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対談:中土井利行氏(ウイングアーク 1st)☓岡崎茂生氏(フロンテッジ)【後編】

データ分析の専門企業ウイングアークの中土井利行氏と元電通中国の岡崎茂生氏の対談の後編。(前編はこちら)訪日観光客の移動データやSNS投稿などの可視化画面を見ながら、次世代のインバウンドビジネスの構想について語った。

第三者データを活用する

中土井 訪日ビジネスのこれからの戦略を立てるにあたって、やはりデータ分析は重要だと思います。

 今までのBI(ビジネスインテリジェンス)は、自社の生産性や投資先の価値などを見ることが主たる用途だったのですが、最近は事業立案の判断や新たな市場を探すための外部の環境を見ることに移りつつあります。

 そこで我々としては、具体的な解決方法として外部のデータである「第三者データ」を提供するサービスを開始しています。単純に第三者のデータを提供するだけでなく、販売や顧客情報などの自社データを一緒に分析する仕組みを提供しています。
 特に昨年の後半ぐらいから、いわゆる訪日外国人の動向を知るためのデータが流通し始めています。我々としては、自治体、旅行業界、消費財メーカーなどが注目している「いかに海外のお客様を獲得するか」というテーマに答えるために、自社のBIシステムに取り込める形でのデータ提供をしています。

 国も結構良いデータを出していて、日本政府観光局が毎月発表するようなデータや、国土交通省が出しているような宿泊統計などがあります。一番ニュースに取り上げられやすいのが、法務省が入国でカウントした結果で、国籍や人数の根拠になっているデータです。

岡崎 我々も、こういうデータをよく参照します。

中土井 ところが、そうしたサイトに上がっているデータは、Excel形式であったり、二次加工が可能といいながら、分析に使えるようにするには結構な手間がかかるデータであったりします。そのために我々が整理整頓して使いやすいものにして提供しています。
 たとえば中国人の来日数ですが、月単位で出ています。ピークは春節の2月と言われていますが、4月もそれなりに来ているのが分かります。

岡崎 銀座と浅草で大きなレストランをやっている友人がいるのですが、彼が言うには中国人が来るのは、4月が多いのですよ。それと7、8、10月ですね。実際、データを見てみると確かに多い。

観光アプリのローミングデータ

中土井 今年は春節よりも桜のシーズンに多いですね。国のデータだけですと、日本に入ってきた全体の数までです。それからアンケート情報で、都道府県単位でどれくらい泊まっているのかは分かるのですが、やはり施策にからめるには、もう少し詳細なレベルが必要になります。

 またモバイル経由のデータもいくつか提供しています。一つはNTTドコモさんの携帯電話ネットワークのしくみを利用して作られるデータ。日本人のデータだけでなく、当然外国人も対照です。約400万人のローミングデータを捕捉していて、各市区町村に何人、どの国からやってきているか、調査するようなデータとして使えます。

岡崎岡崎 このデータを見ると思わぬ所に来てたりしますね。意外なことに東京近辺の宿泊施設は少なく、高いので郊外に泊まっていたりします。そうすると、その地域のコンビニで爆買いされる可能性があるというのは、データでつかめる。

中土井 特殊な要因の影響もわかります。たとえば昨年、山口県山口市のひかりヶ浜でボーイスカウトの世界大会があった時、観光客が異常に増えました。また栃木県にツインリンク茂木というサーキット場があり、二輪のGPがあったときにスペイン人とかオーストラリアとか二輪ライダーが活躍している国が急激に上がったりとか。昨年は横浜市港北区にアルゼンチン人が大量にやってきた。これはサッカーのクラブチャンピオンシップ。こういうイベントが結果として現れている。

 また国が地方創生のために地域経済分析システム(RESAS:リーサス)を構築し、情報を提供しているのですが、どうしてもまだ、施策には活かせない白書レベルのデータしか見られないのが現状のようです。実は我々が民間版リーサスと勝手に自称しているのですが、市町村単位でどれだけの方が、どんな風に分布しているかが分かるデータを提供しています。

 たとえばある県が、自分たちのエリアの中に大きな観光都市を抱えていたりするのですが、他のエリアは中々その恩恵に預かっていない。あるいは隣接する東京にはものすごく外国人が訪れているにも関わらず、交通の便が良すぎて素通りされてしまったりとか。そこで足止めして観光してもらうにはどうすればいいかというようなことを考えるのですね。

 ドコモさんのデータは比較的サンプル数が多いということもあって、訪日外国人のマクロ的な見方には非常に有効性が高い。ただ、どこで何をしているかがつかめないところもあります。ナビタイム社が最近、訪日観光客向けのモバイルアプリケーションを出しており、そこから周遊状況を出すことができます。たとえば東京から箱根に行くときは、どのルートを一番通っていうか。東名か小田急か、東海道なのかまで表現出来ます。そのほか、昼食時にどこに滞在しているのかなどのデータを取得することもできます。

ラベンダー畑から投稿する人たちとは

岡崎 やはりデータで見ると思いもよらない発見がありますね。たとえば中国人が好きなのがラベンダーで、北海道と栃木県が有名ですが、彼らが投稿している自撮り写真と移動データを可視化して見ると、いろいろと企画が考えられます.

中土井 仰る通りです。私が調べた結果を言うと、浜松フラワーパークと足利フラワーパークとひたちなか海浜公園。これがお花畑の宝庫なのです。実はそこを周遊する方が多いのですね。そこでの情報発信は「微博」(ウェイボー)が中心なのですが、最近、中国ではどうなのですか?

岡崎 「微博」は、簡単に言うとツイッターなので、情報を広めるには良いのです。しかし、一番はやはり「微信」(ウェイシン)ですね。つまり情報を友達サークルの中でシェアするというのが今の中国のやり方なので、ここで発している情報が取れると一番です。中国以外だとアジアを含めてインスタグラムが強いですね。

中土井 日本に滞在して、かつGPSで緯度経路情報を取得出来ている人の月間、6〜7万件のツイートの情報があるですが、すべて投稿した場所と、写真のURLがデータとして公開されています。先ほど話題のラベンダーが本当に人気があるのか、投稿された画像を見ると分かる。自撮りをした写真まで見えてしまうので、ドキッとしてしまいますが。

岡崎 公開しているものは「見てくれ」というのがグローバルスタンダードですからね。

中土井 単にそこに居ただけではなく、Facebookにせよインスタグラムにせよ何かを上げるということは喜怒哀楽の感情が発生するということです。他とは比べものにならない影響力が発生するエリアと考えると少し違うと思います。

 各自治体などが「ここに来て欲しい」という、観光スポット100選などを出していますが、こうしてデータで分析した実態とは必ずしも合致していません。

岡崎 そうですね、今までのやり方ではお役所仕事の判断になります。そうではなく、訪日客は自分たちで行きたいところを見つけて行動しているので、そこを新たな観光スポットにすればいいのです。

「なぜそこに行くのか」を考える

中土井 今我々が提案したいと思っているのは、なぜそこに行っているのかをデータから分析することです。参画している企画が面白いのか、彼らが魅力を感じる要因は何なのか、ニーズを見極めていくという所です。

岡崎 発信内容が分かるというのはすごく面白いですね。今までの発想だと、たとえば日本の情報を海外に届けようとすると日本を紹介する番組を作って、海外のメディアに発信しようというものになりがちです。

そうではなく、日本にはすでに海外からの留学生、仕事をしている外国人が沢山います。彼らにどんどんソーシャルでアップしてもらうと、自分たちの言葉で発信するから翻訳が要らないし、かつ日本の生の情報を海外に発信してくれる。むしろ日本にいる外国人に、無償でそういうことをしてもらった方が良いのではないか、と考えていたのですが、これはもはや必要ない。

たとえばタイ人が北海道に行って「これはいいよ」と発信してくれていることを把握出来る。今、どういう情報が共有されたかが分かる。これはものすごいことなのです。では、こうしたデータをどう使うかですね。

中土井 インバウンドのビジネスは2020年ぐらいまでは、まだまだ可能性があると思っています。その先の戦略という意味では、それまでにちゃんとしっかりと日本の企業が海外に出て、海外の市場でどうビジネスを獲得していくのかというところがやはり重要でしょう。
 本日は、有意義な対談を行うことができました。ありがとうございました。

岡崎茂生(おかざき・しげお)
フロンテッジ 執行役員 エグゼクティブ・ブランドコンサルタント
電通における広告・マーケティング・ブランド領域の実務経験をベースに、2006年~2013年の間、中国(北京電通)で中国・日本・アメリカ・韓国企業を対象にブランド戦略コンサルティングとブランド・コミュニケーションを事業展開。グローバルに通用するブランド戦略・管理・実践・測定を専門とする。海外各国でのブランドセミナーや大学での講演、東洋経済オンラインでのブランド戦略コラム連載などグローバルな発信を多数実施中。南京大学、湖南大学、山東大学客員教授。青山学院ビジネススクール講師。

中土井 利行(なかどい としゆき)
ウイングアーク 1st BI技術本部 副本部長 データプラットフォーム事業開発部部長
国・自治体および民間企業などが保有するデータを、広くマーケティング・セールス戦略に活かすことを目指した第三者データ提供サービスの企画・推進に携わる。2016年より現職。

[著] BizZine編集部
 翔泳社の運営するビジネスメディア:Biz/Zine(ビズジン)は企業の事業開発、イノベーション、スタートアップ、次世代テクノロジーに関する情報を提供するWebメディアです。本記事は「Biz/Zine」に掲載された「「位置情報」と「自撮り」から読み解く訪日観光客のリアル」を許可を得て、掲載しています。

本記事は2016年8月時点の取材に基づいた内容です。

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