1924年、福島県・郡山駅前にバナナ問屋「青木商店」は開業した。それからもうすぐ100年。同社は全国186店舗を構える『果汁工房果琳』『フルーツバーAOKI』などのフルーツバー事業や、フルーツタルト&カフェ事業『フルーツピークス』、フルーツギフトを販売する『フルーツショップaoki』などを展開し、その従業員数は2,308名(2023年1月現在)という一大産業に成長した。
菅家元志(以下・菅家):まずはじめに、青木商店がDXを進めるに至った理由についてから教えてください。
青木大輔(以下・青木):青木商店がDXを進めるに至った理由には、次の3つがあります。それは①社内の労働生産性の向上をしていきたいから、②データを活用した経営をすることで、お客様により良いフルーツを届けていきたいから、③データドリブンな経営をしていきたいから、の3つです。しかし、DX推進をより意識するきっかけとなったのは、2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルスによる影響も大きかったです。
菅家:新型コロナウイルスがなぜ、DXを進めるきっかけとなったのでしょうか?
青木:もともと弊社では、マネージャーが全国を飛び回り、物理的・直接的なマネジメントを行っていました。また、東京・大田市場にも事務所があり、郡山市にある本社と遠隔地との移動が頻繁に行われていました。それが新型コロナウイルスの影響で、物理的なコミュニケーションが極端に制限されるようになりました。そのような状況下で、DX化を推進し、遠隔地とのやりとりをよりスムーズにする必要があるという社内的雰囲気が出来上がってきました。
例えば、ジュースであれば天候、タルト・ケーキであればクリスマスや母の日など、ある程度商品が売れる時期を予想するのは難しくはありませんが、キャンペーンを打った際にどれほどの商品が売れるのかについては、ベテラン社員の勘によるところが多く、入社数年目の社員に正確な売上予測をお願いするのは難しいという点が業界的背景としてあります。たとえば、入社3年目の若手店長に、勘と経験による商品展開を全面的に任せるのはなかなか難しいのが現実です。そこでベテランのマネージャーが各地を訪問して直接アドバイスをしていたのですが、それがコロナ禍で難しくなってしまいました。
菅家:そこで、上に挙げた①労働生産性の向上につながるわけですね。まず取り掛かったことを教えていただけますか?
青木:とりあえずはチャットツールの導入からはじめました。今まで各地を飛び回っていたマネージャー層に簡単に連絡を取れるようにすることが急務だと考えたからです。その結果、現場の方からの「メールや電話をするまでもないこと」をマネージャー層がすくい上げることができるようになり、より現場のことを知ることが可能になりました。また、プロジェクトとまではいかないまでも、事業に関する意見交換もできるようになっています。
菅家:そのほかに取り組んだことはありますか?
青木:業務マニュアルのデジタル化ですね。これまで店舗に共有していたのは紙のマニュアルでした。しかし、紙の文字だけでは、なかなか内容を伝えるのが難しいという課題もありました。マニュアルをデジタル化したことで、動画を使った説明もできるようになり、より現場の方に内容を浸透させることが可能になりました。
現在、各店舗には1台iPadが支給され、デジタル化されたマニュアルをスタッフが誰でも閲覧できるようになっています。はじめのうちは、操作方法に戸惑うスタッフもいましたが、最近ではみんなすっかり使い慣れています。
菅家:続いて、「②データを活用した経営をすることで、お客様により良いフルーツを届けていきたいから」という理由ですが、これについて詳しく教えていただけますか?
青木:我々の創業時の想いに、「美味しい果物は人の気持ちを豊かにする」「美味しい果物は人を幸せにする」というものがあります。その想いは4代目である私も変わっていません。これからもより良いフルーツを届けていきたいと考えていますが、その「美味しさ」という概念は非常に抽象的です。例えば15度帯~20度帯で保管すると良いといったノウハウはあるものの、結局のところスタッフの勘によるところが大きいのが現状です。そのようなデジタル化できない部分を社内ノウハウとして確立するために社内教育制度等を設けていますが、難しいというのが正直なところです。フルーツはコンディションで大きく味が変わる商品ですので。
菅家:そこをデータ活用で標準化できないか、というのがDXを進める原動力となっているのですね?
青木:勘や経験をデータの力で可視化できれば、より科学的な根拠に基づく『美味しい』果物を提供できるようになるのではないかと思っています。そのためには、経営のやりかた自体をデータに裏打ちされたものにしていく必要があると考えています。データ活用の場面では、データのじかんを運営されているウイングアーク1stさんのDr.Sum/MotionBoardも利用させていただいてます。
菅家:そうですね。弊社プレイノイベーションもお手伝いさせていただいておりますが、それは③データドリブンな経営をしていきたいから、という理由にもつながりますね。
青木:需要予測ができるようになれば、明日の売り上げや一週間後の売り上げを予想できるはずです。我々は生鮮食品を生業としているので、それができるようになればフードロスを減らし、経営を安定させられます。また、スタッフのシフト組み、人員配置、発注、在庫管理にも効果が出てきます。これらのことは、これまで勘と経験で進めてきたわけですが、DXが進展すれば「誰がやっても同じ結果」をもたらすことができる。これができてはじめて「攻めの販促」ができるようになると思います。
菅家:そのためにもDXをこれから推進していく必要があると思いますが、必要なこと・大切なことは何だと思いますか?
青木:DX・IT投資を弊社の成長戦略の柱に位置付けることだと思います。経営陣で認識を合わせ、経営資源をDX・ITに集中させる。これまでは従業員教育、採用投資、店舗展開、新規店舗出店などの設備投資が当社の成長戦略の柱だったため、ITへの投資が遅れていたのは事実です。今後はDX・IT投資を加速させ、データドリブンな経営を進めていきたいと考えています。
菅家:社員のITリテラシー向上に関しては、プレイノベーションもDX推進に必要不可欠な要素として認識しており、重要な課題の一つとしてお手伝いさせていただいております。今後はIT人材、システム人材の採用も強化していくのでしょうか?
青木:もちろん進めていくところです。現社員に関しては、菅家さんにお力添えをいただき、再教育を進めていく予定です。
今回の取材は、DXを進め、データドリブン経営を実現させようとしている株式会社青木商店の青木社長に、DX導入の伴走者を務める株式会社プレイノベーションの菅家氏が質問する形で行われました。
青木商店のDX計画では、2023年度はデータ基盤、インフラ整備に力を注いでいき、DX施策の本格始動は2024年度以降になるという想定になっています。折しも2024年は青木商店開業100周年の年となります。実に一世紀を数えるその節目の年に、青木商店はDXという武器を手に入れ、データと共に新たな航海に乗り出そうとしています。
青木 大輔 氏(写真左)、菅家 元志 氏(写真右)
話し手:株式会社青木商店 代表取締役社長 青木 大輔 氏
福島県郡山市に本社を置く果物店、フルーツジュース店、菓子店をチェーン展開する「青木商店」の四代目社長。1924年、福島県・郡山駅前にバナナ問屋「青木商店」開業。同社は全国186店舗を構える『果汁工房果琳』『フルーツバーAOKI』などのフルーツバー事業、フルーツタルト&カフェ事業『フルーツピークス』、フルーツギフトを販売する『フルーツショップaoki』などを展開。「フルーツ文化創造企業」という理念のもと、その従業員数は2308名(2023年1月現在)という一大産業にまで成長。DX施策の本格始動となる2024年度に向け、同社のDX計画を牽引。
聞き手:株式会社Plainnovation(プレイノベーション)代表取締役 菅家 元志 氏
1987年福島県郡山市生まれ。2013年に慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)修了。中高生のころに企業経営に興味を持つ。2013年に故郷・郡山市で株式会社Plainnovation(プレイノベーション、以下省略)を創業。教育・ITに特化した事業を行っており、現在は子育てに関する様々な情報を配信する子育て情報メールマガジン配信サービスや幼児向けお絵かきアプリ「おえかきマジックコレクション」、お絵かきプロジェクションマッピングサービス、教育・子育て関連の新規事業プロデュース、システムの開発・運営受託等を事業展開している。また、NPO法人郡山ペップ子育てネットワーク(福島県郡山市)企画部長、NPO法人DASH設立(福島県伊達市)理事、福島キッズ「元気×夢」復興応援プロジェクト2016実行委員会副委員長と多岐にわたり活動されている。
(ファシリテーション:株式会社プレイノベーション 菅家元志/記事執筆:安齋慎平/写真撮影:株式会社コンセプト・ヴィレッジ/編集・ディレクション:データのじかん編集部 田川薫)
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