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【書評】『デザイン経営』が示す、経営とデザインのつなげ方。 「アブダクションアプローチ」とは?

         

デザイン思考、UI、UX……GAFAMの一角であるApple社などを理想形として「デザインが重要である」という意識は日本の産業界にも浸透してきたように思われます。しかし、実際にデザインと企業経営をどのように結び付ければよいのかについて具体的なイメージを思い描けている人がどれだけ存在するでしょうか。

一橋大学大学院経営管理研究科にて技術普及論、イノベーション研究、グローバルマーケティング研究を先行する鷲田祐一教授が2021年12月に上梓した『デザイン経営』(有斐閣)は、そのような経営とデザインの溝を埋める思考とデータの詰まった書籍です。

本記事では、同書の内容紹介を通して、デザイン経営とは何か、デザインは経営においてどう力を発揮するのかについて解説します。

そもそも『デザイン経営』とは何か UI・UXとは違う?


全8章+付録(日本のデザインキーパーソンへのインタビュー集)で構成された『デザイン経営』は、”そもそも日本のデザイン(design)という言葉は、直訳で意味する「設計」という意味をそぎ落とし、「図案」「意匠」などの要素を指す狭められた意味合いが定着してしまっている”という指摘からスタートします。

そのような凝り固まったデザインのイメージの拡張は、2018年5⽉発表の『デザイン経営宣言┃経済産業省・特許庁』などで試みられています。デザインの定義を分解し、弁別するために鷲田教授が用いたのが、『第4次産業革命におけるデザイン等のクリエイティブの重要性及び具体的な施策検討に係る調査研究報告書┃経済産業省』にて提案された下図の三段階のデザインの定義です。

※引用元…第4次産業革命におけるデザイン等のクリエイティブの重要性及び具体的な施策検討に係る調査研究報告書┃経済産業省

このように、デザイン経営とは従来の色や形に対する狭義のデザイン、現在デザイン思考の文脈で取りざたされることの多いUI・UXの広義のデザインを超え、ビジネスモデルやエコシステムの構築にデザインを生かしていくということを指します。

これは、個別の業務のデジタル導入を意味するデジタイゼーション、デジタルの活用により新たな付加価値を生んだり効率化を進めたりすることを指すデジタライゼーション、そしてデジタルによるビジネスモデルやエコシステムの改革を意味するDXの関係によく似ています。

いずれ場合も、これまでのデジタルやデザインに対して本当に刷新できているのかを検証することが重要といえるでしょう。

デザイナーが得意とする「アブダクションアプローチ」の力とは?


「経営のデザイン」の具体的なイメージが思い描ける方はまだまだ多くないはずです。

そこで押さえていただきたいのが、『デザイン経営』第3章で取り上げられるデザイナーが得意とする「アブダクションアプローチ」です。このテーマは、鷲田教授が2014年に上梓し、『デザイン経営』で回答される「問い」の源泉として「はしがき」で触れられている『デザインがイノベーションを伝える デザインの力を活かす新しい経営戦略の模索』でも取り上げられています。

同書第6章「デザインの力を経営に活かすために──五つの視点」では2つ目の視点として、文系理系というガラパゴスな人材の区分けが及ぼす悪影響について論じられており、(便宜的に一般化された)「理系」は“想定外”に対処することを、「文系」は“未来”に対処することを苦手とするきらいがあり、両人材にとって苦手分野となっている「“想定外”かつ”未来”」の領域にデザイナーが得意とするアブダクションアプローチが機能するという提案がなされています。

アブダクションアプローチとは、すでに証明されたことから未来を予測する「演繹」、無数の事実から法則を導き出す「帰納」に並ぶ第三のアプローチと言われており、対象への深い理解を背景に、結論を先に用意したうえで仮説を立てて法則を導き出す思考法を指します。以前データのじかんで取り上げた仮説思考(詳しくはコチラ)もアブダクションアプローチの類型といえるでしょう。

ラフスケッチなどを用い、イメージを形にしてから向かうべき道筋を作り上げていくデザイナーの思考過程は従来の文系・理系いずれのアプローチとも異なるものであり、仮説思考やプロトタイピングなど昨今イノベーションにおいて重要な要素とデザイナーが重なるポイントでもあります。

導き出されたデザイン組織の評価指標 重要なのは……?

ここまでの内容に目を通して、「デザイン経営の重要性はわかったけれど、明確な評価指標がなければステークホルダーを納得させることはできない……」といった嘆いた方もいらっしゃるでしょう。

『デザイン経営』第5章「デザインの効果」では、その難題に挑むべく、ソニーグループ、パナソニック、富士通、資生堂のデザインチームを対象とした調査の結果が紹介されています。
因子分析を用いて導き出されたデザイン組織の評価指標は以下の5要素でした。

【1】商品開発力
【2】情報の提供
【3】ブランドの一貫性
【4】アウトプットの速度
【5】コスト

なかでも「【1】商品開発力」「【5】コスト」の重要度が高く、重回帰分析を通して導き出されたのが以下の評価式です。

社内他部門によるデザイン組織への満足度(%)
=0.478×「商品開発力」スコア + 0.15 × 「コスト」スコア + 0.246

引用元:鷲田 祐一 (著)『デザイン経営』有斐閣、2021、p125

モデルの当てはまり度を示す決定係数は0.425と、そう高い水準ではないものの、その原因には参加企業数、企業のバリエーション不足があると推測されるとのこと。

同実験については、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)のYouTubeチャンネルで公開されている動画で、鷲田教授自らの解説を見ることができます。

終わりに

『デザイン経営』の中でもゼロからの入門に適した部分を抽出してご紹介しました。もちろん同書の内容はより深く、デザインとUX、価格などの関係性についての独自調査結果や、日本企業のデザイン軽視の現状・原因、デザイン経営時代のデザイナー像など多岐にわたるテーマが取り扱われています。

『WAF2018』における鷲田教授の公演レポート(前編後編)とあわせて、ぜひご覧になってみてください。

【参考資料】
・鷲田 祐一 (著)『デザイン経営』有斐閣、2021
・鷲田 祐一 (著)『デザインがイノベーションを伝える -- デザインの力を活かす新しい経営戦略の模索』有斐閣、2014
・デザイン経営宣言┃経済産業省・特許庁
・第4次産業革命におけるデザイン等のクリエイティブの重要性及び具体的な施策検討に係る調査研究報告書┃経済産業省

宮田文机

 
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