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いまや、データ活用はデータアナリストやマーケターだけの課題ではありません。政府は今後の方針に「EBPMの徹底強化」を掲げており、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が2020年に公表した資料「Reスキル・人材流動の実態調査及び促進策検討」では、先端IT従事者とその他の人材の間に、ビッグデータやAIなどIT領域のスキル習得に関する意識のギャップがあることが指摘されています。
そこで今必要とされているのが、非IT人材がゼロからITスキルを身につけていくためのロードマップです。
‟スーパー公務員”と称される福岡県糸島市の市役所職員の岡 祐輔さんは『地方創生☆政策アイデアコンテスト2016』にて『糸島市統計白書』『商業統計調査』『RESAS』などのデータを活用し、最優秀賞を受賞。プレゼン案をもとにマーケティングに取り組んだ“ふともずく”の売上は1年半で売上6倍アップと確かな結果を出しました。その後も「公務員がすごいと思う地方公務員アワード賞」(2018)「第5回地方公共団体における統計データ利活用表彰 特別賞」(2020)などを受賞されています。
そこでデータのじかん編集部は岡さんに会いに糸島市へ。現在までの歩みとともに、全国の公務員やゼロからデータ活用に挑みたい人材に役立つ知見を伺いました。2022年2月に3冊目の著書『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析(書評はコチラ)』をリリースした岡さん。その歩みと知見を‟ゼロ”から知り、データ活用人材としての第一歩を踏み出しましょう!
──岡さんがデータ活用に目を向けるようになったきっかけは何ですか。
最初は意図せずでした。というのも、元々私は歯科大学に通っていたので、数学やデータ分析は使わざるを得ませんでした。とはいえ、学生時代はまったく仕事に活かそうとは思っておらず、あまり一生懸命勉強していませんでした。
でも、市役所に入って街づくりに携わるようになってから、データの価値を再認識しました。民間の経営学を業務に持ち込もうとすると、やはりデータ活用の事例を目にする機会が増えてきます。当時は今以上に学んでいる人が少なく、希少な上にとても役立つスキルだと知った私は、2014年から九州大学の大学院(九州大学ビジネススクール)で経営学とともにデータ分析を学びなおすことにしました。
──大学院に入って、学び直しはじめてどのように感じられましたか。
統計分析やマーケティングなど、かつて学んだことがビジネスの現場で「こういう風に使えるのか」と実感しました。入学前からデータ分析の必要性を感じていましたが、改めて認識させられましたね。まだデータサイエンティストという言葉もほとんど知られていない時代でしたが、「データ分析は今後役立つようになるだろう」と考えるようになりました。
──データ分析の必要性を再認識される中で、その後の学習はどのように進められたのでしょうか。
別の統計の講座を独自にオンラインで受け、本を読みました。また、優秀な同窓生から学ばせてもらいました。同じゼミに某大手企業のマーケティング責任者がいたのですが、その人のマーケティング分析がとてもかっこよく感銘を受けました。土台となる知識は自分にもありましたが、どうやってそれを実際の分析に使うか、プレゼンで見せるかといった部分はまったく別物で、そのあたりは彼から学ばせてもらいました。
ちなみに『地方創生☆政策アイデアコンテスト2016』に出た際には、彼のプレゼン資料をもう一度見せてもらいました。彼が海外の市場開拓をテーマにつくったマーケティング資料にすごく感動したのを覚えていたからです。決して難しい手法は使われていないのですが、棒グラフや折れ線グラフといったシンプルなツールで見栄えよく、わかりやすく情報が表現されていました。彼の手法をお手本として、自分の資料に反映させました。
──ともに学ぶ仲間からのサポートが得られるのは非常に心強いですね。
彼とはいまだに連絡を取り合っていて、大阪や東京で仕事がある際は2人で飲みに行ったりもします。今は僕の方が質問される機会も増えて、お互いに教えあうような関係性ですね。新たなビジネスをはじめるときにどういう風にプレゼンしているのか、どんな風に調べて仮説や目的を設定しているのかなどは、今も彼にいろいろと尋ねています。
また、市役所の上司にも非常に助けていただきました。勉強の時間を確保できるよう残業を肩代わりしてくれたり、異動の交渉をしてくれたり、すごく後押ししてくれましたね。
──『地方創生☆政策アイデアコンテスト2016』で最優秀賞を受賞されるまでの歩みについてお伺いできますか。
元々コンテストの存在は知っていましたが、自ら応募しようとは考えていませんでした。
大学院を卒業した後、市役所でシティプロモーションやブランドづくりの部署に配属されることになり、そこで学んだデータ分析の手法を使って仕事をしてところ、知人が「コンテストに応募してみないか?」と声をかけてくれました。「書類選考で落とされるやろう」くらいに思っていたので軽い気持ちで応募しました。
すると、九州予選、全国予選と突破し、あれよあれよと最後の10人に選ばれまして……。実は市役所の同僚にも応募したことは黙っていたのですが、「もう黙っとかれんぞ」と思い、初めて打ち明けました。すると「おめでたいやけん、そら頑張って行ってこい」と周囲が応援してくれ、市長室に呼ばれて、プレゼンの予行練習をすることになりました(笑)。
最優秀賞を受賞したときには、みんなとても喜んでくれました。ちょうどそのとき、移住促進担当がイベントで東京に来ており、プレゼンが終わったとたんに彼らが電話してきてくれたり、スキー旅行に行っていた人たちがリフトで僕のプレゼンを見ていて、メッセージを送ってくれたりしました。本当にありがたいです。
──岡さんが活躍することで、糸島市役所全体の士気もあがりますよね。データ分析について教えてほしいと頼まれる機会も増えたのではないですか。
今年度から市役所の有志が自主勉強会を開くから講師をやってほしいと頼まれまして、来週も統計を使った政策立案について講義する予定です。また、職員研修を受け持たせていただけるようにもなりました。市役所の職員がすぐに使えるような分析手法を使い、データを使った地域づくりのやり方などについて研修しています。
──勉強会や研修には、もともと統計に触れてこなかった方も多くいらっしゃると思うのですが、どのように工夫して講義されていますか。
目的を設定し、仮説を立てて、その道具として統計学を使うという流れを意識しています。例えば小学校で習うような縦横の「クロス集計表」であっても、なぜ使うのか、どう使うのかがわかっていないと「表の左(表側)に説明変数を記載して、横の数値を合計すると100%になるように数字を集計する」という基本が守られなかったりします。
そこで「あなたは今ふるさと納税の寄付額を増額させたいという目的があります。達成のため、パンフレットを制作し1万人に送ることにしました。そのうち9,000部をデザインAで1,000部をデザインBで制作し、効果を比べるとしましょう」と問題を設定するのです。そこで「クロス表を使ってデザインAとデザインBを比較してください」といわれたら、「デザインA」「デザインB」と表の左側に記載しようと思いますよね?
そうして、2つのデザインへの「寄付の反応率」を比べて、「あ、こっちが10%高かったか」と知見を得る、という風に身近な例を用いて目的ベースで講義を行うようにしています。
ビッグデータ時代ですから、データはたくさん得られますし、EBPMの必要性について教えてもらう機会もあります。でも、それを実際の現場でどう生かすかはなかなかイメージしづらいのです。だから、仕事で自分が「○○を変えたい」と思ったらそのための道具として実際に使ってもらうことを想定して、「こんな風にデータを取って表やグラフを使い、プレゼンする」という手順を紹介しています。そのようにして自分が使うイメージが持てるとやはり、みなさん楽しくなって次から仕事で生かしてくれると思います。また、データ分析の知識だけもっていても、行政分野の知識がないと活かす場面がわからず、行政職員がこのような武器を持つことが重要だと考えています。
─データ分析初心者の学習で役立つツールにはどんなものがありますか。
『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』でも取り上げたHAD(※)はExcelさえあればインストールなしで誰でも使えるので、重宝していますね。やはり、セキュリティ上、市役所は自由にシステムを入れるのがなかなか難しかったりもしますから。RやPythonを使ってみたこともあるのですが、これは職場のパソコンにインストールできないし、プログラミングを学ぶのはハードルが高いと感じられるケースが多いです。組織や仕事の上で使える環境に合わせて手軽に利用できる方法を意識してご紹介しています。
また、GIS(地理情報)とビッグデータを組み合わせた『RESAS』は初心者の方でも使いやすいと思います。統計の基礎がわかっていれば誰でも簡単に使えるようになるはずです。実際、高校生が政策立案の授業で使っていたりもします。
──ちなみに、色々な人にデータ分析を教えてきた岡さんが「この人は伸びる」と感じる特徴ってありますか?
やはり、素直な人ですね。それと、好奇心も重要です。「次はこれを調べてみよう」と自らの興味に従ってどんどん先に進める人は、いつの間にかツールも使いこなしている気がします。数学的な頭があるとか、理系だとかは、全然関係ないと思います。
私自身、ユーチューブでGISを勉強したり、プログラミング研究のコミュニティに入会したりして、学習を継続しています。やっていると、たとえばPython(パイソン)は本来ヘビなので、ヘビが私の指示でネット上に入り込んで、私にデータを持ち帰ってきてくれるところを想像して楽しんだりしています。最近では、Python使いならぬ、蛇使い公務員になろうと妄想しています。
※……関西学院大学社会学部の清水裕士博士が開発した、Excel上で動く無料の統計分析ソフト。
──これからの日本の役所におけるデータ活用はどのように進むと思いますか。
EBPMやアジャイル型政策形成といった手法は、これから2、3年くらいでテスト段階を経て、どんどん取り入れられていくはずです。アジャイル型とは、とりあえず試作品を世に出して市場の反応を取り込みながらどんどんブラッシュアップする手法で、民間企業ではリーン・スタートアップと表現されることもあります。今、市役所ではチャレンジ型の政策立案を進めようという流れが加速していて、アジャイル型で動ける職員を育てる議論も活発化していますね。
『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』はそうした流れが加速する中で、データ分析の土台となる基礎知識を身につけていただけたらと思って執筆しました。どれだけデジタル化が加速しても、実際のデータを分析するのは人ですから。
──行政改革が進む一方で、公務員にはいまだにIT化が遅れており、デジタルリテラシーに欠けているというイメージもありますよね。2022年6月にも、兵庫県尼崎市で、全市民約46万人分の個人情報が入ったUSBメモリが協力会社の委託先社員により紛失される(その後発見)という事件がありました。
やはり、データやツールがあるだけでは自分ごととしての意識が高まりません。せっかく集めたビッグデータが宝の持ち腐れとなってしまうのも、同じ原理が作用しているのでしょう。「集めて終わり」とせず、普段から触れる環境をつくることで、‟データはいろいろな人によって活用される大事なもの”という意識を育てることが大事だと思います。
もちろん多忙で深く分析する余裕がないという場合もあるでしょう。でも、私が提案しているデータ分析はそんなに時間を取るようなものではありません。そのため、気軽に取り組めるという部分も含めて、研修などで伝えたいと考えています。
──岡さんはお忙しい中で、どのように勉強時間を確保されているのですか。
自分は昼休みと朝、土日を使っています。興味がある研修を受けたり、情報収集のためにメルマガを読んだりしていますね。具体的には、自治体通信、ジチタイワークス、ダイヤモンド・オンラインですとか、九州大学ビジネススクール時代の先生が配信しているメルマガなどを購読しています。
何もかもする時間はないので、自分に必要なスキルをいくつか絞って勉強していますね。
──すでにデータ活用スキルがある人材がIターン、Uターンなどで地元に貢献したいと考えたときには、何からはじめればよいのでしょう。
市役所や街づくりボランティアなど、地域のために活動している団体を探して、話を聞いてみてはいかがでしょうか。窓口がわからない場合は、興味のある団体が携わっているイベントに参加すると良いでしょう。糸島市には「みんなの」や「いとらぼ」というコミュニティスペースがあるので、定期的に立ち寄ってみると面白い人と繋がれたり、いろんなイベントに参加できたりします。
私もIターン・Uターンの方に話を聞くことがありますが、みなさん地元への愛情と知識・技術を兼ね備えていて、地域にとって大きな力になる方々だと感じています。そうした人々が活動しやすい環境をつくることは、すごく大事なことですね。
──最後に、岡さんの今後の展望を教えてください。
若い人々やまちづくり人材をどんどん育てていきたいです。
これまでにいくつか事業は育ててきた経験はありますが、私ひとりが市に残せる財産はそれほど多くはありません。最後はやはり、人を残していくために力を入れていきたいですね。勉強会を立ち上げたいと話してくれた市役所の有志や、「街づくりがしたい」と生き生きした目で話してくれる若者など、今も人は育ちはじめています。
”スーパー公務員”という肩書を目にすると、‟エリートで有能な自分とは全然違う人“というイメージが湧いてくる方もいるのではないでしょうか。
しかし、実際の”スーパー公務員”岡さんは、‟自分にも何かできるのではないかと思わせてくれる素朴で暖かい人”でした。
元々統計学の基礎を修めていたという岡さんですが、目的と仮説を重視するその考え方は誰でも明日から取り入れられます。また、クロス集計表、HAD、RESASなど、本記事で登場したデータ分析ツールはどれもすぐに使えるものばかり。
ぜひ、‟素直さ”と‟好奇心”を胸に、今日から身近なデータの分析をスタートしてみてください!
岡 祐輔(おか ゆうすけ)氏
福岡県糸島市経営戦略部企画秘書課主任主査
2003年に糸島郡二丈町(現糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA(経営修士)取得。地方創生☆政策アイデアコンテスト2016年地方創生担当大臣賞、帝国データバンク賞。地方公務員アワード2018を受賞。
(テキスト:宮田文机/写真:弥永浩次 企画・編集:田川薫 )
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