キーパーソンと語る、コミュニティマーケティングの未来予想図–CMC_Central 2024開催レポート03 | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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キーパーソンと語る、コミュニティマーケティングの未来予想図–CMC_Central 2024開催レポート03

6月29日、愛知県名古屋市で「CMC_Central 2024」(コミュニティマーケティング推進協会主催)が開催された。同イベントは、コミュニティマーケティングの実践者が情報を発信、共有していくコミュニティ「CMC_Meetup」の祭典であり、当日は全国から実践者が集まった。「データのじかん」では、3つのセッションで語られた内容から、コミュニティ及びコミュニティマーケティングの可能性を追う。

第3回目の最終レポートでは、一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会代表理事の小島英揮氏をモデレーターとし、様々な識者が集まった。彼らは、将来「コミュニティ」がどのように発展していくのかについて議論し、それぞれの見解から「コミュニティの未来予想図」を探る。

製品やサービスのベンダーからの一方的な情報発信ではなく、ユーザーとユーザー間、ユーザーとベンダー所属者間などで、主に個人の立場から情報を発信し合える場である「ユーザーコミュニティ」。特にIT領域では、製品・サービスの評価や使い方、ユースケース情報が活発に共有されており、ユーザーのみならず、ベンダーとっても有用な場となっている。ベンダーが享受するベネフィットには、「顧客サポートの効率化」「フィードバックの収集」「ブランドロイヤルティの向上」などが挙げられるが、「マーケティング」に活用する動きも活発になってきた。6月29日、愛知県名古屋市で開催された「CMC_Central 2024」(コミュニティマーケティング推進協会主催)のセッション「キーパーソンと語る、コミュニティマーケティングの未来予想図」では、コミュニティマーケティングの意義と未来についてキーパーソンが語った。

CMC_Central 2024の「キーパーソンと語る、コミュニティマーケティングの未来予想図」

         

コミュニティマーケティングとは何か

本セッションのモデレーターを務めた一般社団法人コミュニティマーケティング推進協会代表理事の小島英揮氏は、協会としてのコミュニティマーケティングの定義を「事業者などが、製品やサービス利用者を対象として主宰する『コミュニティ』との双方向コミュニケーションを通して、顧客同士の交流と情報発信を促すことで、顧客の製品・サービスへのロイヤルティ創出や向上に貢献するとともに、顧客理解、顧客育成、顧客創造を連動させ、スケーラブルに実施すること」だとする。もともとコミュニティマーケティングという言葉自体、日本では同氏がAWSマーケティング本部長を務めていた2014年ごろに使い始めたものだという。

小島氏は、ITのBtoBマーケティングで30年以上のキャリアを持つ。2009~2016年にAWSの日本マーケティングを統括、日本最大のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS‐UG」の立ち上げに携わる。2016年にコミュニティマーケティングの普及・啓蒙を推進するコミュニティ「CMC_Meetup」 を立ち上げる。2017年にStill Day One 合同会社を設立、代表社員に。以降複数の企業でパラレルマーケターや社外取締役として活動中。(画像はコミュニティマーケティング推進協会のnoteより)

小島氏は、2024年2月に設立したコミュニティマーケティング推進協会の目的について、「コミュニティマーケティングを当たり前のものにすること。例えば書店に行けば関連書籍コーナーがあり、大学では講座が設けられるような一般的な概念とすること」だと述べた。

現在、同協会は6名の事務局メンバーで運営されており、対象となる各分野に専門知見を持つ「フェロー」が任命されている。本セッションでは、この6名のフェローに加え、2名の識者を加えた8名のゲストが登場し、「コミュニティマーケティングの未来予想図」と題して「ビジネス成長とコミュニティ」「価値共創とコミュニティ」「イノベーションとキャリアとコミュニティ」について語った。その内容を再構成してお伝えする。

未来予想図①:ビジネス成長とコミュニティ

(トークゲスト)
トレジャーデータ株式会社 執行役員 カスタマーサクセス本部長 坂内明子氏(協会フェロー)
Asana Japan株式会社 マーケティング・リード 長橋明子氏(協会フェロー)
Datadog Japan 合同会社 Senior Developer Advocate 萩野たいじ氏(協会フェロー)

コミュニティマーケティングの3つのキーサクセスファクターとコミュニティの関係

小島:ビジネス成長にコミュニティがどう関わるのかを考える際、CS(カスタマーサクセス)、LTV(ライフ・タイム・バリュー)、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の3つが、キーサクセスファクターになると思います。まずBtoCのカスタマーサクセス領域に詳しい坂内さんにお聞きします。

坂内:コミュニティとLTVは切っても切れない関係です。例えば、SaaSベンダーにとってサブスクリプションを続けてもらうのにコミュニティは有効ですし、それ以外にもコミュニティから得られるデータをブランディングに生かす取り組みが重要視されるようにもなっています。顧客体験を知る、インサイトを知ることで、マーケティングにつながることを実感しています。

左から坂内氏、長橋氏、萩野 氏(画像はコミュニティマーケティング推進協会のnoteより)

小島:Asana Japanでマーケティングを統括されている長橋さんは、BtoBの観点から、「お客さまに選ばれ続ける関係」についてどうお考えですか。

長橋:コミュニティはビジネスに直接結びつきにくく、成果が分かりにくいといわれます。実際に難しいところはあるものの、コミュニティに入っているユーザーは(サブスクリプションなどの)解約率が低いことが研究調査により明確になっています。またコミュニティ内の人は、製品・サービスを長く選び続けてくれるし、支払う単価も高くなりやすい。その相関はBtoC領域では世界に多くの先行研究がありますが、その一方、BtoB領域の研究は非常に少ないのが現状です。しかし、少ない中でもブランドのコミュニティ内の人はそのブランドの製品を買い続ける、好意を持っていることは明確になっており、さらにビジネスパフォーマンスにも好影響があるという検証もなされています。このような研究成果は、コミュニティマーケティングを後押しする力になると思います。

小島:コミュニティは、BtoC、BtoBともにLTVに好影響があるということですね。

提供している製品がよいものでないと顧客満足にはつながりません。ユーザーの望みを製品にフィードバックするPMFの観点も必要です。協会のDevRel(Developer Relations/デベロッパーリレーションズ)分野のフェローである萩野さんはどう見ていますか。

萩野:その観点では、PMFの少し前の製品認知の部分での活用が注目されており、「エバンジェリスト」や「アドボケイト」というキーワードが盛んに使われています。ただし最近はDevRel の解釈が拡大され、コストフェーズからカスタマーサクセスの領域、PMFの領域を連続的なサイクルにつなげていくことが意識されるようになりました。その点において、コミュニティには、ユーザーを巻き込んでフィードバックループをつくり、PMFに至るサイクルをつなげていく力があると思います。私たちはデベロッパーボイス(開発者の声)と呼んでいますが、それを集めてフィードバックして改善していくのがDevRel 推進の方法論の一つになっています。

小島:デベロッパーを自分たちのオーディエンス(特定テーマに興味をもつ人々)として、そのリレーションをどうつくるかという観点では、個々のコミュニティ毎にオーディエンスの設定があるはずです。(コミュニティづくりの段階として)オーディエンスを探すフェーズを置くのか、それともオーディエンスが集まった後にコミュニティをつくるフェーズがあるのか、その設定がコミュ二ティづくりには重要な気がします。

CS、LTV、PMFとユーザーコミュニティの関係性については、顧客を満足させ(CS)、長く続けてもらい(LTV)、製品・サービスを顧客要望にフィットさせ続ける(PMF)というサイクルを回していくとき、その中心にユーザーコミュニティがあると考えるとよいでしょう。

未来予想図②:価値共創とコミュニティ

(トークゲスト)
株式会社ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit Director 佐藤潤氏(協会フェロー)
株式会社パインバレー 代表取締役 CEO/日本オムニチャネル協会 フェロー 矢嶋正明氏(協会フェロー)

ドミナントロジックの変遷

小島:現在は、製品・サービスの価値を顧客が決める時代です。ここでは「価値共創」をキーワードに意見を交わしたいと思います。「価値」の考え方として、今までは製品・サービスの機能的価値を高めていく「グッズドミナントロジック」が主流でしたが、現在はモノをサービスの一部と捉えてサービス全体としての「体験価値」の最大化を目指す「サービスドミナントロジック」が注目されるようになりました。さらに今後は体験価値最大化の手段としてコミュニティを捉えつつ、コミュニティそのものの価値の最大化を目指す「コミュニティドミナントロジック」的な概念が必要になってくると思います。つまり、コミュニティを利用すると、企業の価値競争が優位になるのではないかと仮説を立てています。

長野県でクラフトビールをつくっているヤッホーブルーイングの佐藤さんと、ファッションブランドのBEAMSのDXを担った後、ハーレーダビッドソンのカスタマイズ会社であるパインバレーの経営者となった矢嶋さんにお聞きします。

左から佐藤氏、矢嶋氏(画像はコミュニティマーケティング推進協会のnoteより)

矢嶋:ハーレーダビッドソンのオーナーズコミュニティは、世界で数万人のコミュニティとなっており、世界最大規模だといわれています。ハーレーの機能性の評価は賛否ありますが、趣味嗜好の道具であり個人のフィーリングに合えば「よいもの」だと捉えています。「よい」と思う人が集まったコミュニティでは、その製品についての会話が製品の価値をコミュニティ外にも認知させることにもつながります。つまり、「製品の価値をコミュニティがつくっている」ともいえるでしょう。

また、BEAMSは、プライベートブランドの集合体です。BEAMSという全体の大きなコミュニティよりも、ブランド単位のマイクロコミュニティの方がスパイクが立ち(尖り)、着火しやすい。私は在籍時、赤い炎から青い炎へ、つまりより高い熱量を持つコミュニティを目指していました。

先ほどのドミナントロジックの流れに沿っていえば、モノからコトへ、その先はコトからヒトへ、さらに共感する人を集めていくというステップが、BtoC領域ではあるのではないかと思います。

佐藤:お客さまには、「何をやりたいのか」「誰に共感したいのか」「誰を応援したいのか」といったさまざまな思いがあります。他人(同じファン)とつながりたいという気持ちが出てきたときに、それを受け止める場所が必要で、その場所こそがコミュニティです。その際に企業も入っていき、企業としての思いを持ってコミュニティメンバーと真摯に向き合うことがすごく大切になるでしょう。

小島:ヤッホーブルーイングは「何を買いたいかではなく、誰から買いたいかをすごく意識している」という話を聞いたことがあります。(法人やブランドの)人格を理解してもらうというのは、広告では難しい領域ですよね。

佐藤:はい。当社は最近、より一層お客さまとは仲間や友人のような関係でありたいと考えています。「推される」ブランドを目指しているのです。

未来予想図③:イノベーションとキャリアとコミュニティ

(トークゲスト)
フジテック株式会社 / NPO法人CIO Lounge 友岡賢二氏(協会フェロー)
Snowflake合同会社 シニアプロダクトマーケティングマネージャー兼エヴァンジェリスト KT氏
IT批評家 尾原和啓氏

コミュニティマーケティングにおけるGrowthループとHookループ

小島:尾原さんはプラットフォームの立ち上げなど多くの実績・経験をお持ちですが、昨今のイノベーションやコミュニティについてどのように見ていますか。

尾原:コミュニティはイノベーションにつながりますが、イノベーションはインベンションとは異なり、0(ゼロ)から1(イチ)にするのではなく、1が生まれた後にそれを100にする、1000にするという取り組みです。近年SaaSベンダーなどは大型の資金調達をして集客に注力しましたが、その結果はITバブル崩壊につながりました。その後は、コミュニティを利用した方が持続的な成長につながるのではないかという意識に変わっています。そこでFinTechなどのいろいろなサービスがコミュニティを持つようになり、コミュニティを持った企業が勝てています。

小島:コミュニティファースト的な取り組みをしている企業が、成長しているということですね。資料としてお示しいただいたのは、アンドリーセン・ホロウィッツ(投資会社)のものですが、世界の投資の目利き企業が、コミュニティのしっかりしたプロダクトやサービスがうまくいくという分析をしているということですね。

尾原:コミュニティが1度(上手に)回ると、市場の独占まで進むともいわれています。最近時価総額世界1位になったNVIDIAはCUDAというプログラミングモデルを独占していて、米国司法省から独占禁止法違反の疑いをかけられていますが、同社のコミュニティがそこまでの市場の破壊力をもたらしたとも見てとれます。

コミュニティの素晴らしさは、「Growth(成長)」と「Hook(フック)」のそれぞれのループを正循環で回していけることです。フックというのはお客さまがどんどんはまっていく(熱中していく)という意味です。自分がコミュニティの中で起こした何らかのアクションが、参加者の反応を呼び起こすと嬉しくなり、さらに自分の開発物やアイデアなどのコンテンツをどんどん投下していくようになる。すると、自分のことがさらに認知されて居場所ができる。そのようなループをつくる仕かけがないと、持続的なGrowthループにはつながりません。

例えば、TikTok の初期の成長では、「隣にいる友人と一緒にやろう」という体験の共有の仕かけが重要でした。そのようなフックがあったからこそ、誘導・集客などに頼ったGrowthループを超えて成長ができたのだと思います。

左から尾原氏、KT氏、友岡氏(画像はコミュニティマーケティング推進協会のnoteより)

小島:コミュニティマーケティングにおいては、Hookのモデルがあるか、そしてそれが成長につながっているかを客観的に見てみるといいかもしれないですね。

尾原:例えば、Web3は本質的には初期のコミュニティや何かを育成した人に報いたいという根本思想があります。イノベーションを駆動するのには、投資をする人たちと、ユーザーをいかにループに入れていくかが重要です。投資家の投資によって製品ができるところはグッズドミナントロジックですが、開発者が人的資本を投下することによってファンクショナリティがアプリケーションに加わります。新たなアプリケーションが生まれると特定のユーザーグループが生まれ、サードパーティデベロッパーとユーザーのネットワークができ、またユーザー同士のつながりも生まれていく。するとコミュニティの価値が上がり、初期の投資家がもうかるという持続的なループができていきます。ただし、最後はコミュニティに集う人々が自分ごととして行動して成長していくことが大事です。

小島:イノベーションとコミュニティについて、産業セクターのフェローとして、友岡さんはいかがお考えですか。

友岡:大企業がコミュニティに参加することには2つの面があります。一つはカスタマーズボイスを取り入れられることです。例えば、AWSが日本に入ってきた当初は、大企業は「使わない理由」を一生懸命考えていたような場面がありました。しかしコミュニティの中では、AWSを使うべき理由が議論されていた。コミュニティの声が大きくなっていくことで、AWSは日本で普及していきました。

もう一つは、大企業がユーザーの声をまとめてベンダーに届けることにより、製品が改善されることです。例えば、海外クラウドベンダーに対して、日本国内にデータセンターが必要であることをコミュニティ内で議論していても、それだけではなかなか海外ベンダーに伝わりません。複数の大企業がコミュニティ内のカスタマーズボイスをまとめて海外ベンダーに伝えることで、国内へのデータセンター設置が行われます。この2つの面に注目すべきだと思います。

小島:最後に、複数のコミュニティを運営しているKTさんにご意見をいただきます。

KT:企業がコミュニティを運営していくと、企業はその恩恵を受けるわけですが、気をつけなくてはならないのは、コミュニティで価値を生み出した人には明確なリワード(報酬)が必要だということです。これは金銭ではなく、技術的ナレッジや有益な人脈の構築などが代表的なものですが、企業として積極的にリワードを与えることもできます。例えばアンバサダープログラムのような称号です。その称号があることでカンファレンスに出席枠をもらえたり、エグゼクティブに面会する機会が生まれたりすることがリワードになります。しかし、そのためにはアンバサダーという称号がどれだけの価値を持つものなのかを、周囲に示していく必要もあります。これにはアンバサダーとなった人の発信と、企業がその人の発信を押し上げる双方のポイントを押さえることです。その結果、アンバサダーはそれに見合った対外的発信をし、個人と企業の双方の力で発信力をあげていく。企業の仕掛けによってこのようなアンバサダーが増えていく。そのプロセスがきれいに回ったときに、大きな革新が起きます。

小島:本日のトークでは「回していく(ループ)」というキーワードがたくさん出てきました。ループしていくホイール(車輪)がずれないようにするためには、コミュニティがセンターでしっかり働きかけていくことが大切だと感じました。ありがとうございました。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 編集:野島光太郎)

 
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