CEO×CIO×CDO円卓会議 「これからのIT部門の行方と日本のビジネスの在り方」 CIO Japan Summit 2022レポート後編 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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CEO×CIO×CDO円卓会議 「これからのIT部門の行方と日本のビジネスの在り方」 CIO Japan Summit 2022レポート後編

2022年5月10〜11日、マーカスエバンズが主催する「CIO Japan Summit 2022」がホテル椿山荘東京で開催された。「データのじかん」では、両日ともに行われたパネルプレゼンテーションを取材した。前編に続き、後編では2日目「CEO×CIO×CDO円卓会議:これからのIT部門の行方と日本のビジネスの在り方」の模様をお伝えする。

         

コロナ禍で急速変化した「コミュニケーション」「データ」「マネジメント」

パネルディスカッション「CEO×CIO×CDO円卓会議:これからのIT部門の行方と日本のビジネスの在り方」のパネリストは、2021年8月1日付で日本ペイントホールディングに着任し、現在は日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社CIO 常務執行役員を務める石野普之氏。2021年11月1日付でコスモエネルギーホールディングス株式会社 常務執行役員 CDOに着任したルゾンカ典子氏。元ラクスル株式会社 コーポレートエンジニアリング部マネージャーで、現在は株式会社AnityA(アニティア)代表取締役を務める中野仁氏。モデレーターは、NPO法人CIO Lounge 理事長 矢島孝應氏が務めた。

矢島氏が最初に提示したパネルテーマは、「コロナ禍でIT・デジタルのどんなところが変わったか」。景色合わせから、パネルディスカッションはスタートした。

左:日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社 CIO 常務執行役員 石野普之氏
右:NPO法人CIO Lounge 理事長 矢島孝應氏

矢島 約2年間のコロナ禍でIT化・デジタル化が進みました。皆さんの会社では特にどのような変化がありましたか。

中野 最も大きな変化は、コミュニケーションやコラボレーションの領域です。6~7年前、私がメーカーのIT部門に在籍していたときは、ツールを変えてもそう簡単に人の動きは変わらなかった。しかしこの2年間で、仕事の仕方が強制的に変えられました。「IT化・デジタル化が10年分早まった」ともいわれていますが、その通りだと思います。

ルゾンカ コミュニケーションの媒体が変わったことに加え、「仕事の目的って何だろう」と改めて考える時期に来ていると感じています。仕事の進め方は、(IT化・デジタル化で)変わっています。そこをどう乗り越えるかで、企業間に大きな差が出てきます。

矢島 ルゾンカさんはCDOの立場から、データ活用の面でどのような変化を感じますか。

ルゾンカ コロナウイルス感染症とほぼ同時期にビジネス領域ではDXという言葉が広まりました。多くの企業で「コロナ≒DX」の状態です。この2年間は「ディシジョンメイキング(意思決定)をするためにはデータが必要」ということを考えるのに、いい機会になっています。

コスモエネルギーホールディングス株式会社 常務執行役員 CDO ルゾンカ典子氏

矢島 石野さんの場合は、リコーのシニアバイスプレジデント(SVP)やリコーITソリューションズの社長執行役員を兼務されてきた中で日本ペイントへ入社されました。ご自身の立場も大きく変わった2年間だったと思いますが、いかがですか。

石野 リコー時代でいうと、コロナ禍以降にコミュニケーションの在り方が大きく進化しました。社長からのメッセージ動画がオンラインで何度も配信され、社長と社員の距離が近づき、変革メッセージが伝わりやすくなった側面があると思います。一方で、日本ペイントホールディングスのCIOに着任して以降は、石油などの原材料費高騰のスピードが速く、社内のマネジメントスピードを上げることが、重要な経営課題となっています。

日本企業がCIOを社内から発掘できない理由は?

矢島 私たちCIO Lounge調べでは、日本企業のCIOまたはIT責任者の経歴は、「17%が他社から転入、33%が自社の情報システム部門出身者、50%が自社の他部門からアサイン」となっています。数字の見方は人それぞれですが、私は17%という数字に経営者の危機感の表れを感じます。今回は、CIO、CDO、CEOそれぞれの役割を担う三人にお集まりいただきました。日本企業のCIO、CDO、CEOはどのように連携していくべきか、率直なご意見をいただきたいと思います。まずはルゾンカさん、どうでしょうか。

 CIO Loungeが行った中堅企業200社に対するアンケート調査(2021年9月実施)

ルゾンカ 私の肩書きはCDOですが、今年4月からIT推進部も私の管掌下に入りました。ITシステム、DX、マーケティングを一気通貫で見られるようになり、個人としては結果を出しやすい環境になったと感じます。ただ私とは別にCIOがいるわけではありません。そのため、他領域で意見を交わし合うことができず、ときには物足りなさを感じます。

矢島 石野さんもまたCIOとして、「外部からやってきた」1人ですが、いかがですか。

石野 一般的に「CxO」と呼ばれる人間は、経営の一端を担い、Whatを考えます。しかしCIO(Chief Information Officer)は元来「IT」を指揮し、Howを考えるポジションでもあります。経営のWhatに応えつつ、「Howどのように(実現するか)」を考える難しいポジションで、その狭間で悩むCIOも多いと思います。だからこそ17%の企業が、外部からWhatもわかるCIOやCDOを連れてくる。WhatのわかるCIO・CDOを社内から発掘できるなら、外部から連れてくる必要はないのかもしれません。

矢島 攻めと守りの両方を担える大谷翔平選手のような社内人材は、なかなかいないものです。

石野 私のリコー時代の上司である遠藤紘一さん(元リコー副社長、初代政府CIO)は常々「ITプロパーは、絶対にCIOやIT本部長にはさせない」とおっしゃっていました。理由を尋ねると、「技術ばかりにフォーカスしてきた人間に、経営のことは分からない」とのことでした。日本企業はIT畑の人間を経営者として育成することを怠ってきたため、難しい側面があるのかもしれません。

矢島 中野さんもこれまでいろいろな企業のIT部門をご覧になってきたと思いますが、いかがでしょう。

中野 先日渋谷区の澤田伸副区長 兼CIO/CISOの講演での話で、「CIOの権限を拡張すべきなのに、CIO・CDO・CTOの地位を分割してどうする」という話をされていましたね。私もそれと同じ考えです。どのCxOでも良いのですが、決める主体は集約した方が良いと思います。CIOなら、CIOと企画推進をCIOオフィスというチームにまとめていった方がよいと思います。

株式会社AnityA 代表取締役 中野仁氏

ホールディングス体制における「IT機能の切り分け」のコツはサービス化

矢島 ここからパネリスト一人一人に私の素朴な疑問をさせていただきます。まずは石野さん。最近はなんでもかんでも「IT・デジタル」の一言でまとめられがちですが、現実には「誰がデータの責任を持つのか」「誰がプロセスの責任を持つのか」がきちんと定められていないケースが多いようです。どうしたらよいのでしょう。

石野 私が日本ペイントに来たときにも驚いたことがありました。それはセキュリティー責任者が総務部長だったことです。この時代のセキュリティーに総務部長が対応できるのか心配になり聞いてみると、「詳しくは分からない」とおっしゃる。その場で私がセキュリティーの責任者の任を引き継ぐことにしました。こうしたことは当社に限らず多くの企業で起こっていると思うのですが、企業としての既存の仕組みが時代にそぐわなくなっているのにそのままになっているという点に問題があるのだと思います。 それを防止するためにも、社長を含めた経営陣がITに見識を持ちながら「できる人を作りその人にやってもらう」ことが重要だと思います。

矢島 次にルゾンカさん。外部招請もよいですが、社内でIT人材・デジタル人材を育成していくことも必要です。ルゾンカさんは育成面でどのような考えをお持ちですか。

ルゾンカ 私のバックグラウンドは「教育」で、今も社内の人材教育は私のライフワークです。そんな私のポリシーは、仲間を増やしながら、成長した未来へのワクワクドキドキ感を得てもらうこと。人間が一生懸命頑張れるときは、究極に困っているときか、すごく楽しいときです。ならば、人材教育の場も、楽しいと感じてもらう場にするしかありません。これからの時代、ジョブ型人材マネジメントも必要かもしれませんが、IT人材・デジタル人材の育成は、臨機応変に教育していくことが必要だと思っています。

矢島 次に中野さん。日本のリーダーの中にはテクノロジーに抵抗があり、「自分はITに弱い」なんて堂々と言ってしまう人もいます。欧米企業なら即座に解任でしょう。そうした事態に直面したとき、企業はどうすればよいのでしょう。

中野 会社のステージや文化によって解決策は異なると思います。例えばテクノロジー系の企業であれば「できないではなく、やってください」の押しが強い形ででよいと思います。業界としてビジネスのスピードが早いですから、そうでないと勝てない。しかし、規模の大きい企業では、それが通用するとは限りません。もう少し丁寧な移行が必要になると思います。例えば、その解決策には「内製化」と「育成」があると思います。組織開発の前提を持ち、プロジェクトで小さな成功事例をしてもらうことと、成果を出したときのインセンティブを明確にする。施策を粘り強く施策を続ければ、ITが苦手という雰囲気がなくなっていくかもしれません。

矢島 もう1つ石野さんにお聞きしたいのが、昨今増えてきているホールディングス体制についてです。多くの場合、持株会社(HD)がグループ全体の戦略・経営方針を定めながらシェアードサービス化(コーポレート業務の集約)を進める形態を指しますが、「HDと傘下企業のやるべきことの切り分け」「IT・デジタル部門と各現場のやるべきことの切り分け」などが、まだ整理しきれていない印象です。日本ペイントもHD体制をとられていますが、どのような点に配慮していますか。

石野 当社グループは2014年に持株会社制への移行に伴い事業会社「日本ペイント」が立ち上がり、その後「日本ペイントホールディングス」に商号変更しています。日本ペイントHDはIT、人事、総務、経理、法務のようなシェアードサービス機能も持っていましたが、そんな中昨年4月に経営トップが変わりました。新社長の目からするとHDという「親」の意識が、提供するシェアードサービスの効率化や質の向上を阻害していると感じたのだと思います。 その課題を解消するために、今年の1月に「日本ペイントコーポレートソリューションズ」を新たに設立し、日本リージョンの各社に本社機能を提供するシェアードサービス機能をHDから移管しました。

矢島 日本ペイントコーポレートソリューションズ設立後の変化は感じますか。

石野 日本ペイントコーポレートソリューションズは「日本ペイントグループ各社にシェアードサービスを提供する会社」です。会社設立以降は、われわれが「Center of Excellence」としてその専門性を高め、より質が高く効率的なサービスを提供する「サービス提供会社」であることを徹底的にグループへ周知しました。当然グループ各社からは提供サービスの品質に対して厳しい目が向けられますし、われわれにも大きなプレッシャーがかかります。しかし当社が各社共通の機能を担う専門家集団となることで、グループ全体のバランスが整うはずです。さらに私は、月1回程度の頻度で各社社長に会いに行くようにしましたが「これまでIT部門長が会いに来てくれたことは一度もなかった」と言われました。今まで、HD ITと事業会社各社との距離が大きくあったんだと強く感じた瞬間でした。HD体制はともすると屋上屋を作ることになり、コスト増や時間がかかってしまう事になりがちです。これを解消する継続的な努力が必要だと思います。

日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社 CIO 常務執行役員 石野普之氏

意思決定の経験をさせる仕組みをどのようにつくるか

質疑応答のコーナーでは、参加者から「CIOになるためには意思決定の経験が必要。しかし今の日本企業ではその機会に恵まれにくい」との課題感が寄せられた。3人のパネリストは次のように回答した。

石野 私自身の転換点として大きかったのは、アメリカに駐在したことです。アメリカで働いてみると、自分の上にあったたくさんの階層がなくなり、自分の責任でやらなければいけない領域が拡大、それによって経営に近いところで判断できるようになりました。欧米企業でも社長秘書にエグゼクティブ候補をつけて研修しているところがありますが、そうした「経営者としての疑似体験」をさせられるかどうかが、すごく大きいと思います。

中野 会社に在籍していた時代には、上場企業での大きな投資の実行にも関わってきました。経営会議での説明をして、自分が実行するという経験によって、投資する事に慣れたつもりになっていたのですよね。ただ、会社を設立して経営者になって思うのは、自ら資金繰りをしながら決裁する事は全く異なるという事です。例え、金額は小さくても意思決定し、身銭を切って決める事は経験の質が全く異なり、経営の観点が磨かれたと思います。その意味では、たとえ小さくても自分の会社をつくって投資をしてみるのは良いかもしれません。

ルゾンカ 今の会社では、IT・デジタルに関する課題解決やソリューション提案をしてもらうにしても、必ずメンバーに「自分ごと化」してもらうよう意識しています。なんでもかんでも上司が意思決定してしまうと、メンバーが成長しません。欧米企業と日本企業の決定的な違いもそこにあると感じています。言われたことをやるのではなく、自分の頭で考え、自分の手を動かしながらものごとを進めていく。それが意思決定の経験になると思います。

1時間に及んだパネルディスカッションを受け、パネリスト各者は次のように総括した。

ルゾンカ これからはどのような企業のどのような投資においても、必ずIT・デジタルが絡んできます。そのためにもIT部門・デジタル部門をビジネスの意思決定の真ん中にもっていきたい。その担い手であるCIO・CDOの皆さんは、会社のブレーンあるいは社内コンサルのような動きをしながら、人材を育てていってほしいです。それがこれからの会社の価値になっていくと思います。皆さんと一緒に頑張っていきたいです。

中野 おそらく皆さんの中には後継者問題に頭を悩ませている方もいらっしゃるでしょう。そのくらい今はITマネージャーが絶対的に不足しています。とはいえ、IT・デジタルだけで見ればここは非常に狭い業界ですから、私たちは助け合うことができます。助け合いながらCIOの課題を解決していきましょう。

石野 DX時代、CIOやCDOへの期待が高まっています。これをブームで終わらしてはいけません。CIOやCDOがいなければ会社が回らない、そのくらいまでこの職責を定着させ、専門的かつプロフェッショナルな仕事にしていきましょう。そのためには、ここにお集まりの皆さん含め、IT・デジタルに関わるメンバーが連携・情報交換しながらレベルを高めていく必要があると思っています。

最後はパネルプレゼンの締めくくりとして矢島氏が次のように述べた。

矢島 上からは「やれ」と言われ、下からは「できるはずない」と言われる、CIOという職責は常に孤独なものです。しかし私たちには、同じ業界の企業同士で競争するところは競争しながらも、IT・デジタルでは手を組むことのできるCIOネットワークがあります。本日のCIO Japan Summitも、私が理事長を務めているCIO Loungeも、そうしたネットワークの1つです。IT・デジタルを推進する皆さんの力で、エコシステムを築いてほしいと思っています。本日はどうもありがとうございました。

NPO法人CIO Lounge 理事長 矢島孝應氏

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/安田  PHOTO:野口岳彦 企画・編集:野島光太郎)

 
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