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【書評】その規模なんと約250兆円!!成長し続ける「APIエコノミー」とは?

         

テレビやウェブをよく見ている方であれば、例えば、楽天カードのCMを見ない日はないでしょう。いまや、楽天は消費者の囲い込みに完全に成功しています。通常、クレジットカードの審査は金融機関が担当しますが、楽天は利用者の買い物履歴などを参考にし、その審査を独自に行えるようになっているそうです。このような囲い込みが、どんな企業でも行える日が来るかもしれません。今回は、佐々木隆仁・著『APIエコノミー 勝ち組企業が取り組むAPIファースト」』をもとに、この新たな概念について見ていくことにしましょう。

APIとは何なのか

このAPIという言葉、IT業界に勤めている人であれば、一度は聞いたことがあるはずです。IT業界以外の人でも耳にしたことはあるかも知れません。

APIとは「Application Programming Interface」の略で、本書によるとこれは「ソフトウェアとプログラムをつなぐためのインターフェイス」であり、「あるソフトウェアやサービスが持つ機能の一部を別のプラットフォームで利用してもらうために、ソフトウェアやサービスを開発した企業が利用する企業向けに提供する仕組み」である、と説明されています。具体例を挙げると、経費精算サービス『ジョブカン経費精算』は、経路検索アプリである『ジョルダン乗換案内』と連携しており、精巧な経路検索を用いて経費精算をすることが可能となっています。また、タクシー配車アプリ『Uber』は、いつでもどこでもタクシーを呼べるアプリとして有名ですが、「マッチング」以外の「地図」「決済」「コミュニケーションツール」はすべて他社が提供するAPIを利用していると言います。このように、複数のサービスを掛け合わせることにより我々の生活をより便利にしてくれているのは実はAPIによるものなのです。

なぜどんな企業でも利用者の囲い込みが可能になるのか

さて、ふたたび冒頭の段落に戻ります。

楽天のような利用者の囲い込みが、なぜどんな企業でも行えるようになるのか。それは、APIを開放することによって自社のサービスや機能の一部が他社に利用してもらえる可能性が高まるからです。もし自社のAPIを多くの企業が利用してくれるようになれば、自社のサービスの知名度は上がりますし、一般ユーザーに浸透していくことでしょう。そうなると、顧客の利用者の囲い込みにほぼ成功したと言っても過言ではありません。上の例で言えば、『ジョブカン経費精算』の利用者がそのアプリ内で『ジョルダン乗換案内』を利用することで、普段の路線検索の際にもジョルダンのアプリを使う可能性はぐっと高まります。これはほんの一例ですが、このように、利用者を囲い込むことができるのです。

API開放のメリット①「会社の規模に関係なくビジネスができる」

APIの開放のメリットは、「会社の規模」を気にせず同じ土俵で勝負できる点にあります。たとえ大企業ではない新興企業であっても、優れたサービスさえ持っていれば、それをAPIとして開放することで、多くの企業の注目を集めることができます。ビジネスコミュニケーションツールとして有名な『チャットワーク』も、2011年リリースという比較的新しいサービスです。しかし、APIを開放することで勤怠アプリや受付アプリなどと連携し、いまや同じくビジネスコミュニケーションツールである『Slack』と双璧をなす存在となっています。

API開放のメリット②「投資コストを抑えることができる」

もう一つのメリットは、APIを開放し多くの企業と結びつくことで、開発コストをかなり圧縮することができるという点です。

上のUberの例を見てみると、APIがない世界では「マッチング」以外にも「地図」「決済」「コミュニケーションツール」を同時並行して開発する必要がありました。地図だけに限ればゼンリンなど既存の地図会社から提供してもらうことができるかも知れませんが、Uberを実現するためには、その地図上をタクシーマークが動くように設計しなければなりません。

このようにAPI連携なしにUberを開発することは、新興企業にとってはかなりの投資であるため、UberはAPIの存在なしでは成立しなかった可能性も否定できません。

APIの活発な連携に必要な「API取引所」

さて、ここまでAPIの開放のメリットについて見てきましたが、活発なAPIの連携のためには、筆者曰く「API取引所」のようなものが必要であると言います。API連携のためには、APIを提供する場も必要ですし、APIを探す場も必要です。ここで筆者は、「App Store」や「Google Play」のようなものがイメージに近いと書いていますが、それだけでは足りないと言います。APIはスマホアプリとは異なり、実際に利用できるようにするためのサポートが必要になるからです。APIを熟知している人が少ない以上、「APIの使い方」から説明しなければなりません。問い合わせ窓口も求められるでしょう。また、提供する側も「企業との契約」や「トラッキングデータの管理」などが必要となり、これは個人でやるのには難しい業務と言えます。これらの業務を肩代わりしてくれるくらいでないと、API取引所は円滑に機能しないのではないかと筆者は指摘しています。

これらの問題をクリアできれば、無料のAPIだけではなく有料のAPIを流通させることも可能となり、そこに収益が生まれます。それこそが、本書のタイトルにもなっている「APIエコノミー」であり、経済へ大きなインパクトを与える存在なのです。最近のニュースで言うと、イーロン・マスク氏率いるTwitter社が2023年2月にAPIを有償化することを発表しており、APIエコノミーが実現される世界が確実に近づいていることを感じざるを得ません。

IT後進国である日本の「望み」

APIエコノミーは、日本に向いていると本書には書かれています。その理由としては、日本人は皆で力を合わせて課題を解決する姿勢がベースとして存在しているからだそうです。APIは力を合わせてサービスを強化していくものであり、まさにこれに合致していると言えます。日本人は決して「独り占め」しません。良いと思ったことは、ほかの人にも共有する文化があります。これが、新しいサービスを作るうえで力になるというわけです。

現在の日本は、確かにICT技術では立ち遅れています。しかし、マクロではなくミクロの視点で見てみると、ユニークなアイデアを持った企業・人物が多く存在するのも事実。そういった豊富なアイデアがAPIによって結び付けば、遅れたICT技術を復活させ、またふたたび世界に名を馳せる国になる可能性があります。

課題の多さも、日本の強みです。地震や大雨などの災害が多く、少子高齢化がかなり進展していて、そもそも国土が狭くて資源が少ない。このように「課題先進国・日本」であるからこそ、それを解決するために知恵を絞るプレイヤーが多いのも事実。そんな個々の力がAPIによって結び付けば、かなりの優位性が生まれるのではないかと思われます。

今こそAPIエコノミーを

米IBMの試算によれば、APIエコノミーの規模は2018年で2兆2000億ドル(約250兆円)にも上るそうです。円安傾向である現在では、その価値はさらに大きくなっていると思われます。API取引所の創設には様々な障壁があると思われますが、日本の将来のためにぜひとも官民一体で進めていきたい案件であると言えます。

APIエコノミーについてより詳しく知りたい方はぜひ佐々木隆仁・著『APIエコノミー 勝ち組企業が取り組むAPIファースト」』の書籍の方も読んでみてください。


(安齋慎平)

 
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