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先の見えないVUCA時代、「イノベーションをどのようにして生み出すか」は大企業・中小企業問わず生き残りにおける重要テーマです。
そんななかで、「フルーガル・イノベーション」という手法が、現代にあったイノベーションの生み出し方として評価を集めています。
フルーガル・イノベーションとは何なのか、なぜ注目すべきなのか、実際の事例は……?
本記事では、上記のような気になるポイントをわかりやすく解説いたします!
フルーガル・イノベーション(Frugal Innovation)は、直訳すると「質素・倹約な」イノベーション。“予算や時間、エネルギーなどのリソースが限られた中で、より多くのビジネス・社会的価値につながるソリューションを生み出すこと”を意味します。
典型的なのが、新興国において、その土地の課題をシンプルなイノベーションによって素早く解決するタイプのフルーガル・イノベーション。例えばインドでは、現地の発明家により、電気を必要としない陶器製の冷蔵庫や1人で操作できる綿詰みマシンが発明された例が報告されています。同国で「斬新な工夫による応急処置」を意味する単語が用いられたジュガード・イノベーション(Jugaad Innovation)も、フルーガル・イノベーションと重なる部分があります。
ネクスト・ボリュームゾーンと目されながら購買力には制限があるBOP(Base of the Economic Pyramid)市場に向けて、フルーガル・イノベーションに着目するグローバル企業は少なくありません。新興国ではリープ・フロッグ現象に象徴されるように、イノベーションへの高いニーズがあります。
また、コストやエコに対する消費者の意識が高まる中で、品質が良くサステナブルでかつ安価な製品を提供するための手法としても注目が集まっています。新興・途上国へ向けてフルーガルイノベーションに取り組んだ成果が先進国に逆輸入される、リバース・イノベーションも期待されるでしょう。
ここで、実際の企業が取り組み成果を上げたフルーガル・イノベーションの事例を3つ見てみましょう。
1999年、ルノーはロシアの競合他社により、自社製品の半分以下である$6000で自動車が発売され、ヒットを飛ばしたことに危機感を覚え、自社のイノベーション文化の抜本的な改革に乗り出しました。そこで、同社が取ったのが、制限のある環境下に親和性の高いエンジニアの獲得からイノベーションをスタートするという戦略です。
厳しいコスト感覚を持つルーマニアのエンジニアとフランスのデザイナーの協働が行われた結果、パーツやデザインを簡素にする、従来よりも平たいバックミラーを使用するなどの工夫が施され、新製品はルノー品質を維持したままに$6000相当で2004年に発売されました。
結果として、ルノーは2008年の不況などを背景とする安価な製品への需要に上手く応え、ヨーロッパ内で多くの市場を獲得したといいます。
富士通では、農業の現場におけるICT活用を促進するべく、和歌山早和果樹園で技術者が農作業に参加することで深いニーズを探ったといいます。そこでわかったのが、現行のテクノロジーはまだまだ複雑で不便だということ。
例えば、軍手をした状態でスマートフォンを操作することはできませんし、明るい日光の下では画面が見えにくいという問題もあります。また、農作業後の疲れた状態で、データ入力の作業に取り組むことがひどく億劫だということも実感を伴って伝わりました。
そこで生み出されたのが、気温や降水量、土の湿度などを常時収集し、データ化するシステムです。適切な水分量や作業時間に関する生産者の知見と掛け合わせることで、生産力が大幅に高まり、みかんの質も高まったということです。
コロナ禍で生じた遠隔医療への需要にもフルーガル・イノベーションは寄与しています。
株式会社シェアメディカルは、もともと長時間の利用で耳の痛みを覚える医師の悩みに応える目的で、Bluetooth接続を利用したヘッドフォンやスピーカーでの聴診を可能にするデジタル聴診デバイス「ネクステート」を開発しました。そして、新型コロナウイルスの流行を背景に患者と離れて診療をしたいというニーズが生じ、同製品には思わぬ注目が集まることとなったといいます。
同社代表の峯 啓真氏はメディアの取材に対し、医師の声を即座に反映し、試作品をまずつくってみるフルーガル・イノベーションの精神を製品開発において大事にしていたと話しています。
フルーガルイノベーションについて、シリコンバレーのイノベーション&リーダシップアドバイザーであるナヴィ・ラジュとジャワハルラール・ネルー大学教授のジャイディープ・プラブがまとめた著書『Frugal Innovation: How to do better with less (フルーガル・イノベーション:よりコストをかけずよりよくするにはどうするか)』には、フルーガル・イノベーションの原則として以下の6つが掲げられています。
(1)エンゲージと反復
(2)資産を生かす
(3)持続可能な解決策を生み出す
(4)消費者のふるまいを形にする
(5)プロシューマーたちと価値を協創する
(6)イノベーション仲間をつくる
(1)は消費者を徹底的に観察することを意味します。フルーガル・イノベーションはミクロな視点で生活者の行動を観察し、彼らの問題解決の手法を考えることから始まります。つづく(2)は、今あるツールやアプローチを生かすこと。イノベーションを念頭に置くと、ついつい新しい発想に飛びつきたくなりますが、投資の前に手持ちの資産に目を向けることで予算だけでなく、時間の節約にもつながります。(3)はCradle to Cradle(ゆりかごからゆりかごへ)というスローガンに象徴されるように、地球環境と並走できる戦略を採用すること、(4)はブランディングや利用体験をいかにデザインするかに関わります。(5)のプロシューマーとは製品の使い方を創造・シェアして消費者を(コンシューマー)を牽引する人々のこと、(6)のイノベーション仲間はともに研究開発に取り組める他社や研究機関のことです。企業単体ではなく関わる人々、機関すべてと引き起こすのがフルーガル・イノーベーションなのです。
「フルーガル・イノベーションとは何か」について事例や原則とともにご紹介しました。効率や正しい段取りよりも機敏さを重視し、まずは足下からイノベーションに取り組むのが、この考え方の強みを生んでいます。
“イノベーション”を目指すとなると、ついつい大きく構えがちな我々ですが、質素・倹約を維持したままでも、いや、維持したままだからこそ、本当に問題解決につながるものが生み出せることもあります。
フルーガル・イノベーションの考えをぜひ今日からの仕事に生かしてみてください!
【参考資料】 ・ Navi Radjou (著), Jaideep Prabhu (著), Paul Polman (はしがき) 『Frugal Innovation: How to do better with less (English Edition) Kindle版』EconomistBooks、2015 ・渡辺珠子「“簡素な”イノベーションから再考する」┃日本総研 ・ナヴィ・ラジュ ジャイディープ・プラブ 「フルーガル・イノベーション:最少の資源で最大のインパクトを生む」┃HarvardBusinessReview ・【インタビュー】コロナで混乱する医療業界を救う次世代聴診デバイス。実現を可能にした「フルーガル・イノベーション」とは┃TOMORUBA ・「質素な発明」で生活改善 インドで花開くフルーガル・イノベーション┃CNN.co.jp ・ズオン・ティ・トゥイ「発展途上国におけるイノベーションに関する理論的考察─リバース・イノベーション議論の現状と課題を中心に─」┃流通科学大学論集─流通・経営編─第29巻第2号 ・新興国市場での成功の鍵――「FRUGAL」製品の可能性と落とし穴┃ITmediaエグゼクティブ ・BOPビジネスとは┃JETRO
(宮田文机)
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