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JTCで働いている。JTCの古い体質を変えていかなければならない。JTCではDXが推進されている。
こういった文脈で「JTC」という言葉について見聞きすることは多いです。しかし、いったい、JTCとは何なのか? そう問われると答えに窮してしまう方も少なくないのでは?
本記事では、JTCとは何かを具体的な特徴やメリット・デメリット、現在起こっている変化とともに解説します。
「JTC」は「Japanese Traditional Company」の略で、‟伝統的な(特に大手の)日本企業”を指します。インターネットの普及後、自然発生的に使われ始めたこの用語は、日本の企業文化に特有の特徴を持つ企業群を示すために用いられます。
その特徴として挙げられるのが、たとえば以下のようなポイントです。
いわゆる日本型雇用型システムの3種の神器として、ジェームズ・C.アビグレンが1958年に指摘したのが「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」です。その印象が実態に100%当てはまるかといえばそうともいえないようなのですが、2021年の平均勤続年数の国際比較において、日本は12.3年、イギリスは7.8年、ドイツは10.5年、韓国は5.9年と、日本が特に長い傾向にあるのは確かなようです(出典:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2023」/アメリカは中位数で4.1年)。
正社員として定年を目指し、企業とは家族のように長い関係を築き上げるものだというのがJTCの典型的なイメージです。そのため、年功序列が重んじられ給与も年次に合わせて上がっていく傾向が強いとされます。
しかし、その典型的なイメージは徐々に崩れつつあるともいわれています。
大学や高校などの教育機関を卒業する学生を一斉に同時期に採用する「新卒一括採用」は、以下のようなJTCの特性の基盤となっています。
・同時期に入社した社員の間でつながりを形成する「同期文化」
・入社後に集中的にトレーニングを受ける「研修」や先輩社員との「OJT」
・定期的な配置転換を行う「ジョブローテーション」
また、仕事に人をつけるのではなく、人に仕事をつける「メンバーシップ型雇用」もJTCの特性の一つであり、若年層の失業率の低さに寄与しているという声もある一方、仕事に人を付けることで専門性や雇用の流動性を高める「ジョブ型雇用」の重要性も叫ばれています。
【タイムくん – 第70話:ジョブ型雇用】
経営者や労働者の意識にも先に挙げたようなJTCの特性は影響しています。『リスキリングをめぐる内外の状況について』(厚生労働省)によると「テクノロジーの変化についていけるよう絶えず新しいスキルを学んでいる」という個人の割合は20カ国中最低かつ、唯一の一桁台(7%)。また、良くも悪くも業務のシステムが完成されているため、変化が好まれず業務の進め方や経営方針が安定志向になりがちという特徴も指摘されます。2022年の米調査会社ギャラップの調査によると、会社に対する貢献意欲や愛着を示す「エンゲージ」は2022年で5%と世界最低水準であり、その一因として変化の少なさや雇用の流動性の低さが指摘されています。
JTCの特徴を目にして、みなさんはどう感じましたか? ネガティブな特徴ばかり並べたてられていると感じた方が多いかもしれません。しかし、JTCにも魅力やメリットは存在します。それらについても詳しく見ていきましょう。
歴史あるJTCは先にも述べた通りビジネスモデルが確立されており経済的にも安定していることが多いです。そのため、長期にわたって安定した収入と雇用が提供されやすく、その背景には終身雇用制度やメンバーシップ型雇用などの制度も寄与しています。
JTCは従業員に対して充実した福利厚生を提供することが多いです。その内容としては健康保険、退職金制度、住宅支援などが挙げられます。社員は安定した雇用と福利厚生により安心して業務に打ち込めると考えられます。
JTCでは新入社員に対して、入念な研修プログラムを提供することが一般的です。これにより、社員は仕事に必要なスキルをゼロから身につけられ、社会全体の人材リソースが充実します。また、キャリアアップのための資格取得なども支援されることが多いです。
文化面のメリットとして、JTCには組織としての連帯感があることが挙げられます。これは、同期入社の制度や会社行事、社内の様々なチーム活動を通じて育まれます。それにより、一定のエンゲージメント確保にもつながると考えられます。
多くのJTCはその業界内で高い評価を受けており、ブランド力が非常に強いです。そのため、社会的な信用が得やすく将来の生活やローン計画などの見通しも立てやすいといわれています。
こうした利点により、JTCでのキャリアを望む人は現在も数多く存在します。安定した職場環境と充実した福利厚生、企業への所属感を求める人々には特に魅力的な選択肢といえるでしょう。
JTCといわれる企業も少なからず制度改革や意識・文化のアップデートを推し進めようという動きが見られます。
『2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査』(経団連)によると、正社員における雇用区分として全体の25.2%が「ジョブ型」を回答しており、そのうち35%はすでに導入済となっています。
引用元:『2020年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査』(経団連)35ページ
また、その理由としては「専門性を持つ社員の重要性が高まったため」(60.2%)、「仕事・役割・処遇を適切に処遇へ反映するため」(59.2%)、「優秀な人材を確保・定着させるため」(53.4%)などが多く回答されています。
少子高齢化による生産年齢人口の減少から2050年代の新入社員の人数は2023年より2割減となることが予想されており、すでにその対応として中途採用の強化や通年採用の導入、評価制度の見直しや新卒初任給の引き上げなどの動きが起こっています。
JTCと対比される企業のあり方として外資系IT企業やベンチャー企業などが挙げられますが、グローバル化や社会動態の変化と連動してそれらの強みを取り込みながらJTCも変化していくことが求められています。
広く浸透していながら、明確な定義のないJTCという言葉について一般的に広まっているイメージやデータを用いて解説してまいりました。東京商工リサーチによると、2024年上半期「人手不足」関連倒産は145件、「後継者難」関連倒産は254件と調査以来の過去最高を更新しており、こうした人不足の時代にJTCも対応していかなければならないと考えられます。JTCの利点を維持しつつ、適切なアップデートを進めていきましょう!
(宮田文机)
・柴田 高『日本的経営研究におけるアベグレン的解釈の影響と限界』┃東京経大学会誌 第 252 号 ・2割減る新入社員 入社後いきなり部長 「金の卵」争奪、広がる脱・一括採用┃日本経済新聞 ・データブック国際労働比較2023┃労働政策研究・研修機構 ・会社に貢献意欲、日本5% 世界平均23%、格差拡大┃産経新聞 ・日本型雇用システム(メンバーシップ型雇用)の特徴と課題・方向性 ・2024年上半期「人手不足」関連倒産145件 調査開始以降で最悪ペース、年間最多を更新の可能性も┃東京商工リサーチ ・2024年上半期の「後継者難」倒産 過去最多の254件 労働集約型の産業では、人手だけでなく、後継者不足も顕著
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