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2019年11月22日、プリンス パークタワー東京にてウイングアーク1st主催のカンファレンスWAF 2019|WingArc Forum 2019(以下、「WAF 2019」)が開催されました。今回のテーマは「UPDATA!」。データで組織やヒトをアップデートする示唆に富んだセッションや展示が行われました。
ランチセッションでは、13年間にわたり法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」を展開、約6000件の導入実績を誇るSansanが、「データ統合とMA・AIが実現するマーケティングプロセスの進化」について講演。膨大な顧客情報を活用したマーケティング体制の強化に向け、組織横断によるデータ統合・活用の取り組みを紹介しました。
社内のあちこちに分散するデータを統合・連携させ、分析結果から優れた顧客インサイトを引き出すにはどうすればいいのか、示唆に富んだ内容となりました。
冒頭、久永氏は、デジタルマーケティングの新たな組織づくりが求められる背景として、「デジタルトランスフォーメーション(DX)による顧客対応業務の変化」を挙げました。現在はDXというビジネスの根幹に関わる変化が起こりつつあり、加えてネットワークの発達で、いつでもどこからでも顧客と企業がつながる時代になっています。かつてのマス広告や対面営業のような「点」ではなく、顧客とのあらゆる局面を網羅した「面」としての顧客対応が求められています。
この結果、単なる「物を売る」から「よりトータルで付加価値の高い体験をベースにしたビジネスモデル」への移行が求められており、顧客に対応する業務そのものが複雑化してきていると久永氏は次のように指摘します。
「付加価値の高いサービス型のビジネスモデルでは、従来のような多数の顧客に対する画一的なアプローチではなく、より高度なソリューション提案力が必要です。それにはセールスやマーケティング開発など、社内のさまざまなセクションの連携が不可欠になってきます」
顧客側の購買プロセス自体も変化しています。顧客自身がネットで情報の収集や比較を行い、企業にコンタクトしてくる時点では、すでに購買の意思決定がなされており、企業の関与が難しい状況も生まれています。
「つまり、お客様が連絡してくる前の段階から、どんなプロセスを経てきたのか、ここに至るまでの経緯を幅広く把握しなくてはなりません。それにはマーケティングからサポートまで複数の部署がお互いの情報を共有・活用して、時間軸ごとに新しい付加価値を提供していく必要があります。その実現に向けて、組織の構成自体を見直さなくてはなりません」
多くの企業がデータを活用したマーケティングが重要だと認識していますが、なかなかひと筋縄で行かないのも事実。その原因について、久永氏は「保有する顧客データの問題」があると示唆します。
まず、「保有する顧客データの精度」。あるレポートによると、企業が保有する顧客データのうち、4割は使える状態になっていないと言われています。その理由として、大きく分けて2つの問題が挙げられるとのこと。
「1つは『データが陳腐化している』ことです。例えば、イベントの来場者データはその開催時点のスナップショットに過ぎず、継続的にメンテナンスされないまま1~2年も経てば、組織変更や当人の異動・退職で使えるデータではなくなってしまします。もう1つは、データの正確性や網羅性です。いろいろなチャネルから集めてきたデータが、全て同じ精度や正確性を担保しているわけではありません。データの種類や属性もまちまちで、必要な時に必要なデータがあるとは限らず、そもそも正確さが判断できないのでは使えません」
さらに「膨大な数の顧客データなのだから、多少の不正確さは問題にならないだろう」と考えている人も多いことに言及し、久永氏はその小さな曖昧さが大きな誤差につながっていくと強調しました。
「名刺1枚の平均掲載文字数は100字です。例えば名刺をスキャンして顧客データベースをつくると、仮に読み取り精度が99%であったとしても、一枚につき一文字は誤字が混入する可能性があります。お客様の名前や住所、メールアドレスが一文字でも違っていてはそのデータは使い物になりません。ちなみにSansanのデータ化精度は99.9%を契約約款でうたっています」
さらにシステム連携の問題にも触れました。
「部署によって必要な情報は違うので、部署ごとにシステムやツールも部分最適化されているケースが多いのが現状。また各システムは基幹系システムと連動していることが多いため、いざ部署間の壁を越えてデータ連携を行おうとしても、既存のビジネスプロセス変更の難易度がボトルネックになってしまいます。この結果、お客様の名寄せも簡単にはできず、各部署に分散している情報が見つけられない、重複があっても気付かないなど、オペレーションの問題が多数発生します。このハードルを越えて、お客様一人一人の動きや変化を継続的・連続的に捉える仕組みを構築することが、データドリブンなマーケティングの実現には不可欠となります」
こうした新たなデータ活用を可能にする組織の実現に向け、Sansanでは全社を挙げて取り組みを進めてきたと久永氏は明かします。
「法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』はサブスクリプションモデルなので、ゴールは『継続利用・LTV(ライフ タイム バリュー)の向上』、すなわち『一人一人のお客様に、長くより広範囲に使い続けていただくこと』に設定しました」
Sansan事業のフロント部門は、「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4部門で構成され、必要な情報も利用目的もそれぞれ異なっています。また、ツールも個別に構築・導入・最適化してきました。
「その結果、顧客情報の部署間連携に時間がかかり、他部署の持っているデータを活用したくても自由にアクセスできなかったり、その数値が何を意味するのか理解する難易度が高いなどの課題がありました。そこでこの状況を打破するため、データドリブンな企業文化を作るための社内プロジェクトを新たに発足させたのです。『ビジネスプロセス自体をオートメーション化する』『蓄積されたデータを活用できる共通の土台をつくる』の2つをテーマに掲げ、現場だけで推進するのは難しいので、データ活用の専門家をメンバーに加えました」
しかし、現場は、この取り組みが自分たちにどんなメリットをもたらすかが分からないうちはなかなか動いてくれなかったと言います。そこで同社では「スモールスタート」と「サービス横断のシステム構築」の2つを突破口にしようと考え、手を打ちました。1つの部署で小さく始めて成果が出れば、他の部署も関心を示して広がってきます。同時に、そうなった時に受け止めるだけのデータ活用基盤を並行して整備しようという計画でもあります。
「共通のデータ基盤の構築には、『Sansan Data Hub』を利用しました。これはSansanの名刺データと連携し、SalesforceなどのCRM・SFAやMarketoなどのMAツール上にある顧客データの名寄せ・クレンジング・リッチ化を自動化できます。また、これらのデータを営業現場で活用するために顧客情報を可視化するダッシュボードを導入して、ABM(アカウントベースドマーケティング)を推進しました。Marketoに蓄積したお客様情報のスコアリングなどは、マーケティング担当のチューニングだけでなく、AIによる分析結果も反映しました。こうした一連の取り組みによって、お客様データの蓄積・統合、そして予測・アクションまでが一気通貫で可能になったのです」
最後に久永氏は自社での取り組みを踏まえ、これからデータ活用のための組織づくりに取り組む企業に、以下の3つの課題を示しました。
「サービスの複雑化で分業制が主流になっている現在、いかに全社横断的なデータ活用の体制構築と、お客様への的確な応対を実現するかが、ビジネス成果を創出する重要なポイントになります」と久永氏は力強く語り、セッションを締めくくりました。
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