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知識経営の世界的権威である一橋大学名誉教授、野中郁次郎先生が2025年1月25日に89歳で亡くなりました。野中郁次郎先生は「失敗の本質」などの著書で知られ、経営学の分野において大きな影響を与えました。特に、暗黙知に焦点を当て、組織内での知識共有と創造的なプロセスを定式化しました。これにより、多くの企業が知識経営を取り入れるようになりました。彼の貢献は、日本だけでなく国際的にも評価されています。
野中郁次郎先生が提唱したSECIモデルは、組織内の知識創造プロセスを説明する理論です。このモデルは、社会化(暗黙知から暗黙知への共有)、外部化(暗黙知から形式知への転換)、結合(形式知から形式知への統合)、内面化(形式知から暗黙知への同化)の四つの段階で構成されています。この連続的なプロセスを通じて、個々人の知識が組織全体のイノベーションや価値創造に貢献することを目指します。
野中郁次郎先生のSECIモデルは1990年代に世界的に注目されましたが、その概念的かつ哲学的な性質から、しばらくの間、時代遅れと見なされていました。しかし、AIやビッグデータの進展により、人工知能を通じて「人間」自身を考えることの重要性が再評価されつつあります。
また野中郁次郎先生は、SECIモデルの原点をなす共同化の働きが、直接的な接点がなく、身体性を伴わないと阻害されると報告しています。その上で、共同化が難しい理由として、『人間は日常生活で暗黙知を全身で浴びているが、オンラインではどうしても限定的になってしまう』と指摘しています。そのため、オンラインにおける共同化の阻害を減少させるためには、文脈の共有や他愛もない雑談をするなど、『ゆらぎ』を意図的に取り入れる必要があるとされています。その他にも、知識創造の共同化は、オンラインとオフラインでトレードオフの関係になっていると指摘しています。さらに、現在、人と人とのつながりの重要性が再認識されており、知識創造における共同化のプロセスとして、今必要とされるのはリモートワークをうまく機能させる方法論を探ることであるとも述べています。
事実、オフィスでのカジュアルなコミュニケーションにおける『偶然の出会い』や『予期せぬ発見』は、新しいプロジェクトやイノベーションのきっかけとなることが多いとされています。リモートワークの増加により、従業員同士の『偶然の出会い』や『予期せぬ発見』の機会が減少しており、新しい価値やアイデアが生まれる機会も減少している可能性が考えられます。
一方で、オンラインの利便性を享受している私たちにとって、対面におけるコミュニケーションに後戻りすることが最良であるかは疑問が残ります。確かにリモートワークにはコミュニケーションの質や信頼関係の構築に関する課題が存在しますが、対面におけるコミュニケーションが必ずしも最良の方法であるとは限らない場合もあります。リモートワークでも、適切なツールやコミュニケーションの方法、さらには環境の整備や参加者のマインドセットに工夫を凝らすことで、『偶然の出会い』や『予期せぬ発見』を生み出しやすい環境を築くことができると考えられます。リモートワークとオフラインワークが共存するハイブリッドワークでは、両者のメリットを最大限に活かす働き方の提案が可能になると考えられます。
今回のデータのじかんフィーチャーズでは、野中郁次郎先生に追悼の意を込めて『SECI(セキ)モデル』をテーマに、『データ活用』、『ナレッジマネジメント』、『DIKWモデル』、『失敗学』の観点でFeatureします。
SECIモデルは、組織内の知識創造プロセスを説明するために、野中郁次郎教授と竹内弘高教授によって1990年代に提唱されたフレームワークです。このモデルは、知識を「暗黙知」と「形式知」という二つのタイプに分け、それらがどのように組織内で変換され、新しい知識を創造するかを示しています。SECIは以下の四つのプロセスから成り立っています。
① 社会化(Socialization):
暗黙知から暗黙知への変換です。共有の経験や直接の対話を通じて、個人が持つ知識を共有します。例えば、職場でのオンボーディングやワークショップ、非公式な会話がこれに該当します。
② 外化(Externalization):
暗黙知から形式知への変換です。ここで、個人の内部にある知識が言語化やドキュメント化され、他の人々と共有可能な形になります。例としては、ブレインストーミングや会議でのアイデアの提示、マニュアルや報告書の作成があります。
③ 結合(Combination):
形式知から形式知への変換です。既存の情報を集約し、体系的に整理・組み合わせることで、新しい形式知を創造します。データベースの利用、文書の分類、システマティックなレビューが該当します。
④ 内面化(Internalization):
形式知から暗黙知への変換です。文書化された情報や報告から学び、それを個人のスキルや経験として吸収します。トレーニングプログラムや実践的なタスクを通じて得られる学びがこれにあたります。
SECIモデルは、知識創造のプロセスを体系的に理解し実行するための枠組みを提供します。これにより、組織は個々の知識を組織全体の資産に変換することが可能となり、持続的なイノベーションと競争力の向上を図ることができます。
またデータ活用の観点からの具体的な手法を以下に紹介します。
① データ収集と共有:
社会化フェーズでは、組織内外のデータ収集活動(例えば市場調査や顧客フィードバックの収集)を積極的に行い、それを暗黙知(経験や感覚)に変換するための基盤を作ります。
② データの文書化:
外化フェーズで、収集したデータや洞察を報告書やプレゼンテーションとして整理し、知識の形式化を進めます。これにより、データドリブンな意思決定が容易になります。
③ データベースと知識管理システムの活用:
結合フェーズでは、データベースや知識管理システムを使用して、情報を統合し、アクセス可能な知識を創出します。
④ 学習管理システム(LMS)の利用:
内面化フェーズで、形式知をトレーニングプログラムや教育コンテンツを通じて、従業員のスキルや知識の基盤として組み込みます。これにより、理論から実践への移行が促されます。
SECIモデルを活用することで、データと知識を効率的に流通させ、組織全体の学習と進化を促進することができます。
以下は「SECIモデル」について詳細に解説した記事です。1990年代に野中郁次郎教授によって提唱されたSECIモデルは、知識創造のプロセスを体系的に理解し、組織内での知識共有とイノベーションを促進するフレームワークです。この記事では、SECIモデルの四段階(社会化、外化、結合、内面化)とそれぞれのステージでの具体的な手法を、データと情報の活用の観点から詳しく説明しています。知識管理とデータ活用に関心のある方にとって、非常に有益な内容となっています。
SECIモデルとナレッジマネジメントは非常に関連が深いです。SECIモデルは、ナレッジマネジメントの基本的なフレームワークの一つとして広く認識されており、組織内での知識の創造、共有、活用を促進する方法を提供します。ナレッジマネジメントは、組織の知識資源を効果的に管理し活用することを目指し、その中でSECIモデルは暗黙知と形式知の間の相互作用を明確にし、知識の流通と拡散のプロセスを体系化する重要な役割を果たします。
ナレッジマネジメントは、組織内の知識資源を効果的に管理し活用するためのプロセスです。目的は、組織の知識を体系的に収集、保存、共有し、それを組織の競争力向上につなげることにあります。このプロセスは、知識の識別、取得、開発、共有、利用、保存を含む一連の活動を包括します。効果的なナレッジマネジメントは、組織が迅速に適応し、持続的な成長を遂げるために不可欠です。SECIモデルは、このようなナレッジマネジメントの取り組みにおいて、知識の創造と共有の枠組みを提供します。
なおSECIモデルでは、ナレッジマネジメントのプロセスにおいて「暗黙知」と「形式知」が中心的な役割を果たします。
暗黙知とは、個人の経験や感覚に根ざした、言語化や形式化が難しい知識です。この知識は、直接的な経験や人との対話を通じてしか共有や伝達が行われないことが多いです。SECIモデルの「社会化」段階で主に扱われます。
形式知とは、言語化や数字で表現され、容易に共有や伝達が可能な知識です。ドキュメント、マニュアル、データベースなどによって組織化・共有される知識で、SECIモデルの「結合」段階で特に重要です。
これら二つの知識タイプは、SECIモデルにおいて互いに変換され、組織全体の知識創造とナレッジマネジメントを促進します。
以下の記事では、ナレッジマネジメントにおける「暗黙知」と「形式知」の違いとその重要性について詳しく解説しています。暗黙知は個人の経験や感覚に基づく知識であり、共有が困難ですが、形式知は文書やデータベースで管理できるため、効率的に情報を共有することができます。記事では、これらの知識を効果的に変換し、組織全体の生産性を向上させるための具体的な手法や、SECIモデルの適用例についても触れています。
DIKWモデルとは、「データ」から「情報」、「知識」、「知恵」という知の階層を示す理論です。各層は以下のように説明されます。
① データ(Data):
客観的事実や数値など、解釈されていない生の状態の情報。
② 情報(Information):
データを処理または組織化することにより、意味が付与され、解釈が可能になる。
③ 知識(Knowledge):
情報を経験、文脈、洞察と組み合わせることで得られる、より深い理解や適用能力。
④ 知恵(Wisdom):
知識を用いて長期的な判断や予測が可能になる、最も高いレベルの認識。
このモデルは、データがどのように情報、そしてそれが知識と知恵へと変化するかのプロセスを明確にするために用いられます。それぞれの段階での理解の深まりが、より効果的な意思決定や問題解決につながるとされています。
DIKWモデルとSECIモデルには関連性がありますが、それぞれ異なる側面を扱っています。
DIKWモデルはデータ(Data)、情報(Information)、知識(Knowledge)、そして知恵(Wisdom)という階層を示しており、データから知恵に至るまでのプロセスを描いています。これは情報の深化と価値の増大を表しています。
一方、SECIモデルは、組織内での知識創造プロセスに焦点を当てており、暗黙知と形式知の変換を通じて新しい知識を創出する方法を提供しています。
これら二つのモデルは、知識と情報の流れや変換の異なる側面を補完しあう形で関連しており、組織におけるナレッジマネジメントの理解と実践に役立てることができます。
以下の記事では、DIKWモデルを通じて、データを知識や知恵に昇華させるプロセスを詳細に解説しています。データ、情報、知識、知恵の各段階がどのように連携し、デジタルトランスフォーメーション(DX)や経営にどう役立つかを示しており、データドリブンな意思決定を支援するための具体的なケーススタディも提供しています。データの価値を最大限に引き出すための戦略的なアプローチが求められている現代において、このモデルの理解が不可欠です。
失敗学とは、失敗の事例を科学的に分析し、その原因や背景を理解することで、将来的な同様の失敗を防ぐための学問です。事故やミスから学ぶことで、より良い予防策や改善策を見つけ出すことが目的で、ビジネス、工学、医療など幅広い分野で応用されています。失敗から学ぶことの重要性を認識し、組織や個人が成長する手助けをするための有効なアプローチです。
失敗学とSECIモデルは間接的に関連しています。SECIモデルが組織内での知識創造と共有のプロセスを強化するのに対し、失敗学は失敗からの学びをシステム化し、それを組織の知識として蓄積することを目指します。この点で、両者は組織が経験から学び、持続的な改善を図るための知識管理の一環として相互補完的な関係にあります。失敗からの学びをSECIモデルのプロセスに組み込むことで、より効果的なナレッジマネジメントが可能になります。
失敗学とSECIモデルの関連性を具体例で示すと、例えば製造業の工場での機械故障が考えられます。この失敗から学ぶプロセスをSECIモデルに沿って見てみましょう。
① 社会化(Socialization):
故障を経験したオペレーターが新人スタッフに、故障時の状況や直感的な対応方法を非公式に教える。
② 外化(Externalization):
故障の原因や対処法を言語化してマニュアルや報告書としてまとめ、他のスタッフと共有する。
③ 結合(Combination):
さまざまな故障事例とその解決策をデータベースに組み入れ、整理し、体系的なトラブルシューティングガイドを作成する。
④ 内面化(Internalization):
スタッフが故障事例データベースを学習し、得た知識を日常の業務に活用して未来の故障を予防する。
このように、失敗学を通じて得られた知識をSECIモデルによって組織全体で共有し、内面化することで、全員がその経験から学び、将来的な問題を未然に防ぐことができます。
以下の記事は、失敗を科学的に分析し学びを深めるためのアプローチ、「失敗の科学」に焦点を当てています。書籍『失敗の科学』の内容を基に、航空業界や医療分野での事例を引用し、失敗から学ぶことの重要性と効果的な対策方法を探求しています。特に、失敗をデータとしてどのように活用し、組織文化やシステム改善につなげるかを解説しており、組織が持続的な改善を達成するための戦略を提供します。
以上、今回は『SECIモデル』について、4件の厳選記事を添えて紹介させて頂きました。
それでは、次回も【データのじかんフィーチャーズ】をよろしくお願いします!
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