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オーバーツーリズムで混乱する京都市市営バスの切り札「観光特急バス」の実力はいかに!?データと現地調査で実態を探る–生情報取材班 vol.04

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第4回は数々の鉄道関連書籍の著者、新田浩之さんが京都のオーバーツーリズムと観光バスの実情をレポートします!

 

昨今、「京都=オーバーツーリズム」という図式が定着しつつある。海外からのインバウンド客は喜ばしいが、あまりにも増えすぎて市民生活に影響が出ている。その代表格が京都市バスである。休日になると、乗車できないケースもあるという。そこで、京都市バスの切り札として登場したのが「観光特急バス」である。データと照らし合わせながら「観光特急バス」の意義と乗車の感想を述べていきたい。

         

バスの混雑で苦しんでいる人々の実態

そもそも、京都市バスの混雑ぶりで苦しんでいる利用者の割合はどれくらいだろうか。この問いで参考になる資料が京都市産業観光局が発表した「令和5年京都観光に関する市民意識調査」である。これは京都市内に住む満18歳以上を対象に行われた。

この中で「路線バスや地下鉄などの公共交通機関が混雑して迷惑する人がいる」という問いに対し、「とてもそう思う」「そう思う」の合算は72.1%となった。「路線バスや地下鉄などの公共交通機関が混雑して迷惑した」という問いへの回答をエリア別に見ると、「とても当てはまる」の割合が最も高いのは清水・祇園周辺で、60.0%にもなった。その他、「とても当てはまる」の割合を見ると、三十三間堂や京都国立博物館がある東山七条周辺が51.0%、京都駅周辺が46.3%と続く。

また、実施してほしい施策を尋ねたところ、京都市全体で最も高い項目が「公共交通機関における混雑対策」であり、71.4%にものぼった。区ごとに見ていくと、京都市11区のうち、8区が「公共交通機関における混雑対策」が1位だった。

さらに2022年調査では、「路線バスや地下鉄などの公共交通機関が混雑して迷惑する人がいる」の「とてもそう思う」「そう思う」の合算が78.9%だった。前述したように、2023年度は72.1%だったことから、微減はしているものの、抜本的な対策は必要という声が多いことに変りはない。このように、京都市交通局はオーバーツーリズム問題に真剣に対処する必要がある、という実態が確認できた。

データで探る「混雑バス路線」

数あるバス系統のうち、どの系統が混雑するのだろうか。京都市交通局が2021年11月から12月にかけて実施した「市バス旅客流動調査」を見ていく。なお、この調査は平日、休日に分けてアンケート調査が行われ、回答者は約32万人(平日)であり、このうちの約8割は京都市在住者であった。

系統ごとのバスの混雑ぶりを見ていくわけだが、ここでは乗車効率という単位を用いる。乗車効率の算出方法は人キロ÷(客車走行キロ×客車平均定員)×100だ。なお、京都市交通局では基本的に定員74人で計算している。乗車効率は車両1台あたり乗車定員に対する平均輸送人員の割合である。

■人キロとは

交通機関の「輸送規模」を計測するための指標で、輸送した旅客人数に各人が乗車した距離を乗じた累計のこと。

休日1位は5系統(岩倉操車場前~京都駅前)の38.2%だ。5系統は京都駅前から烏丸通、四条烏丸から四条通へ入り、岡崎公園美術館・平安神宮前方面へ向かう。途中、四条河原町(阪急京都河原町駅)、三条京阪前(京阪三条駅)といった阪急、京阪の主要駅も経由する。ちなみに、平日は25.8%であり、休日と平日で差があるバス系統でもある。

2位は50系統(京都駅前~立命館大学前)であり、学生の利用が多いバス系統だ。3位は206系統(北大路バスターミナル~京都駅前~北大路バスターミナル)の循環系統であり、30.3%である。206系統は東山二条・岡崎公園口、祇園、五条坂(清水寺)、博物館三十三間堂前といった京都市内の主要観光名所を通る。

また、停留所間別の旅客数では1・2位が京都駅前~四条河原町、3・4位が北大路バスターミナル~京都産大前、5位が京都駅前→五条坂、6位が清水道→京都駅前である。なお、京都駅前→清水道は9位にランクインする。ようするに、京都駅前~清水寺間のバス輸送がいかに太いか、よくわかる。

さらにここからは肌感だが、土休日の主要バス系統は遅延も常態化しているように感じる。これで満車で乗れないとなれば、市民としてはやってられないだろう。まとめると、主要駅と主要観光名所を結ぶバス系統の乗車効率が高いことがよくわかる。一方、取り上げたバス系統の走行距離は長いため、全区間にわたって混雑している、とは考えにくい。

混雑の切り札になるのか「観光特急バス」

このような現状を踏まえ、京都市交通局は6月1日より「観光特急バス」を運行することになった。観光特急バスは2系統、EX100系統・EX101系統が設定された。EX100系統は京都駅前から五条坂(清水寺)、祇園、岡崎公園美術館・平安神宮前、銀閣寺前の順に停車し、京都駅前へ戻るルートだ。

EX101系統は京都駅前~五条坂(清水寺)間を周遊し、ノンストップとなる。「特急」を銘打っている通り、主要観光地以外のバス停には停車しない。運行は土休日に限る。ルートの選定は先述したデータの結果を見ればよくわかる。京都駅前→五条坂間は停留所間別の旅客数でトップ10に入ったことから、京都駅前~五条坂間の区間系統を設定した、と考えられる。

また、京都駅から岡崎公園へ向かう5系統・206系統の特急バージョンとして、EX100系統が設定されたと考えれば理解が早い。EX100系統は京都駅前から銀閣寺へ向かう105系統の特急バージョンでもある。一方、京都市内の主要観光地である金閣寺へ向かう観光特急バスは設定されなかった。金閣寺道は停留所間別の旅客数上位30位には含まれていない。

料金は観光特急バスのみ大人500円となった。他の京都市営バスは230円である。観光客の利便性を図ると同時に、京都市への還元が意識されている料金設定といえるだろう。

実際に乗車して確かめた利便性

筆者撮影

筆者は8月の週末の午前中に、京都駅前からEX100系統に乗車した。観光特急バスは京都駅前バスターミナルの京都駅側手前から出発する。案内表示もわかりやすく、スタッフの案内も丁寧だ。京都観光ビギナーの方も、迷うことはないだろう。

筆者撮影

観光特急バスの料金は大人500円ということもあり、乗り場の近くには地下鉄・バス1日券(1100円)の券売機がある。筆者も購入した。1日券は磁気券なので、専用機で印字する必要がある。印字すれば、後は印字された日時を運転手に見せるだけでよい。ただ、いちいち印字するのは面倒といえば面倒だ。このあたりはQRコード化にすれば解決できるのだろう。

筆者撮影

観光特急バスは通常の京都市営バスと異なり「前乗り・後降り」だ。この前乗り・後降りも混雑緩和、所要時間短縮の一環だ。京都市交通局は2017年に前乗り・後降りの実験を行った。交通局によると、後乗り・前降りと比較すると、1人あたりの平均乗降時間は0.2秒減り、停留所での平均停車時間が11.5秒短縮されたとしている。

京都駅前にいるスタッフが案内しながら、利用客が先に清算処理をしていた。運転手からするとスタッフの助けも得られることから、前乗り・後降りの方がいいだろう。もちろん、停留所に着けば降りるだけのため、想像以上に乗降はスムーズだった。

発車すると、停留所に止まらない分、乗降に要する時間がないことは大きなメリットだ。一方、信号の待機時間や渋滞といった問題が余計に目立つ。本来なら、道路に観光特急レーンを設けたいところだが、現実にはなかなか難しいだろう。京都駅前発車時は立ち客もあり、なかなかの混雑ぶりだ。乗客の多くが観光客といった感じだ。

10時57分に京都駅前を発車してから19分後に五条坂(清水寺)、25分後に祇園に着いた。降車は見られるが、まだ立ち客が多い。祇園のバス停ではバスの渋滞が発生した。33分後の11時30分に岡崎公園美術館・平安神宮前に到着した。ここで一気に乗客が降り、車内は筆者を含め6名に。45分が経過した11時42分に銀閣寺前に到着。ここで乗客が入れ替わり、京都駅前方面へ向かう利用者が乗車した。

筆者撮影

なお、平日昼間時間帯の時刻表を見ると、5系統京都駅前→岡崎公園美術館・平安神宮前までの所要時間は32分だ。筆者が乗車した観光特急バスは30分を要し、ダイヤ上では15分遅れである。バス停の通過、前乗りだけではスムーズな運行は難しいという課題も浮き彫りになった。

一方、京都駅前~岡崎公園間は立ち客があるなど、観光客に認知されている。訪日観光客も見かけた。観光客と日常利用客との分離は一定程度、成功しているように見えた。今後、清水寺や平安神宮へはJR京都駅から観光特急バスという流れが一般化するのか、気になるところではある。

著者・写真撮影:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
 

(取材・TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)

 

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