板ガラス産業で「異色」の業態確立 株式上場を果たしたOOKABE GLASSの代表が語る新規事業のハジメカタ | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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板ガラス産業で「異色」の業態確立 株式上場を果たしたOOKABE GLASSの代表が語る新規事業のハジメカタ

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「Local DX Lab」は地域に根ざし、その土地ならではの「身の丈にあったDX」のあり方を探るシリーズ。今回は福井県福井市に本社を構えるOOKABE GLASS株式会社だ。同社はBtoBビジネスの板ガラス業界にありながら、ECサイトを通じてエンドユーザーとやりとりし、工務店などにガラスを卸すという「BtoCtoB」の業態を確立。2023年6月には株式会社東京証券取引所TOKYO PRO Marketへの上場を果たした。今回は既存のサプライチェーンが強固な業種にも関わらず、異なる仕組みを生み出したOOKABE GLASS株式会社の大壁勝洋代表取締役にそのヒストリーと見据えるこれからについて伺った。

         

OOKABE GLASS 株式会社 会社情報

BtoC(toB)のECサイト「オーダーガラス板.com」、「鏡の販売.com」などを運営し、ガラス・鏡のインターネット販売では実績の売上トップ。ECサイトプロデュースを手掛けるBtoB事業部門「FPEC(エフペック)」、ECサイト制作・集客システム分析開発の「OOKABE Creations」などの子会社で事業を展開。メディア運営やアプリ運営、開発なども幅広く手掛ける。

 

創業のきっかけは家業のM&Aへの「反発」

大川:2003年8月にOOKABE GLASS株式会社の前身である大壁商事株式会社を設立していますね。ご実家もガラス屋さんだったと伺っていますが、家業を継ぐのではなくおひとりで創業した理由を教えていただけますでしょうか。

大壁勝洋氏(以下、敬称略):私の実家は祖父の代からガラス修理を手掛けており、父親の代も母親、兄、弟、親戚のおじさんなど家族で従業員を60名抱えながら、ガラスの加工請負業を経営していました。お客様は大手家具メーカーなので典型的なBtoBでしたね。状況が変わったのは、2000年頃。当時、中堅の板ガラス加工企業に会社が買収(M&A)されたのです。私は反対派だったこともあり、買収後は会社から出ざるを得なくなって一人で独立したというわけです。ただ、独立したといっても当時の私にはガラスの工事しかできなかったわけですから、「生活救急車」という店舗や個人宅のガラス修理を行うFC(フランチャイズ)に参画。当時、仕事が多かった大阪に単身乗り込みました。

OOKABE GLASS株式会社 代表取締役社長 大壁 勝洋 氏

大川:なるほど。会社員になるという選択肢はなかったのですか?

大壁:家業のある家庭の次男坊ということもあると思うのですが、会社員になる気持ちはまったくありませんでしたね。だから2003年、私が35歳のときに大壁商事株式会社を福井県坂井市に設立し、その3カ月後には大阪に事業所を立ち上げました。

大川:新しいことをやるとか、反骨心とか、やはり根っこが商売人の息子というのもあるのでしょうね。今の会社や大壁さんの姿を見ると妙に納得できます。大阪ではどんな仕事をしていたのでしょうか。

大壁:簡単に言うと「24時間365日、現場に駆けつけてガラスを修理します!」という仕事ですね。当時は非常に不景気で東京と大阪が一番泥棒が多かったのです。泥棒が多いということは侵入するためにガラスが割られてしまう案件も突出していたというわけです。このような背景もあり、当時はかなり多忙を極めていました。

大川:創業当初の驚きといえば、会社を設立してたった1年でISO9001 : 2000を取得されているんですよね。事業所数(1つ)、従業員数(大壁氏1人)、設立年数(1年、大阪営業所を設立して11カ月)といずれの状況を鑑みても、かなり異例だと思うのですが。

大壁:そうですね(笑)。当時、ISOを取得するには300万円くらいかかったと思いますし、そもそもガラスの緊急修理事業でISOを取る人はあまりいないですよね。ただ、大阪の本部のガラスの在庫置き場を使わせてもらっていたこともあり、「全国展開するなら経営品質を磨いておいて損はない」と当時の私は考えていたのだと思います。

大川:一人会社の経営者や自営業者であっても「自分で食べていけたらいいや」と思っている人では、なかなか至れない思考だと思います。

大壁:今振り返ると、きっと半分は承認欲求なのだと思います(笑)。ただ、この承認欲求って意外と重要で、これから先も私が行動するきっかけになるんです。

個人向けのガラス板販売サイト設立の裏側

大川:そしてついに2005年に全くビジネスモデルが異なる個人向けのガラス板の販売サイト「オーダーガラス板.COM 」を制作し、運営を開始すると。

大壁:はい。出張のガラス修理を行うなかで、個人向けにもテーブルトップのガラス天板とかガラスの棚板などのオーダー品に需要があるのではないかと思い、とりあえずHPを作ってもらいネットオーダー事業をスタートしました。すると初日から注文が入ったので驚いたことを今でも覚えています。

大川:ガラス業界では規格品と非規格品では、かなり料金が異なるのでしょうか?

大壁:そうですね。六尺サイズや八尺サイズが、メーカーから問屋に卸される標準的なガラス板の大きさの単位なのですが、鉄のパレットに入って搬入されますし、大きすぎて個人で扱いきれるものではありません。そのため、そこからカットや加工を行い、その分の手間賃や加工賃などが乗ったうえで個人に届くという流れになります。

大川:なるほど。大壁さんのオーダーガラス事業の場合、加工したガラスは一般ユーザーと業者のどちらに納品することが多いんですか?

大壁:一般ユーザーに届けることが多いですね。ただ、設置などの作業は私たちでは行いません。板ガラスが到着した後、お客様が工務店などに連絡して設置してもらうという流れになります。

大川:まさにBtoCtoBという珍しい業態が初日から完成したというわけですね。現在も個人向けが中心なのでしょうか?

大壁:現在は店舗や工場などからも注文いただいています。

大川:そうなるとBtoBtoBというわけですね。すごい広がりようですね。もう一度、なぜ全く異なるビジネスに挑戦する決断をされたのでしょうか?

大壁:現実的にガラス修理の仕事は、体力が続かないからです。稼ぎは良かったのですが、夜中に作業しなけばならならいことも当たり前でしたから。「なにかしなければ」と思ったタイミングで、当時、楽天がニュースで取り上げられることが多く、ネットを活用したビジネスを検討し始めたというわけです。正直、不安のなかから出てきたアイデアだったと思います。

大川:そのなかでも、例えば場所を変えて家業と同じ業態をしようとは思わなかったのですよね。ユニークな仕掛けをしようと思ったのは、当時の業界のあり方なども関係したのでしょうか?

大壁:そうですね。今も昔もガラス屋さんというのは、基本的に個人に直接売るという考えはないんですよ。ガラスはあくまで建材の一種であり、工務店や建築業者を相手にするのが当たり前です。そのなかでも私はガラス修理という少し特殊な仕事のおかげで、個人の方と直接触れ合える機会が多かったのが、オーダーガラス事業のアイデアが生まれる環境だったのだと思います。ガラスが割れているところに駆けつけて修理するので、個人のお客様はすごく感謝してしてくれますし、優しいんですよ。ご飯を食べさせてくれたり、お茶をくれたり、毎日「ありがとう」を言ってもらえる。BtoBでは味わえない「承認欲求」が満たされるのを感じました(笑)。

大川:なるほど(笑)。だからこそ、個人を相手にしようと思えたというわけですよね。企業と個人で納品先が違えば、やはり売値も異なりますか?

大壁:大いに違いますね。やはりBtoBでは定価ががっつりと決まっていますし、値引き交渉も当たり前です。一方、BtoCになれば定価そのものがありませんから、自分で値付けをしやすいのは大きなメリットです。

事業構想は「その人がなにかできるか」を考えるのが最初の一歩

大川:クリエイティブを手掛ける「OOKABE Creations株式会社」を2018年に設立されたと伺っています。なんでもシステムエンジニアやデザイナー、ディレクターはもちろんライターも自社採用して内製化できているとか。

大壁:クリエイティブ領域の業務はオーダーメイド販売には欠かせませんが、事業会社であるOOKABE GLASS株式会社でクリエイティブ人材を採用、定着させるのは少し難しいかなと感じました。やはりクリエイティブ人材はクリエイティブな会社を志望する傾向が強いので。そこでまずはクリエイティブ専門の子会社をつくってクリエイターを抱えていこうと思いました。

大川:当時はデザイナーやシステムエンジニアとチームでプロジェクトを動かしていく空気ってなかなかなかったですよね。大壁社長は元々、クリエイティブなどのご経験はありましたか?

大壁:まったくないですね(笑)。だからシステムエンジニアの社員の仕事を「どう評価すればいいのか」とか不安は尽きませんでしたよ。ただ、お客様のことを一番知っているのは私という自負はありますから、積極的に口を出していましたね。

大川:なるほど。ただ、今も昔も内製化するって簡単には言えてもかなり難易度って高いですよね。その辺の「思い切り」の根拠ってなんでしょうか。

大壁:それは恐らく、ずっと外注さんに仕事を振っていたからですよね。外注とのコミュニケーションの難しさや品質の担保などは、やはり限界があると常々感じていました。だったらもう内製するしかないという流れだったと思います。CGデザイナーや漫画家・イラストレーターなども社員として採用した実績もあったうえで振り返ると、やはり今のクリエイティブの仕事のやり方を外注さんを使って実現するのは難しいと感じています。

大川:本当に多種多様なクリエイターの方々が在籍しているんですね。今、一番不足していると感じられているクリエイティブの職種などはありますか?

大壁:やはり世間一般で言われているようにエンジニア不足は常々感じています。そこで2022年に立ち上げたのが株式会社FPEC(エフペック)です。FPECは「ECサイトのブランディング」と「エンジニアの育成」の役割があります。この役割をどうカタチにするか構想を練っているときにある若者と出会い、思いを伝えると「ぜひ一緒にやりましょう!外からじゃなくて中から参加させてください」と言われ、その人と一緒にFPECを立ち上げました。上場準備期間中の決断だったこともあり、周囲からは散々言われましたね。実際に半年くらい上場が遅れてしまいましたし(笑)。

大川:なるほど。OOKABE GLASS、OOKABE Creations、FPECとさまざまな職種や方々が集まっていますが、なにか組織の作り方などで意識されていることはありますか?

大壁:常に意識しているわけではないのですが、基本的に私が仕組みや枠組みをつくって従業員には作業に没頭してもらうという体制になっていると思いますね。「大壁商店」のようなイメージでしょうか。

大川:上場をした今、大壁商店のままでいるべきなのか違うカタチにすべきなのかどう考えていますか?

大壁:今は後継者を育成している途中です。少し気になるのは「やりたいことの発想」が私からしか出ていないこと。出ていないのが悪いことではなく、逆に私が「やりたいこと」を諦めたら、スムーズに後任に任せられるのではないかと思いますね。例えば、今は「地域の企業のデジタル化を進めたい」という、やりたいことで頭がいっぱいですから。実際、経営者と若者をマッチングするアプリ「福井県若者情報発信(FWI)」を無償で作成し、県と一緒に運営もしています。

福井県若者情報発信(FWI)」福井県の若者が今発信したい情報や福井県チャレンジ応援チーム(COT)が発信するイベント情報などを受け取ることができるアプリ

大川:本当に色々とやっていますね。そこで気になるのが、これまでにない業態の確立、異業種への参入、地域貢献など中小企業の社長というお立場ではなかなか見られないレベルで取り組んで、しかも淡々と進めている印象があります。そのやり方の感覚ってあるのでしょうか?

大壁:うーん。一つひとつの取り組みで感情的にも、期待値的にもモチベーションという意味でも「山」をつくらないことでしょうか。あと、私は他人に対して、つい「もったいない」と思ってしまう癖があるのもポイントのひとつなのかもしれません。自分の能力に気付かないまま生きてしまう人もいるし、気付いていても会社の枠にはめられて発揮できていない人もいる。だからこそ、私は事業を構想する際に考えるのは最初は「人」なのです。

大川:つまり、その人ならできるビジネスを考える。という意味でしょうか。

大壁:その通りです。「この人だったらこの事業がぴったりだ」「この人にマッチするビジネスを考える」という感覚でしょうか。だからこそ、他の方にアドバイスするのであれば「事業を興す人は、ピカピカである必要はありません。自分ではなく、出会ったその人にあったビジネスを見つけてください」ということでしょうか。

約20年振りに県組合理事長として交代就任。組合の新たな役割の構築を目指す

大川:ガラス修理からオーダーメイド販売、そしてDX・デジタル企業として変遷する貴社を同業者たちはどのように見られているのでしょうか?

大壁:そうですね。私は現在、福井県板硝子商協同組合の理事長と全国板硝子商工協同組合連合会の理事を務めています。特に福井県板硝子商協同組合は前任者が約20年務めた後に仰せつかっています。福井県板硝子商協同組合はいわゆるガラス産業の小売業者の集まりですね。いわゆる窓ガラスを販売している業者がほとんどです。

大川:OOKABE GLASSは家の内側の製品が多いので、小売業者といっても商材はかなり異なるんですね。OOKABE GLASSがやっていることって理解してもらえるんですか?

大壁:正直言うと、なかなか理解はしていただけないですよね(笑)。そんな状況もあり、当初はかなり賛否はありました。ただ、実績を重ねて名前を知ってもらえるようになると、興味を持ってもらえるようになりました。その結果もあって、諸々の組織の重役を任せていただいているのだと思います。

大川:なるほど。先ほど、地元貢献というワードもいただきましたが、今のお立場でやりたいことなどはありますか?

大壁:協同組合の元々の役割は「小さな事業者が集まって共同購入・購買する」ことでした。ただ、現在は組合員も問屋やメーカーと直接取引しており、元々の役割は失われています。だからこそ、私は協同組合の新しい役割として「協同宣伝」を行うことを提案しています。協同宣伝の場を県や市町に設けて宣伝し、共同受注して組合員に還元するシステムができれば良いなと考えています。あとは、組合員が抱えているデッドストックをひとつの倉庫に集約し、地域に再流通させる「ソーシャルショップ」も作り上げたいですね。

 
大壁勝洋(おおかべ かつひろ)氏(写真右)
OOKABE GLASS株式会社 代表取締役社長
1967年生まれ、福井県出身。2003年に実家のガラス加工会社から独立し、2006年にネット通販事業に着手。集客・サイト制作・コールセンターを内製化し、「使いやすい」だけではない「融通が利く」ECサイトを多数開設。現在は、建築用内装ガラス・鏡のネット販売でNo.1の売上シェア(日本マーケティングリサーチ機構)を誇る。2023年6月、売上12億円・平均年齢30歳の従業員約60名で、TOKYO PRO Marketに上場。その他、福井県板硝子商協同組合理事長、全国板硝子商工協同組合連合会理事、板硝子協会機能ガラス普及推進協議会委員も務める。
 
聞き手:大川 真史(おおかわ・まさし)(写真左)
データのじかん主筆
IT企業を経てシンクタンクに約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所ものづくり専門家WG座長、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG副主査、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
 
執筆 藤冨 啓之
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
 

(取材・TEXT:藤冨啓之 PHOTO:北山浩士 企画・編集:野島光太郎)

 

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