引っ越し手続きがオンラインで可能に。デジタルファースト法のメリットとデメリットは? | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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引っ越し手続きがオンラインで可能に。デジタルファースト法のメリットとデメリットは?

         

最近筆者はベルリン内で引っ越しをしたのですが、引っ越しに伴う各種手続き(住民票移転、税務署の変更、電気・インターネット契約)をドイツ語でしなければならず、たくさんの時間と労力と冷や汗を消費しました。

例えば、ドイツでは転出入の際、区役所に足を運び、職員に対面で書類を提出します。前もって提出時間をスポット予約する必要があり、この予約はオンラインで可能なので、いっそのこと届け出自体もデジタル化すればいいのにと思ったり。

税務署の変更も窓口に出向いて住所変更を届け出るか、書面で通知する必要があります。また確定申告はオンラインで可能なものの、納税額の通知や各種お知らせなどはすべて郵送で届きます。

ちなみにベルリンは郵便事情が悪く、重要文書を紛失されることが多いので、通知類こそデジタル化してほしいのですが……デジタルと非デジタルがパッチワーク気味というのが、ドイツの印象。

日本でのお役所手続きが変わる?

さて、行政の紙文化ではドイツに引けを取らない日本。各所の窓口に出向いて行う手続きが多く、利用者の不便に加え、行政側のコストもかさんでいます。

この状況を変えようというのが、2019年5月24日に成立したデジタルファースト法。政府主導で行政手続きのデジタル化の促進を目指しています。では、具体的にどんなことがデジタル化されるのでしょうか。

デジタルファースト法の三原則は次の通り。

1. 「デジタルファースト」— 手続きをIT(情報技術)で処理
2. 「ワンスオンリー」— 同一の情報提供は求めない
3. 「ワンストップ」— 手続きを一度に済ます

具体的な例としては、

・引っ越しの際の住民票の移転手続き。電気、ガス、水道などの契約変更が一度でできるようになる
・死亡やそれに伴う相続手続き
・法人設立。登記事項証明書の添付が不要になる
・国外転出者の各種行政手続き

こうした手続きがオンラインでできるよう、今年度から来年度にかけシステムが整えられていく予定です。

また各地方自治体でも、数年前から住民票のコンビニでの取得が可能になりつつあります。

いろいろ便利になりますね、良かった良かった……で締めたいところなのですが、話はもう少し複雑。というのも、このデジタルファースト法の実施にはマイナンバーカードの普及が大前提となるからです。

普及しないマイナンバーカード。その理由は?

コンビニで住民票を取得したり、オンラインで行政手続きを済ませるには、マイナンバーカードの所持が必要。マイナンバーカードは2016年に政府の肝いりで開始されましたが、その普及率はわずか13%未満、利用者は1640万人に留っています(2019年3月時点)

内閣府が2018年に行った世論調査では、マイナンバーカードを取得しない理由は第1位が「取得する必要性が感じられないから」で、55%以上の人が回答。第2位の「身分証明書になるものは他にあるから」は40%以上の人が回答しており、メリットが感じられないというのが大きな理由のようです。

次にそれぞれ25%前後の人が「個人情報の漏えいが心配だから」、「紛失や盗難が心配だから」と回答。1枚のカードに名前、住所、銀行口座情報までもが集約されているため、セキュリティへの不安が伺えます。

保険証や運転免許証などの各種証明書がこれまで通り使える中で、セキュリティ面でのリスクを冒してまでマイナンバーカードを取得したくない、ということでしょうか。

http://katori-atsuko.com/wp-content/uploads/2019/05/f1f97a14b1e13771f499dafc7c5805d3.jpg
内閣府「マイナンバー制度に関する世論調査」

マイナンバーカードを取得すればオンラインで行政手続きができるというのは確かに便利ではありますが、実際のところ引っ越しや相続手続き、法人設立などは人生でそう頻繁に経験することではありません。ですからここでもマイナンバーカードのメリットを感じにくく、普及が進まない=デジタルファースト法の空洞化に繋がる可能性もあります。

監視社会のリスク

そんな中、政府は2019年9月1日、マイナンバーカードとスマートフォンのキャッシュレス機能を紐付けると、入金2万円に対して5000円分のポイントを還元すると発表しました。

ここからは、どうにかしてマイナンバーカードを普及させたいという政府の意図が見えるとともに、国民の消費行動を監視しようとしているのではないか、という疑念が付きまといます。

これは単なる陰謀論ではなく、中国では実際に行われていること。ホームレスが寄付を受け取る時さえスマホ決済というハイパーキャッシュレス社会の中国では、政府がスマホを通して人々の消費行動を監視し、信用度の格付けに使用しています。反社会的・反政府的な消費行動とみなされた人は、特定の商品のスマホ決済が制限されることもあるそうです。

こうした疑念を振り払い、マイナンバーカードの普及を促進するには、ポイント還元のような小手先の施策ではなく、セキュリティと運用の透明性を高めることが最優先ではないでしょうか。

この先しばらく紆余曲折ありそうなデジタルファースト法。政府の一挙一動に注目しておきたいところです。

参考リンク:デジタルファースト法が成立 行政手続き電子化デジタルファースト法の成立で、何が見えてきたか。2万円で5千円還元?政府のマイナンバーとスマホのヒモづけで25%のポイント還元の謎

佐藤ちひろ

 
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