──日本人はイノベーションを生み出すのが苦手だ。
和を重視する国民性や年功序列に基づいた人事制度が未だ根強いことから、そう考える方は少なくないのではないでしょうか?
しかし、そんな日本人だからこそ生み出せるイノベーションがあると、世界的コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーは主張します。
AIやIoTが普及する第四次産業革命時代にこそ有効な「和ノベーション」。その概念や実践法について参考資料をもとに詳しく解説します!
少数の天才が企画・開発をリードし、ほかの労働者はトップダウンで指示に従う。
欧米型のイノベーションの生み出し方として思い浮かぶのは上記のような光景ではないでしょうか?
いかにも効率がよさそうですが、いくつか問題があります。ひとつはボトムアップで生じるイノベーションの芽が摘まれてしまうこと。日本のものづくりの発展は現場で高い技術を発揮する「匠」に支えられてきました。その体制を変えることは難しいだけでなく、匠の技が継承される土壌を失わせてしまう結果にもなりかねません。
また、トップ層とその他の労働者の格差が広がってしまうのも問題です。AIの普及が進めば創造性のない作業は代替されていきます。現場社員の権限を縮小した場合に生じる不安は、社会に良い影響を及ぼさないでしょう。
そこでローランド・ベルガーが提案するのが、現場を活性化しボトムアップのイノベーションを促進する「和ノベーション」です。
和ノベーションの根底にあるのは“労働者や企業の潜在能力を最大限に引き出し組み合わせることで新しい価値を生み出す”という考え方です。
そのために重要なのが「暗黙知の形式知化」。日本のものづくりは匠の高い技術や知見に支えられてきましたが、そのノウハウが共有される土壌は長年ありませんでした。そのため何かを始めようというとき、既存の知識をほとんど活用できないという自体に陥っていたのです。
日本の生産性は2018年時点でOECD加盟36カ国中20位と非常に低いことで有名です。その背景に、既存の暗黙知を活用できていないという事情があると、ローランド・ベルガー日本法人代表で『AI現場力 「和ノベーション」で圧倒的に強くなる』著者の長島聡氏は指摘します。
そこでノウハウを見える化しだれでも使えるようにしよう、というのが和ノベーションの重要ポイント。そしてAIやIoTはそのための道具として位置づけられます。
具体的にはどういうことでしょうか?
IoTやBIツールの力を使えば、センサーや自動化ツールで事業や労働者にまつわる広範囲なデータを集め、わかりやすく整理できます。その内容を分析することで「匠の技」がどういう状況下でどのように発揮されているのかを見える化することが可能に。
そして、各人のレベルや要請に合わせてAIが適切な情報を提供することで、能力の違う人間同士でもスムーズに他者(社)の知見を活用し、スキルアップを測れるようになるのです。
大量の単純作業や刷新の必要がない作業を代行させるだけでなく、人間を進化させるためにもAIは使える。そしてそれは現場社員の自発的な創意工夫が生まれやすい日本ならではのイノベーション「和ノベーション」につながっていくのです。
実は、和ノベーションの「和」は「話」や「輪」と表記されることもあります。話は「対話」の話を、輪は「仲間の輪」を意味するとのこと。
和ノベーションは暗黙知の共有によって生じることをご説明しました。そのためにはAI・IoTで暗黙知を形式知化するだけでなく、部門や企業、業界、企業とユーザーの壁さえも超えた交流の場と協力体制を築くことが必要なのです。
そのためにもテクノロジーの力は役立ちます。
例えば全世界の生産拠点をスマート工場化しつなげることで、リアルタイムにお互いの稼働状況を知り得ます。さらにバーチャル空間にステークホルダーが交流できる「デジタル大部屋」を築くことでリアルタイムに分業や共創に取り組みことが可能に。SNSでリサーチを行ったり、購入後の製品の使われ方をIoTでトレースすることでユーザーとの対話を実現する企業も多くあります。
また、テクノロジーで形式知を見える化することで各社の強みが明らかになれば、「この分野はここ」といったように他社との役割分担も容易になります。そうして互いに強みを生かしあう「仲間の輪」は圧倒的な効率性でイノベーションに取り組むことを可能にするのです。
日本ならではのイノベーションをテクノロジーの力で促進する「和ノベーション」についてご紹介しました。「いくらAIが発達・普及しても普通の人には使いこなせないし、むしろ仕事を奪われるばかりじゃないか?」と考えている方は少なくないのではないでしょうか?
和ノベーションは、すべての人がAI・IoTを利用して活躍できる状況を目指す考え方です。これからのテクノロジーとの付き合い方のひとつの「正解」となりうるかもしれません。組織づくりや現場改善の際にはぜひ思い出してみてください。
(宮田文机)
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