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まいどどうも、みなさん、こんにちは。
わたくし世界が誇るハイスペックウサギであり、かのメソポ田宮商事の日本支社長、ウサギ社長であります。ついに2025年もクライマックスを迎えつつあり、最後の大サビである12月に突入しました。コンサートで言うと、師走の時期はもうアンコール部分の最後の2曲と言ってもいいでしょう。つまり、実質のコンサートはもう終了しており、サービス残業部分にあたる最後の2曲がここで演奏されるわけです。せっかくですので、おおいに盛り上がっていきましょう(笑)。
ちょびっとラビットではこれまでも、レシピの歴史や土器の発明が人類の食文化の発展にどれほど役立ったのか、そして養殖事業にとってFCRがいかに死活問題であるか、など食べ物についての話題を取り上げてきましたが、今回は日本で暮らしている人が普段の生活ではそう簡単に意識することはないであろうネイティブアメリカンの食文化についてピックアップしてみたいと思います。
ネイティブアメリカンの食文化、と言って、あー、あれね、と何か具体的なメニューやレシピが浮かぶ人はあまりいないのではないかと思います。何を隠そう、わたくしも最近まで全く知りませんでした。しかし、ミネソタ州ミネアポリスにあるOwamni(オワムニ)というレストランがアメリカでは人気を集めており、彼らが提供しているネイティブアメリカンの食文化の豊かさとヘルシーさが注目されているのだそうです。その証拠に、Owamniは2022年に料理界のアカデミー賞とも言われるジェームズ・ビアード賞の「Best New Restaurant賞」を受賞しています。
しかし、ネイティブアメリカンの食文化とはどのようなものなのか、と言う疑問を読者の方は抱かれるかと思います。現代社会を生きる人に向けて最もわかりやすい特徴を挙げるのであれば、小麦、砂糖、乳製品、牛肉、豚肉を一切使わない、という特徴がわかりやすいかと思いますが、それだけだと、ああ、グルテンフリーとかヴィーガンみたいなやつね、と思われるかも知れないのでもう少し説明したいのですが、オーガニックとかスピリチュアルとかとはまたちょっと一線を画す、というかもっと土着した歴史のある、先人の知恵の詰まった究極の地産地消的な料理になっています。

このレストランのシェフであり、創設者の一人であるショーン・シャーマン(Sean Sherman)氏 は、ラコタ族の出身であり、サウスダコタ州のパインリッジ保留地で育ちました。シャーマン氏は若い頃に料理の道に入り、シェフとしてキャリアを積んでいたのですが、その時にふと「自分は“ネイティブアメリカン料理”をほとんど知らない」ということに気がついたのです。
アメリカの先住民族は広大な自然の中に暮らし、数千年に渡り、豊かな食文化を営んできました。しかし、植民地化・同化政策・強制移住などにより、その多くは途絶え、その記録の多くも失われてしまっています。そこでシャーマン氏は北米各地の先住民族を訪ね、フィールドワークを重ね、忘れられた料理や食材を一つひとつ掘り起こしていったのです。その旅は数年に及び、結果として生まれたのが「脱植民地化された料理(decolonized food)」 というコンセプトでした。
では、具体的にどんな料理が出てくるのか、というのがみなさんの関心どころだと思いますが、シャーマン氏は「コロニアル以前に存在しなかった食材は使わない」 というルールを設けています。そうなるとヨーロッパを起源とする小麦、乳製品、砂糖、牛・豚といった家畜がメニューから完全に消えることになり、その代わりにもともとアメリカ大陸にいたバイソンの肉やワイルドライス、とうもろこし、アマランサス、各種ベリー、きのこ、ハーブ、川魚・ジビエ、あるいはコオロギなどの昆虫など、もともとこの土地にあった食材を使った料理がOwamniでは提供されます。たとえば、バイソンの炙りにブルーベリーのソース。アマランサスの粥にスモークした白身魚などです。そうなるとかなり限定された条件の中で料理をすることになるわけですが、シャーマン氏は制限こそが新たな創造を生み出す母なるものであり、料理を通じて「土地の味=風景そのものを味わってほしい」と語っています。つまり、Owamniが目指しているのは食文化だけでなく、ネイティブアメリカンの歴史そのものが再生されることなのです。いやー、壮大で素晴らしいですね。
コロニアル以降、アメリカでは先住民に対する同化政策が行われていました。同化政策というのは権力を持つ民族が、権力が弱い民族(もしくは集団)に対して自らの文化伝統を受け入れるよう文化的同化を強いる政策を言うわけであり、歴史上、世界各地でこのような行為は残念ながら数多く行われてきました。何千年も続いてきた土地と共に生きていく暮らしではなく、異国の地で生まれた生活習慣や宗教が持ち込まれ、それに伴いそこにもともとあった文化や風習は失われていきました。シャーマン氏も例外ではなく、子供の頃から、先住民に与えられる缶詰食品や大量の炭水化物を食べて育ち、自分たちの民族に独自の食文化があることを知らずに育ったそうです。
先住民が暮らす保留地の多くは「食の砂漠(フードデザート)」と呼ばれる新鮮な食料品店などへのアクセスが困難な地域にあります。これに高齢化、過疎、貧困などの要因が追い討ちをかけ、住民らは栄養価の高い生鮮食品を手に入れにくく、加工食品に頼る傾向が強まります。それにより住民らは健康を損ねる可能性が高まる、というまさにこれは悪循環がエンドレスループする社会問題となっているのです。アメリカ全土で1900万人から3950万人ほどいると言われる食の砂漠で暮らす人たちは糖尿病の発症率がアメリカ平均の 2.5倍とも言われています。(食の砂漠には明確な定義がないため、数字にかなりばらつきがあります。)
そんな背景もあり、Owamni は単なるレストランではなく、食を通じた文化再生と健康改善のモデルケースとして注目されているのであります。それと同時にネイティブアメリカンの人口は増加しており、1920年頃の推計では人口約30万人とされていたのですが、現在では混血の人を含めると2020年の国勢調査では 約970万人となっており、およそ30倍に増えているということで、統計的にも影響力を取り戻しつつあると言えます。それに加えて、先住民族の食文化への再評価は世界的な潮流となりつつあり、たとえば、オーストラリアの「ブッシュフード」や北欧で広がるサーミ族料理、ハワイのネイティブハワイアン料理などが人気を博しています。
ショーン・シャーマン氏の挑戦は、「人にとって食とは何か」という問いを現代社会に暮らす我々に改めて投げかけているように感じます。私たちが何気なく口にする食べ物の多くははるか遠くからエネルギーを使って運ばれてきたものがほとんどです。日本の自給率はカロリーベースで38%と言われています。つまり、半分以上の食べ物は海外からやってきているわけです。ついつい食べ物を「おいしさ」「話題性」「栄養」「ジャンル」「レシピ」などのくくりで話がちですが、本来人間にとって食べ物とは自分たちが暮らしている土地が与えてくれるものであり、その遺伝子レベルの記憶をみんなに思い出してもらおうというのがOwamniの試みだと言えるかと思います。つまり、「自分が立っている土地は、どんな味がするのか?」という根源的な問いなのではないでしょうか。今の地球で人間を最もうまく操って繁栄しているのは「小麦」である、という話も最近はよく耳にします。小麦も砂糖もよく考えると究極なくても生きていける食べ物ですが小麦と砂糖は世界中にあふれんばかりです。大量生産で効率化された食材ではなく、その土地がもともと持っていた食材と、それを扱ってきた人々の記憶をたどることは古くて新しい文化の再発見であり、食の未来を考える上で欠かせない視点なのではないかと思い、今回はネイティブアメリカンの食を提供しているOwamniとその仕掛け人であるシェフであり創設者の一人、ショーン・シャーマン氏を紹介してみました!ちなみにわたくしはOwamniがあるミネソタ州には一度も足を踏み入れたことがありません。いつか行ってみたいと思っております。
そんなわけで、また再来週の水曜日にお会いしましょう。ちょびっとラビットのまとめ読みはこちらからどうぞ!それでは、アデュー、エブリワン!
(ウサギ社長)
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