、乗客の不安や悩みに応えるため、2月14日には、厚生労働省からの要請に基づき、民間企業・総務省が協力して、専用アプリをインストールした合計約2,000台のスマートフォンを船内の全室(客室およびクルー部屋)に配布しました。アプリでは、「よくある質問」「薬に関する要望受付」「心のケア相談」「医師への相談予約」などを、いずれも日本語と英語の両方で利用できるようにしました。
田川: 関係省庁、民間企業が連携して迅速に対応に当たったのは、緊急時ゆえの注目すべき事例だと思います。
平: コロナ対策に限らず、統計データなど、さまざまなデータの有効活用は必須です。しかし、今回、これを厚労省だけで行うには限界がありました。そこで私は、政府のIT対応能力を強化するためのテックチームの組成を提案しました。西村康稔コロナウイルス感染症対策担当大臣をチーム長として、内閣官房、内閣府、総務省、経済産業省、厚生労働省など、関係省庁からなる「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」を設置、2020年4月にキックオフ会議が行われました。
田川: 政府は2013年、行政のデジタル化の推進を図る内閣情報通信政策監(政府CIO)を設置しています。今回のコロナ禍では、具体的にどのようなことを実施したのでしょうか。
平: プラットフォーム事業者や移動通信事業者などの民間企業にご協力をいただいて、人流データなどのビッグデータを提供してもらい、政府CIOサイトで公開しました。
他にもいくつかのトピックがあります。厚労省がLINEの協力を得て実施した「新型コロナ対策のための全国調査」はその一つです。これまで5回の調査が行われています。第1回の調査は2020年3月31日から4月1日にかけて実施しました。日本全国のLINEユーザー8,300万人を対象に行われ、2453万人の有効回答を得ました。わずか2日間でこれだけ多くの回答を得る調査は、国勢調査に次ぐような規模と言えます。このような調査ができたのは、日本だけだと思います。
調査では「発熱率」などの他に、郵便番号についても尋ねています。これにより、日本の地図上で、発熱者の多いところは赤、少ないところは青といったように、まさにヒートマップ(色の濃淡で視覚化した図)をつくることができました。 こうしたリアルタイムに近いビッグデータで、繁華街周辺で発熱者が多いといったことが判明しました。これらの結果をクラスター(感染者集団)班の専門家にフィードバックし、後の「夜の街」での飲食店の時短要請などの施策につながっています。
田川: 時短要請を行うに当たっても、エビデンスベースで判断していたわけですね。テックチームでは他に、どのようなことを行ったのでしょうか。
平: 厚生労働省は2020年6月、スマートフォン向けアプリ「COCOA(ココア)」の配信を始めましたが、その対応もテックチームで行いました。「COCOA」は「COVID-19 Contact-Confirming Application(新型コロナウイルス接触確認アプリ)」の略で、端末のBluetooth(近距離無線規格)をオンにすると、利用者同士が一定の距離に一定の時間一緒にいたことを自動的に記録します。これにより、コロナ感染者と濃厚接触した可能性があることを知ることができます。
こういったアプリの利用は、中国などの例がよく紹介されるのですが、日本ではアプリを使うかどうかは任意です。さらにプライバシー保護のため、電話番号などの個人を特定できるデータは収集されないようになっています。プライバシーに配慮しながら、どうやって接触確認アプリとして機能させるか、という点は大きな課題です。
IT化と一口で言っても、アプリをつくって配布すれば計画通り機能するわけではありません。裏方のリアルな組織、リアルな生態系がきちんと回らなければ、満足できる結果は得られません。
今回の長期間にわたるアンドロイドOS向けの「COCOA」の不具合は、政権が代わり担当政務(大臣、副大臣、大臣政務官)が代わったことにより、そういった生態系全体で物事を把握する意識が弱くなったことにも原因があると思います。政府は猛省し、体制を立て直して信頼回復に努めなければなりません。デジタル庁発足後は、このようなプロジェクトは厚生労働省ではなくデジタル庁が担うことになるでしょう。初代の担当副大臣として私も国民の皆さまにお詫び申し上げます。
田川: 行政のデジタル化への期待も高まっています。2020年9月には、菅義偉内閣が発足、2021年9月にはデジタル庁が新設される予定です。
平: 現在も取り組みは進めていますが、今回のコロナ禍への対応を通じて、さまざまな経験を積むことができました。各府省がまだまだ縦割りの組織であるなど、課題もあります。ただ、全体の生態系の中で、どこが目詰まりしているのかを把握することもできました。これらを取り払い、皆さんに納得していただけるデジタルガバメント(電子政府)の仕組みづくりを、さらに加速していかければならない。そのような議論につながったと思います。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原 PHOTO:落合直哉 編集:野島光太郎)
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