2024年6月18日、米半導体大手NVIDIA(エヌビディア)社の時価総額は3兆3,400億ドルに達し、世界1位となりました。その理由が、同社の主力製品であるGPUが近年のAIブームにおいて多大なニーズと期待を集めているからであることは間違いありません。
最近では2025年1月にDeepSeekショックを受けNVIDIAの株価が17%も急落したことがニュースでも大きく取り上げられました。2025年2月現在のNVIDIAの時価総額は3.06兆ドルとなっています。
世界的なITコンサルティング企業、米ガートナーは生成AIはすでにテクノロジーのハイプサイクルにおける「幻滅期」に入ったとレポートで発表しました。それまで「過度な期待のピーク」にあった生成AIバブルは崩壊してしまうのでしょうか?
この記事では、‟バブル”をキーワードにAIや最新テクノロジーと我々の関わり、AIバブルのこれからを論じます。
現在の状況がなぜAIバブルといわれるのか、そもそも現在はAIバブルなのかを知るために、もう少しデータを見てみましょう。
Statistaの調査によると、2024年のAI市場規模は1,840億5,000ドルと見込まれています。年平均成長率(CAGR)は35.4%であり、世界経済の成長率が2.6%(WorldBank調べ)だったことを鑑みればAI市場が急拡大していることがわかります。
※『Artificial Intelligence – Worldwide』(statista)よりデータ引用の上、筆者が作成
※2024年以降は予測値
また、スタンフォード大学の研究グループの調査レポートでは、2023年までのグローバル企業によるAI関連の投資額が報告されており、ピークの2021年には約3,374億ドルに達しています。
※『Artificial Intelligence Index Report 2024』(HAI)よりデータ引用の上、筆者が作成
2021年がピークなのであれば、AI市場はバブル崩壊したんじゃないの?
そう疑問に思う方も多いでしょう。しかし、2022年以降のAI関連投資の落ち込みには世界のVC投資額全体の落ち込みが影響しています。そして、そんななかでも「生成AI」関連の投資額は2023年に252.3億ドルで、2022年から9倍に急成長しています。
引用元:『Artificial Intelligence Index Report 2024』(HAI)、244ページ
ここからわかるのが、2024年現在言及されるところの「AIバブル」とはすなわち「生成AIバブル」だということです。また、生成AIブーム前夜である2022年に一足早くAI市場全体の縮小が生じたことが、現在生成AIブームの渦中にありながら、バブルという表現が使われるようにその縮小が人々の間で予期されがちな一因となっているのではないでしょうか。
「もっと大きなヤマを狙いませんか……?そうですね……死人がゴロゴロ出るようなヤマです……」
引用元:地面師たち『Episode#01』40:43-40:55┃netflix
2024年夏、大きな話題を生んだNetflixドラマ『地面師たち』で、地面師グループのリーダーハリソン山中が発した印象深いセリフのひとつです。
バブルといえば、やはり80年代後半~90年代に不動産・株式が高騰し、‟山手線の内側の土地でアメリカ全土が買える”という算出までなされた「バブル景気」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
あるいは、1999年~2000年にかけてインターネット関連企業への投資が急増し、株価が過度に上昇した「ドットコムバブル」がなじみ深いという方も、データのじかん読者には多いでしょう。
バブルとはすなわち、‟特定の市場や資産に対しその実態以上に経済的価値が膨れ上がり、異常な高騰を見せる状況”を指します。修正資本主義を提唱した経済学者のジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)は玄人の行う株式投資を100枚の写真から最も得票率の高い人物を予想し、一票を投じる「美人投票」にたとえました。
バブルが生じる背景には、その市場が今後も拡大する、あるいはほかの参加者がその市場に今後も投資を行うだろうという期待が存在します。
バブルが泡とたとえられるのは、以下の2要素が当てはまるためです。
1.実態以上に(中身は空洞にもかかわらず)膨らんでいる
2.いずれ限界を迎え、はじける
そのため、AIバブルという言葉が用いられる場合の多くで、その崩壊への不安や崩壊する前に自分だけは売り抜けたいという希望に言及されるのです。
AIバブルははじけるのか?
その答えは、AIバブルがバブルならば必ず‟はじける”というものになるでしょう。
問題は、人々の期待が潮が引くように離れ、これまでの期待が幻滅へと変わる‟Xデー”がいつ訪れるのかということなのです。その意味では、冒頭で触れたガートナーの予測(生成AIはハイプサイクルの幻滅期に入った)はすでにそれが起こりはじめているという宣言に当たるといえるでしょう。
とはいえ、生成AIと一口に言ってもその要素はさまざまです。2024年9月に発表された『生成AIのハイプ・サイクル:2024年』(ガートナー)では、「生成AI対応仮想アシスタント」は幻滅期に入っていますが、「マルチモーダル生成AI」や「汎用AI」等の技術はまだ「黎明期」に該当します。
引用元:Gartner、「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」を発表 - 2027年までに生成AIソリューションの40%がマルチモーダルになると予測┃ガートナー
また、注目したいのはテクノロジーは「過度な期待」のピーク、幻滅期を経てようやく啓発期にたどり着き、主流での採用が行われるということです。すなわち、バブルとその崩壊を経ることは、新たなテクノロジーの社会への定着において不可欠と言い換えられるでしょう。
重要なのは、その波をなるべくソフトランディングさせることであり、「AIバブルが起こるかも」という心づもりはそのために一役買うはずです。
この記事では、AIバブルの実態とその行く末について考えてきました。2024年9月19日、OpenAI CEOのサム・アルトマン氏が生成AIがAGI(汎用人工知能)のレベル2に達し、レベル3への到達も見据えていると発言したという話題が注目を集めたように、AIはまだまだ幻滅期を塗り替え再び大きな期待を集めるポテンシャルを秘めています。
我々にできるのは、その流れを疑いつつも乗り遅れないように注視し続けることなのではないでしょうか。
(宮田文机)
・米半導体エヌビディア、時価総額で世界1位に マイクロソフト抜く┃BBC NEWS JAPAN ・Artificial Intelligence – Worldwide┃Statista ・Global Economic Prospects┃A World Bank Group Flagship Report ・Artificial Intelligence Index Report 2024┃HAI(Stanford Institute for Human-Centered Artificial Intelligence) ・美人投票(証券用語解説集)┃野村證券 ・Gartner、「生成AIのハイプ・サイクル:2024年」を発表 - 2027年までに生成AIソリューションの40%がマルチモーダルになると予測┃ガートナー
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