市場環境や顧客ニーズが多様化・不定化し、またChatGPTのようなイノベーションの登場により個人の働き方や求められるスキルも日々変化するVUCA時代。企業の能力として、変化する世の中に対応し続けるスキル──「ビジネスアジリティ」が求められています。
ビジネスアジリティとは何か、ビジネスアジリティを実現するにはどうすればいいのか、ビジネスアジリティの高い国ランキングなど、気になるポイントを押さえていきましょう。
ビジネスアジリティとは、企業が変化する環境に適応するために必要な「ビジネスにおけるagility(俊敏性)」のことです。たとえば、貴社はコロナ禍におけるリモートワーク(テレワーク)の導入に対し、どの程度俊敏に反応できたでしょうか? 新型コロナウイルスの流行から1年近く経過した2020年12月の野村総合研究所(NRI)のレポート『新型コロナウイルス世界8か国におけるテレワーク利用~テレワークから「フレックスプレイス」制へ~』では、日本、米国、中国などの8カ国でテレワークの利用率やその結果生じた主観的な生産性の変化についてのデータが紹介されています。
同資料によると、2020年12月時点では8カ国全てでテレワーク導入により生産性が「かなり落ちた」「落ちた」と回答した人の割合は、「かなり上がった」「上がった」と回答した人の合計を上回っていました。その理由としては、オンライン化による会議の質低下や、自宅では周囲の目がなく気が緩んでしまうことなどが挙げられています。
しかし、同じくNRIによる2022年7~8月の調査では、コロナ禍以前の2019年に比べて「生産性は上がった」と回答した人の割合が「生産性は下がった」と回答した人の割合を8カ国すべてで上回る結果に。しかも米国、英国など欧米諸国ではテレワーク非対象者であっても、2019年以前にくらべて「生産性が上がった」という回答が増加しました。同調査レポートの分析によると、コロナ禍をきっかけにテレワーク以外の領域でも進んだデジタルツールの導入が、テレワーク非対象者の生産性にもプラスの影響を及ぼしていると考えられるとのこと。
ここで、テレワークという新たな環境に適応し、生産性へのマイナスの影響以上にプラスの恩恵を得るために発揮された能力が「ビジネスアジリティ」です。コロナ禍の環境に俊敏に適応した企業はマイナスの影響を解消し、テレワーク外の領域でも生産性向上を達成したと考えられます。もちろん、職種や業種によってテレワークの導入が難しい場合も少なくありません。しかし、ここで重要なのは「テレワーク化を進める」ということではなく、コロナ禍という大きな出来事で生じたデジタル化へのニーズ、働き方の変化に対し自社がいかにすばやく応じるかということです。
なお、ビジネスアジリティと同様の概念としては「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」も挙げられます。
ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)とは? オーディナリー・ケイパビリティとの違いや3つの構成要素も解説
ビジネスアジリティの重要性はわかっているけど、いかに自社に導入すればよいのか? 特に規模の大きなエンタープライズ企業ではそうした疑問・悩みも生じやすいでしょう。
そのヒントとなるのが、システム開発のアジリティを高める手法のひとつとして知られる「アジャイル開発」です。「設計・開発・テスト・実装」という一連のプロセスをイテレーションという単位にまとめ、重要な機能から徐々に全体を形作っていくこの手法は、仕様・要件変更に柔軟に対応することを可能にします。
【タイムくん–第118話】リーン開発とアジャイル開発
そして、その手法を経営に応用する概念が「アジャイル経営」。組織内に職務を横断した小さなチーム「スクラム」を複数立ちあげ、それぞれがゴールに向かって自ら意思決定を行う組織運営アプローチです。組織の拡大による意思決定の遅れを小さな単位に分割することで解消し、それぞれのスクラムが顧客価値という揺るがないゴールに寄り添うことで、企業のビジネスアジリティは飛躍的に高まります。
ただし、その実現においては組織がバラバラになってしまわないためのミッション・ビジョン・バリューの浸透や、スクラム間のコミュニケーション・状況把握を促進するためのツール・仕組み・文化の導入が欠かせません。
たとえば、BIツールによるデータ可視化やチャットなどの活用もその一助となるでしょう。
日本のビジネスアジリティは、残念ながら他国と比べて劣位に位置づけられているのが実情です。
国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表する『世界デジタル競争力ランキング2022(World Digital Competitiveness Ranking 2022)』によると、日本のビジネスアジリティは調査対象となった63カ国中62位。デジタル競争力を総合的に評価したランキングでも29位と決して高くなく、「ビッグデータの利用と分析」(63位)や「海外経験」(63位)などとともに日本の評価を引き下げる要因となっています。
同調査における、ビジネスアジリティのトップ10・ワースト10のランキングは以下の通り。
※データ引用元:World Digital Competitiveness Ranking┃IMD
今、日本のビジネスアジリティはここまで低いということを前提に、危機感を持って組織改革やDXに取り組むことが求められています。
ビジネスアジリティの意味や求められる理由、取り入れる方法などについて解説してまいりました。最後のランキングでは、日本の評価の低さに衝撃を受けた方は多かったのではないでしょうか。このような現状を認識したうえで、あくまでもポジティブに未来を創造する行動が、ビジネスアジリティを高めると筆者は考えています。ぜひ、その際はデータのじかんで取り上げた「SF思考」などの手法もご活用ください!
【参考資料】 ・新型コロナウイルス世界8か国におけるテレワーク利用~テレワークから「フレックスプレイス」制へ~┃野村総合研究所 ・森 健『2022年の日米欧のテレワーク状況と将来展望』┃野村総合研究所 ・World Digital Competitiveness Ranking┃IMD ・Kanai Asuka『なぜ日本企業こそ「アジャイル経営」が必要なのか』┃NewsPicks
(宮田文机)
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