EBPMならぬPBEMとは?EBPMの違いを押さえ、その原因について考えよう

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データやきちんとした評価プロセスに基づいて政策立案に取り組むEBPMEvidence -based Policy Making)。日本でも「RESAS」など具体的な実践例が増えてきています。
──では、みなさんは「PBEM」についてはご存じでしょうか。

一見、EBPMのPとEを入れ替えただけに見えるこの言葉ですが、その意味合いは大きく異なり適切な政策立案において注意すべきポイントです。その詳細な意味や原因、防ぐために知っておくべきことなどについてまとめて知っておきましょう!

PBEMとは“政策に基づいて証拠を作り上げる”こと”

PBEM(Policy-based Evidence Making)とは文字通り“政策に基づいて証拠を作り上げる”こと。 “証拠に基づいて政策を作り上げる”EBPMと因果関係が逆になっています。
例えば以下のようなケースがPBEMの例として挙げられます。

・政策に合致したデータをでっちあげる(データを捏造する)
・偏った母集団から得られたデータを、あたかも一般的な事例かのように見せかける(データを改ざんする)
・複数回実施した調査のうち、政策に合致した数値が得られた結果のみを抽出する(恣意的にデータを選別する)
・勘や根拠のない推論をもとに政策を立てる(データをつくらない)

例えば、2018年、裁量労働制をめぐる安倍晋三首相の答弁で、裁量労働制で働く人の平均労働時間に「実労働時間」を、一般労働者の平均労働時間に「1カ月で最も残業時間が長い一日」を用いた『平成25年労働時間等総合実態調査』(厚生労働省)の数値を引用し、「意図的なデータの捏造ではないか」と野党から批判された事例は、実際に意図的なものであればPBEMに該当するといえるでしょう。

もちろんPBEMは日本固有の問題ではなく、2004年にはすでにイギリスの医学誌BMJ(British Medical Journal)にてロンドン大学の疫学・公衆衛生学教授マイケル・マーモット氏により「Evidence based policy or policy based evidence?」というタイトルの記事が発表されています。

PBEMはなぜ起こってしまうのか? どう防ぐべきなのか?

PBEMが起こってしまう原因を、個人や集団のズルさ・計算といった個別の問題からもう一歩進んで考えてみましょう。

PBEMという言葉が日本に広まる一つのきっかけとなった学習院大学経済学部経済学科教授・経済学者の鈴木亘氏が『医療経済研究』2018年1号に掲載した巻頭言「EBPMに対する温度差の意味すること」では、行政のEBPM導入がなかなか進まない要因を探る文脈で以下のような事実に言及されています。

・経済学者の研究成果はスピード感・カバーする範囲・問題意識の違い、ほかの施策との関係性や制度設計・関連法規への視点の欠如から、実際の政策立案の現場では役に立たない場合が少なくない
・組織内の力学においてデータを持つことが有意に働いている場合、共有することがすなわち特定の部署の弱体化につながる(と考えられている)
・減点主義の終身雇用社会においてEBPMによる政策評価は官僚個人個人にとって大きなリスクとなる(と考えられている)

データの運用において理想と現場の運用のギャップがあり、組織内の個人最適において証拠に基づいた運用がプラスと受け取られない。似た状況は政策立案に留まらず、一般の企業でもよく観られることでしょう。

EBPMを推進し、PBEMをなくしていくには、現場の実情に基づいたデータの運用を確立するとともに、現場にメリットを残しデメリットについての懸念を払拭する形でEBPMを定着させていく、あるいはある種ドラスティックな構造改革・ルール設計に着手することが不可欠だと考えられます。

必要なPBEMも存在する?

EPBMに対する研究者と現場のギャップを、国立環境研究所環境リスク・健康研究センター(生態毒性研究室)主任研究員の林岳彦氏は「研究者の“Eから視点”のアプローチと現場の“PMから視点”(※1)」のアプローチという言葉で表現しています。

林氏は、政策形成において「政策効果の検証」は政策課題の決定から実施、修正に至る流れの一部に過ぎないことを指摘。「政策が効果に影響を及ぼした因果関係」という字義通りの意味だけでなく、専門家の意見や純粋な観察研究まで含めた広義のエビデンスを日本のEBPMにおいて採用することを提案しています。広義のEBPMという文脈に当てはめれば、エビデンスが不十分ながらミツバチへのリスクが懸念されるネオニコチノイド系農薬をEUが時限的に規制した後、科学的根拠に基づいて正式に規制したように、政策立案が証拠に先行することも「良い、というか業務上必要(※2)」とのこと。

EBPMは良い、PBEMが悪いと一概に割り切ることは運用上難しい部分があります。「広義のEBPM」という視点はEBPMを本当に定着させるうえでは必要でしょう。

※1…引用元:「林岳彦「EBPM, “E”から見るか? “PM”から見るか?」┃slideshare」のスライド13of22

※2…引用元:「林岳彦「EBPM, “E”から見るか? “PM”から見るか?」┃slideshare」のスライド15of22

終わりに

政策ありきで証拠を作り出すPBEMについて紹介し、理想と現場のギャップを踏まえてどのようにPBEMに対処すべきかについて考えました。

根拠に基づいて案を立てる「EBPM」の考え方は政策立案だけでなく、EBM(Evidence-based Medicine:証拠に基づく医療)EBM(Evidence-based Management:証拠に基づく経営)といった分野にも共通しています。

そしてPBEMのリスクも同じく広い分野に共通しているでしょう。データドリブンの手法が浸透しはじめたからこそ、データの悪用・誤用を防止する意識が重要です。

本記事を端緒に、データの取り扱い方をアップデートしていきましょう。

【参考資料】
・鈴木亘「巻頭文 EBPMに対する温度差の意味すること」┃『医療経済研究』、2018年1号
・山口 一男『PBEMを排し、EBPMを促進すべきである』┃REITI 独立行政法人経済産業研究所
・林岳彦「EBPM, “E”から見るか? “PM”から見るか?」┃slideshare
・鈴木宣弘「EBPMがPBEMに?~種苗もコロナも、データに基づいた議論の重要性~【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】」┃JAcom
・野党「捏造ではないか」厚労省を批判 裁量労働制問題┃朝日新聞DIGITAL
・安倍晋三首相vs野党、裁量労働制調査めぐり応酬┃産経ニュース
・安積 明子「日本の官僚が「ねつ造・改ざん」を始めた根因」┃東洋経済オンライン
・Michael G Marmot「Evidence based policy or policy based evidence?」┃BMJ
・欧州委員会、3種類のネオニコチノイド系農薬の屋外での使用禁止を決定(EU)┃独立行政法人 畜産産業振興機構

宮田文机

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