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※本記事は、2025年10月10日「UpdataNOW25」の講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」をもとに、改めてインタビューした内容です。
2025年は、ダイハツのDX推進にとって大きな転換点となりました。10月時点で、2025年度末を目標としていた「DX人材1000名の育成」を達成しました。この実績を踏まえ、次は2027年度までに3000名のDX人材を育成するという新たな目標を掲げています。

1000人の育成を達成したときの心情は「まだこれから」というものでした。というのも、DXの本来のゴールは人材育成の数字を達成することではないからです。目指しているのは、一人ひとりがデジタルを「自分ごと」として捉え、現場主体でDXを推進できる組織への変革です。今回、Forbes JAPAN「CIO Award 2024-25」で「チェンジレガシー賞」を、CIO JAPAN「CIO 30 Awards JAPAN 2025」では、チームとして審査員特別賞を受賞できたのも、こうした姿勢と実践が評価されたのだと思います。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
ダイハツは「人にやさしい、みんなのデジタル」をDXスローガンとして掲げています。このスローガンには、デジタルが一部の専門家だけのものではなく、全従業員が活用できるものであるべきだという思いが込められています。そして、この理念を実現するために、「社内コミュニティ」と「社外コミュニティ」という2つの軸で取り組みを進めてきました。
また、経済産業省が認定する「DX認定制度」も、2025年に更新しました。この制度では人材育成が評価項目の1つとなっており、私たちの取り組みが国からも認められたことを示しています。ただし認定を取ることが目的ではなく、全社DXを本当に機能させることが重要です。その鍵となるのがコミュニティの存在です。
私は2007年にダイハツに入社し、小型車用エンジンの制御開発を担当していました。2017年からDXに関わり始め、現在はデジタル全般を担当する立場にあります。

DX推進についてよく聞かれるのが「トップダウンで進めてくれないから進まない」「ボトムアップが大事だ」という議論です。しかし私は、どちらが優先されるべきかという話ではないと考えています。結局、両方が必要だからです。重要なのは、経営と現場のベクトルをそろえ、組織全体がデジタルに向き合う風土をつくることです。トップのメッセージが不足している場合はボトムから提案してメッセージを引き出す。逆に現場の理解が足りない場合は、その理解を促進する取り組みを行います。経営者も現場も「自分ごと」として同じ方向を向くことが不可欠です。
「デジタルをやらなければならない」と思っているだけでは、誰も行動に移しません。だからこそ「やらなければならない」と感じた人がまずトライしてみるべきです。自ら実践することで共感する仲間が増えるはずです。
DXを進める上で確かなことは「特効薬は存在しない」ということです。長期的な視点で取り組む必要があり、「なぜ今取り組むべきなのか」と問われることもあります。そのため、短期的な課題と長期的な課題をつなげ、成果が出やすいところから始めることが成功のコツだと考えています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
また世の中の変化が加速する現在、「できない人に合わせる」というスタンスでは対応できません。そこで必要となるのが、「お先にごめんね」という考え方です。そこで必要となるのが、「お先にゴメンね!」という考え方です。これは、澤上篤人さんの言葉で、「我先に」と自分だけが利益を得ようとする姿勢ではなく、「自立して動ける人から一歩踏み出してみよう」という前向きなメッセージを含んでいます。
まずは、できる人が先を行き、仕組みややり方を整える。その姿を見て、周囲が「自分もやってみよう」と自然に思える状態をつくっていく。これこそが、本当の意味で「周囲をけん引する」ことだと考えています。
そしてその先に目指すのは、デジタル活用が当たり前の世界です。デジタルは、全員が同時に完璧を目指すものではありません。「特別な人だけができること」ではなく、後から来る人も無理なく使える状態を整え、誰もが自然にデジタルを使って働ける。そうした環境づくりこそが、DX推進を前に進める鍵だと考えています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
DX推進において私が重視しているのは、「いかに社内に仲間をつくるか」です。仲間とは、人と人とのつながりのことです。つながりが増えることで、疑問や困りごとがあっても相談し合って解決し、さらに関係を深めていくことができます。
この「仲間を増やす」という点で重要な役割を果たすのが社内コミュニティです。DX推進におけるエンジン、つまり推進力といっても過言ではありません。

DX推進における社内コミュニティの役割
※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
しかし社内コミュニティを実際に運営するのは簡単ではありません。私はこれまでさまざまなコミュニティの運営に取り組んできましたが、ユーザーコミュニティや製品コミュニティに比べて、社内コミュニティの運営は格段に難しいと感じています。
例えば、製品のユーザーコミュニティでは、製品に興味を持つ人が自然と集まります。しかし、社内のコミュニティでは従業員しかいません。その中からDXに関心を持つ人を見つけ、参加を促すのは大変です。それでも、少しの工夫で人が集まる魅力的なコミュニティをつくることができます。
ある勉強会で「社内コミュニティは見た目も含めてしっかりと設計するべきだ」という話を聞きました。上司や周囲から「遊んでいる」と思われてしまうと、予算もつきません。そのため、「何をするコミュニティなのか」を明確にし、少しでも面白い取り組みをしたら積極的に社内外へ発信することが大切です。
現在社内で活動しているコミュニティの一例を紹介します。社外ゲストによる講演や社内のデジタル活用事例を紹介する「ダイハツAIキャンプ」というコミュニティでは、毎月のイベントに200人もの参加者が集まります。2022年12月に始まり、これまでに40回以上開催しています。定期的に続けることが重要です。また、企画内容や参加者のニーズを分析しながら、常に改善を重ねています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
また「DXサロン」という部門横断型のコミュニティもあります。これは、各事業所にあるDX部署が横断的に情報交換を行うライブ型イベントで、各所で進められているデジタルの取り組みを共有する場となっています。全従業員を対象にオンラインでのライブ配信も行っています。これにより、部署間の連携が深まり、全社的なDX推進につながっています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より

※社内コミュニティ設計のポイント
※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
コミュニティ活動の成果の一例として、工場ライン業務の「困りごと」をデジタルで改善した事例を挙げます。この取り組みは「CIO Award 2024-25」の受賞にもつながりました。
このプロジェクトでは、PCを使った経験がないメンバーが、AIやDXの基礎知識からノーコードツールの操作方法までを学び、最終的には現場の課題解決に役立つアプリケーションを2カ月で開発し、実際の業務に活用できるまでになりました。

生成AIやノーコードツールが登場する以前は、プログラミングそのものが非常に難しいものでした。しかし現在では、課題を的確に設定し、それに合ったツールを活用することができれば、技術的なハードルを下げることが可能になっています。
この経験から学んだのは、「業務部門にとらわれないこと」の重要性です。DXに興味を持つ人や挑戦したい人、やる気のある人を社内から広く見つけ出し、コミュニティの仲間として巻き込むこと。そして、ノーコードツールを活用しながら短期間で「デジタルを活用した成功体験」をつくることが重要です。この成功体験を広げ、社内に定着させるループを構築していきたいと考えています。
社内のコミュニティがDXを推進するエンジンであるなら、社外のコミュニティはその推進を加速させる触媒といえます。この「内と外」のコミュニティを行き来することで、組織にダイナミクスが生まれ、取り組みがより加速していきます。
例えば、「関西Kaggler会」は企業や組織の垣根を越えて、データサイエンティスト同士の交流を促すコミュニティです。全国のトップデータサイエンティストも参加しますが、「初心者に優しい」というテーマを掲げ、幅広い層が参加できる設計にしています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
またウイングアーク1stと共催している「データ界隈100人カイギ」や、Snowflakeが主催する関西コミュニティなど、複数の社外コミュニティの運営にも携わっています。これらの場では、著名なゲストを招くなど、「すごい人から学べる場」「すごい人が集まる場」という点を重視しています。

※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
社内と社外のコミュニティは設計方法が異なるものの、共通しているのは「参加者自身がギバー(与える人)の精神を持つこと」です。参加を通じて何かを還元し、シナジーを生み出すことが大切です。社内と社外のコミュニティをうまく組み合わせることで、社内のDX推進に熱量を持たせ、より強力に進めることができます。

※社内コミュニティ設計のポイント
※太古氏講演「UpdataNOW25」で行った講演「DXムーブメントの発起人が語る、DX推進のカギは内も外も」より
こうしたコミュニティ活動を重ねた結果、ダイハツは2027年度までに3000人のDX人材を育成するという新たな目標に向けて動き出しています。この目標の達成は、各部署にDXに精通した人材を配置するための規模感を意味しており、全社的にデジタルを活用できる体制を構築する布石となります。そのために、経済産業省の「デジタルスキル標準」を参考にした新しい教育プログラムの追加や、内製による学習コンテンツの拡充を進めています。
また、生成AI活用についても2025年度から本格化しています。ダイハツでは2022年から生成AIの導入を開始し、2023年には独自の生成AIの運用を始めました。将来的には社員の9割以上が生成AIを日常的に活用できる環境を整備し、全社的な生産性向上を目指します。

2023年に策定したDXビジョンハウスをリニューアル

DX・IT ロードマップ。各事業部主体の「モノづくり」「コトづくり」と、DX推進部主体の「人をつなげる」「データをつなげる」「組織をつなげる」という組織変革により、ダイハツの目指すデジタル化を推進する。
最後に、もう一度お伝えしたいのは「自ら率先して取り組むしかない」ということです。自ら積極的に「違和感」を見つけ、それをもとに行動し、やりきることが大切だと思っています。
最初は尻込みしてしまうかもしれません。しかし、やりたいという気持ちを信じて、ファーストペンギンとして最初に飛び込んでほしいです。ある哲学者は「成功の3段階」という考え方を提唱しています。それは、「初めは笑われ、次に激しい抵抗や反対に遭い、最後にはみんなが『最初からわかっていたよ』と賛同してくれる」というものです。だからこそ、周囲に何か言われたとしても、自分の成功を信じてチャレンジを続けてほしいです。
私自身も「製造業を良くしたい」「会社を良くしたい」という思いで少しずつ取り組んできました。特別なことをしたわけではありませんが、やり続けた結果として「今」があります。
これからも、私たちダイハツ工業は「お客様に寄り添い、暮らしを豊かにする」という企業理念のもと、全社的なDXの取り組みを加速させていきます。その鍵となるのが、今回ご紹介した「社内と社外、2つのコミュニティが生み出す好循環」だと確信しています。

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