世界文化遺産登録されている元離宮二条城は季節を問わず、多くの観光客が訪れる人気スポットだ。
二条城と言えば、歩くと「キュッキュッ」と音が鳴るように作られているウグイス張りの床や極彩色の唐門などを思い浮かべる方も多いかも知れないが、ここは、江戸幕府の始まりと終わりに当たる徳川家康の将軍宣下に伴う賀儀と、徳川慶喜が大政奉還の意思表明をした場所であり、いわば江戸時代を象徴する歴史的建築物だ。
だが、今回の記事は、歴史の話ではない。今回は長い歴史の中で、人類と切っても切れない関係性にあるトイレ事情の話がこの記事の焦点となる。実はこの二条城、歴史ある世界遺産でありながら、そのトイレ設備には世界最先端の技術が使用されている。
ウイングアーク1st株式会社と株式会社シブタニおよびローム株式会社は京都市と協力し、「二条城のトイレの使用状況を見える化する」という実証実験を2018年2月6日から開始した。今回の実証実験は、大阪の金物メーカーである株式会社シブタニが開発したロック「スイッチストライクエアー」の誕生によって可能となった。「スイッチストライクエアー」は無電源で機能する無線通信技術が組み込まれたトイレ用のスライドラッチだ。バッテリーは搭載されておらず、トイレの使用者がラッチのスライドを操作して施錠するという動作で発電し、その電力を使って、施錠情報トイレの空き状況をネットワークへ発信するという仕組みになっている。無電源、電池レス、無線であるにも関わらず、トイレの使用状況をネットワーク経由で確認できるという画期的な仕様となっている。この技術は京都の電子部品メーカー、ローム株式会社が提供するスイッチ用発電モジュールEnOceanによって実現した。そして、ネットワークへ送られた情報はウイングアーク1st株式会社のBIツール、MotionBoardによって見える化される、というシステムになっている。この前代未聞の実証実験は、異業種3社と京都市が手を取り合うことにより実現した。
まだ実証実験は継続中だが、トイレの使用状況に関するデータ収集が開始されてから2ヶ月余りが経過した4月下旬、データが見える化されたことで何かメリットはあったのか、またトイレの管理方法がどう変わったかなどについて尋ねるため、二条城を取材した。
トイレの時間帯別の使用状況、あるいはどの個室が最も使われているのか、和式トイレがどのくらいの頻度で使用されているのか、に関するデータは今まで二条城では記録していなかった。だが、もしこれらのデータが正確に把握できればより効率的な清掃管理が可能かも知れない。時間帯別の混雑状況が分かれば、トイレだけでなく二条城全体の人の流れが把握できるかも知れない。これまで取れていなかったデータが見えるようになったことで、考えさせられる点も多かった、と元離宮二条城事務所で庶務係長を務める明知耕一郎氏は話す。
収集されたデータによると、入り口付近の個室が利用されることが多い、という傾向が分かった。女性個室で言うと、個室07と個室06(上の図参照)の使用回数が最も多い。データを見て驚いたのは、和式トイレが予想よりもはるかに頻繁に利用されていたことだ。おそらくこれは、外出先でトイレに行く場合、直接肌が便座に触れる洋式よりも和式の方を好む人がそれなりに多いことを示しており、和式トイレにもある一定の需要があることが分かる。女性トイレには和式トイレが3つあり、1ヶ月の使用回数はいずれも2000回以上となっていた。最も使われていた和式トイレの個室は約3700回使用されていた(取材当時の数値)が、対して、洋式で使用回数が少ない個室では1600回程度に留まるものもあることが分かった。(図では男性の個室利用の場合、女性と比較して母数は少ないが、洋式と比較して、和式の使用回数は若干少ない傾向にあった。
頻繁に使用されている個室の割り出し、和式トイレの需要の確認は貴重な発見だった、と明知氏は語った。
1 2
メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。
30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!