ビデオ→DXD→VODと移行する時代との合致、ブロックバスター内部のごたごたなど、NETFLIXが勝利を収めた理由は複数あります。しかしその根底にあるのは、同社が当初から取り組んでいたデータドリブンシステムの強固さです。
初期よりABテストを重ねてウェブサイトから精緻な市場調査を実施し、サービスの最大のポイントであるレコメンドアルゴリズム構築やDVDの翌日配送を実現する配送拠点策定を実行していたNETFLIX。データの蓄積とシステムの見直しを繰り返して積み上げた高度なシステムが障壁となり、Amazonやウォルマートといった脅威となる大手の参入を阻んでくれていました。
2006~2011年にはレコメンドシステム「シネマッチ」をより強化すべくオープンイノベーションの取り組みが実地され、賞金100万ドルのアルゴリズム・コンテスト「NETFLIX賞」が実施されます。1億件超のデータセットの提供と参加者の切磋琢磨により2009年7月には条件として示されていたシネマッチの10%の精度向上が達成され、トップチームが終結した「ビッグカオスのベルコア」に賞金100万ドルが授与されました。
そして、冒頭で引用したようにコンテンツ制作に乗り出した現在、彼らはキャスティングやテーマ選定にもビッグデータを活用し始めます。結果として『ストレンジャーシングス 未知の世界』『愛の不時着』といったオリジナル作品の世界的ヒットや、『ROMA/ローマ』での第91回アカデミー監督賞受賞などの大きな成果が生み出されました。
NETFLIXが日本に上陸したのは2015年9月のことです。そのときすでに日本には4年前に上陸したVODサービスHuluが存在しました。いわば、NETFLIXは日本において再び追う立場となったわけです。また、同年同月にAmazonプライムビデオもスタートしました。
そこで先行者に追いつき認知度を高めるべくNETFLIXが注目したのが──テレビのリモコンでした。当時約250万台製造されていたネットテレビのリモコン製作費の10%(およそ10円)を負担する代わりにNETFLIX専用ボタンを設置することを持ちかけたのです。メーカーにとっては損のない取引であり、その提案はすんなり受け入れられました。結果としてNETFLIXはわずか2,500万円程度で、潜在的顧客にこれ以上ないタイミングで宣伝する権利を得ることに成功したのです。
2019年9月にはNETFLIXの国内会員数は約300万人を突破。前年比伸び率は77%と好調に会員数を伸ばし、Hulu以上のユーザー数を抱えるサービスとなりました。
書評を皮切りにデータドリブン企業NETFLIXが成長する理由の一端に触れました。GAFAにNETFLIXを加えた集団をFAANGといい、世界ではGAFA以上にポピュラーなくくりとして用いられています。
これからは、データドリブンでエンタメの世界を切り開いた“GAFAを超える”企業として、ぜひ注目してみてください! より詳しくNetflixについて知りたい方はぜひこの書籍も読んでみてください!
【参考資料】 ・ジーナ・キーティング (著), 牧野洋 (翻訳) 『NETFLIX コンテンツ帝国の野望―GAFAを超える最強IT企業― Kindle版』新潮社、2020 ・米ビデオレンタル大手、ブロックバスターが全店閉鎖へ┃日本経済新聞 ・斉藤 徹「賞金100万ドル。史上最大級のアルゴリズム・コンテスト「Netflix Prize」がついに決着」┃オルタナティブ・ブログ ・独自デバイス(後のRoku)を作るも、ジョブズにビビって直前に販売停止!┃Strainer ・堀 晃和 「アカデミー賞で注目、ネットフリックスの「問題作品」が凄すぎるワケ」┃マネー現代 ・「NETFLIX」上陸は9月2日! 「テラスハウス」「デアデビル」などオリジナル作品ラインアップも公開┃くらテク by ITmedia NEWS ・川上昌直『マネタイズ戦略――顧客価値提案にイノベーションを起こす新しい発想 Kindle版』ダイヤモンド社、2017
(宮田文机)
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