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ファッションはデジタルでもっと「エモく」なる。WWDJAPANが仕掛ける「WWD DXアワード」とは?

2023年11月20日、ファッション・ビューティ業界に関するテックサービスを表彰する「WWDJAPAN DX アワード」の受賞者が発表された。主催者は1910年に米国で創刊し、1979年以降、日本版としても発行され続けているファッション・ビューティ業界専門誌「WWDJAPAN」だ。ファッション・ビューティ業界においてもDXやテックは「正直苦手」というイメージが先行しがちだが、同社はなぜ、DXアワードを仕掛けたのだろうか。

そこで今回は、自身もアパレル業界勤務の経験があるデータのじかん編集部 エディター坂倉歩が、WWDJAPANの編集記者でDX関連の記事も多数執筆している横山泰明氏に、デジタルとファッション・ビューティ業界を取り巻く現状を聞いた。

         

WWDJAPANとは

1910年に米フェアチャイルドが創刊した「WWD(Women’s Wear Daily)」の日本版ファッション・ビューティ業界専門紙。株式会社INFASパブリケーションズが出版・販売を手掛けており、ファッション・ビューティ業界のビジネス、トレンドニュースをはじめ、業界人インタビューなどの最新情報を発信している。週刊紙「WWDJAPAN Weekly」のウェブ版「WWDJAPAN Digital」では、国内外のファッション&ビューティ業界のニュースのほか、コレクションのルック、パーティーやストリートのスナップ、アートやメディア、ライフスタイル情報など、ファッションやビューティに強い興味を抱く消費者にも響く、感度の高い情報を提供している。

ファッション・ビューティ業界は「効率だけを求めるテクノロジー」とは相性が悪い?

株式会社INFASパブリケーション WWDJAPAN編集部 記者 横山 泰明 氏

坂倉:横山さんのご経歴を教えてください。

横山泰明氏(以下、敬称略):前職は日本繊維新聞という業界紙で記者をしていました。素材メーカーや繊維業者を中心に取材していましたね。2010年にWWDJAPANに入社し、前職と同じ分野やDX、デジタル活用などの取り組みなどを追いかけていました。
※横山氏の担当記事はこちら

坂倉:ファッション・ビューティ業界といえば「余剰在庫問題」や「消費者行動の変化への対応」など気になる課題は多くありますよね。それらに対するアプローチ方法は様々ですが、コロナ禍以降、特にEC販売の需要が拡大しているという印象です。

横山:そうですね。約3年前――コロナ禍以降、かなり注目されていると思いますし、発信すべき内容や切り口も変わってきていると感じています。例えば、WWDJAPANでも10年前からEC特集を組んでいて、EC事業やEC支援企業に取材していました。一方、最近はデジタルを活用した「経営改革」や「新規事業」といったより幅広く、上流までカバーした内容に変化しています。当初はEC特集と銘打っていたのですが、オムニコマース特集に名称が変わっているのが分かりやすい例かもしれませんね。

用語解説:オムニコマース

オムニチャンネル・コマースの略称で、実店舗やECなど複数のチャネルで顧客接点を設け、一般消費者が自由に購入経路を選べる販売方法。複数のチャネルすべてを連携することで、オンラインで商品を予約購入し、後日、実店舗で受け取れるなど消費者の利便性が向上するのが特長。さらに消費者が登録したデータや閲覧・購入履歴を収集したデータはDMなどのマーケティング施策にも活用できる。

坂倉:なるほど。ツールなどの手段から、よりマーケティング領域というか、広範囲におけるDXの情報を発信しているのですね。以前からWWDJAPANを拝見していましたが、横山さんが企画される「職種別DXのトリセツ」や談話室のテーマになっている「販売員DX」も販売員経験がある身としてはとても興味深いです。

横山:そうですね。今年1月23日号でもWWDJAPAN『DXのスタートは「自分ごと化」から!職種別DXのトリセツ』特集を担当しました。ただ、個人的にはファッション・ビューティ業界はマーケティング――特に需要予測のような「予測するテクノロジー」とは食い合わせが悪いと考えています。

坂倉:過去の売上推移、関連商品の売上などから未来の売上を予測する「需要予測」は、ファッション業界の特に小売店にとってはかなり重要視されていますよね。

横山:そのとおりです。やっぱりファッション業界における在庫問題は誰の目にもとまりやすいですからね。最近、注目されている「AI需要予測」など新しいツールも登場しています。ただ、需要予測を活用して大成功している企業は私の知る限りではかなり少ないのが現状です。これはファッションやビューティ業界には「変数」が多すぎるのが一因であり、また需要を「自ら生み出す」必要性が高いのが、ミスマッチが生じている大きな原因ではないかとWWDJAPANでは考えています。だからこそ、WWDJAPAN DX アワードの審査の指針として「幸福度」を設けているのです。

WWDJAPAN DX AWARDS概要

WWDJAPANが主催するファッション&ビューティ業界のテックアワード。DXのエキスパートやLVMHやオルビス、オンワードホールディングス、ビームスといった国内外の有力企業のキーパーソンを審査員に招いている。2023年11月20日に受賞者を発表。12月18日には授賞式が開催される。
関連記事:https://www.wwdjapan.com/s/1624496

受賞者情報

●GRAND PRIX|グランプリ
「XZ(クローゼット)」「XZ-biz(クローゼットビズ)」
スタンディング・オベーション

●VALUE CHAIN PRIX|バリューチェーン賞
レクトラ・ファッションPLM「Kubix Link」
レクトラ・ジャパン

●SUSTAINABILITY PRIX|サスティナビリティ賞
AI&AR SaaS サービス「パーフェクト」
パーフェクト

●CX PRIX|CX賞
「スタッフスタート」
バニッシュ・スタンダード

●INNOVATION PRIX|イノベーション賞
グローバルEC支援サービス「リングブル/グローバルガイド」
リングブル

※引用:WWDJAPAN DX アワード公式サイト「結果発表

測れないモノを測る。テックで消費者・社会の「幸福度」を促進できるか

坂倉:WWDJAPAN DX アワードのテーマは「デジタルでエモい&ワクワクする革新を!」ですよね。4つの審査の方針は「産業への貢献」、「サステナビリティ&ESG」、「アップデート」、そして「幸福度」ですね。

※引用:WWDJAPAN DX アワード公式サイト「応募要項

審査員はオルビスの小林社長、ISENSEの岡田社長、LVMHジャパンの遠藤デジタルディレクターや、オンワードデジタルラボの山下社長、ビームスの矢嶋執行役員など、ファッション&ビューティ業界の有力企業のキーパーソンかつDXのエキスパートが務める。

横山:DXをテーマにしたコンテストはたくさんありますが、幸福度といった抽象的なポイントを審査方針に掲げているのはファッション・ビューティ業界の「WWDJAPAN DX アワード」ならではだと思います。先ほども少し触れましたが、ファッション・ビューティ業界は実際に服などを着て、触って、感じる「身体ありきの産業」でデザインにしても販促にしても需要はやっぱり創るモノだと思うんです。実際、ECのシェアも伸びていますが5〜7割くらいがオフラインだったりするのも、数字では測れないし予測できない要素がすごく大きい証拠かなと。もちろん、需要を予測するテクノロジーを否定するわけではありません。むしろ、それぞれのミスマッチな構造を知ったうえでDXを推進できれば、お互いがより健全なカタチで発展できるのではないかと考えています。それこそが「WWDJAPAN DX アワード」を開催した狙いであり主旨の一つです。

坂倉:なるほどですね。ファッションブランドの現場で働いていた私としても需要は創るモノというご意見にはすごく共感します。WWDJAPAN DXアワードの「新しさ」に改めて興味が高まりました。サステナビリティやESGが指針に含まれていることにもすごく共感します。ただ、「エモい」とか「幸福度」といった方針で審査するのは結構難しかったのではないでしょうか。

横山:そうですね(笑)。審査員の方からも「どうやって評価するんですか?」といった質問がありました。ただ、始まってみたら「お客様にとっての幸福」つまりCX(顧客体験)という観点に自然と落ち着いた印象です。ファッション・ビューティと幸福度はあまり関連性がないと考えがちですが、震災の時に口紅や洋服を手にすることで幸せや安らぎを感じるというのを聞いたことがあります。お客さま一人ひとりのCXを向上し、幸福度を積み上げることでいずれは社会全体を幸せにしていく――。そのような展望が私自身、アワードの運営に携わって気付きました。

坂倉:確かに、私も前職のブランド理念が「happiness」で、幸せの循環を回すという考え方をしていたのですごく腑に落ちました。

横山:DXというととにかく効率化が重視されますからね。もちろん、欠かせない要素ではありますが、ファッション・ビューティ業界においては「どうやって幸せになってもらうか」「いいものを届けられるか」という目線は必要です。その結果、言葉ありきのDXを避けられるのではないかと思いますね。また、これは個人的な考えですが産業全体が健全に発展するには、いわゆる破壊的なイノベーションではなく、既存の産業・企業・人をアップデートする方が効率的だと思います。そのような意味で4つの方針はそれぞれつながっていると考えてもらえると嬉しいですね。

日本のファッション・ビューティ業界を取り巻く現状とWWDJAPAN DX アワードの役割とは

坂倉:最後に日本のファッション・ビューティ業界を取り巻く現状について教えてください。

横山:元々業界人だった坂倉さんはご存じかもしれませんが、日本のファッション・ビューティ業界は「輸入が多くて輸出が少ない」状態がすっかりと定着しています。そのようななか、少子高齢化などによる市場規模の縮小は非常に大きな問題といえるでしょう。ユニクロや無印良品といった大手の日本発ブランドはともかく、世界的に評価されているドメスティックブランドでもビジネス的な規模は決して大きくありません。DXやテックを活用してこのような国内企業への海外展開を支援することが、非常に重要になるかと考えています。ツールはもちろん仕組みづくりから、ツールベンダーとブランドががっつりと手を組む必要があるでしょう。

坂倉:横山さんが注目している技術やテックを活用した仕組みはありますか?

横山:メタバースやNFTは注目して追いかけていますね。海外ではインターネット上のアバターの着せ替えなどが普及しつつあります。どちらの技術もまだまだ課題は多いですが、先ほども言ったようにファッション・ビューティは「身体ありき」です。その新たな身体としてアバターなどが使えるようになって世界中の人とコミュニケーションしつつ、センスを評価してもらえる「デジタルネイティブ」な世の中がくると可能性は広がると思いませんか?

横山:テックを活用した仕組みといえば、やはり新進気鋭のアパレルブランド「SHEIN(シーイン)」でしょう。SHEINは需要予測ではなく、超高速でABテストを繰り返して需要を掘り当てて充てるという方法で信じられないスピードで世界的な企業に成長しました。このようなテクノロジーありきではない仕組みが作れたらと思います。ファッション・ビューティ業界は想像・創造する産業です。だからこそ、DXにおいても業務効率化や時短、在庫数削減といった目の前の課題だけでなく、創造に必要なリサーチや時間をメイクするための取り組みなどを意識する必要があると思いますね。そのためには長くファッション・ビューティ業界に身を置いている私を含め、30〜50代の人たちが考え方を「リセット」ではなく「アップデート」することが大切だと感じています。今回のWWDJAPAN DX アワードはベンダーのみが対象でしたが、その他の領域の企業からも多くのお問い合わせをいただいていることに可能性を感じています。

坂倉:本日は色々なお話をいただきありがとうございました。最後に先ほどお話いただいたファッション・ビューティ業界を取り巻く環境のなかで、貴媒体の役割とWWDJAPAN DXアワードを開催する意味について伺えますでしょうか。

横山:少し前までは日本の物価が高くて海外は安いのが当たり前でしたが、シンガポールやタイでコーラを買うと300円くらいかかってしまうくらい、経済は大きく変化しています。これまでの時代とこれからの時代をDXで「越境」して、その橋渡しをメディアである私たちがしていくきだと考えています。「エモさ」とか「幸せ」などをキチンとビルトインしたメッセージを発信し、産業全体に動いてもらうための場としてWWDJAPAN DXアワードを開催しました。第二回、第三回と規模を大きくすることで、より産業に貢献できると期待しています。

 
横山 泰明 氏
株式会社INFASパブリケーション WWDJAPAN編集部 記者
1978年生まれ、東京外国語大学ヒンディー語専攻出身。繊維・ファッション業界紙「日本繊維新聞」の記者を経て、2010年から「WWDジャパン」で記者。合繊メーカー、素材、商社、EC、ファッションビル、ショッピングセンターを担当する。
 
聞き手:坂倉 歩
データのじかん編集部 エディター。ファッション業界にて売場、販売促進部で勤務した後、2019年にウイングアーク1stへ入社。デジタルマーケティング部門を経て、2023年よりインサイド営業部と兼任で現職。
執筆:藤冨 啓之
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、株式会社もっとグッドを設立。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
 
 

WWDJAPAN DX AWARDS 2023 授賞式&記念セッション

2023/12/18(月)に東京・六本木の六本木グランドタワーで、授賞式と受賞者記念セッション、パーティーが開催されます。
受賞企業と審査員による記念セッション、内藤裕紀ドリコム社長をはじめとするAIやウェブスリーの起業家や気鋭のクリエイターによる基調講演、そして異業種交流のアフターパーティーが行われます。ファッション&業界に関心のあるみなさま、ぜひご参加ください!

イベントページはこちら
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