データ活用を酒造りに取り入れている事例で、おそらく名前が挙がるのは「獺祭」でしょう。富士通のクラウドサービスである「Akisai」の導入によって様々なデータを蓄積し、獺祭の原料である山田錦の品質・収穫量の向上に取り組んでいます。
そんな獺祭のように、日本酒造りに最先端技術を取り入れている酒蔵があります。それが、今回取り上げる「南部美人」。果たしてどのような技術なのでしょうか? まずは、酒造りの”属人化”についてです。
日本酒の製造を監督するのは、杜氏(とうじ)と呼ばれる責任者であるのは言うまでもありません。杜氏は蔵内の管理、原料の扱い、酒しぼり、貯蔵、熟成といった全ての工程の最高責任者です。酒蔵で働く人全てが杜氏というわけではなく、杜氏は酒蔵につき一人のみです。つまり、製造工程における判断は、杜氏の勘と経験に裏打ちされた、逆に考えると勘と経験のみに依存したものとなっており、極めてわかりやすい「属人化」の形が存在します。そのため、何らかの事情で杜氏がいなくなってしまうと、お酒の製造が止まってしまう可能性もあり、同じお酒を作り出すことができなくなってしまう可能性もあります。
酒蔵には他に杜氏の補佐役を務める頭(かしら)、麹作りを担当する代師(だいし)、酒母製造工程を担うもと屋、洗米から蒸すまでの作業を行う釜屋、モロミをしぼる船頭(せんどう)、炊事を担当する飯屋(ままや)などの役職があります。杜氏まで出世する人は、炊事などの作業からはじめ、長い時間をかけて修行を積んでいき、酒造りに必要な経験と勘を手に入れたのです。お酒ができるまでの工程は上の動画を見てもらえるとイメージがつきやすいかと思います。
久しぶりに南部美人など♪ pic.twitter.com/USfE6fhoT5
— 寺田川 (@India_goose) September 25, 2018
岩手の日本酒「南部美人」。こちらの製造元では、人工知能(AI)を用いた日本酒造りを始めています。製造工程でAIが活躍するのは、「浸漬(しんし)」という工程。これは、酒米を洗った後に水に浸す作業のことで、ここで杜氏は酒米の種類や精米歩合、気温といった複数の条件を考慮して、吸水時間を決めます(参考記事)。
吸水時間がわずか1%ズレただけでも、その先の工程に影響を与えてしまいます。「一度吸水させたら、それを元に戻すことはできない」という失敗できない工程。酒造りの中で最も重要な工程に、AIを導入しようというわけです(参考記事)。
このプロジェクトを進めるのは、岩手県を拠点とする酒蔵・南部美人とima(アイマ)という会社です。米を水から引き上げるタイミングをAIが判別できるように、米の膨張率や割れ方をデータ化し、ディープラーニングで解析していきます。ディープラーニングには、ABEJAが提供しているABEJA Platformを活用して実施。米の状態変化を撮影するガジェットには、DMM.makeの3Dプリンタを使って製作したそうです(参考記事)。
このプロジェクトによって、これまで杜氏に依存してきた感覚を可視化することができるようになりました。AIを活用した酒造りは、日本酒業界では初だそうです(参考記事)。
先日も発表いたしましたが、全国新酒鑑評会で本社蔵、馬仙峡蔵が2年連続の金賞を同時にいただきました。本社蔵は近年13年で12回の金賞、馬仙峡蔵は新規清酒製造免許をいただいて4年で3回の金賞受賞となります。
— 久慈浩介 (@nanbubijinsake) May 30, 2018
今日は東広島での製造技術研究会に来ています。 pic.twitter.com/gjJCDMbcVl
「このプロジェクトで得られたノウハウがクラウド上で共有されれば、日本の酒造りに良い影響を与えるのではないか」と、南部美人5代目蔵元の久慈浩介氏は語っています(参考記事)。技術者が一人前になるには、長い期間経験を積む必要があります。特に杜氏のような技術者は技術継承が難しく、技術者の人手不足が今後の課題となっていくでしょう。杜氏の勘と経験の可視化は、人手不足に悩む酒蔵に希望を与えるものなのです。
ディープラーニングとは、十分なデータ量があれば、人間の力なしに機械が自動的にデータから特徴を抽出してくれるDNN(ディープニューラルネットワーク)を用いた学習のこと。DNNとは人間の脳神経回路をモデルとしたアルゴリズムです。将棋や囲碁などのプログラムに学習させるために使われた技術でもあります。今では、将棋も囲碁もプロ棋士を負かしてしまうほどの強さにまで成長しました。ディープラーニングについて詳しく知りたい方はこちらのサイトを参考にしてみてください。
ディープラーニングは、工場で不純物を検知したり、レントゲン写真やCTスキャン、MRIなどの画像からガンなどの悪性腫瘍を検知したりするなど、今後多くの分野で活躍が期待されている技術です。日本酒のような伝統的産業で、その利点を生かすことができるのかこれから注目です。
【参考記事】 日本酒造りにディープラーニング 岩手の銘酒「南部美人」の挑戦 (1_2) - ITmedia エンタープライズ 「人工知能の眼」が伝統技術の継承をサポートする─ 岩手県・南部美人と株式会社imaが描く、日本酒×AIの未来 _ SAKETIMES 『AIは日本酒職人の助けになるか』 全ては美味しい日本酒のために – grape [グレイプ] ディープラーニング(Deep Learning)とは?【入門編】 _ LeapMind BLOG 業界初!酒造りにAI 二戸「南部美人」東京の企業と実験 杜氏の経験や勘をデータ化 _ 河北新報 - This kiji is
(安齋慎平)
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