神戸市がタワマン規制を決めた“ローカルな理由”。交通至便ゆえの「大阪の衛星都市化」の可能性は? | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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神戸市がタワマン規制を決めた“ローカルな理由”。交通至便ゆえの「大阪の衛星都市化」の可能性は?

神戸市は2020年7月、神戸市中心部での新たなタワマン建設を規制することを決めた。いわゆる「タワマン規制」 であるが、3大都市圏のみならず全国的に広がっているこの規制に関しては、様々な背景が指摘されている。例えば、2019年10月の台風19号によるタワマンの脆弱性は記憶に新しい。また、人口減少社会において、将来的にタワマンの維持管理に疑問が投げかけられている。

 

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一方、規制する理由としては神戸市特有のミクロな問題も考えられる。それは大阪市に近く、交通の便が良すぎることだ。ここでは、大阪市からの距離、交通の便の良さを念頭に神戸市が行ったタワマン規制の背景をデータをもとに探っていきたい。

         

タワマン規制の概要

神戸市は2020年7月1日に新たな改正条例を施行した。具体的には神戸市中心部にあたるJR三ノ宮駅周辺約22ヘクタールを「都心機能高度集積地区」に指定したのだ。同改正によってJR三ノ宮駅、阪急神戸三宮駅、阪神神戸三宮駅の各駅の周辺、とその南側地域が「都心機能高度集積地区」に入った。「都心機能高度集積地区」では原則として住宅等の建築が禁じられた。

また、新神戸駅からフラワーロード周辺、JR元町駅周辺、JR神戸駅周辺、兵庫県庁周辺、JR神戸線からメリケンパークまでのエリアは「都市機能活性化地区」に指定された。このエリアでは敷地面積1000㎡以上の容積率の上限を400%とした。一応、容積率600%の建物は建てられるが、住宅等の容積率は400%までとなっている。

なお、タワマンの定義は一般的に20階以上、高さ60mを超えるマンションとしている。参考までに阪急阪神不動産が手掛けるタワマン「ジオタワー大阪十三」の容積率は749%だ。いずれにせよ、神戸市の中心部では事実上、新たにタワマンを建設することが不可能になる。

タワマン規制を行う背景として、神戸市は中心部における商業・業務などの都市機能の立地阻害を挙げている。つまり、本来は商業地にすべき土地に住宅地(タワマン)が建つと、都市成長にとって不都合というわけだ。また、タワマン建設により、一気に人口が急増すると、小学校などの子育て施設が間に合わない状況も予想される。

つまり、神戸市としてはタワマンを規制することで市内中心部は「消費するところ」「働くところ」、そして「住むところ」は郊外とハッキリと分けたいのである。現在、JR三ノ宮駅南側で再開発が進んでおり、商業施設やバスターミナルが建つ予定になっている。確かに、主要な駅前と比較するとタワマンが少ない分、空が広く感じられるのは神戸市中心部の景観にとってもプラスなのだろう。

タワマン住民の意見

神戸市中心部にはタワマン規制以前に建てられたタワマンがある。神戸市では2015年に中央区に住むタワマン住民にアンケートを実施している。どのような目的で神戸市のタワマンに住むことを決断したのだろうか。ちなみに、2015年7月時点で中央区内にあるタワマンは19棟になる。

まず注目したいのは、中央区のタワマン住民の「世帯主の年齢」だ。60代以上は約40%、20代~50代は計約55%だ。そして、タワマンを選んだ理由としては交通の利便性が約22%、眺望約17%、セキュリティ約16%と続く。やはり、交通の利便性を目的に中心部のタワマンを選ぶ住民は多いということだ。

次にタワマン住民が「以前住んでいた地域」を見てみよう。全体では中央区内は約24%、神戸市内は約37%、兵庫県内は約15%、兵庫県外は約20%だ。興味深いのは年齢別のデータだ。20代は兵庫県内約27%、兵庫県外約27%となり、神戸市外は約55%だ。一方、30代は中央区内は約30%、神戸市内は約37%となり、神戸市内は約67%にもなる。また、50代を除く各世代において、兵庫県外からの割合は20%を超えた。

いろいろな見方はあると思うが、全体を見ると神戸市を除くと兵庫県内よりも兵庫県外からの割合が多いデータを見ると、兵庫県外からの引っ越しは多いように映る。

中央区は大阪の衛星都市になるか?

先述したように、タワマンを選ぶ最大の理由は交通至便であることだ。中央区の中心駅はJR三ノ宮駅、阪急神戸三宮駅、阪神神戸三宮駅だ。ただし、ここで気になることがある。それは、大阪市内との近さだ。JR、阪急、阪神ともに30分前後で大阪キタの中心地、梅田に着く。タワマン建設により、居住地は神戸市、従業地・消費地は大阪市、つまり神戸市中央区が大阪市の衛星都市になる可能性があるのだ。

それでは、神戸市から大阪への流れは、どれほどだろうか。2020年実施の国勢調査を取り上げる。

まずは「昼夜間人口比率」だ。これは昼の人口を夜間の人口で割った数値である。政令指定都市で見ていくと、最も高いのは大阪市の132%だ。つまり、他地域から大阪市へ通勤・通学する人数が多いということだ。神戸市は8位の102%だ。ちなみに、最下位は川崎市の83%で、川崎市から東京都へ通勤・通学する人数が多い、つまり川崎市は東京都の衛星都市といえる。一方、神戸市は他地域から中心部へ通勤・通学する人数が一定程度存在することがうかがえる。

次に区別に神戸市民の従業地域を見ていく。神戸市全体だと、神戸市内に従業する割合は75%、大阪府は9%だった。1995年と比較すると、神戸市内に従業する割合は約2%減だ。最も大阪府に近い東灘区は大阪府が20%だ。続いて灘区14%となる。中央区は11%だ。一方、中央区は自区で従業する割合が最も高く約60%にもなる。

中央区よりも西になると、大阪府に従事する割合が減る。順に兵庫区が7%、長田区が5%、須磨区が7%、垂水区が6%となる。長田区が低い理由は区内にあるJR駅に快速が停車しないことに起因するように思える。須磨区にある須磨駅、垂水区にある垂水駅は快速停車駅である。ただし、朝ラッシュ時の大半の上り快速は両駅を通過する。夕ラッシュ時の快速は須磨駅、垂水駅に停車。大阪駅から乗り換えなしだ。とはいえ、兵庫区、長田区、須磨区、垂水区のデータを見る限り、大阪への通勤のしやすさが影響を与えているように感じる。

一方、JR・阪急・阪神が走る東灘区、灘区、中央区のうち、灘区は最上位種別(新快速、特急)は止まらない。灘区で最も利用者数が多い駅はJR六甲道駅だ。同駅には快速が停車する。平日朝ラッシュ時だと六甲道→大阪間の所要時間は23分(快速)、三ノ宮→大阪間は23分(新快速)だ。また、大阪府への通勤者が多い東灘区にある阪急岡本→大阪梅田は25分(特急)、阪神御影→大阪梅田は26分(直通特急)である。

平日朝ラッシュ時の速達性だけを見ると、中央区から大阪府への通勤者が増える可能性は十分にある。現在のところ、国勢調査などの各種データを見る限り、神戸市が大阪の衛星都市とは言えない状況だ。しかし、衛星都市になる可能性は十分にある。衛星都市化を防ぐためにタワマン建設を規制するという考えは理屈に合っているのだ。

そもそも、神戸市中心部がもっと活気があり、もっと職場があれば衛星都市化の不安も払しょくできるはずだ。現在、JR三ノ宮駅南側ではJR西日本、神戸市などにより再開発を行っている。この再開発の如何によって、大阪の衛星都市になるかどうか決まるだろう。そこにタワマンの存在は関係ない。

著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。

(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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