カテゴリー
キーワード

海中で分解される植物由来のレジ袋。しかし、環境保護の観点からは賛否両論?

         

2020年の今年で、ミレニアム(新千年紀)を迎えてからもう20年が経ちます。しかし前千年紀から持ち越された負の遺産には、解決の糸口が見えないものがたくさんあります。

そのひとつがプラスチックごみの問題。1950年代にアメリカで商用化されたプラスチックは、丈夫さと生産コストの安さからまたたく間に世界中に広まりました。しかしこの素材の最大の難点は、自然界で完全に分解される(水素と炭素に還る)までに途方もない時間がかかること。そのため海に流出すれば海洋生態系に深刻な影響を与え、埋め立てれば土壌汚染の原因になる厄介ものです。

この問題に対処するため、近年、特定の条件下で分解される生分解性プラスチックの開発が進んでいます。ここではその特徴と種類について解説しながら、巷で議論されている生分解性プラスチックのメリットとデメリットも挙げてみたいと思います。

生分解性プラスチックとは?

生分解性プラスチックの定義は紆余曲折を経て、1993年にアナポリスサミットで発表された「微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるもの」に落ち着いています。

生分解性プラスチックの原料には生物資源が由来のバイオマスプラスチックと、石油由来のものがあります。生分解性であれば、原料は問われません。バイオマス原料には以下のようなものがあります。

ポリ乳酸(PLA)−トウモロコシやサトウキビといった植物由来の糖分が成分
ポリヒドロキアルカノエート(PHA)− 特定の微生物にストレスを与えると細胞内に形成されるバイオポリマーを成分とする

こうしたバイオマス原料のプラスチックの多くは堆肥(コンポスト)化が可能ですが、微生物が分解活動を行うには高温環境を用意できる専用処理場が必要と言われています。

酸化型生分解性プラスチックという従来の石油由来のプラスチック(たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET)に、酸化を促進する添加剤(プロデグラダント)を加えたプラスチックもありますが、自然的副産物に分解されずマイクロプラスチックとなるだけとして、2018年EU議会で可決された法案で廃止の対象となりました。

生分解性プラスチックは本当に分解可能?

さて、生分解性プラスチックにもいろいろと種類があることが分かったところで、それぞれの素材の実力はどれほどでしょうか?

それを分かりやすく教えてくれる、イギリス・プリマス大学で行われた実験があります。まずは市場に最もよく出回っている生分解性プラスチック、堆肥化可能プラスチック、酸化型生分解性プラスチック、従来のプラスチックで作られた4種類のレジ袋を用意。それらを3年間に渡って「地中に埋める」「海中に入れる」「大気中に吊るす」という条件下に置きました。結果は以下の通り。


堆肥化可能プラスチック – 地中では2年後にも原型を留めていたが、ものを入れると崩壊した。海中では3ヶ月以内に完全に消滅した

生分解性プラスチック、酸化型生分解性プラスチック、従来のプラスチック – 地中と海中のものは3年後も使用可能だった


大気中に吊るした場合は、9ヶ月後にはすべての袋が完全に崩壊しましたが、実際はマイクロプラスチックに形を変えただけでした。マイクロプラスチックは海洋汚染の原因として大きな問題になっているため、これでは本末転倒です。

意外なのは、分解に専用施設が必要とされる堆肥化可能プラスチックの成績がダントツによく、生分解性プラスチックが惨敗である点。そもそも堆肥化可能プラスチックの海洋生分解性は公式に確認されていません。

この実験が始まったのは2016年ですから、その時点での生分解性プラスチックのクオリティが低かった可能性はあります。しかしこの実験結果からは、「生分解性ならどれでもエコ」と信じ込むのは危険だということが分かります。

 
プラスチック革命を起こすか? 新登場の生分解性プラスチック

1 2

×

メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。


データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

関連記事Related article

書評記事Book-review

データのじかん公式InstagramInstagram

データのじかん公式Instagram

30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!

おすすめ記事Recommended articles

掲載特集

デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 デジタル・DX・データにまつわる4コマ劇場『タイムくん』 データのじかんをもっと詳しくデータのじかんフィーチャーズ データのじかんをもっと詳しく データのじかんフィーチャーズ 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 「47都道府県47色のDXの在り方」を訪ねる『Local DX Lab』 DXの1次情報をを世界から『World DX Journal』 DXの1次情報をを世界から 『World DX Journal』 データで越境するあなたへおすすめの『ブックレビュー』 データで越境するあなたへおすすめの 『ブックレビュー』 BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ BIツールユーザーによる、BIツールユーザーのための、BIツールのトリセツ CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 CIOの履歴書 by 一般社団法人CIOシェアリング協議会 なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える なぜ、日本企業のIT化が進まないのか――日本のSI構造から考える 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 日本ビジネスの血流である帳票のトレンドを徹底解説 データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ データを武器にした課題解決家「柏木吉基」のあなたの組織がデータを活かせていないワケ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ BI(ビジネスインテリジェンス)のトリセツ 入社1年目に知っておきたい差が付くKPIマネジメント 入社1年目に知っておきたい 差が付くKPIマネジメント CIOLounge矢島氏が紐解くトップランナーたちのDXの“ホンネ” CIOLounge矢島氏が紐解く トップランナーたちのDXの“ホンネ” データのじかん Resources越境者のためのお役立ち資料集 データのじかん Resources 越境者のためのお役立ち資料集 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 AI実装の現在地点-トップITベンダーの捉え方 データでビジネス、ライフを変える、面白くするDATA LOVERS データでビジネス、ライフを変える、 面白くするDATA LOVERS データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データマネジメント・ラジオ by データ横丁 データのじかんNews データのじかんNews データ・情報は生もの!『DX Namamono information』 データ・情報は生もの! 『DX Namamono information』 ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース ちょびっとラビット耳よりラピッドニュース AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) AI事務員宮西さん(データ組織立ち上げ編) 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 藤谷先生と一緒に学ぶ、DXリーダーのための危機管理入門 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! 生情報取材班AI時代に逆行?ヒトが体感した「生情報」のみをお届け! データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データはともだち 〜怖くないよ!by UpdataTV Original データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 データ飯店〜データに携わるモノたちの2.5thプレイス by UpdataTV〜 インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH インサイトーク〜データで世界を覗いてみたら〜by WingArc1st + IDEATECH
close close