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【WAF2018 NAGOYA】1時間で始めるスマートファクトリー:旭鉄工株式会社 木村哲也社長(後編)

         

2018年10月19日、「WAF2018 名古屋」がヒルトン名古屋にて開催されました。2018年度からWAFと銘打たれたこのイベントはウイングアーク1st株式会社が毎年主催しています。

2018年度は「データによるエネルギー革命、あなたが変わる、世界を変える」をテーマに掲げ、名古屋、大阪、東京の3拠点でデータ活用にまつわる多種多様なセッションが行われました。

本記事では、名古屋会場で行われた旭鉄工株式会社 代表取締役社長 木村哲也氏によるセッション「1時間で始めるスマートファクトリー」の概要の後半をお届けします。(前編はこちら

「俺毎日行くからな」

牽引フックという部品を作るラインの例をご紹介します。

このラインは2015年の2月時点にカイゼン活動を開始したのですが、5月になってもあまりカイゼンが進んでいませんでした。そこでカイゼンを加速させるため、「俺毎日行くからな」と現場に宣言しました。そして実際毎日行きました。

そこで私が何をするか、というと現場の当事者になったつもりで一生懸命考えます。そして、何かしらのアイデアを提案します。意外と現場の人たちは今の状態を当たり前だと感じているため、事情を知らない人の方が良いアイデアを出せたりします。

具体的には、ロボットの動きを簡略化させました。二段階の動きを一段階にしたり、ロボットの待機場所を変更したり、扉の開き方を最小限に変更したりすることで少しずつ時間を短縮させることができました。そうしていくうちに、社長がこれだけ提案してくれるのだから、現場ももっと考えなくてはならない、という気持ちに現場の人もなってきます。

社長表彰の思わぬ副産物

もう一つは、1月の終わりにある社員総会で社長表彰を行いました。

社長の独断と偏見で頑張っている人を表彰するという賞なのですが、この牽引フックラインのリーダーにこの賞をあげました。そうすると思ってもなかった効果がありました。周囲の人たちがこのリーダーに「どうして社長賞がもらえたのか?」と質問しにいくようになったのです。そのリーダーは「こういうシステムを使って、こういうカイゼンを行なって、こういう結果が出たから表彰された」と説明します。そうすると社内で、「なるほど、そういうことをすると褒められるのか」という認識が広がっていきました。その頃から、同じシステムを自分たちのラインにもつけて欲しい、という要望が上がってくるようになりました。最初は狭い範囲でスタートしたのですが、それがどんどん広がっていったわけです。その結果、牽引フックのラインでは初期と比較して220%、という2.2倍の数字が出せるようになりました。それがまたしばらくすると、数値が下がって180%くらいになったのですが、その原因となったのは、今まで6人で見ていたところを4人に減らした、ということでした。これは私が指示したわけではありません。2.2倍まで生産性が上がれば、これ以上数字をあげたところで残業代は減りません。だったら人数を減らしてもよいのでは、ということを現場が判断してくれました。これは非常に強力な人材育成の機会となりました。

そんなようなことで成果がかなり出まして、弊社の工場のバルブラインでも初期のころに1時間当たりの生産量が784個から909個、と15%アップしました。それによってライン増設が不要になり、5400万円もの投資が不要になり、300平米の床スペースも節約できました。

もう一つ、西尾工場の牽引フックのロボットのラインの生産量が1時間当たり107個だったのものが180個まで増えました。およそ7割のアップです。

この時も2ラインの増設が必要だと考えていたのですが、これが不要になったことで1.4億円の削減ができました。それだけでなく、カイゼン前は、このラインの従業員は土曜日に休日出勤をしていましたのがなくなり、平日も定時で上がれるようになりました。

同じようなカイゼンを80ラインで行いました。80ラインの出来高向上率を平均すると1.34倍になっています。ですので、さっき説明した2ラインがまぐれ、というわけでは決してないことがこれを見ればわかってもらえるかと思います。

これによって、設備投資に関しては累計で3.3億円削減できました。最近は従業員もラインの増設要請をしなくなったので、それを含めるとおよそ4億円は削減できたかと思います。労務費もかなり削減することができていて、年間1億円以上、という成果が出ています。

なぜうまくいったのか?

なぜそんなにうまくいったのか、と良く聞かれるのですが、理由は3つあります。

1つは、IoTのシステムに求めるニーズが明確だったことです。

2つ目はあれもこれもデータを取る、ということはせず必要最低限のデータだけにとどめたことです。ここを欲張るとシステム自体にもお金がかかりますし、ただでさえ集めたデータを活用するのは大変ですから、データに埋もれてしまうだけです。

3つ目はなんと言っても、運用に力を入れたことです。やはりここまでセットで考えてIoTのシステムを入れていかないと入れて終わりになってしまいます。実践してみて感じるのは、経営者も割り切りが必要である、ということ、完璧を求めずに早く実行すること、けが以外の失敗は良しとすること、むしろ挑戦することでわかるようになることはたくさんあるので、けが以外の失敗は買ってでもしろ、と私は歓迎しています。

また、決断を先伸ばしにせずにすぐ決めることもうまく運用していく上で大切だと考えています。ミーティング中に、こんなアイテムがあればより便利になるのではないか、という提案があれば、すぐにその場でアマゾンから発注します。またコミュニケーションのスピード感も大切だと考えているので、主な連絡はLINEやSlackを活用しています。社長が社員にスタンプを送りつけても良いものか、と思うかも知れませんが、スタンプはスピード感があり、メッセージも伝わるので重宝しています。

データ収集の、その先へ

我々としては、データを集める、ということは当たり前になりつつあるので、その先のことを考えています。

センサーを取り付け、1ヶ月無料でデータを提供するというサービスをやってみたところ、データの見方がわからない、というお客さんが多数いることが判明しました。シンプルなデータを出しているつもりでもやはりそうなってしまうケースがあります。そこで我々の強みはデータの使い方を知っている、という点にあることに気づきました。そこで、モニタリングしたデータを我々で解析して、こういう問題点があります、こうしたら直るのではないですか、という内容のライン診断レポートを作成するサービスも行なっています。

システム、現場、カイゼン力の3つの要素が揃わない限り、我々のようなサービスは提供できません。この3つが揃っている会社は他におそらくありません。iSTCはONLY ONEの会社だと思っています。

iSTCは180社以上での実績があり、その80%が従業員300人以下の中小企業、というのもiSTCの特徴です。

ライン診断レポートでよくあるパターン

よくあるのが、「ちゃんと測ったことはないけど、80-90%くらいの可動率だと思う」とお客さんが言うのですが、実際に測ってみると53%しか動いてません、この数字を上げていけばおそらく残業ゼロにできます、というパターンです。中には、こんな悪い数字は社長に見せられないので契約を止めます、というお客さんもいました。我々からすると非常に心外ですが、実話です。

また、サイクルタイムもお客さんの申告を最初に聞いて設定しておきます。実際に測ってみると平気で40%や80%ずれている、ということがあります。つまり、自社のラインのサイクルタイムが把握できていない場合も非常に多いです。ちなみに弊社のシステムを使うと改善ポテンシャルもわかります。可動率が50%前後のラインをどこらへんまで向上させることができるのか、というのはお客さんだけでは判断できないかも知れませんが、我々は多くのデータを持っているので、改善ポテンシャルをある程度予測することができます。

最後に

最後に私が言いたいのは、中小企業こそIoTを活用すべきだと言うことです。

なぜなら、うちもそうですが、中小企業は人材確保が大きな課題です。また、限られた資金の中で高額な投資をどんどんやるわけにもいきません。一方で、IoTを活用することで生産性を向上させることができる可能性はかなり大きいです。また、大企業と比較して、大胆な改革が可能です。私も実感しているところですけど、大切なのはごちゃごちゃ言わずにやってみることです。最近では、現場にアマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」を導入したりもしていますが、なんでも他がまだやっていないことを先にやりたい、という気持ちで取り組んでいます。スマートスピーカーを使うと、操作のために手袋を外す、といった作業から解放されるので、製造現場との相性は思った以上に良い、ということが実感できました。また実際に導入して見ると、AWSのイベントで紹介されたり、NHKに取り上げられたり、とかなりの反響がありました。

我々の取り組みが経産大臣に認められ、第7回ものづくり日本大賞の特別賞をいただくことができました。また、タイの工業省とも提携することが決まっており、すでにタイの8社で実証実験を始めています。データを収集してみると、タイの現場は、残業時の出来高が低い、人によるばらつきが多い、特定の時間帯の停止が多い、などの特徴がわかってきました。

それ以外にも、ウイングアーク社のMotionBoardを活用することで、データをさらにグラフィカルに表示させ、データの深掘りを可能にすることで、データをさらなるカイゼン活動に結びつけようと取り組んでいます。

これらの全ての取り組みはうちの会社でもできましたので、多くの会社で同じことが実現可能だと思います。日本企業には気になる点がいくつかあります。「スピード感がない」「レスポンスが遅い」「いつまでも調査を続けたがる」「新しいアイデアに対してダメな理由ばかりを探す」などあげるとキリがないですが、私は中小企業に生産性革命をもたらしたい、と常々考えています。ぜひ、生産性向上による働き方改革を実現させていきましょう。

ということで、私のプレゼンテーションを終了とさせていただきます。

(データのじかん編集部)

 
旭鉄工株式会社 代表取締役社長 木村 哲也 氏

東京大学大学院工学系修士修了。トヨタ自動車21年勤務。主に車両運動性能の先行開発・製品開発に従事。また、生産調査室でトヨタ生産方式を学び内製工場および社外の指導も経験。

2013年に旭鉄工に転籍後、組織や仕事の進め方など含め経営全般を大きく改革。特に生産性についてはトヨタ生産調査室での経験を生かし改善を推進。その中で製造ライン遠隔モニタリングシステムを構築・運用、生産性向上と人材育成の面で大きな効果を上げる。 このシステムを他の中小企業にも展開するため新会社「i Smart Technologies(株)」を設立。

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