吉山 インバウンド促進を含めて、キャッシュレス化によって社会生活で利便性が広がる領域や課題を改めて教えてください。
永井氏 「キャッシュレス・ビジョン」でも言及していますが、「キャッシュレスであればもっとお金を使ったのに」と答えた外国人旅行者が7割いました。中国とタイからの旅行者では8割強です。とくに地方では自国通貨を円に両替できる場所も、円を引き出せるATMも少ない。そこで、いまはインバウンド取り込みのために地方の事業者がQRコード決済を盛んに導入しているようです。
今後はインバウンドがさらに増えるでしょう。我々も機会損失がないように推進していくし、地域活性化の意味でも重要だと考えています。同時に、地域の消費者の方にもキャッシュレスを使っていただいて、その迅速さや手間の少なさなど利便性をぜひ体感していただきたいですね。
また、小売業だけではなく医療機関のキャッシュレス化を進める動きもあります。外国人の旅行者が日本で病気になったとき、クレジットカードなどで治療費を払うことができれば、安心して旅行できます。治安がよい日本といえども、高額現金の持ち歩きはあまりお奨めできません。ちなみに、キャッシュレス推進協議会には日本医師会も参画しており、彼らも医療機関のキャッシュレス化は課題だと認識しています。
吉山 キャッシュレス化の対象をサービスまで広げると、商品(JAN)コードも課題が残されていますね。サービスや一部の地方特産品などにはJANコードがついていませんから。
永井氏 JANコードも課題のひとつですね。たとえば、JANコードをスマホで読み取ると、この商品が何なのか誰でもすぐにわかるJANコードの多言語化対応も検討中で、すでにビジネス化を進めているベンチャーがあります。この先にあるのが電子タグ(RFID)。電子タグによって、この商品がいつどの工場で作られたのかなどというJANコード以上の情報を付与することが可能です。在庫管理や消費期限管理が簡単になって、物流のスマート化につながります。他にもリコール商品の特定も容易になり、消費者と事業者にとって安心感を高められる考えています。
小暮氏 小さな店舗における資金繰りの課題も残されています。現金だったらすぐに支払いや仕入れができますが、キャッシュレスの売掛になると翌日の仕入れが難しくなる可能性があります。仕入先や問屋でもキャッシュレスで支払えるなど、商流相互のキャッシュレスの動きがないと全体は回らないでしょう。これらを含めて「大きなキャッシュレス化」が今後の課題のひとつととらえています。
永井氏 B2Bのキャッシュレス化です。そこは中国のアリペイが参考になります。小売店の仕入れもアリペイで決済。お客さまに売るときの決済もアリペイ。そうなると、仮想口座上での即時決済が実現します。決済事業者は、たとえば月1回の入金なら手数料無料、毎週や即日決済なら有料など、支払いサイトを短くする付加価値を提供して収益化することも想定できます。小売店に不利にならないように、付加価値に見合った手数料を得るビジネスチャンスになる可能性があります。
最後にキャッシュレスの災害対応について。2018年9月に北海道で地震による大規模停電があったとき、キャッシュレスは機能しなかったというご意見もあります。しかし、阪神淡路と東日本大震災を経て、通信キャリアは非常用電源を拡充したりして地震・災害対応を進めました。結果、今回の北海道でも携帯・スマホの通信回線は使えました。スマホが使えればQRコード決済は可能となります。店舗側もターミナル端末が可動すれば決済できます。
銀行ATMが止まって現金を降ろせなくなっても、ターミナル端末を動かす程度の電力と通信環境が確保できれば、キャッシュレスは十分に支払い手段になることが立証されました。逆に今回の北海道停電で何が困ったかというと、コンビニなどで現金(釣り銭)がないこと。店舗では価格の端数切り捨てで販売したりして、それが収益に影響を及ぼしたと聞いております。これらを考えると、「災害に強いキャッシュレス」も魅力のひとつとなると考えています。大切な課題として取り組んでまいります。
(ライター)
小島 淳(こじま・じゅん)
1965年仙台市生まれ。株式会社エンジン代表取締役/クリエイティブ・ディレクター。1991年から金融専門の編集・制作会社、独立系投信評価会社などで資産運用に関連する各種制作に携わる。2007年より現職。現在は資産運用を中心にESGやIRなどの企業経営が主な業務分野。CMやゲーム・アニメなどの音楽制作も手がけている。
株式会社エンジン:http://engines.jp/
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