【書評】1冊目に読みたいDXの教科書
AI/データドリブン/DAOなど各論に入る前に読みたい!

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あなたも“DX”という言葉を一度は耳にしたことがあるだろう。もはや市民権を得た言葉と言っても過言ではないが、はたしてその概念を真に理解している人はどれだけいるのだろうか。

  • DXとは具体的に何なのか?
  • DXに取り組むには、何から手をつければいいのか?
  • DXを達成するために、必要なスキルとは?

1冊目に読みたいDXの教科書』は、これらの疑問に答える書籍である。

全編カラーで、図解が豊富に使われており、事前知識がなくても分かりやすい。

著者の荒瀬光宏氏は多くの企業や自治体のDXを研究・支援し、成功と失敗の分水嶺を見極めてきた人物だ。

社会におけるDXのインパクトについて

そもそもDXとはなんなのだろうか。著者はその言葉の意味から説明を始める。

2004年、当時スウェーデンの大学教授だったエリック・ストルターマンはDXを以下のように定義している。


DX:デジタル技術が生活のあらゆる側面に変化を与え、リアル空間にデジタル技術が浸透することにより、組織・個人・社会に起こる変化


これは単純に、ビジネスの「データ化」を指しているのではなく、「データ化による社会の変化」を意味している。ゆえに、書類をデータ化したり、オンラインで会議することはDXではない。

DXの具体的な例を挙げてみよう。代表事例として本書の中でも取り上げられているのが、AppleのiTunesだ。それまで私たちは、音楽を楽しむために、リアル店舗に足を運ぶ必要があった。

だが、Appleはこの音楽をデジタル化し、あたらしいコンテンツとしてオンライン上に陳列したのである。これにより、私たちは家にいながらにして、スマホひとつで音楽を購入(ダウンロード)できるようになった。iTunesは、外に出かける時間やCDの保管場所など、さまざまなコストをあっという間に解消してしまったのである。

(音楽というコンテンツを)データ化するだけではなく、(消費者の行動そのものを)変革してしまう。

これがDXの要諦、
「データを活用できる状態になる」(p20)ということと、
「顧客に提供する価値や提供の仕組みを変えること」(p22)なのである。

DXを実現することができれば、すなわちそれは、「圧倒的な競争優位性」を手に入れることを意味する。同書ではDXの手法としてさまざまな成功事例が取り上げられている。

転換戦略:
前述したiTunesや、書籍をデジタル化したKindle、映像コンテンツをデジタル化したNetflixやYouTubeなど。形のあるリアル商品をデジタルに「転換」してサービス提供を試みる戦略

 

包含戦略:
リアル商品をデジタルサービスに組み込んで、価値を増大させる戦略。運動器具を取り扱うアメリカの会社Pelotonは、エアロバイクの「オンライン化」を行い、顧客の「運動を継続するモチベーションが維持できない」という課題を解決した。目標達成の管理や、他の運動者と会話ができる機能、インストラクターによるオンラインレッスンを開催し、リアル商品よりも広範囲な価値提供を実現した。

C2M戦略:
Consumer to Manufactureの略。顧客に個別最適化したモノを提供する戦略。中国の靴ブランドである奥康国際(アゥカン)は、リアル店舗の機器で顧客の足のサイズや形状をデータ化。それを元に、その顧客に最適化された靴を5日ほどで生産する。既製品では得られない「ジャストフィット感」を提供することで、ほかの靴ブランドと差別化を図っている。リアル→デジタル→リアルの往復運動を経ることで価値を増大させた成功事例。

このほかにも成功事例は数多く紹介されている。工事用重機のDXに成功した日本企業のコマツに見られるB2Bの包含戦略や、業績をV字回復させたAdobeのサブスクリプション戦略などが一例だ。

なぜDXが進まないのか

成功事例が豊富にあるにもかかわらず、日本でDXが浸透しないのはなぜなのか。

著者は言う。「DXはトップダウンで進めるのが基本です」(p142)と。

同書では事例の紹介だけではなく、DXに取り組む際の具体的なプロセスも説明されている。

著者はDXのプロセスとして以下の3つを挙げている。

  • ①経営トップを起点とした危機意識の醸成
  • ②DX推進チームの設立
  • ③DXのビジョンと戦略の策定・計画

おそらく、多くのビジネスマンが抱えているハードルが①の「経営トップを起点とした危機意識の醸成」ではなかろうか。企業の中にはさまざまな部署があり、働く上での価値観も違う。DXに向けて社員全員の意思統一を図ることは容易ではない。だからこそ、経営トップが大号令をかけ、組織全体を同じ方向に向かわせる必要があるのだ。だが、経営トップ自身がDXに関しての理解と必要性を感じていなければ、そもそもスタート地点にも立てない。

令和3年に帝国データバンクが調査した社長の平均年齢は「60.3歳」となっており、社長の4人に1人は「70代以上」だ。30代以下に限って見ると、その数は全体の3%にしかならない。年代だけを見て、十把一絡げにするのもよくないが、それでもしかし、企業のトップがDXを腹落ちするまで理解し、中・長期的な成果を見据えるのは簡単ではない。

同書では、その解決策として、社員側からのDX推進についても提言している。ボトムアップで企業を変えていこうというわけだ。チームの立ち上げや、ビジョンの周知、社員の行動変容や短期的に出せる成果の重要性について説いている。その旗振り役としての「デジタル人材」についても言及されている。

未来に生き残るために

DXはもはや不可逆的な現象である。変化していく労働環境に適応していくためにも、どのような職業であれ、DXについての知見を持つ必要がある。

新しい言葉は、時として飛び道具として使われ、一つのムーブメントとして取り上げられるが、DXそのものが目的化してしまうことも少なくない。「具体的な知識はないけど、とりあえずDXはウチにも必要だ。すぐにでも導入しよう」と。だが、企業の目的はあくまでも、顧客を満足させる商品・サービスの開発である。DXはその手段に過ぎない。だからこそ、解像度の高い知識を持つ必要がある。そのための必読書として、同書はまさにタイトル通り「1冊目に読みたいDXの教科書」と言えるのではないだろうか。

【参考資料】
1冊目に読みたい DXの教科書 (なるほど図解),SBクリエイティブ,荒瀬光宏著

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